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となりの徹平くん  作者: 真冬@保管庫
7/7

7.もやもやしたままの始業式

(作者の気持ち的に)第二部スタートです。話がようやく動き始める予定です。


 二学期初日。あたしはひっじょーに困っていた。

 目の前にはクラス日誌。そして、黒板にかかれた本日の日直当番はあたしと――。


「今日子サン。日誌書き終わった?」


 花火のあの日からできるだけ避けていた幼馴染と、なぜ二学期初日から二人仲良く日直当番とか当たっちゃってるんだろう。

 っていうか、始業式に日直っている? 日誌書く意味ってマジであるわけ? 授業があるわけでもないし、特に重要な用事とかないわけだしさ。始業式ぐらい先生が自分で日誌書いて鍵締めたらよくね?

 と、うだうだ考えてても仕方ないんだけど。

 とりあえずあたしの目の前にぶら下がっている問題は、この後二人で仲良く職員室まで日誌を届けるというミッションをどうクリアするかということで。


「今日子サン?」

「え? あ、うんっ」


 そんなことをひたすら悶々と考え込んでいたあたしは、徹平のその声に思わず体を強張らせる。

 とりあえず書き終えた日誌をうつむいた状態で目の前のイケメン男子にずずいと差し出してっと……。

 あー。無理。むりむりむり!

 やっぱりまだ徹平の顔が見れないー!

 とりあえずここは――。


「ご、ごめん徹平! あたしちょっと用事があるからこれ職員室にお願いっ!」


 机の上にあるものを手あたり次第に放り込んだ鞄をひっつかんで、徹平の返事を待つことなくあたしは全速力で教室を後にする。

 後ろであたしを心配する声が聞こえたような気もするけど、いやもう無理だから! むしろあなたがいるとより一層おかしくなるから!

 人がまばらになっている廊下に出たあたしは、とりあえずできる限り早く教室から離れるべく足早に昇降口へと向かった。




「あれ、今日子。橘は?」


 鞄を両手に抱え込むように持ちながら歩いていたあたしは、その声に思わず足を止める。

 と、下駄箱の前には見慣れた友人の顔。


「なんだ都か。あ、今から部活?」

「そう。そろそろ準備しなくちゃならないからね。今日はこれからみっちり練習」


 そう言って都は肩に担いだ大きな布袋を揺らす。


「そっか。そろそろ本腰入れて用意しなきゃなんだよねー。今年もアレ?」

「そ。昨年好評だったし、アレなら体一つあればできるからね。予算とか考えなくていいから楽なんだよ」


 そう言って笑う都の後ろに、見慣れない男子がひょっこり顔を出す。


「あ、日下部先輩のお友達ですか? 初めましてーっ! 俺、一年の高坂って言います! よろしくお願いしますっ」

「え? あ、うん。はい?」


 突然現れた年下男子に握手を求められて、今日子は思わず引き気味に相槌をうつ。

 えっとぉ……この場合この手は握ったほうがいいのか。

 いやいや、ふつう高校生が握手とかおかしくないか? この子、一応男の子だし。


「高坂、ちょっと落ち着いて。今日子完全にビビってる」

「あ、すんませんっ! 日下部先輩のお友達と思うとついつい」


 ついついなんなんだ? っていうか、なんだこの思い込んだら一直線少年は。

 なんていうか、キラキラしててどうにもこうにもまぶしいんだけど。


「先に行って道場のカギ開けといてよ。他の子たち来てるかもしれないから」

「あ! そうですねっ。了解しました! それじゃぁお友達さん、また!」


 都のその言葉に最敬礼! みたいな感じでビシッと了解の合図をした後輩くんは、あたしにぶんぶんと手を振って下駄箱の向こうに消えていく。

 えっと……今の子、いったい誰だ?


「なんか騒がしくてごめん。あいつはもうちょっと落ち着かなきゃだめなんだよなー」

「なんか、すっごいにぎやかな子だね。あんな子合気道部にいたっけ?」

「夏休み前に入部してきたんだよ。だからまだペーペー。まぁ、やる気と根性はかなりある奴だから結構見どころはあるんだけどね」

「……ふうん?」


 都のその言葉にあたしは思わずにんまりと笑う。

 極度のブラコンでおにいちゃん第一主義の都が後輩とはいえ男子を素直にほめるなんて珍しい。

 なんか、いい事聞いちゃった気がするなーっ。


「何? その顔」

「え? いやいや。いい後輩ができてよかったねーって思ってね」

「……それより橘は? 今日は一緒に日直当番じゃなかったっけ」


 あたしのニヤニヤ笑いに目を細めて仕返しをしてくる都に、あたしは思わず言葉を詰まらす。

 ぐぅ。その名前は出さないでほしいんだけど。


「花火大会の時、何があった?」

「なっ……なんにもないわよっ」

「でも、後で合流したとき今日子の様子が明らかにおかしかったんだよねー。あれ、なんで?」


 うっわーっ! 普段なら触らずにいてくれるその話題を、今、振ってきますか!

 え? あたしが後輩くんのこと茶化したから? その報復なわけ?

 意外とガッツリ仕返しするタイプだよね。都って。


「べ、別におかしくなかったし! 今も全然おかしくないし! 日直はもう終わったから先に出てきただけだしっ」

「ふーん」


 あたしの反論に都はにやにやと笑いながら適当な相槌をうってくる。

 何よ。そのまったく信じてない顔!


「都こそ、早く部活行かなきゃまずいんじゃないの? ほら、部長が遅れると示しがつかないし!」

「ま、それはそうだね。んじゃまた明日ね」


 苦し紛れの言葉に素直に頷いた都は、そう言うとサクッとあたしに背を向けて下駄箱の向こうに消える。

 なにその余裕の態度。なんかあたしだけがジタバタしてたみたいなんですけどっ。

 まぁ、あたしがジタバタして都が隣で冷静な態度っていうのはいつものことなんだけどね。

 ……でも、後輩くんでからかってあの態度ってことは。

 おお。これってもしかしていい兆候なんじゃないの?

 都はそろそろおにいちゃん離れしたほうがいいだろうし、そのためには身近な男子に目を向けるのってすっごくいい気がする。

 うんうん。あの後輩くん、名前なんだっけなー。結構いい子っぽかったし、なんか進展があったりしたらいいなぁ。


「あ! 橘くんっ!」


 下駄箱の前でそんなことをつらつらと考えていたあたしは、突然耳に響く聞きなれない女の子の声に思わず体を固くする。

 え? 徹平?! もしかして追いつかれた?


「良かったーっ! すれ違ってたらどうしようかと思ったんだよー」


 あたしがいる通路とは下駄箱を挟んでもう一つ向こうの通路から聞こえる女の子のその声に、あたしは息をひそめてできる限り気配を消す。

 徹平の下駄箱は職員室側にあるから、何か用事がない限りこっちには来ないはず。

 ということは、下手に動かずにここにいたほうが見つからないはず。

 どうか見つかりませんように!


「どうかした?」


 普段と変わらない徹平の声に、あたしは思わず手で口を押える。

 あー!! なんでかなぁ! なんで声聞くだけでこんなに心臓が騒がしいわけ?!

 徹平の声なんてもう何万回と聞いてるから聞きなれてるはずなのに、なんなのよもうっ!


「今日の部活はミーティングだから、その連絡。教室覗いたらいなかったから探し回っちゃったよー」

「あ、そっか。わざわざありがと」

「どういたしまして」


 和やかな雰囲気で話し続ける二人の様子を何となく立ち聞きしている感じになっていたあたしは、なんだか胸のあたりにもやもやしたものを感じる。

 何だろう。なんか、むかむかする。

 徹平が女の子と仲良く話している場面なんて今まで山ほど見てきたはずなのに。

 むしろ、今まではカレカノの関係で、もっとイチャイチャしているところとかも見せられてその都度普通にスルーできていたはずなのに。

 うー。なーんかもやもやする。屈託のない声で話しかける女の子も、いつもの優しい口調で答える徹平も。

 なんだろう。なんでこんなにもやもやするんだろ。


「あ、しまったっ。ミーティングノート教室に忘れちゃった。橘くん、先に行ってもらってていい?」


 もやもやしながら靴箱にもたれかかっていたあたしは、女の子のその言葉に思わず体が強張る。

 やばいっ! 立ち聞きがバレるっ!

 と、思わず息をひそめているあたしの目の端に、艶やかな黒髪がさらりと揺れる。

 軽やかな足音とともに遠ざかるその後ろ姿はまさに清楚。

 一瞬だけ目に映る横顔が凛とした美少女で、あたしは思わずその背中を目で追ってしまう。

 うわぁっ。一瞬だったけどなんかすっごいキレイな子だった気がする。こんな子うちの学校にいたんだ。

 可愛さで目立つといえば花恋だけど、今の子はそれとは全然別物だなー。花恋に言ったら絶対に怒られるけど。

 なんかこう、きちんとしたお嬢様っぽいかわいらしさがあったような気がする。

 

 

 って、今の子話しの流れ的に徹平と同じバスケ部なんだよね。

 ということは、今年の夏はずぅーっと一緒にいたわけだし(部活でだけど)これからもずぅーっと一緒にいるわけだ(部活でだけど)

 

 

 うーん。

 ううーん。

 いやいやいやいや。関係ないし。

 あたしにはまったくもって関係ない話だし。

 

 

 ……。

 

 

 よし! 帰ろう!

 とりあえず帰ろう!

 帰りにコンビニで新作のチョコレートでも見てこよう!

 おいしそうなのがあったら奮発して買っちゃおう!

 

 

 ……。

 

 

 あああああああー!!!

 なんかもう、もやもやするよー!

 なんなんだよーっ!!!

 

 

 

 脳内でひたすらジタバタしたあたしは、大股で昇降口を出る。

 そこには、どこまでも広がる真夏の青空。

 残暑なんて名ばかりのギラギラと輝く太陽にうんざりとしながら、ふとさっき二人が話していた場所を振り返る。

 今まで感じることがなかった徹平の隣にいる女の子に対するこのもやもやを抱えたあたしは、その思いをもてあましながら駅前のコンビニへと足を進めた。

 

 

 

 あたしがこのもやもやの感情の正体に気づくのは、もう少し後の話になる。

 

 

 

 

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