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大国の王子

ログインできず遅くなりました。すみません。

とてつもない広さの広間に各国の王族や貴族が集まり喋る声がさわさわとそよ風のように漂う。

テーブルには肉料理が多く並び、果物を盛ったガラスの盆がところどころで宝石のようにきらめいている。

「鳥肉が多いね」

「羊肉は無いのか」

「まぁ、あれはクセがあるから人によって好き嫌いあるよ。」

「そうなのか?つくづくここの奴とは話が合わんな」

「ここだけじゃなく、どこでも共通だよ」

「ふーん」

へサームとイフサーンが食べ物を片手に喋っていると、


「お集まりの皆様、大変長らくお待たせ致しました。」


燕尾服を着た使用人が声を張り上げた。


人の目には見えないが、風の妖精が翅を震わせて遠くにいる人にまで声が届くよう飛び回る。そのため機械を使った訳でも無いのに使用人の声は広間全体に響き渡った。


「ガヴィネル王国王家の方々がご入場なされます。」


拍手が巻き起こり、国王、キルヴィ、王妃、アンヌ、リュエル、リュイの順に入り、各々礼をした。

「まあ!」

「あれがキルヴィ殿下?」

「綺麗な方だこと!」


広間にいる女性は感嘆のため息を吐かずにはいられなかった。


白っぽい、緩くウェーブのかかった金髪。

父親譲りのエメラルドグリーンの瞳を眩しげに少し細め、口には微笑をたたえていた。

「なんか……ヒョロいな」

へサームの言葉にシェヘラザードの手刀が空を切る。咄嗟に避けていなければ肩の骨を粉砕されていたことだろう。

「っぶねぇ!!」

「あんたは終わるまで喋れない振りをしてなさい。これ以上何か言ったらぶっ飛ばすわ。これは我が国の威信にも関わることなの。ね?」

シェヘラザードの黄昏色の瞳は笑っていなかった。

(マジだ……)

シェヘラザードのぶっ飛ばすは、内臓破裂では済まされない。全身粉砕骨折くらいは覚悟しなければならない。

「俺も手伝うからさ。」

兄イフサーンが肩を叩く。

すると、国王が一歩前に出たため、広間が静まりかえった。


「本日は、多数の方々にお集まり頂きまことにありがとうございます。私からの挨拶はこれくらいにして、このパーティーの主役、キルヴィより一言ご挨拶申し上げます。」


国王が一歩下がり、入れ替わるようにキルヴィが前に出る。


「身体の弱いわたしが、こうして成人を迎えられたことはまことに嬉しく、皆さまに祝っていただけること、この身に余る光栄にございます。父上、母上、妹弟、護衛のアレクセイ、その他様々な方達に心配をかけてばかりで第一王子とは名ばかりのわたしですが、国を統べる王族に相応しい立派な者となれるよう精進してまいります。まだまだ未熟者ではございますが、どうぞよろしくお願い致します。そして、このパーティーを開くにあたってご尽力いただいた皆さま、本当にありがとうございます。この城で働くコックたちが作った料理、執事が大切に保管してきたワインなど、様々ご用意いたしましたので、ご賞味くださいませ。今宵が皆様にとって素晴らしい夜となることを願っています。短くはありますが、以上、わたしからの挨拶とさせていただきます。」


右手を左胸に当て、優雅に一礼。

キルヴィが顔を上げると割れんばかりの拍手が巻き起こった。

「立派になったわねぇっ」

シェヘラザードは浮かんだ涙をしなやかな細い指で拭った。


「では、国王陛下のお声掛けで乾杯を。」

「息子、キルヴィの成人を祝って、乾杯。」

「「「乾杯!」」」


一斉にグラスを上げ、宴が始まった。



***



夢中になって食事をしていたところ、突然イフサーンに腕を掴まれて、

「ほら、陛下と殿下にご挨拶」

順番がまわってきたらしくキルヴィと国王が話していた相手が立ち去るところだった。

「うぇ」

「情けない声出さないの。ってか声出しちゃだめだよ。母上に叱られるよ。」

「……」

叱られるのだけは避けたい。


「ご機嫌よう陛下、ご機嫌よう殿下。成人おめでとうございます。心よりお喜び申し上げます。わたくしはシェヘラザードと申します。」

「ありがとうございます、シェヘラザード女王陛下。」

シェヘラザードとキルヴィが談笑する後ろで、へサームはキルヴィの後ろにある大きな肉を凝視していた。

(うまそう)

羊肉しか食べたことのなかったへサームには、癖のない鶏肉がとても新鮮に感じられすっかり虜になってしまった。

また口のなかでほろりとほどける柔らかさもたまらない。

するとその大きなローストチキンに、なんと虫がたかっているのが見えた。

(あっ!俺の肉!)

思わず飛びつこうとしたところ、シェヘラザードが素早くへサームの腕をひねった。

(いてててててててっっ!!!折れるっ折れるっ!!!)

無言で悶えるへサームを、キルヴィが不思議そうに見て、すー、とへサームが向かおうとした先に視線をずらし、

「!…ふふっ、どうぞたくさん食べてください。厨房にまだまだありますから。」

無邪気に笑って言った。

シェヘラザードは顔を真っ赤に染め、へサームの腕を掴む手に更に力をこめた。

(痛い痛い痛い痛い痛いっっっ!!!痛いっての!!離せっああくそっちげーよ!虫が……)

ぴたりと暴れることを止めたへサームを、やりすぎたかとシェヘラザードが慌てて手を離し自分の方へ向かせた。

「失神…はしていないわね、良かった。ちょっとへサーム、お願いだから静かにしてて!」

へサームは心細さと共に恐ろしくなった。

瞬きをした一瞬で、さっきまでいなかった存在が大量に現れたのだ。

(嘘だろ……これが見えてないのか?)

肉の周り、シャンデリアの周り、壁際、人の肩、テーブルの上、至る所に水色の変な生物がいる。空気中にもたくさん浮遊している。

へサームは肉の周りにいる変な生物を指差して必死に訴えた。

(あれだよ、あれ!)

「ローストチキンはわかったから、これ以上恥をかかせないで頂戴!」

(違う違う!)

ぶんぶんと首を振るへサームを、さすがに様子がおかしいと思ったらしい。心配そうにのぞきこんでやり過ぎたかしらと呟いた。

「へサーム、母様が悪かったわ。話していいから言ってみなさい。」

「–––––––!」

「……へサーム?」

「––––––………」

「陛下、殿下、申し訳ありません。母上、少し…へサーム、おいで」

見かねたイフサーンがへサームを連れ部屋の隅まで歩いていった。

着くと、眉を下げへサームを見た。

「どうしたの?」

「…………」

「黙ってるとわからないでしょう?」

「………ぁ、………ぁいっ!」

「え?何て?」

「………ぇが、…ぇあ…ぃ…だ!」

(声が出ないんだ!っそなんでだよちくしょう!)

だんだん腹立たしさが募ってきて、気がついたら手近にあった椅子を思いっきり蹴飛ばしていた。

(っ!しまった)


前にも述べた通り、ヘイダル人は女性でさえ一蹴で男三人を殺せるほどの脚力を持つ。


へサームの蹴った椅子はものすごい勢いでドレス姿の少女へと迫った。

「きゃ––––」

気が付いた少女が悲鳴を上げかける。

上げかけたのち、目を瞬かせた。

「–––––まぁ、椅子が浮いているわ」

クスリと笑う。

椅子は急速に勢いを失ったかと思ったのもつかの間空中に停止し、ふわふわと揺れながら元の場所へと戻っていった。

「誰がやったのかしら。あれが魔法というものなのね!」

少女は頬を紅潮させそう言い、親についてその場を離れた。

「へサーム……」

惚けた顔のへサームの両肩を掴んで、

「……ヘサーム、声が、出ないんだね?」

イフサーンがまだ半信半疑という感じに尋ねる。

ヘサームは首を縦に振った。

「そう……殿下に、そんな魔法がないかそれとなく聞いてみるよ。廊下で待っていて。」

ヘサームはちらとローストチキンを見て、仕方なく頷いた。

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