書斎
朝食が終わって食堂から出たところで父様に呼び止められた。
「話がある。書斎まで一緒に来てくれるか。アレクセイも来てもらって構わない。」
「はい」
「はい、陛下」
父様の書斎、つまり国王の仕事場。
初めてのことに緊張する。
(話って、何だろう)
一定の距離をおいて配置されている兵士さんたちが父様と私が前を通る時一様に敬礼をした。
どのくらい歩いた頃か、父様が立ち止まって使用人が開いた扉を入っていった。
「そこにかけなさい」
「はい」
私はソファに腰掛け、アルは私のすぐ後ろに立った。
「話というのは、キルヴィ、お前のことだ。本来、王族は十六の誕生日と共に成人式をし、成人したことを他国に公表することになっている。」
「成人…」
考えてもみなかった。
この世界では、私はもう大人の年齢らしい。
キルヴィの誕生日はこの世界で言う “芽吹きの月”。だいたい四月くらいだと思うが、ここは日本と全く気候が違うのでよくわからない。
今は “潤いの月”。だいたい六月くらい。こちらへ帰ってきたとき始めだったから今は半ばだ。
「痣のこともあって今まで一度も表に出したことがなかったが、無くなったことであるし、私としてはお前を見せびらかしたいと思うのだが。」
「何か盛大に行われるのでしょうか?」
父様が縦に頷いた。
「もちろんだ。こちらが図らずともそうなるだろう。」
「……そうなのですか?」
今までもアンヌたちの誕生日パーティーが催されてきたが、あいにく私は参加出来なかったのでその辺の事情がわからない。
「そこでだ。一つ心得ておいて欲しい。」
父様が真剣な眼差しで私の瞳をひたと見つめる。
「公に姿を見せるということは、それだけ危険なことも増える。それはわかるか?」
「はい」
「さらに、王族としての振る舞いも求められる。軽率に考えを口にしたり行動したりすれば、周りに与える影響は凄まじいのだ。」
「はい」
「それだけの覚悟が、あるか?」
王としての覚悟。
とはまだ、言っていない。
しかしいずれ、それを問われる日が来るのだろう。
その時私は、自信をもって頷けるだろうか。
「……はい。皆の模範となれるよう、精一杯励んで参ります。しかし、至らぬところもあろうかと存じます。そのときはどうか、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」
将来への不安はひとまず心の奥へしまい、私はそう答えていた。
***
キルヴィが出て行き、王とアル、それから護衛の兵士が戸口に控えるだけになった部屋で国王はため息を吐いた。
「ああは言っておったが、多少は強がっていたのであろうな。顔の血の気が引いていた。」
「今まで、殿下の世界はご自分のお部屋だけでしたから、仕方のないことでありましょう。」
「あれは生来に病弱だから、責務に耐えられるかどうか。加えて狙われやすいときたものだ。私は心配でならんのだよ。」
憂いた瞳を伏せる国王の前で、アルは膝をつき力強く言った。
「陛下のため、殿下のために、このアレクセイ、命を尽くす所存であります!どうか殿下の安全はわたしにお任せくださいませ。」
「…ああ。頼りにしているぞ」
国王は穏やかに微笑んだ。
お父さんで一つ、書いてみました(*^^*)