兄との再会
扉の陰から中をそーっと窺う。
「どうなされたのですか?」
「ひゃぁっ!」
湯気を立ち昇らせるお盆を持って、アレクセイがすぐ傍、真後ろに立っていた。
「いや、あの、その」
リュイは内心青ざめていた。
騎士たる者、覗き見などしてはいけないのだ。たとえ女性の部屋でなくとも。
「アル…?けほっ、どうかしたの?」
部屋からアレクセイを心配しキルヴィが声をかける。
兄の声を聞いた途端、リュイは胸がジーンと熱くなった。
(良かった、お元気そうだ)
一年前お忍びで訪ねた時は、弱々しくて本当にしんどそうだった。風邪を引いているにしても今の声の方がずっと張りがあり生き生きとしている。
「殿下、リュイ様がおいでですよ」
「リュイ––––」
一度訪ねて行ったのを覚えていていたらしい。さっと扉へ注意深い視線を向けた。
おずおずと陰から進みでる。
「は、初めまして、兄様。リュイです。」
ぺこりとお辞儀をすると、キルヴィはニコリと顔をほころばせた。
「君が、リュイ……思った通り、可愛い子だね。」
「見えるのですか」
「ああ、見えるようになったんだ。嬉しいよ、見てみたいと思っていたから。」
お盆を、ベッドの上に置かれたテーブルに置いたアレクセイが不思議そうに首を傾げた。
「リュイ様、何故殿下の目が見えなかったことをご存知なのですか?ほんの数人にしか話さなかったはずですが」
ひくっと顔を引きつらせたリュイとは対照的に、キルヴィはほわほわした顔のまま、
「リュイね、内緒で一回僕に会いに来てくれたんだ。」
軽く爆弾発言をする。
「言ってしまっては内緒ではないのではありませんか?」
「………まぁまぁ、ね?」
兄はやはり笑顔が素敵だ。
周りの人の愛に包まれて大事に育てられた深窓の令嬢のような御人だと思う。
この無邪気さには誰も敵わないだろう。
「ご気分は如何ですか?」
「良好です…けほっこんこんっ」
「あ…はぁ。そ、それは何よりでございます。」
「殿下、咳をしながら良好と言われてもあまりに説得力に欠けます。」
「そうだねぇ…けほっ…喉痛い」
「やっぱり良好ではないじゃありませんか」
「ああいうのは良いって言っておくものじゃないの?」
「「……」」
「ご飯、食べて良いですか?」
「…はい、是非」
兄様は、空気を読むということを知っておいでだろうかと心配になった六歳だった。
上がふわふわしていると、下がしっかりするんです。