あれるぎー
お世話係さんのキャラがぐらぐらと不安定です…。
くしゃみの止まらない、目を充血させるキルヴィを囲んで黒服、侍医、本人が意見交換をした結果、キルヴィのくしゃみが止まらないのはヘサームの所為という結論に至った。
(それはヒドイ)
リュエルといいキルヴィといい、魔術師の国の住民はヘサームに何か恨みでもあるのだろうか。
一応気遣ってこそこそと話していたが生憎今の耳では丸聞こえなのだ。
「リュエルが入ってきたときからだから」
「う」
「……」
「……」
「うわーんお兄様ぁ、トルティとフィエールが怖いー」
「リュエル、来ないでお願い」
「……」
「ふ…」
「……」
「トルティ笑うなぁっ」
バシィッ
「ぐ…っ…」
「リル、脛は駄目だ」
「ごめんなさい」
「リュエルの所為というか、どちらかというとヘサーム様だと…っくし」
「いいえ、リュエルさまがもう少し分別ある行動を、例えば国賓にあたるお方に無礼を働いた挙句殿下のお部屋にご案内するようなことをなさらなければ、殿下のただでさえ芳しくないご容態を損ねることもなかったでしょう。」
黒服がさらさらと躊躇う様子もなく言い切り、取って付けたように「差し出がましいことを申し上げまして失礼致しました。」と付け加えた。それに対して、リュエルも悪いことをした自覚はあるらしく、頬を膨らませはしたが、言い返すことはなかった。
黒服が、新しいリネンを持ってくるよう指示を出し、すぐにメイドが寝具のカバーを一式携えてやって来た。
キルヴィは黒服に支えられてベッドを降り、運ばれてきたソファに腰かけた。
「失礼致します。」
メイドは、目を合わせてはいけないしきたりでもあるのか目を伏せて、キルヴィが見ていることに全く関心を払わずちらりとも見なかった。無駄のない動きで少しの衣擦れの音がする以外全くの無音で取り替え、そして来た時と同じように軽く礼をして挨拶し部屋を出て行った。
そのメイドが、入室時や退室時にちらちらとこちらに視線を寄越していたが、たまたま目が合っただけだろう。
「すごい、手際がいいね」
ベッドに戻って黒服に掛け布団を掛けられるキルヴィが上機嫌にそう言う。
「あり難きお言葉、彼女にはわたくしから伝えさせていただきます。」
「よろしく」
「御意に」
それからキルヴィは休みたいと言い、部屋の人払いで黒服と護衛以外は出ることになった。
黒服が恭しく礼をするのが、閉まる扉の隙間から見えた。
未だ膨れているリュエルは、迎えに来ていた近衛兵が引きずっていき、二、三の兵士がトルティに会釈をしてリュエルとは反対方向に歩き去った。
誰もいなくなった廊下で、背の高いキルヴィの侍医がヘサームに向き直り、踵をそろえて背筋を伸ばし、二つ折りになりそうなほど深く、深く頭を下げた。
「ヘサーム殿下、様々の無礼、心よりお詫び申し上げます。大変申し訳ありませんでした。」
頭のてっぺんを向けたまま微動だにしない。
見上げる形になったヘサームは口を開け、自分がいまライオンになっていたことを思い出して赤面した。
ライオンの四肢が膨らみ人間の手足が形作られていく。
瞬きをするほどの間の後、頭を下げるトルティを見下ろすキャラメル色の肌の、鋭い目のせいか冷え冷えとした空気を纏う引き締まった体躯の青年が現れた。
青年はトルティの肩をたたいた。
恐る恐る顔を上げるとヘサームは首を振っている。
「…お許し、くださるのですか」
ヘサームは、横に振っていた首を、今度は縦に振った。
ヘサームの寛大な対応にほっとしたのか穏やかに笑みを見せて、「お部屋までお送り致します。」と兵士たちの去った方を手で示す。ヘサームは無言で示された廊下を歩き始めた。




