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兄との邂逅 パート1

誰かを横抱きに、いつも冷静なアレクセイが狼狽えるのを見てアンヌはおっとりと首を傾げた。

抱いているのは見知らぬ、しかしどこかで見たような青年であった。

毛先から水のしたたる、濡れた白っぽい金髪が、青年の死んだような青い肌に張り付いて、本当に死んではいまいかとうすら寒い思いがした。

アレクセイは宮廷医の名を連呼しながら廊下を走って行ってしまった。



***



「入ってもよろしくて?」

「アンヌ王女、どうぞお入りください。」

宮廷医の返事で、使用人が開いたドアを中へ入ると、ベッドにはアレクセイの抱えていた青年が静かに眠っていた。

「なんと…ここは兄様のお部屋のはず。これは何事です?無礼な。」

表情も声も変わらないが、そこには確かに大切な兄が蔑ろにされた怒りが込められていた。

と、

「アンヌ王女」

宮廷医が看病する手を止めぬまま、

「この御方おかたこそ、アンヌ様が兄君、キルヴィ王子殿下にあらせられます。」

「……なにを」

言っている、とは言えなかった。

アレクセイの青年を見つめる瞳を見ては、そんな言葉を言えるはずもない。

「…そう」

この、御方が、と呟くと、宮廷医が微笑んで、

「初めてお会いになるのではありませんか?わからずとも仕方がありません。」

と言った。

「ごめんなさい、わたくしの早とちりでしたわ。…でも、兄上は一年前に行方知れずになったのでは?」

一年前にベッドの上から忽然と姿を消して以来、国中を隅々まで探し回っても手がかりすら掴めなかったのだ。

「本当に兄様なのですか?」

丁度一年目の今日突然見つかったなどと、そんなうまい話があるだろうか。


「殿下に間違いありません」


ここで、今まで黙りこくっていたアレクセイが口を開いた。

「わたしが見間違うことなどありえません。ずっと、お側におりましたから。」

アンヌは何も言えなかった。

彼の言葉は、強い確信に溢れ、何物にも否定させない強い想いが感じられた。

アンヌは宮廷医の言う通り、会ったことすらない。

病気が重く、うつるといけないからと部屋の近くを通ることさえ禁じられていた。

母親から聞く話だけで、どんな人かを日々想像しいつか会えることを楽しみにしていた。

「…お顔が、真っ青だけれど。」

「湖に落ちたせいでしょう。魔力の消耗も見受けられますし、キルヴィさまはもともとお身体が弱い御方ですので。お疲れになったのでしょう。休めばすぐよくなりますよ。」

割と軽い口調から大事ではないとわかりはしたものの、やはり見慣れぬ身には落ち着かないものがある。

アンヌはベッドの横へ寄り、青年の顔をなぞるように、覚えるようにゆっくり見つめ続けた。



***




アンヌは今日も、兄の部屋へ兄の顔を見にやって来ていた。


キルヴィは高熱を出してずっと寝込んでおり意識がはっきりしないため、たまに目が覚めているようでもアンヌを認識できないらしかった。だからまだ話せていない。気になる存在でどうしても話してみたかったのでアンヌは飽きずに通っているのだった。


まだ赤い顔をするキルヴィの生存を確認して、アンヌは傍の椅子に腰掛ける。


余談だが、王女だからといっていつでもロングドレスを着ているわけではない。あんなのを普段から着ていたら動きづらくて肩がこる。

今日はレースに覆われた白いワンピースドレスだ。胸元に赤紫色の細リボンとビーズ、ふんわりと膨らんだ短い袖には真珠があしらわれている。


読み途中の伝記を読み進めていたところ、視線を感じて本から顔をあげた。

吸い込まれそうな深緑に胸がトクン、と脈打つ。

「殿下」

寝ぼけ眼のキルヴィは何度か瞬きをして、

「……僕のお母様にそっくり」

目を細めて笑った。

やはりアンヌ同様、こちらのことがわからないようだ。

「初めまして殿下。妹のアンヌです。」

「…妹……アンヌ…?」

キルヴィは難しい顔をして、んー、と思案した。

「……あ、あぁ?ごめん、わかんないや」

掠れた低い声で囁く。

「いえ、仕方のないことですから、謝られることはありません。顔をお見せするのは今回が初めてでございますので。」

「そっかー」

聞いているのかいないのか、素っ気のない返事をしてまたすぐに寝息をたてはじめた。

(今はだめね。ちっとも聴いておいででないわ)

口調からも不調の程はよくわかる。

アンヌは、膝に置いていた伝記を手に取り再び視線を落とした。

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