受け入れよう
夜中の勢いシリーズ第六弾です。正直なところ、何を書いてるか自分でもわけわかんないです。毎回のことながら、そこら辺はご了承ください。
いつかこうなることがわかってた。
だから、お前に……。
【受け入れよう】
日差しが少し柔らかくなり、風に冷たさを感じてきた、もう秋になろうかという季節。街中で歩いていた俺は懐かしく聞いたことのある声に呼ばれた気がして後ろを振り返った。それは気のせいなんかじゃなかったらしく、振り返った先にいたのは食えない笑顔をして俺に手を振る一人の男性だった。
始め、俺はすぐにそいつのことが思い出せなくて笑顔で近づいてくるそいつに戸惑ったが、思い出せてない俺に気づいて名前を名乗ってくれた結果、思い出すことも減った幼い頃の記憶が蘇ってきた。
そいつは俺が小さい頃、田舎に住んでいた時に遊んでいた友達だった。親友と言ってもいい。それぐらい気も合ったし、よく遊んだ。
最近は全くと言っていいほど連絡を取っていなかったから、正直会った時は全然わからなかったけど。
「お前、上京してきたのか?」
「うん、まぁね。仕事上俺はこっちにいる方が便利なんだ。とは言っても今回の仕事が終わるまでなんだけどね、ここにいるのは」
「まぁこっちは都会だしな、あの田舎よりは断然いいだろうな」
「そうそう」
「今はなんの仕事してんだ?」
「うーん、頼まれたことに対して下調べしたりそれを実行したりする仕事かなぁ」
「何でも屋みたいなもんか?」
「そんなとこかな」
クライアントに大物が多いから、こっちにいる方が何かと良いんだよね。そう言った懐かしい親友は暫くこの街にいるらしい。仕事が終わるまでに2人で食事にでも行こうと約束し、連絡先を交換してその場は別れた。
それから三ヶ月ほど暇があれば食事やらなんやらしてた俺達。会うたびに自然とできる会話に、会ってなかった時間が嘘のように感じられた。
けれどこれ以上深く付き合うのは駄目だと、俺の頭は警告していた。このままいけばこいつは気づいてしまう。俺がしてることに。
それだけは絶対に避けなければいけなかった。
「ねぇそういえばさ、聞きたいことがあったんだけど」
冬が本格的になって雪が降るその日、平日の昼間で普通なら仕事に行っている筈だというのに暇だとあいつから電話を貰った俺は、近くの喫茶店にコーヒーを飲みにいかないかと誘った。
この喫茶店のゆったりとした雰囲気が好きな俺は、出されたブラックコーヒーに口をつけ、親友の質問に対してどうした、の意味を込めて目を合わせる。
「仕事、なにやってるの?」
「……仕事か? また唐突だな」
「だって昼間だよ、今。普通は仕事に行ってるよね」
「それはお前もだろー」
「それはそうだけど。俺は依頼がなかったらそんなに忙しくはないから」
「俺も同じようなもんだよ。ま、俺の場合夜の方が仕事は多いから」
「え、そうなの?」
「あぁ」
夜の方が多いというのは少し語弊があるかもしれないが、事実だ。ただし、多いのではなくて、夜の方が良い、と言うだけだが。
俺のその質問の答えに親友は少々納得できなかったようだが、俺が仕事をちゃんとしてるのか、仕事の迷惑になっていないかを確かめる為の質問のようだったのでそれ以上突っ込んでくることはなかった。
その夜、人気のない、それなりに高いビルの屋上で俺は仕事をしていた。肩にかけて持っていたギターケースを置いて開く。そこにはギターではなくライフルが入っていた。まぁこの状況でギターが入ってる方がおかしいかもしれないが。
ライフルの他に入っているものを組み立ててそこにライフルを置き、向かいの建物に照準を合わせて待機する。様子を伺うため、ライフルスコープから建物を覗き込んでみたが、すぐにやめた。目標が現れなかったためだ。
それでもまだ時間はある。一発で確実に仕留めるためにも焦りは禁物だ。俺はポケットから煙草を取り出し、口にくわえて火をつけた。長い夜の始まりだ。
二時間くらいたっただろうか。ようやく目標が現れた。それを見逃す筈もなく、俺は吸っていた煙草を携帯用の灰皿に入れる。証拠を残すなんてことはしない。足がつくようなことは絶対に。
人を殺すのに緊張しないやつなんていないだろう。俺は鼓動を落ち着かせるために大きく深呼吸をした後、いつも通り、しっかり目標に照準を定め、引き金を引こうとした。
だがそれよりも早く、後ろで扉が開く音がする。
それに反応できないほどじゃない。俺はライフルから手を離し、近くに置いてあった銃を手にとってそのまま姿勢を反転させる。上を向いたところで屋上には入ってきた主に銃口を向けた。
「……な、んで」
向けたところまでは良かった。後は引き金を引くだけ。だが、向けた相手が悪かった。
「なんで、お前が」
なんてベタな展開だよ、と誰だって思っただろう。殺しをしようとしてたところをよりによって親友に見られるなんて。しかもなんだ、銃まで突きつけられる羽目になるとは。俺も突きつけてることに変わりはないんだけども。
なんで、お前がそんなもん持ってんだよ。
「なんでって、君の行動を監視してたから」
「は? なんでだよ」
「……君を殺すため、かな」
そう話す親友の目は嘘をついていない。間違いなく、俺を殺しに来たらしい。
つまり、同業者ってことか。皮肉だな、親友に再会したと思ったら、どっちも殺し屋でした、なんて。
「なるほど。俺に近づいたのもそのためか」
「もちろん。……本当はこんな形で会うのは嫌だったんだけど」
辛そうに顔を歪めていうところに騙されそうになる。お前も殺し屋だろうが。本当に嫌ならまずここに来ないだろ。
……実はこいつに会ってから嫌な予感はしてた。なんとなく。
別に殺されるっていう予感があったわけじゃないが、確かに何かを感じてた。
だからこそ、俺は仕事のことをばれるのが嫌だった。だって分かっていたから。鋭いやつだからこそ、ばれたらもう殺すしかないことも。
その時、こいつを殺すことができないことも。
「誰から依頼された?」
「君が今殺そうとしてた男から。ボスだしね、俺の」
「ばれてたのか」
「ばれないわけないよ。一応俺の二つ名は伊達じゃないから」
『悪鬼』って、聞いたことない?
相変わらず銃口をこっちに向けたまま、涼しげに口にしたあいつの言葉は、確かに裏の業界じゃ有名な二つ名だった。
お前もそこまで落ちていたのかと思うと、少し悲しいものがある。俺と同じなのかと。
「正直さ、君の二つ名も知ってたし俺より腕がいいって有名だったから、どう殺そうか迷ったんだ。でも下手な小細工するより、この方がいいと思って」
「つまり俺を殺せる自信はあるわけだな」
「うん。俺には依頼の他に、殺す理由があるからね」
理由? 依頼されたから殺すわけじゃないのか。他に、理由があると。
先ほどから体制は変わらず、お互いに睨みあう形で照準を合わせながらも、冬の冷たい風に吹かれながら話を続ける。
「簡単に殺されるつもりはないが、その理由とやらも聞いておきたいな」
これは少し嘘をついた。本当は俺はこのまま殺されてもいいと思っている。
毎日毎日人を殺すだけの生活は結構堪えるわけで、どうせ殺されるなら知らないやつよりはこいつの方がいいかな、と思ってしまってるからだ。
たった三ヶ月ではあったが、こいつと一緒にいた時間は楽しかったし、充実してた。俺のモノクロの世界に色が付くみたいに、久しぶりに世界が綺麗に見えた。だから、どうせなら、理由があるのなら、なおさらこいつに、と。
「……ちょうど一年前、君が殺した学生がいたと思う」
「……いたな。なんで目標が学生なのか不思議だったから、よく覚えてるよ」
「そいつ、俺の弟だったんだ。離婚して離れて暮らしてたけど」
「弟……」
「うん。明るくてやんちゃで笑顔が絶えないやつでさ、頭も良かったからあの歳でコンピューター関係の仕事をしてたんだけど、結構重要な立場だったみたいで狙われたみたい」
「つまり俺が仇なわけだな」
「その通り。俺もこの業界にいるからさ、仕方ないと思ってるし割り切ったつもりだったんだよ。……でも、」
「俺を殺す依頼が来て、気持ちが抑えきれなくなったわけか」
こいつが開いていた口を固く閉ざした。どうやら図星だったらしい。誰だって肉親が殺されればそうなるのはわかる。俺も両親を殺されたからこそ、復讐のためにこの業界に入った。
復讐なんて虚しいだけだとわかってはいたが、一度は入ったら抜けられない。それがこの業界。
ならそこで生きていくためにも、俺は殺されるべきだ。
そうして初めて俺は気付いた。もうとっくに、生への執着なんてものを無くしていたことに。
「だから、死んで」
冷たく言い放たれた言葉は、あいつの葛藤を思わせた。気持ちがわかるからこそ、俺は少し口元を上げて笑い、目を閉じる。銃を向けるために上げていた腕も疲れてきていて、力を抜くと簡単に地に落ちた。
甘んじて受け入れよう。お前がそう望むのなら。
俺の様子に驚きつつも、覚悟を決めたらしい親友は躊躇なく引き金を引いた。
俺は親友の小さく呟かれた謝罪の言葉を聞かなかったことにして、落ちていく意識に身を任せた。
えー、こんなよくわからない話を読んでくださった皆様、ありがとうございます。少し補足?説明を。
実は疲れていた主人公ですね。その毎日の緊張感から抜け出したかったのかもしれません。それを忘れさせてくれる親友との時間も本当に大事にしていたことでしょう。
親友も本当に殺したかったのか甚だ疑問ではあります。ですが、気持ちはなかなか割り切れるものではなかった、ということでしょうか。主人公のことを大切に思っていたのもまた事実のようですが。
という作品でした、本当にありがとうございました!