再会
そして私は今現在、成田にいる。
運行とは紆余曲折あったが、何とか説得してきた。私だけじゃなく、タマちゃん先輩と佳菜子先輩までもが直談判に参戦してくれた。出来るガイド2人に言い寄られては、運行課長は白旗を揚げるしかなかった。何で、あの2人はここまで肩入れしてくれたのだろうか。謎だ。
私の目の前には、各地からの到着便を案内する表示板がある。しかし、まだ私が待ちわびる便は表示されない。案内カウンターに聞いてみたところ、該当機は確実に日本へ向かっているとのこと。乗客の名前に関しては、規定により教えることが出来ないとのことだ。だから私は、ひたすら待つしかない。
(しかし、何でこんな事してるんだろうね、私)
恋人でもない、ただのメル友。デートらしいことは1回きり。そんな赤の他人なのに。
たぶん、あのテロ事件を見て、私の心の何かが変わったんだと思う。
あのマッキーさんが、居なくなってしまう。
日常が、非日常に変わる瞬間。
言い表せぬほどの不安感。未だに、彼女との連絡が取れない。
様々な事が重なり合った結果、一つの結論に辿り着いた。
(いつの間にか私、彼女のことが……)
そう考えを巡らせていたとき、案内板の表示が変わった。私の待っている便名が表示された!
「30分後か……」
着陸は後30分後の予定らしい。しかし、国際線はそこからが長い。入国審査や通関でやたらと時間がかかる。到着ロビーに現れるのは、着陸から約1時間半後と見た方が良い。この辺は、空港受けの仕事なんかで要領はわかっている。
「トイレ済まして、飲み物買ってこようかな……」
長丁場を覚悟して、用事を済ませることにした。乗っているかもわからないけど、信じて待つしかない。
該当機が着陸してから1時間半後。
案内板に表示されていた到着ゲートに現れる人も増えてきた。おそらく、この人達が該当機の乗客だろう。目をこらしながら、待ち人を探す。
何時もなら、団体名の入ったステッカー(バスで団体名を表示する用紙)を掲げて待っているのだが、今回は準備もそこそこに空港へ駆けつけたので、その類は持ち合わせていない。その場で自作しても良いけど、字が汚いと恥ずかしい。
国際便だから、海外のお客様がやっぱり多い。アジア系とは違い、がたいがいいから見分けは付く。女性もグラマラスな人が多い。羨ましいぞ(泣)。
2時間が経った。
段々、人の数も減ってきた。
もう、ぽつぽつとしか人がいない。
(乗っていなかった……のかな?やっぱ)
となると、何処で何をしているんだろう。相変わらず、直電入れても繋がらないし。
更に15分経過。
乗客らしき人は殆ど見当たらず、空港職員が忙しそうに右往左往しているのみ。
(最後に……もう一度だけ)
一途の望みで、電話をかける。これで繋がらなかったら、私どうしたらいいんだろう……
『プルルルルル……』
「えっ、呼び出し音鳴ってる!?」
今までテンプレ音声案内しか言わなかったスピーカーが、呼び出し音を奏でている!
『プルル……はい、もしもし、美佐さんですか?』
つ、つ、つ……
「繋がったぁぁぁ!」
『きゃっ!ど、ど、どうしたんですか?一体』
「一体今まで何をどうしてたんですかっ!!」
『は、話が見えないんですけど……』
「今、何処にいらっしゃるんですかっ!」
『成田ですけど?』
「成田の!何処に!いるんですか!」
『ちょ、怖いです美佐さん。今、通関を終わってゲートに向かってますけど』
「それなら、早く来て下さいっ!」
『どういうこ……』
彼女の返事も聞かずに、電話を切った。
よかった!乗ってた!この飛行機に!!
少しして、ゲートの奥の方から小走りにカートを引きながら、こちらに向かってくる人を見つけた。間違いない。私の待ち焦がれた人、マッキーさんだ。彼女は私の姿を見つけると、驚いた顔をしてゲートを抜けてきた。
「み、美佐さん!?どうし……」
「マッキーさーんっ!!」
彼女の台詞を遮るかのように、私は声を上げて飛びついた。
「ちょ、どうしたんですか?」
「マッキーさん、マッキーさん、マッキーさん、マッキーさん、マッキーさーん、うわーーーーーん……」
最後の方は声にならず、泣きじゃくった。
「生きててよがっだぁーーーっ!」
この時のマッキーさんは、訳がわからず私に飛びつかれたので、オロオロするしかなかったそうな。
「落ち着きましたか?」
「はい……みっともないとこを見せてしまいました」
今は到着ロビーにあるソファーに腰を下ろし、2人で寄り添っていた。
「事情はTV局から聞きました。まさか、あの飛行機が離陸した後にテロが起きていたなんて……」
「全く知らなかったのですか?」
「小耳にチラッとは挟みましたが、あの空港だなんて思ってもいませんでした……あぁ、だからですか。今日の通関が異様な雰囲気だったのは」
話によると、通関でのチェックが素人目から見ても異常に思えたらしく、手荷物もセキュリティチェックが厳重に行われていたせいで、なかなか出て来なかったらしいのだ。
「時間がかかるなぁ、とは思ってましたけど……そういうことでしたか」
「それよりも、美佐さんが何故この場にいるのか、そちらの方が私にとっては疑問ですわよ?」
真剣な眼差しを、私に向けるマッキーさん。でも、私は反論する。
「マッキーさんが電話に出ないからじゃないですかぁ……」
「え、私?私のせいなのですか?」
「テロの速報を見てから、ずっと連絡取ろうとしてたんですよ?なのに、直電もLINEも繋がらないし……」
「え、そうなのです?」
そういって、スマホ画面を見る彼女。
「本当だ、いっぱい履歴が……」
「全く気づかなかったのですか?」
「フライト中は、国内移動の時も電源切るように心がけていますから。電話に出たのも、先程電源を入れた直後でした」
「そうだったんですか……」
それじゃ、繋がらないわけだ。
「ほんっっっとうに心配したんですからぁ。テロに巻き込まれたんじゃないかって」
「心配かけてごめんなさいね……しかし、先程ゲートで美佐さんを見たときは、本当にビックリしました」
「ぅう、飛びついてごめんなさい」
「良いんですよ、それ位。それとね、貴女を見て安心しちゃいました。日本に帰って来たんだな~って」
「どういうことですか?」
「いくらメールやLINEで繋がっていても、貴女のいない世界は寂しかった。日本にいれば、逢おうと思えば逢う事も出来る。でも、海外じゃそれもままならない。だから、早く仕事を終わらせてしまおうと思っていたんです。結果的には、テロに巻き込まれなかったのは良かったですけど。予定通りだったらと思うと……」
「私も……」
「はい?」
「私も、普段は貴女を煙たがっていましたが、LINEを通じてその考えが改まっていったんです。そこへ、あの事件……もう、マッキーさんに逢えないかも……その事ばかり考えていました」
「どうしてそう思ったんですか?」
「LINE、楽しかった。ツアーに来てくれるの嬉しかった。あのホテルでの会話、楽しかった。いつの間にか私、貴女に惹かれていた……みたいです。だから、テロに巻き込まれていたらどうしよう?と、不安で不安で仕方なかったんです」
「私、女性ですよ?いいのですか?」
「それを言うなら、マッキーさんだって私のこと……」
「そうでしたわね、クスッ」
「男とか女とか、関係ない。『マッキーさん』を好きになったんですから」
「私達、似てますね」
「え?」
「私も、いつの間にか美佐さんに惚れてましたから」
「でも、ネットではあんなにキャラ壊れませんよ?私」
「私に対してだけは、手厳しいじゃありませんか」
そう言い合い、笑みが零れる2人だった。そこへ、着信が入った。あ、タマちゃん先輩だ。とりま、今は無視。
「出なくて良いんですか?電話」
「いいです。用件はわかってますから」
待ち人は見つかったのかー、早く連絡よこせーとか、そんな所だろう。
「それよりも、もう少しこうしていて良いですか?マッキーさんが生きてるって実感、もう少し味わいたいです」
「それは宜しいんですけど……あまり人が増えると、こちらも恥ずかしいんですけど」
「見せつけちゃえば良いじゃないですか」
「それはそれで困ります~」
その後、私達が帰路についたのはマッキーさんと出逢えてから、3時間後のことでした。
本編はこれで終了です
次回はエピローグです