親睦
夏コミで頒布した本作ですが、こちらは徐々にうpって行きます
「終業点呼、異常なし。忘れ物もないですね。お疲れさまでした」
『お疲れさまでした!』
運行管理者と挨拶を交わし。点呼場を後にする。
「お疲れっした、鶴見さん。またよろしくっす」
「はいお疲れさま。気を付けて帰ってね」
お互い挨拶して別れる。彼は自家用車に乗って自宅へ。私は徒歩で寮へそれぞれ向かう。
「ただいまーっと」
点呼場がある、会社の社屋から徒歩一分。同じ会社の敷地内にある、ガイド専用の寮。その中の私が住んでいる、部屋のドアを開けて中に入る。
「相変わらず、寂しいとこだよねぇ此処」
それもそのはず、私だけなんだから、と一人ツッコミをする。
うちの会社に所属するガイドは、入社から2年間は必ず寮に入らなければならない、という規定がある。それに倣って、私も入寮したんだけど、3年生の先輩ガイドが丁度寮から出たらしく、入れ違いで入寮。更に、次の年の新入社員にガイドがおらず、今現在ガイド寮には私だけしか住んでいない。まったく、寂しいこの上ない。ま、裏を返せば気兼ねなく暮らせるんだけどね。ただ、勤務時間がまちまちな仕事なので、寮母さんの類いは存在しない。故に、炊事洗濯等は全て自分でこなさなければならないのだ。
「さてっと。溜まった洗濯物でも片付けますか!」
ガイド制服を脱いでハンガーに掛け、ブラウスやら下着やらも脱衣。部屋着に着替え、キャリーバッグから汚れ物を取り出し、洗濯機へ投入。洗剤を入れてスイッチオン。周りに誰も居ないから出来る、深夜の洗濯。これが普通のアパートやらなら、ご近所迷惑になるよね。
「明日は休みだから、制服をクリーニングに出して……ちょっとお掃除もしないとか」
部屋の惨状を見渡し、溜息をつく。一人暮らしだと、どうしてもねぇ(苦笑)。洗濯の合間に、晩御飯……は太る元だから、途中のサービスエリアで貰った総菜パン一つを齧って良しとするか。
「そういえば……」
あることを思いだし、テーブルの上にある紙切れを手に取る。制服のポケットから取り出しておいたそれは、バス車内で見つけたメモ。黒崎様の連絡先だ。
「これって、『連絡待ってます♪』ってことなのかなぁ……」
おそらくはそういうことなのだろうけど、意図が読めない。まるで学生時代に、下駄箱でラブレター貰ったような気分だ。そんな経験ないけど。
「さて、どうしたものか……」
流石に、今は深夜に近いわけだし、電話は失礼に当たるよね。親しい間柄な訳じゃないし。知らない番号じゃ拒否られるだろう。順当にメールかなぁ。アドレス的に携帯端末用だから、すぐに迷惑フォルダ行きにはならないだろう。
「でも、見つけたその日のうちに……ってのもどうなんだろう?」
何かがっついているみたいで、イヤじゃない?
「しかし、向こうはこっちの連絡先を知らないわけだしなぁ」
何か、すごい自問自答してるよ私。何で?そんなに黒崎様のことが気になる?
「去り際があっさりだったから、気になってるのかねぃ?」
色々考え込んでいる内に、洗濯機がメロディを奏で始めた。”洗濯終わったぞゴルァ”って合図だ。パタパタとスリッパを鳴らして、洗濯機に駆け寄り洗い物を取り出す。
「取りあえず、干してから考えよう」
そう呟き、洗濯物を干す作業に没頭していった。
部屋に朝の光が差し込み、何時もの明るさを取り戻し始めた頃、私は目を覚ました。
「あれ……?いつの間に眠ってた私!?」
おかしい。寝たっていう記憶がない。しかも、身体が何か痛い。
「……げ、此処は居間の床?何でこんなとこに……」
うーむ、昨夜何があったんだろう。思い出せない。仕事から帰ってきて、着替えて、洗濯して、それから……あ。
「例のメモに頭悩ませて、そのまま眠っちゃったのか」
テーブルに脚を突っ込んで、仰向けに寝てたから、伸びをして横になったまま寝ちゃったのかな。いわゆる寝落ち。
「車庫も静かだねぇ」
早朝に出庫するバスが出払ったのか、車庫が割と静かだ。時間を見ると8時前。そろそろ、整備班が動き回り始める時間だ。
「まずは朝食かねぇ」
そう思ったら、即行動。台所で何かないか漁り始める。
「ふぅ、落ち着いた」
何とか食料を見つけた私は、簡単ながら朝食にありついた。
「さて……と」
いつまでも現実逃避しているわけにはいかない。日付も変わったし、良いかな。
「アドレス打って、『昨日はありがとうございました』っと……」
ツアー参加のお礼(という名目)を理由に、メールを黒崎様へ送ることにした。差し障りのない文章が出来上がっていく。よくこんなテンプレ文章が書けるな自分、と苦笑する。
「ほい、送信っと」
自分のスマホから、彼女宛に送信。これで、私のメアドがバレるが、まぁそれ位は無問題だ。
その5分後。メールの着信音。
「へっ!?」
誰だ?先輩か?でも先輩ならLINEが来るはずだし……不思議に思いながらメールアプリを開く。そこには見慣れない文字が。
『お疲れ様でした』
こんなタイトルを付けて寄越すメル友いたっけ?最近流行のなりすましメール?それともフィッシング?恐る恐るメールを開く。
『ガイドの鶴見美佐様
1泊2日のミステリーツアーお疲れ様でした。メモに気づいてくださったんですね。ありがとうございます。
本来なら手渡ししなければならないのですが、性格が災いしましてこんな形になってしまいました。
昨日はお礼もそこそこに失礼いたしました。告白してしまった相手という手前、やっぱり恥ずかしいですね。
それはさておき、図々しいお願いなのですが、私とメル友になっていただけないでしょうか?
告白された相手にそんな事言われても……とは思いますでしょうが、是非にお願いしたいのです。
折角貴女と繋がることが出来るチャンスを、みすみす逃したくないのです。
どうかご検討くださいませ。では、失礼いたします。 黒崎真貴』
「……何処のラブレターだっての」
貰った経験ないけど(重要なのでもう一度いいました)。
厳密にはラブレターじゃないけど、近いモノがあるよね。
「って言うか、文面の割に返信早くない?」
毎回こんなの貰ってたら、こっちがいらん緊張してしまうわ!
そう思い、もう一度メーラーを立ち上げる。
『堅苦しいプライベートは苦手なので、番号教えますからLINEで話しましょう。xxx-xxxx-xxxxです』
そう送ったところで思い出した。こっちは番号知ってるんだから、こっちから承認申請しても良かったな。失敗したー。そうこうしている内に、向こうから友達登録の通知が来た。早いなおい。では、こちらもっと。
『反応早いっすね。休みですか?』
そう初LINE(彼女に対して)を送ったら、すぐ既読になり、いきなりサムズアップのイラストが描かれたスタンプが送られてきた。
『いきなりスタンプで返信ですか』
『。゜(゜´Д`゜)゜。ダメでしたか?』
『気安すぎます』
『ごめんなさい(m_m)』
……意外とあの人、軽いのかな?でも、TVの中のマッキーさんと話してるみたいで、悪くはない。
『でも、ガイドさんとこうやてLINE出来るなんて夢のようだわ~(*⌒▽⌒*)』
『私も業界人の方と知り合えるなんてビックリです』
『そんな他人行儀な事言わないで~マッキー悲しい(´・ω・`)』
文面見て、思わずコケそうになる。どんだけキャラ変わってるんだ。
『ホント、黒崎様とは正反対ですね』
『うん、よく言われる~b』
『褒めてません』
『あうっ(;>_<;)』
暫くLINEのやり取りをしていたが、彼女の一言で突然終わりを告げる。
『あ、そろそろ打ち合わせの時間だわ。ごめんなさいね』
『お仕事なら仕方ないですね。頑張ってください』
『やだ、まだ話し足りないー( ;∀;)』
『子供ですか』
『だぁってーo(><;)(;><)o』
『仕事だって、そちらから切り出したでしょうが』
『……わかった。打ち合わせ行ってきます(つд;*)』
『はい。またTVで見られるのを期待してます』
『そこは、また会いに来てください、じゃないの?(°▽°)ニヤニヤ』
『全く面倒くさい人だなぁ。早く仕事行ってください』
『はぁーい。それじゃ(^o^)/~~』
「全く……大きい子供かっての」
まさか、LINEでこんなに疲れるとは思わなかった。番号教えたの、失敗だったかな。しかし、マッキーさんキャラ壊れすぎだっての。
「でも……楽しかった、かな」
寮でこんなに会話したのは、だいぶ久しぶりだ。たまに、先輩ガイドの誰かが遊びに来るときには色々喋るけど、普段は独りだからね。
「私自身が、会話に飢えてたのかね(苦笑)」
最初は面倒くさいと思っていたが、段々会話が楽しくなっていたのも事実。
「今日の内に、またLINE来るのかな」
心の片隅で、それを待ち望んでいる私がいるようだ。
「それよりも!クリーニングに出掛けて、部屋の掃除だ!」
そう自分に言い聞かせて、今日の予定していた行動を開始した。
この日のやり取りがきっかけで、マッキーさんこと黒崎様と深い関係になるとは、この時点では全く予想していなかった。
本作は、夏コミで頒布したモノと多少な差異があります
一部の会話での顔文字が入ってるこちらが本来の仕様です
頒布版では、縦書きに変換した際に、顔文字がおかしくなったので
泣く泣く削除しております
これで、マッキーさんの軽さがより鮮明に?
ギャップ激しすぎやろw