帰着
コミケ直前です!まだ完成していません(ぇ
取りあえずちょこっと出来たので先出ししておきます
日付変わって、翌日。
宿での朝食も無事終わり、お客様を乗せて出発。席替えでひと騒動あったけど。
出発前。うちのツアーは、1泊でも次の日は席替えを実施する。
「黒崎様。今日は一番前でございます」
と案内したのだが。
「わ、私は一番後ろでいいですぅ……」
そう言い残し、昨日と同じ席に収まってしまった。
「いいのですか?そちらで。前は、眺望が素晴らしいですよ」
そう言って前席に座ってもらうよう促したのだが、一番後ろから頑なに動こうとしない。
(そんなに後ろが良いんですかねぇ……)
そんな愚痴を心のなかで溢しながら、泣く泣く座席表の修正を始める私であった。
ツアーも順調に進み、しかしミステリーツアーなので、充分な案内が出来ずフラストレーションが溜まる一方の私。そんな中、ふと車内後方を見やると、黒崎様がこちらを見ている模様(グラサン越しなので、視線はわからず)。確かに、一生懸命メモを取りながらこちらの話を聞いている。
(こんな不充分な案内で、勉強になるんですかね)
ミステリーツアーは、行き先などを伏せての運行なので、下手に通常の案内をすると目的地がバレてしまう。故に、ガイド泣かせのツアーなのだ。それを逆手にとって、「喋りたいんですけどね♪」とネタにして笑いをとるときもある。ガイドは、喋ってナンボだからね。
そうこうしている内に、お昼場所到着。某有名ホテルのランチビュッフェです。このホテルは、そうそう来られる場所じゃない位、格式の高い場所ですから。ぉお、お客様みんな驚いている。これを見られるのが、ミステリーツアーの楽しみのひとつだね。これで、フラストレーションも少しは減ったかな?
お客様の入場もスムーズに終わる……かと思いきや、案の定黒崎様が入場を止められた。サングラスの着用が問題らしい。しかし、責任者らしき人が現れると、アッサリ通された。
(マジ!?)
さらに二言三言、言葉を交わした黒崎様は、今まで頑なに外そうとしなかったサングラスを外した!
(どどどドウナッテルノ!?)
私があれほど言っても外さなかったグラサンを、ホテルマンの一言で……負けたよ。
「何項垂れてるんすか?」
バスの駐車を終えて食事会場に来た石見くんにつっこまれた。
「ちょっと、ね。食欲失せたわ……」
その一件があってからは、私のテンションも上がらず、惰性で仕事をしてしまった。「元気ないね~?」と、常連さんにもつっこまれる始末。申し訳ない。次回会ったら、リベンジするから。
そんな状態の私に関係なく、バスはすべての行程を終えて地元へ帰ってきた。最後の降車場所で数人が降りて、今回のツアーは終了。一番最後に、件の黒崎様が降りてくる。
「お疲れさまでした……」
そう言い残して、そそくさと立ち去る彼女。何か二言三言声がかかるかと思っていたらしい私は、拍子抜けした。
(……まぁ、いいんだけどね)
何か期待していた?私。
彼女に告白されたから?
もしかして慰めてほしかった?
なんだろう、この言い知れぬ心のモヤモヤは。
そんなブルーな気分?になったまま、忘れ物チェックを兼ねて、回送となったバス車内の掃除を始めた。と言っても、まだ車庫への移動中なので、お客様が残していったゴミを取る位しか出来ない。変な体勢でいると車酔いしちゃうから。ガイドだからって、車酔いに強いわけじゃない。でも、先輩達は窓ガラスやテーブルの拭き掃除も平気で出来るらしい。羨ましいったらありゃしない。
「おっとと」
後部座席までゴミ回収が到達したとき、バスが左カーブに差し掛かったらしく、バランスを崩してシートに座ってしまった。
「ごめんなさい、怪我ないっすかー?」
すかさず、石見くんの声が飛んできた。
「大丈夫よ。気にしてなかったこっちが悪いんだから」
そう返したが、ある物を見つけたのでその席に留まる。
(ん、何かの紙切れ……メモ?)
バス座席のシートバックには、網ポケットとカップホルダー、仕様によってはテーブルが装備されている。そのテーブルが畳まれている隙間に、丁寧に折り畳んである紙切れを見つけたのだ。
(何だろ、これ)
よく、車内で飲食された後に、ゴミをテーブルに隠して畳んでいくという、悪質なお客様がいらっしゃるのでその類いかとも思ったのだが、それにしては綺麗に折り畳んである。もしかしたら何かの忘れ物かもしれないので、確認のためその紙切れを開いた。
(え……何これ。イタズラか何か?)
そこには、携帯端末の番号とメールアドレスらしきものが、とても綺麗な字で書かれてあった。あと、片隅に小さく「maki」とサインがあった。そいえば、此処は黒崎様の席だ。今更ながら思い出していた。
(ちょ、これ。黒崎様の連絡先……ってこと?)
うわ、ちょっと待て。これ本物?イタズラじゃないよね?一番後ろは彼女しか座ってなかったはず……だよね。しかも、彼女の正体は、今回のツアー参加者のなかでは私しか知らないはず。色々思案したけど、どうやら本当に黒崎様の連絡先のようだ。
(業界人なのに、こんなの残して……他の人に悪用されたらどうするのよ)
そんな愚痴を心のなかで呟いた頃、バスが車庫に到着したのを車体の揺れ方で察した。割りと長い時間、座席に留まっていたようだ。
「給油してくるっす」
そう言い残し、ドライバーがドアを開け降りていく。とりあえず、こちらも頭を切り替えて、お掃除頑張りますか!
続きは今度のC90にて発刊予定の本にて
間に合うんかなぁ<をい
因みに、場所は3日目東5ハ-51aです<さりげなく宣伝w