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SweetStrawberryRondo 4  作者: M11
3/11

邂逅

 ……これはいったい、どういう状況なんだろう。

「いい温泉ですね~」

 何で、彼女と私が肩を並べて温泉に浸かっているんでせうか。

「旅番組なんか担当していると、温泉が恋しくなってしまいます」

 しかも、貸切りの家族風呂(露天風呂付き)なんぞに……



 彼女……マッキーさんこと黒崎真貴さんの正体を内湯の大浴場で看破したのが、つい先刻のこと。その矢先に、大勢来た一般客の一部が浴場の脱衣場に入ってきたのがわかると、彼女はそそくさと脱衣場へ逃走。私も慌てて後を追いかけると、バスタオルとフェイスタオルで腰から上を隠しながら、脱衣かごの前で固まっていた。暫くして一般客が浴場へ移動したのを確認したのか、モソモソと身体をタオルで拭き上げながら浴衣を着ていく。

「くしゅんっ!」

 着替えが終わって安心したのか、突然のくしゃみ。身体が冷えでもしたかな?

「黒崎様」

 気になった私は声をかけた。

「身体……冷えてませんか?」

「だいじょう……ぶしゅっ!」

 ちょっと心配だな。割と長い時間、脱衣場で固まっていたからなぁ。

「お風呂……入り直しますか?大浴場で」

「……ひ、人の多いところは苦手でして……」

 あらら、そうなんですね。うーむ、どうしようか……身体冷やすのは悪手だし、でも部屋にシャワーはないし……あ、そうだ!

「黒崎様。私についてきてください」

「???」

 顔に疑問符を浮かべながら、彼女は私についてきた。





 そして現在、家族風呂にて裸のお付き合いなう、なのだ。此処なら人の目もないし、ノンビリできるし。2時間借りるから、半分サービスして!ってごり押ししたら、支配人泣いてたなぁ。まぁ、またツアーでお客様連れてくるから今回だけは……ね♪

「あのぉー、マッキー……さん?」

「はい、何でしょうか」

「先程とだいぶキャラが違うんですが……?」

 大浴場でオドオドしていた人と、同一人物とは思えない位快活になっている。

「よく言われます。人が少ないと平気なんです」

「まるっきり性格が逆転してますよね」

「知人には二重人格だとも言われますね(苦笑)」

 ……此方が言いにくいことも平気で返してくる。ホントに同一人物?

 でも、この快活なキャラは確かに、旅番組でのマッキーさんそのものだ。ちょっぴりウィットの効いた語りも、TVで見たまんま。故に、人混みが苦手だなんて俄に信じられない。

「それにしても。サングラスにマスクは怪しすぎます。何とかなりませんか?」

 私はここぞとばかりに、あの風貌をやめてもらう懇願した。

「そう言われても……目が弱いのは事実なんですよね。眩しい光はあまり良くなくて……でもそれだと仕事にならないので、カメラの前以外では必須なんです。マスクは喉のケアですし。ガイドさんもするでしょ?」

 そこまで本人に言われると、ぐうの音も出ない。

「それに、顔バレ対策にもなってますし♪」

「逆に浮いて、目立ってますよ!?」

「私が誰か、バレなければいいんですよ」

 ぅわー、開き直ってるわこの人。怪しさ全開を逆手にとってる。

「あと、貴女にも知られたくなかったから……」

 へ、どゆこと?

「少なくとも、私は貴女とは接点がないはず……ですよね?」

 うん、私TVでしかマッキーさんを見たことがない……はず……だよね?あれ、何かが頭の奥で引っ掛かる。

「……忘れていらっしゃるんですね」

 そう言って、マッキーさんは悲しい顔をして俯いた。彼女の口ぶりから、どうも過去に私達は会ったことがあるらしい。んー、記憶がない。

「会ったことあるんですか?私達」

「半年くらい前が最初です……」

 半年前?それ位なら忘れる事はないはずなんだけど。

「『地元ぶらり旅』とは違う番組で、さくや観光さんを使ったことがあるんです。その時のガイドさんが……貴女でした」

「え……因みに、どんな番組です?」

「グルメ情報番組でしたか……芸能人さんも2、3人いました」

 半年前、グルメ番組、芸能人……あ!

「確かお笑い芸人と、超有名な俳優さんと同行した記憶が……」

 そうそう。あの時は、出来る先輩ガイドが皆仕事でやり繰りがつかず、唯一予定の空いていた私に回ってきたんだった。先輩達の羨ましそうな視線が痛かったなぁ。俳優さんのサインをせびられたっけ……しっかり貰ってきたけど。一枚は、会社の事務に飾ってある。もう二度とこんな事は無いだろうって、よく内輪で話のネタになってる。

「わたしもレポーターとして、一緒にいたんですよ?」

「あはは……あの時はド緊張してたから、殆どの事は覚えてないんですよ~」

 後で見た放映で、何をしたかを知り恥ずかしかった上に、先輩達に弄られまくったんだよねぇ。私の中の黒歴史だ。

「でも……きっかけはわかったとして、貴女が頻繁に私が乗務するツアーに参加してくる理由がわからないのですが」

 黒崎様が私の仕事にプライベート?で参加するようになったのと、時期が重なる。そこの理由が未だにわかんない。

「確かに、あの時の貴女は緊張しているのがまるわかりでしたが、その中でしっかりとした案内をしていたことに、わたしは感銘を受けたのです。俳優さんがいたく感動していたんですよ?しかも、聞くところによるとまだガイド歴が1年未満というじゃありませんか。レポーター歴ウン年のわたしより喋り方がお上手で……嫉妬もしました」

 え~、嫉妬?放映を見た先輩からは、ダメ出しの嵐でしたよ?

「マシンガントークだった記憶しかないんですが……」

「少なくとも、わたしにはそう映ったのです。そこで、わたしはさくや観光さんに問い合わせ、貴女が乗務するツアーの日を教えてもらい、申し込みをするようになったんです。貴女の話術を研究するために」

「え……ストーカーですか?」

「違いますっ!」

 一歩間違えればストーカーなんですがね。でも、これで毎回私が乗務するツアーに、黒崎様が参加してくるという謎は解けた。私の話術なんか研究する価値なんてあるんですかねぇ。

「毎回日帰りなのは何故?」

「仕事柄、連休なんてそうそう取れませんから」

 デスヨネー。

「今回、一泊に参加した意図は?」

「まとまった休暇が取れた、というのもあるんですが……ゴニョゴニョ」

 え、最後の方聞き取れなかったんですが。



「貴女に会いたくなってしまって……」

「はぁ!?」



 彼女の台詞を聞いた瞬間、私の顎が落ちた。イッタイドウイウコトナノデショウカ?

「何度かご一緒させていただきましたが、その度にガイドさんの新たな魅力に気づいてしまったんです。場を盛り上げる話術、ご高齢者への配慮、運転手さんへの気配り等々……何時しか研究そっちのけで、貴女を目で追っていました」

 フツーに仕事してただけなんですが……って、何か甘い雰囲気になってきたぞ?ヤヴァイ、私はそっちの気はない……デスヨ?

「わたし、どうやら貴女にh「ちょーっと待ったぁ!」」

 勢い余って告白しそうな黒崎様に、大声で待ったをかける。

「黒崎様?あくまでも私は、ガイドの仕事を全うしてるに過ぎません。好意を持っていただけるのは素直に嬉しいですが、それを恋愛感情にするのはどうかと思います。ましてや同性同士ですよ?おかしいです」

 彼女は、黙ったままわたしを見つめる。

「私は、ガイドとしてはまだまだですし、社会人としても未熟者です。業界人である貴女とは、分不相応です」

「そんなこと……」

「そんなことあります。現時点では、貴女の気持ちにお応えすることは出来ません。ごめんなさい。あ、そうそう、貸切終了までまだ時間がありますから、黒崎様はもう少しゆっくりされていて良いですよ。ではお先に失礼します」

 私はそう矢継ぎ早に言葉を吐くと、湯船から立ち上がり脱衣所へ向かった。






「どどどどういうことなの!?」

 手早く着替え部屋に戻った私は、先程のお風呂での事案に自問自答していた。

(黒崎様が私に……惚れてる?)

 平静を装い家族風呂から脱出してきたが、もう心臓がバクバクしているくらい動揺している私。先程は大声で無理矢理彼女の台詞を遮ったけど……おそらくはそういうことよね。じーちゃんばーちゃん達がよく口にする、「嫁にこい」という冗談とはレヴェルが違う。雰囲気的に、完全な告白だ。

(そんな空気だった、というのもあるけど……)

 仮に……仮にだよ?同性同士だということは置いておいても、相手は年上だし社会人としても先輩だし、メディアに出ていて有名(一部だけど)だし……

「何か、言い訳ばっか並べてる?私(苦笑)」

 だって、まだガイド2年目ですよ?私。イコール、社会人歴も同じ。人間的にはまだまだ修行中。

「出来るガイドって言うのは、佳奈子先輩やタマちゃん先輩のことを言うんだよ~」

 ウチの会社の二枚看板とも揶揄される、宮下佳奈子先輩と新澤珠美先輩。実力も人気も凄い先輩達なのだ。よく、2人からダメ出しを喰らうので、自分なんかまだまだ。それなのに、褒められるって……わからん。

「そして、問題なのは……」

 告られた相手が同性、ということ。そりゃ、LGBT問題とか最近よく耳にするし、同性同士とかそういうのもあるんだな~というくらいにしか感じていなかったけど、まさか自分の身にそれが降りかかってくるとは。いきなり告られても、私は黒崎様に対して恋愛感情は持ち合わせてはいない。少なくとも現時点では。

(だって、何処の誰かもわかんなかったわけだしね)

 旅番組にマッキーさんとして出ていたときも、時々アワアワしていて面白いな~位にしか見ていなかったし。それで告られてたって、はいそうですかとはいかないよ。まさか、彼女に好かれてる、更に惚れられてるなんて……いわゆる青天の霹靂だよ。

「明日、大丈夫かな……」

 仕事がやりにくくなりそうな予感が非常に高い。黒崎様と目線が合うかもしれない。そうなったら、私は挙動不審になるのだろうか?いや、それはないだろう。寧ろ彼女の方があからさまになりそう。そこを、他のお客様にツッコまれなければいいんだけどね。

「あー、何か憂鬱になってきたー!」

 もう寝よう。寝て忘れてしまおう。うん、それが一番だ。

(明日は元通りの世界にもどっていますように……)

 そんなことを考えながら私はお布団に潜り、夢の世界へ旅立つことにした。



一応ここまでの分で、昨日(2016/06/05)のGLFesにて試作版と称して本を頒布しました

本にしたらペラッペラだった(泣)

製本時に気づいた部分は、修正してあるつもりです

まだ話半分なので続きますよ~

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