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SweetStrawberryRondo 4  作者: M11
2/11

正体

お待たせしております

設定によってこんな難産になるとわ……


 今日も一日が無事終了。ただ今、お宿の食事処で夕飯なう。

「よしっと♪」

 目の前に座っているドライバーは、スマホで食卓を撮影しているようだ。

「何しとん?」

「飯テロツイート中」

 あほらし。

「ってか、ツイッターやってるの?」

「LINEもやってますよ。あ、登録しておきますから、承認してくださいよ」

「気が向いたらね」

「え~?」

 ガイド同士ではLINEやってるけど、ドライバーとはしない主義なの。

 そんな、たわいもない話や愚痴を言い合いながら、夕飯タイムは続く。

「それにしても……」

「ん?」

「例のあのお客様。何処かで見たことあるんですよね」

 相当、印象に残ってるのね。あの風貌だし。

「髪型がどうのって、今朝言ってたよね?」

「えぇ。どうってことのないポニテですけどね……」

 ポニーテールかぁ……そう言えば、この仕事始めてからご無沙汰な気がする。基本、じーちゃんばーちゃんばかり相手してるから、ポニテなんて縁がない。自分も長髪だけど、最近は簡単に後ろで束ねるか、仕事中は邪魔になるのでお団子にしちゃうから。

「そんなに印象が残ってた?」

「髪型もそうですが、全体的な雰囲気が記憶に残ってるというか……説明が難しいですね」

「ふーん」

 その時は、話し半分な感じで聞きながら食事をしていた。

「さてと、ビールを……といきたいところですが」

「社則で禁止されてるしね~(苦笑)」

 いつぞやの某社による飲酒運転事故以来、乗務員に対するアルコールチェックが厳しくなっている。始業&終業点呼はおろか、宿泊先でも携帯端末を使ったチェックが義務付けられているため、自由にお酒が飲めないのだ。それに輪をかけて、乗務員にはアルコール類を提供しないよう決めている宿もある。もちろん、連帯責任を回避するためである。

「まぁ、食事が美味しいから良いですけどね」

「私は別にお酒飲めなくてもいいし」

「ザルな人が何言ってるんすか」

「……何故それを知っている?」

「佳菜子さんに聞きましたよ。あの人と酒呑んじゃいけないって」

 出所は、まさかの先輩だったとは。そういえば過去の飲み会で、飲めないって言ってたのに潰しちゃったっけ。根に持たれてるとは思わなかった。後日謝っておこう。


 夕飯も終わり、部屋へ戻るドライバーと食事場所で別れ、私は大浴場へ向かう。お客様の食事は、時間的にまだ終わっていないはず。何せ、2時間飲み放題の宴会付なのも、今回のツアーの売りだからね。一般のお客さんも、平日ということもあってまばら。ということは、今お風呂にいけば大浴場を独り占め出来るかも♪誰も居ませんように……。

 大浴場の暖簾をくぐる……ん?館内スリッパが一組。残念、先客がいたか。まぁ、居たところで別段問題があるわけでもなし。温泉を堪能しますか。

 宿泊先でいつも着るスウェットを脱ぎ、下着姿になったところで脱衣場備え付けの体重計に乗って、食べ過ぎていないかチェックする。常日頃こうやって体重管理をしないと、あっという間に体型が崩れちゃうからね。旅館のお料理美味しいから……。

「よし、無問題」

 体重がいつもどおりなのを確認。でも、念のためお風呂後のストレッチはやっておかないと。

 体重計を降り、下着も脱いで内湯へ向かう。

「お邪魔しまーっす……」

 ドアを開け、洗い場へ進む。しかし、誰もいない。疑問に思い、マッパのままその場で立ち止まり頭を捻る。

「おっかしーなぁ。スリッパがあったのに……あ、そうか露天か!」

 今宵の宿には、売りの一つである露天風呂があったのを思い出した。それなら!

(ソッコー身体洗って、内湯を独り占めだ!)

 良からぬ事を考える子供の如く、洗い場に座って身体を洗い始める。大きい湯船なんて、そうそう独り占めできないからね。

 頭髪から洗い始め、全身を急ぎつつ丁寧に洗い流して内湯に入る。タオルを湯船に落とさないよう頭に巻き、大きいお風呂を一人で堪能する。

「これが大浴場の醍醐味よね!」

 自宅のユニットバス(実家出て寮で独り暮らしなので)では味わえないこの解放感、サイコーっす。一泊仕事は、これが最大のやる気の元。とりあえず、四肢を伸ばしてゆったりすることにした。

 暫くふやけたまま湯船に浸かっていると、ガラガラと露天風呂入口のドアが開き、一人の女性が姿を現した。その人は、私を認識すると一瞬身体がビクッとなったが、軽く会釈をして洗い場に向かった。

(……ん、ポニテ?)

 浴場でポニテにしている人は珍しい。長髪の人は、邪魔になるからたいてい束ねる(私がそうなので)はず。そう思い、チラッと横顔を見やる。

(んん?何処かで見た顔だなぁ。しかも、わりと最近だよねぇ)

 何かの引っ掛かりを感じる。お風呂、ポニテ、TV……テレビ!?

(そう言えば先週、何処かのTVであのポニテを……見た?)

 ポニテと言えば、今回の旅のお客様にポニテは一人しかいない。あの怪しい風貌の人、黒崎様だ。……黒崎?フルネームは確か、黒崎真貴……まき……まっきー……その瞬間、頭の中で蠢いていた色んなピースがカチリと音を立てて填まった。

「まさかあの人、さくやTV『地元ぶらり旅』のマッキー……さん?」

 ちょっとばかり大きな声で呟いていたので、彼女に聞こえたらしく、洗い場の方からドンガラガッシャン!という音が聞こえてきた。何かあったのか?と思い、慌てて湯船から飛び出し彼女に近づくと、シャワー付近にあったシャンプー類が派手にぶちまけられていた。

「だ、大丈夫ですか?マッキーさん」

 怪我をしていないか問いただす。

 曲がりなりにも、私のツアーのお客様。何かあったら一大事だ。

「……どうして」

 ただし、返ってきた返事は予想の斜め上な内容だった。

「どうして、わたしの正体がわかったんですかっ!?ガイドさん」

 ……どうやらビンゴだったようである。

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