第七節「理力と神剣」
空が茜色に染まり、街が火の海で真っ赤に染まっている。
そんな中を、僕の家は火の海にさらされることなくそのまま残っていた。
ミレアナと僕はその家に足を踏み入れる。
中は何も荒らされる事なく、この騒動以前の家具の配置だった。
僕の精神も少なからず回復していた。
最初に比べてだいぶ良くなったと思う。
それでもショックの大きさは計り知れない。
僕は母さんの遺体をソファに横たえる。
「地下室って、どこなの?」
「鍵を貸せ。」
問いかけてきたミレアナから鍵を受け取る。
地下室はリビングのカーペットの下に位置していた。
僕はその場所だけは知っている。
カーペットを捲ると小さな扉があった。そこに出てきた鍵穴に鍵を差し込んで回す。
鍵が開き、小さな扉を開けると、下に一直線の梯子があった。
その梯子を降り、降りきってすぐのところにある扉を、同じ鍵で開ける。
実はこの先を、僕はただの一度も足を踏み入れたことがなかった。
知っているのは地下室の存在と、その入り口だけ。
「ここね…。」
「…行くぞ。」
僕が一言声をかけると、ミレアナは黙って頷いた。
それを合図にゆっくりと扉を開ける。
すると、物凄く広い空間があった。
空間の上では大量のパイプが張り巡らされ、中心に巨大な筒状の柱のようなものがあり、それがさらに下の方まで続いている。
「これは…。」
「神剣の理力を保つための設備ね。
おそらくこの巨大な柱で理力を送ってる。
この下に行けば神剣があるはずよ。」
「理力?」
聞いたことのない言葉だ。
神剣の特殊な力、なのだろうけど…。
「歩きながら説明するわ。」
そう言って足を動かし、僕はその横を歩いて説明を聞くことにした。
巨大な柱の周りを石の階段が続き、それを伝って降りていく。
神剣のことを何一つ知らない僕は、この説明で全てを理解する必要があった。
「神剣は大陸の中で生成されて自然的に創られた剣よ。
だからこそ、神が生成した剣として伝えられているの。
でも、神剣はさっきも言った通り、圧倒的な力がある。
その強大すぎる力は、理力によって振るわれる。
理力というのは、理を司る力。
簡単に言うと、理が成り立った自然の力よ。
その理力は色々あって、風だったり、雷だったり、土だったり、水だったり…ね。
そして、理力は供給された理の力のことをいうから、以前は風の理力を使っていた神剣でも、雷の理力を供給すれば、雷の理力を振るうことができるの。」
「なるほど…自然の力か。
だからこそ圧倒的な力を振るうことができるってことだな。」
「そういうこと。」
「だが、自然に創られた…そんなことが有り得るのか? 剣なんて誰かが生成しないと作れないだろう? 神なんて見た事もなければ…存在するかも怪しい。」
「うっ…そ、そこは気にしなくて良いわよ。
どうせ考えたって分からないし、知らなくても神剣は振るえるわ。
たとえ神様が居ようが居まいが、今は関係ないの。」
上手いこと誤魔化された気がしたけど、特に気にしないようにした。
それにしても、この口調は僕の本来の口調なのかな。
自分で言ってなんだけど、変な気がする。
ただ、自然と言葉が出てくるから、どこか自分の言葉じゃない気がする。
父さんと母さんが一度に死んで、僕が考えている以上に精神的ダメージが大きいのかもしれない。
「とにかく、神剣は理力によってその自然の力を得たって覚えればいいの。」
念を押すように言ってくる。
半ば強引なその言葉に確かな威圧感を感じられて、それ以上詮索すべきじゃないと思った。
今はとにかく、神剣がどういうものなのかを知らなければならない。
「それと、神剣に属性の相性は存在しないわ。
理を司る力を振るうけど、振るわれる力は理の干渉を受けないの。
つまり、本来の理や自然の法則なら、火は水で消えるし、水は土でせき止められる。
土は雷で貫かれるし、雷を生み出す雷雲は風で打ち消せるし、風は水の中にまで通せない、みたいな感じで理や自然の法則に従えば強いもの、弱いものが存在するでしょ。
でも、理力の前では理や自然の法則なんて一切関係なく、完全に使い手の腕に依存する。
例えば、火の理力の使い手と水の理力の使い手が対峙していて、その二人が同時に理力攻撃をしたとする。
この時にもし、火の理力の使い手の腕が優れていれば、水の理力の使い手の理力攻撃を無効化して、火の理力の使い手の理力攻撃を通すことができるの。」
「つまり…使い手次第で自然界では不利とされるものでも、打破することができるってことだな。」
「そういうことよ。
やっぱりデルトリアね…理解が早い。」
ミレアナは満足げに笑った。
「……あまり、褒め言葉としては受け取れない言葉だな。」
「あ……そっか。
ごめんね…確かにそうよね。
次から…気をつけるわ。」
苦笑しながら僕の言葉を聞いて受け入れてくれた。
この行動に少なからず、僕は驚いていた。
先ほどの彼女なら、当然だから仕方ない、と言っていただろうと思う。
母さんが死んでからずっとこんな感じの気がする。
「なぁ、ミレアナ。」
「ん、なに? まだ何か分からないことでも…」
「何故、そんなに態度が急変したんだ?」
「……え?」
唐突に僕が尋ねたことに、ミレアナは驚いた様子だった。
こんなことを訊くとは思わなかったのかもしれない。
思わず足まで止めていた。
それに合わせて僕もその場に立ち止まり、ジッとミレアナの目を見つめた。
するとミレアナは目を泳がせて視線を巡らせる。
「…べ…別に…態度を変えたなんて…。」
「いや、絶対変わった。
もっと高圧的だったじゃないか。
母さんが死んでから…なんだか柔らかくなったぞ。」
「そんなこと…。
……気にするほどのことじゃないわよ。
というか、アンタだって変わったじゃない! 人のこと言う前に、自分のことを考えなさいよ。」
「一度に大切な人が死んだからな…父も、母も、目の前で…。」
「あ…。 ごめんなさい…。」
「気にするな…それより、先を急ぐぞ。」
僕の言葉を聞いたミレアナは目を見開かせて謝った。
素っ気なく僕は返答して先に足を進める。
擁護する余裕はない。
「そ、そうね…。」
ミレアナはバツが悪そうな顔で横に並ぶ。
でも、本当にどうして変わったのだろう。
それは、今の彼女の口から言ってくれそうにはなかった。