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ディスエイトの神剣 読み切り版  作者: 和島大和
第一章 【始まりの始まり】
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第六節「護るための力」

 学校まで続く道。

その遠く先に母さんが居た。

母さんは一人で居て、何人もの銃を持ったクリニーズがその周りを囲まれている。


 「ッ!! マズいッ!」


 ミレアナは今まで駆けていた足を一気に速めて母さんのほうに走っていく。

それに続いて、いや、追い抜いて母さんのほうに駆けて行った。

僕は無我夢中でその場に駆けていった。

今度こそ、護ってみせる。

父さんを助けられなかったのなら、今度は母さんを助ける。


 「やめろぉぉぉぉーーー!!!」


 一人の武装したクリニーズに殴りかかる。

ヘルメットごと、木っ端微塵に頭が砕けた。

 僕はさっきの交戦で明らかに力が付いた。

さっきまでは吹っ飛ばす程度の力だったのに、今は頭を砕くどころか、ヘルメット越しでもそれを果たすことが可能なほどの拳撃を、無意識的に可能だった。


 「なッ!? なんだ貴様…」


 「それはこっちのセリフだ!!! 母さんから離れろ!!」


 そう言って囲んでいる兵士数人を殴る。

その度に内臓が破裂したり、頭を破壊した。


 「無茶しすぎよ!!」


 そう言いながら遅れて来たミレアナが、兵士の首筋を短剣で切り伏せ、囲んでいた兵士たちを全員殺した。


 「そんなことはない!!」


 「バカッ! 前見なさい!」


 「このッ!」


 ミレアナに返事すると、隊長格と思しき人物が僕の前方で銃を構え、引き金に指を引っかける。

あとは握るだけ。

僕は一気に距離を詰めて、その銃を蹴り砕いた。

相手が引き金を引く前にそれを果たす。

 握れば撃てるほどの速攻発砲より早い間合いの接近と蹴撃。

明らかに僕の身体は性能向上(スペック・アップ)を果たしている。


 「母さんを殺すなら、僕を先に殺せばいいだろう…。」


 その言葉を最後に僕は男の体に力いっぱいに両手で掌底をお見舞いする。

中心で凄まじい衝撃が相手の体内に伝わり、体がドパァッ!っと弾け飛んだ。

衝撃波で足を踏みしめる地面が陥没する。

 破壊した肉片も血も、地面に飛び散り、こびりつく。

僕もその一部を被った。


 「……母さん。

  これが…デルトリアの力なんだよね?」


 「えぇ…。

  …助けてくれてありがとう。

  それと、クレイヴ…本当にごめんなさい、そんなに苦しい思いさせてしまって…。」


 母さんは悲しげな顔をして言った。

こんな顔をさせるために戦ったわけじゃない。

助けたかった。

護りたかった。

それをできるだけの力があった。

そして現に今、それを果たした。


 「気にしないで、母さん。

  こうして無事でいてくれたことが一番だから。」


 「そう……父さんは…ダメだったのね。」


 「ッ!? ど、どうして…それを……?」


 母さんの思わぬ言葉に驚いた。

知っていたのか。


 「母さんと父さんは、それくらいお互いを知っているの。

  神剣を持つ者が来た時から…父さんは死ぬ覚悟をしていたの。

  だから、貴方の責任じゃないわ。

  母さんもそろそろね。」


 神剣…風を使った攻撃をしてきた奴等か。

あれが神剣、というものなのか。

あれがどんな力を持っているのか、どうして父さんが殺されなければならないのか、分からない事だらけだ。


 「神剣のことはフェアライトのその子が詳しいと思うわ。

  私たちは家の地下室に神剣を隠しているの。」


 「し、神剣を隠してる!? よくそれで誰にも狙われなかったものね。」


 心底驚いたような顔でミレアナは言った。

それほど危険なものなのだろうか…。

 母さんはミレアナの方を見つめる。


 「……貴女は…クレイヴのお友達?」


 「まぁ、そんなところよ。」


 「そう…見ず知らずの私だけど、貴女にお願いしてもいいかしら? あまり時間がないわ。」


 えっと…勝手に友達として認識されちゃったけど、数時間前に会ったばかりなんだけど…。

なんて言う暇なんて無く、二人の中で話が進んだ。


 「そうね…急いでくれたほうがアタシも嬉しいわ。」


 「クレイヴを地下室に連れていって神剣を…」


 母さんが、地下室の鍵をミレアナの手に乗せた。


 「ッ!?…ぁ…」


突然母さんは目を見開き、何かを言おうとして


パァァァァン!!!


 何かが弾ける音と共に、目の前に居る母さんの心臓付近が吹き飛んだ。

僕たちの身体、顔に血が飛び散ってきた。


 「コホッ!!」


 大量に吐血した母さんは、力なく膝をついてその場に倒れた。

ゆっくりと…

果てしなく長い時間の間で倒れたように見える。

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

何かが顔に付いたと思った。

頬に手を添える。

ヌルッとしたものが手に付着する。

赤黒い血。

鉄の臭い。

体温の温もりがある。

それが手に付き、顔に付いている。

紛れもなく母さんのもの。

目の前で立っていた母さんのもの。

さっきまで話していた母さんのもの。

 僕の目線は地面に倒れている母さんに向いた。

ゆっくりと顔を上げると銃をこちらに向ける、一人の男の姿があった。

 クリニーズの軍隊か何かか。

いや、今はそんなことどうでも良い。

母さんが殺されたのは事実だ。

護りきれなかったのは事実だ。


 「母さん…?」


 返事は無い。

それどころかピクリとも動かない。

地面に血が拡がる。

鉄の臭いが鼻を刺激する。

恐る恐る母さんに手を伸ばす。

少し揺すってみる。

それでも動かない。

返事も動きもない。

まるで壊れた人形のようにその場に倒れ、力なく横たわっていた。

即死だった。

背中越しに心臓を撃たれたのだろう。

 ミレアナは目を見開いて母さんを見下ろしている。

彼女も現状を把握しようとしていているんだろうか。

 でも、僕は現状を把握できた。

銃を向けた一人の男。

奴が…奴が母さんを撃ったんだ。

目の前で母さんが倒れているのは奴の所為だ。

許せない

絶対に

殺す

壊す

破る

砕く

潰す

何もかも


俺が目の前に居る奴を、殺して、壊して、破って、砕いて、潰して、メチャクチャにしてやる!!!





 気が付くと僕は男を殺していた。

肉塊そのもの。

それが僕の足元に転がっている。

恐らく母さんを撃った奴のものだろう。

最早、生物として原形すら留めていない、酷い有様だった。

 僕の服は返り血で、すっかり赤黒くなっていた。

その上、手は血でベトベトに染まりきっている。

穢れきった汚物のように汚らわしく、憎たらしい血が付いている。

不快だ。

殺して、原形を留めないほどにまで潰したのに。

不快感と苛立ちは一向に消えない。

 僕は怒りのあまりに意識が飛んでしまったのだろうか…。

殺している最中の事を何一つ憶えていない。

 周りの建物の炎で赤く染まる景色の中で、僕はただ、ひたすらに佇んでいた。


 「クレイヴ…。」


 ミレアナが話しかけてきた。

恐る恐ると言った感じの口調だった。


 「………。」


 もはや何も考えられなかった。

これほどの怒りを今まで感じたことがない。

これほどの憎しみを感じたことがない。

これほどの虚無感を感じたことがない。

これほどの孤独を感じたことがない。

これほどの悲しみを感じたことがない。

全ての負の感情が僕の心を、精神を支配していた。

ミレアナの言葉も聞き取れても頭には入らなかった。


 「クレイヴ…大丈夫?」


 「……………。

  ……こんな僕を見て…君の目では…僕が大丈夫なように…見えるのか?」


 「そういうわけじゃ…ないけど…。」


 ようやく口から出た言葉だった。

ミレアナも気まずそうに口籠もらせた。

 僕が母さんを助けてあげれなかったのは、力がなかったからだ。

護るための力がなかったからだ。


 「はっ!……ははは…。」


 最早笑えてきた。

この現状に

この世界に

この時間に


 絶望した。

それゆえの笑いだった。

もう何もない。


 「はははは…アハハハハハハハ!!!! ハハハハハ!!!! アハハハハハハハ!!!!」


 とめどなく漏れ出すのは笑いと涙。

悲しいのか、悔しいのか、楽しいのか、何も分からなくなった。

どの感情が正しい感情なのか分からなくなった。

ただ一つ分かるのは、笑う以外の行為が出来る現状じゃない事。

 そして行き着く先は


 「ククク…神剣を手にすれば…力を得られるのか…。」


 言葉が僕の意思に関係なく発せられた。

自分の身体が誰かに操られている気がした。


 「………。……。 えぇ…これまでとは比べ物にならないくらいの力を手にすることになるわ。

  でも、今の貴方に渡して、貴方は何に使うつもりなの? 復讐でもするの?」


 「復讐? ははっ…そんなことするわけないだろ。

  そんなことをしても父さんも母さんも元には戻らないんだからよ。

  俺は俺の力を…手に入れる。」


 「力…。

  本当にそのためだけに神剣を手にしたいの? 力を手に入れてどうするの?」


 「さぁな……だが、力があれば、護ることも壊すことも、思い通りだ…。

  力がないと何もできないだろう。」 

 

 「そうね…力がないと、したいことは何もできないし、実現しない…。

  神剣を手にすれば、圧倒的な力を手にできるわ。

  それこそ、生身のクリニーズがデルトリアを圧倒できるくらいの…。

  だから、復讐とか、世界を壊すために使えば…信じられないくらいの被害が出る。

  使い手が限られる代物よ。

  正しく使わないと、自然も理も何もかもメチャクチャになってしまうわ。

  そうしたことに神剣を使わない、と言うのなら…貴方の家の地下室に行きましょう…。」


 「……。良いだろう…復讐など…力の無駄遣いだ。

  そんな事に神剣を使う気など毛頭ない。」


 これは、僕の言葉なのか。

勝手に言葉が紡がれていく不思議な感覚に陥りながらも、それが本心なのかもしれないと思えてくる。

無意識に言葉にするからこそ、心の奥底で渦巻く想いなのかもしれない。

なら、それに従って生きても良いかもしれない。

 ミレアナが先導して歩き出す。

僕は、もう動かない母さんを抱えて、後に続いた。

 母さんは苦しそうに血を吐いていたのに、今は微笑みながら目を閉じている。

即死ではなかったのかもしれない。

でも、そんなに長い間、意識があった訳でもなかったんだろうと思う。

それでも苦しんだ顔じゃなく、これほど安らかな顔で死んでいったんだ。

それが何に対する安らぎなのか、僕には想像すらできない。

 遺伝子異常で子を為せず、こうして一部だけ引き継がせただけの子供を創って、それと共にこれまでを過ごしてきて、果たして本当に幸せだったのだろうか?

 燃え盛る家々の間を、僕たちは歩んでいく。

暑さなんてものは、もはや感じなかった。


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