表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディスエイトの神剣 読み切り版  作者: 和島大和
第一章 【始まりの始まり】
5/50

第四説 「デルトリアの覚醒」

 ミレアナを置いて街に降りると、人々の叫び声が大きくなった。

爆音や銃声が耳を刺激し、血の臭いや建物が燃える臭いが鼻腔を刺激し、道に転がる死体と変わり果てた街の姿が目を刺激し、炎の熱が肌を刺激した。

あらゆる負の感覚が刺激されて頭が痛くなりそう。

目の前に広がる地獄絵図を五感で嫌というほど感じていた。


 「父さん…母さん…。」


 僕は自分の家を目指していた。

道路から判断して、今自分がどこを走っているのかを把握していた。

 もうすぐ家に着く。

父さんと母さんの無事を祈りながら走り続けた。

 曲がれば家に着く角を曲がり、家まで一直線に走ろうとした。

しかし、家の前に何人もの男たちが立っているのが見えた。

咄嗟に角手前まで戻って男たちを覗き見る。


 「博士…とぼけるのもいい加減にして頂きたい。

  貴方がデルトリアの保護を引き受けているのは分かっているのです。

  だからこそ我々は、貴方を殺さなければならない。」


 リーダーらしき黒づくめの男の声が聞こえた。

博士って…まさか…父さん!?


 「ふん、殺すならば早く殺せばよかろう。

  何度も言う様にデルトリアなど知らん。

  私が育てているのは普通のジーニアス…デルトリアなどと判断しないでもらいたい。」


 「ふむ……貴方しか居ないのは気にかかるが…貴方が、あくまでデルトリアの事を隠すというのであれば…致し方ない。

  まぁ、そもそも…貴方を生かす意味は無いですからね。」


 そう言って黒づくめの男が剣を抜いた。

父さんが殺される…そう考えた刹那、僕は角から飛び出していた。


 「う、うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 物凄く怖かった。

何もないから、素手だから、殺されると思って怖かった。

でも、このまま何もせずに父さんが殺されるのを目の前で見てしまうということの方が、もっと恐ろしかった。

 だから大声を出して恐怖を振り払いながら突っ込んでいった。


 「なんだ、このガキ!!」


 僕は一番手前に居た男を殴り、数十メートル先まで吹っ飛ばした。

残りの男たちも同様に吹き飛ばしていく。


 「その人から離れろ!!!」


 勝てる、護れる。

クリニーズだから、身体能力は圧倒的にこちらが上。

このまま父さんを助ける。

そう思って刀を抜いた、黒ずくめの男に殴りかかった。

 でも…僕の拳が彼に届くことはなかった。

見えない障壁で僕の拳は男の身体寸前で止められてしまった。


 「……なるほど、貴方がデルトリアですか…。

  初めまして、私の名はカルメウス・ヴィン・ギュリオン…カリムとでも呼んでください。」


 カリムという男は、ニコッと笑いながら余裕で名乗ってきた。

全身黒ずくめの外套に黒い帽子を被っている。

身長は僕よりも高く、黒い長髪の前髪から覗く目は楽しそうに糸目になっている。


 「さて…そろそろ離れて頂きますか?…クレイヴ・アウデンリート。」


 笑みが消え、わずかに目を見開かせながら、殺気に満ちた顔をした。

そして、次の瞬間に物凄い衝撃波が襲い、今度は僕が数十メートル吹き飛ばされてしまった。

後頭部を何度も打ち、激痛が頭を支配する。


 「ぐあッ!!……うぅぅ……くッ!!」


 痛い。

今まで味わったことのない痛み。

 それでも血は流れず、僕はゆっくり立ち上がった。

自分の、デルトリアの体の丈夫さに感謝すべきかもしれない。

普通なら血くらいは流れる打ち方だったから。


 「ほう…あれほどの打ち方をしてほぼ無傷とは…見上げた丈夫さですね。

  クク…やはり、貴方がデルトリアであることに間違いはないようで…。」


 不気味な笑みを浮かべながら僕に近づいてくる。

その手には漆黒の柄と鍔、炎の光を反射するほどの白銀の刀身をした刀が握られている。


 「待て!!私の息子に手を出すな!!!」


 「ッ!?父さん…。」


 「逃げろ!!! そいつはお前を殺そうとしている!! 素手のお前が勝てる相手ではない!!!」


 「逃げるなんて……そんなこと出来る訳ないじゃないか…。

  そんなことしたら一生僕は後悔する…それだけは絶対に嫌だ!! 僕は父さんも母さんも…見捨てはしない!!!」


 「馬鹿者!! 私のことは構わずに早く逃げろ!! 逃げんか!!」


 見ると父さんは両手を拘束されていた。

足は縛られていないみたいだ。

 僕としては父さんこそ早く逃げて欲しかった。

そのための時間稼ぎをしたかった。


 「ふむ…見上げた家族愛、いや親子愛ですねぇ。

  ふっ、ククク…実の息子ではないというのに…それどころか…人類とは全く違うという化け物だというのに…庇おうとするとは…。

  クレイヴ・アウデンリート…貴方も貴方で自分とは相容れない存在を父と呼ぶなど……貴方がたの愛はどこか歪んでいますよ。 あぁ、滑稽。 実に滑稽ですよ。 フハハハハ!!! もはや喜劇を見ているかのようだ!」


 「…僕たちの関係に他人からとやかく言われる筋合いはないよ。

  僕は父として見ているし…父さんも僕を息子として見ている。

  それが滑稽だと言うのならば、お前の家族構成も滑稽だ。」


 痛みも引いてきた。

これで動くことが出来る。

父さんの言う通り、この男を素手で倒そうというのはあまりにも無謀だった。

 ここは父さんを連れて全力で逃げるしかない。

そのためにも、こいつは僕が引き付けないと。


 「はっ!それこそ、他人に言われる筋合いなどありません。

  特に貴方ような化け物にはね!!!」


 男は物凄い速度で一気に距離を詰めてきた。

本当に速かった。

 男は僕の前に来るなり、剣を振り上げ、斬りつけてきた。

ほぼ本能的に間一髪のところで回避する。


__________ドゴォォォォォン!!!!


刀身が振り下ろされた時、物凄い爆音と共に地面が吹き飛び真横で爆発したために巻き込まれた。

数メートル空中に飛ばされては、男の背後数メートル先に背中から落ちた。


 「ぐあッ!!」


 背中が叩き付けられて苦しい。

それでも僕はすぐさま立ち上がり、父さんの方を目指して走り出した。

いまなら逃げられる!!


 「馬鹿者!! 走れるならば逃げろ!!」


 「っ…嫌だ!! 絶対に助ける!!!」


 苦し紛れに答えた、その時…


 「やっぱダメじゃん兄貴。

  こんな奴、さっさと殺して帰ろうぜ?」


 頭上から別の男の声が聞こえた刹那、僕の目の前で爆発が起き、爆風で後ろに飛ばされてしまった。

 

 「うわぁぁぁぁ!!!」


 助走の影響でさほど飛ばされなかった。

道路の破片が体に降りかかる。


 「うぅ……はッ! と、父さん!!」


 ゆっくり目を開け、バッと叩き付けられた体を起こす。

そして、父さんがいた場所に駆け寄った。


 「ッ!!!?…………とう……さん……?」


 悲惨な有様だった。

そこら中に肉片が飛び散り、血が地面や家の塀にベットリと付着していた。

 地面は抉れ、白煙が立ち上っていて、父さんの着ていた僅かな服の破片がある。

嘘だ…嘘だ…

もはや思考が停止した。

頭が真っ白になった。


 「キャハハハハハ!!! 吹き飛んだぜ!! やっぱ楽しいなぁ、兄貴!! もう最っっっ高だぜ!!! コイツ、脆過ぎ。」


 家の塀からこちらを見ながら声を上げて笑っている。


 「全く、本当にお前は容赦ないですね…ヘルガ。

  まぁ、殺しても問題はないでしょう。

  どうせデルトリアを誘う餌にしかなりませんし、生かしていても私たちの仕事が増えるだけだ。」


 「おいガキ!! デルトリアか何だか知らねぇけどよ…俺たちに大人しくついてきた方が身のためだぜ?」


 ヘルガと呼ばれた少年がそんなことを言ってきた。

真っ赤な血のような色の赤髪。

いや、返り血を浴びて赤いのかもしれない。

黒いスーツを身に付けていて、小柄な体型。

左目には眼帯を掛けている。

武器は漆黒の刀身の剣で、カリムの刀と黒白の対になっている。

それを肩に乗せて見下ろしてきていた。

 コイツが父さんを殺した。

そうだ。

こいつだ。

敵だ。

父さんは僕の目の前で死んだ。

爆発に巻き込まれて死んだ。

それも只の死じゃなく肉片を飛び散らせ、悲惨な死に方をした。


__________許さない

殺したい。

強く望んだ。

血が、本能が戦いを欲した。

コイツ等を全て滅する。

敵を殺す。


 「さぁて…覚悟は良いな? クソガキ!!!」


 ヘルガが僕に向かってくる。

妙な技を使うのは分かった。

地面を爆発させ、抉るほどの攻撃を繰り出す。


 「死ねえぇぇぇぇぇ!!!!」


 ヘルガが剣を振りおろすと空気の波動が押し寄せてきた。

それは赤い竜巻のような波動。

これが地面を抉った元凶。

さっきまで見えなかったものがハッキリと見える。

僕は無意識のうちに右手を波動に向けていた。


__________ドオォォォォォォォン!!!!


目の前で、正確には僕の前に掲げた掌で大爆発を起こした。

痛みは全くなかった。

腕が吹き飛んだ感覚も、何かが触れた感覚すらなかった。


 「へへへ…吹き飛んだか?」


 ヘルガの声が聞こえる。

地面には影響があったらしく、白煙が僕の安否を隠してくれている。

身体には一切の傷がない。

 丁度いい。

相手が気づいていないのなら…奇襲を仕掛ける好機(チャンス)

今、ヘルガは塀の少し上空を浮遊している。

そこまで一気に飛んで、殴り掛かってやる!


 「油断はなりませんよ、ヘルガ…相手はデルトリアですからね。」


 「んなこたぁ言われんでも分かってるぜ!! だからもう一発…ッ!?」


 僕は一気に飛び上がった。

周囲に立ち上る白煙を吹き飛ばしながら一気に距離を詰める。

奴は次の一撃を放とうとしていたらしいけど、それを完全に阻止した。


 「こ、こいつッ!?」


 さっきとは全然違う。

全身に力が湧き上がってくる、そんな気がした。

 僕は渾身の力で殴り掛かった。

また見えない障壁のようなものに阻まれる。

そんなものどうでも良い。

拳に力を込める。

ヘルガの肉体には届かなかった。

それでも拳圧に負け、ヘルガの身体は地面に叩き付けられた。


 「ガハァッ!! グッ! このガキが!!!」


 ヘルガは僕を睨み付けてきた。

それでもその程度では止まらない。

彼が倒れたところに着地し、再び殴りつけた。


__________ドォォォォォン!!!!


 物凄い音と共に地面が抉れる。

彼の身体には届かない。


 「いい加減にっ、しやがれ!!!」


 ヘルガが斬りつけてくる。

右腕が吹き飛んだ。

 それでも一瞬で再生した。

再び殴り、再び斬られ、また殴る。

何度も、何度も…ごく短い時間でそれを互いに繰り返した。

その度に轟音と衝撃が巻き起こる。


 「ヘルガ!!!」


 「クソが! コイツ、離れろっつってんだよッ!!」


 カリムが駆け寄り、ヘルガが尚も斬りつけてくる。


 「ウゥぅ……。」


 斬られて血が飛び散る度に、意識が遠くなっていった。

目ははっきりとしている。

それでも意識が遠くなっていった。

 不思議な感覚だった。

見えるのに意識が無い。

 まるで誰かに身体を操られているみたいだった。

誰かに乗っ取られている気分だった。

怖い…でも、どこか心地良い。

怒りも、痛みも、苦しみも…全て受け入れてくれている…そんな気がした。

 ヘルガの障壁にヒビが入った。


 「バ、バカな!? 障壁女神(デアバンド)にヒビが!?」


 「グアァアァァ!!!」


 そこから怒涛の攻撃。

殴って殴って殴り続けた。

頭が可笑しくなるんじゃないかというくらいの超高速拳撃。

ヘルガは障壁にヒビが入って困惑しているようだった。

好機(チャンス)

殺せる。

確実に。

この手で。

砕く

千切る

引き裂く

皮膚を掴むその瞬間まで殴り、障壁破壊後は奴の骨の髄まで引きずり出してやる


 「拒絶の暴風(デナイアル・ガーノ)!!!」


 真横から声が聞こえたかと思うと物凄い風が吹き、僕の身体はまるで風に飛ばされる紙きれのように容易く吹き飛んだ。

 一瞬何が起きたのか分からなかった。

気がついたら宙に投げ出されて、地面に叩き付けられていた。


 「チッ!! クソがッ!!! 兄貴、コイツ…ちゃっちゃと殺しちまおうぜ。

  後々、俺たちの仕事が増えるだけだ…早く殺さねぇと…。」


 「だめです。

  貴方の障壁女神(デアバンド)も損傷しました。

  それに時間を掛け過ぎた…帰りますよ。」


 「兄貴っ!」


 「聞こえなかったのですか? 帰りますよ? 我が…弟よ…」


 ヘルガの反論に完全に目を見開かせ、圧倒的な殺気を放ちながら告げる。


 「っ!?……わ、分かったよ…兄貴に言われたんじゃしょうがねぇ……。

  おい、命拾いしたな!! デルトリアのガキ!! 次に会った時は容赦なくぶっ潰してやるよ!!!」


 そう言ってカリムとヘルガは僕に背を向けて歩いて行った。

力が入らない。

何らかの力で抑え込まれているようだった。

 今度こそ意識が遠のく。

父さんの仇を取れなかった。

自分の無力さが…身に染みて痛感した。




 『弱い 負ける 殺せない 命拾いする 許さない 勝つ 殺す 命尽きても』



 その瞬間、突然全身の血が騒いだ。

身体が熱くなった。


 「待ちなよ……お前達だけは…殺さないと気が済まないんだ…。」


 僕はゆっくりと立ち上がった。


 「こいつッ!?」


 ヘルガが信じられないと言った風体で見つめてくる。


 「あぁああああぁァァァァァァ!!!!」


 殺すことしか考えられなかった。

憤怒と憎悪が頂点にまで達した感じがした。

 もう許さない。

この二人だけは…絶対に…。



コロス



 「彼のデルトリアの力が覚醒したようですね。

  ヘルガ、ここから逃げて下さい! 彼に今の貴方では到底勝てない。

  せめて…貴方が逃げる時間は稼ぎますから早く!!」


 「兄貴……。」


 カリムの言葉にヘルガは頷いて逃げ出した。

カリムが僕の前に立ちはだかる。


 「逃がさぬ 皆すべからく殺戮する 余がこの手で!! 殺して殺して殺し尽くしてやろう…」


 「その様なことはさせぬ!!!」


 カリムが突っ込んでくる。

何だか負ける気がしない。

口調も何もかも変わって、別の僕が僕の体を使っていた。

これがデルトリアの血なのだろうか…。


 「拒絶の暴風(デナイアル・ガーノ)!!!」


 空気の流れが目に見えるほどの渦風が刀身を包む。

それを僕目掛けて放ってくる。

目に見えるほどの渦風が地面を抉りながら向かってきた。

先ほどのものよりも目に見えて威力がある。

 それを僕は片腕を振り払って相殺する。


 「何ッ!?」


 カリムは困惑しているみたいだった。

僕はゆっくりと近づいて行く。

そしてひたすら口ずさんだ。


 「殺す…絶対に…。」


 「化物め…風の壁(アネモ・トイコス)。」


 カリムが地面に刃を差す。

すると、僕の四方の地面から渦風の柱が出てきた。

 前に進もうとすると、風の壁に阻まれてしまう。

どう足掻いてもつっかえる。


 「風が阻むのなら…風を吹き飛ばす風を起こせばいいだけの事です…。」


 僕じゃない僕はニヤリと不気味に笑う。

その瞬間、身体で風を纏った。

そしていとも容易く風の壁から脱出し、距離を縮めていく。


 「……なるほど…天候操作で自分の周りに風を起こし、柱の風を打ち消したという事ですか…流石はデルトリア…。

  ここで貴方を足止めするのは無理がありますね。

  それに、見たところ貴方の覚醒は未だ不完全のようです。

  …かと言ってヘルガが居なければ、倒すことは難しい。

  よって、今は戦うべきでない。

  さらばです……また会う日を楽しみにしていますよ…クレイヴ・アウデンリート…。」


 そう言うと風を纏って飛び立っていった。

僕は…身体に風を纏っても、飛び立つことは出来なかった。

一気に僕自身が覚醒する。

僕じゃない僕の支配が終わった。


 「待てえええぇぇぇぇ!!!!」


 声が()れるほど叫んだ。

憎い人物が去っていく。

殺し損ねる。

悔しい。

悔しくて悔しくて仕方が無かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ