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ディスエイトの神剣 読み切り版  作者: 和島大和
第一章 【始まりの始まり】
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第二説 「回想 プロジェクト・デルトリア」

 父さんも母さんも40代前半と言った風貌で、少し皺が増えつつある感じの年齢と容姿。


 父さんの名はデニス・アウデンリート。

性格は至って温厚で物静か。

金色の短髪で顎に少し髭を生やしていて、眼光が鋭くて怖い。

幼い頃から周囲の人達から避けられる傾向にあったらしくて、その影響で物静かな性格になったんだとか。

身長も僕よりもずっと父さんの方が高い。 

 そんな父さんだけど、怒った時は一変するんだ。

大声で怒鳴りつけて思いっきり殴ってくる。

僕も何度か殴られたことがあったけど、一撃で唇の内側が抉れた。

普段は物静かだし、鋭い眼光に磨きがかかって鬼みたいな形相になって物凄く怖い。

恐怖のダブルパンチを孕んでいると言っても過言じゃないはずだ。


 そして母さんの名はシリル・アウデンリート。

性格は物凄く温和、というより怒鳴った姿を見たことがない。

栗色の髪を赤いリボンで一つに結っている。

身長は僕を見上げるほど小さくて、常に優しい笑顔を浮かべている。

基本的には僕の生活には殆ど介入しないけど、本気で困ったときなんかは絶対に助けてくれる、意外と最後は頼れる人。

意外、なんて言ったら怒るかな?


 まぁでも、怒鳴って怒ることはない。

その代わり悪い事をすると、そのことに関して笑顔で皮肉交じりに責めたてて来たり、いきなり質素な食事に早変わりしたりする。

更に厄介なのが、僕の心理状況をほぼ確実に読み取ってくること。

つまり本気で反省しているか否かを見極められて、何日でも食事制裁が続く。

弱みを握るのも上手くて、ああ言えばこう言う状態に陥る。

ある意味、父さんより厄介かも知れない。

この行為が怒っていることにカウントできるのか、出来ないのかは分からない。でも、取りあえずは怒鳴らない。

 そんなこんなで父さんが身体的制裁。 母さんが精神的制裁。

こう考えると見事なまでに性格が正反対だし、互いにはない要素を補い合っているから、物凄く相性が良い気がする。 実際仲良いし。


 「そろそろお前も知っておいた方が良いだろう……自分の正体を。」


 「ッ!?…デニスさん、それは…」


 「もう良いだろう、シリル…頃合いだ。

  これ以上隠す理由がない。

  寧ろ私たちは…告げるのが遅すぎたくらいだ。」


 「ですが…。」


 「何を言っても無駄だ。

  それに我が息子は…気になって仕方がないようだからな。」


 そう。 父さんの言う通り、僕が僕自身を気になって仕方がない。

僕を避けようとする連中は数知れず。道行く人間すべてが僕をまるで化け物扱いしたような遠い目でこっちを見てくる。

小さい頃からそれは何一つ変わっていなかったから。

 僕は何も彼らに対して危害を加えたわけじゃないし、特別迷惑を掛けた記憶もない。

それなのに全員が僕を冷たく見つめてくる。

だからこそ、僕は自分で自分を調べたんだ。

知ったことは殆どないけれど。


 「僕は…ジーニアスなんかじゃないんだよね? 他の種族でもない。全く新しい種族…なんでしょう?」


 「……知っていたのか?」


 父さんも母さんも心底驚いたように目を見開いていた。 当然だと思う。

だって僕のことに関しての一切の情報を、ずっと隠してきたつもりでいたんだから。

 でも僕は気づいていた。

皆の目線だけじゃない。

授業を聞いていても、ためになるのは最初だけ。

問題を一つ解けばその内容も、解き方も…何もかもが理解できる。

応用したところでそれは変わらない。

皆が悩む中で、僕だけ平気な顔して解いていく。

 何より教えている先生よりも、僕の方が頭が良い。

この歳でそこまでの頭が回るなんて、到底考えられない。

これだけでただのジーニアスとは自分でも思えなかった。


 「知っていた訳じゃないよ。

  でも…ジーニアスじゃない何か、だというのは予想できる。

  僕も自分でいろいろと調べているんだからね。

  でも、調べるまでもなかったよ。

  僕が僕自身のことについて…確認のために少しだけ調べたっていう程度だから…。」


 「そうか……やはり、感づいていたのだな。」


 「逆に感づかない方がおかしいよ。

  それで、父さんたちは僕の正体が分かるんでしょ? 僕が知っているのは、自分がただのジーニアスじゃないって事だけだよ。

  知っていることがあるなら…包み隠さず話してよ。

  父さんたちは…僕の本当の親なの? 僕はジーニアスじゃなくて何者なの? どうして僕はどんな人からも避けられるの?」


 酷いことを僕が言っているのは分かっている。

でも僕はどうしても気になって仕方がなかった。

 自分が何者なのか、父さんたちが本当の両親なのか、何のために生まれたのか、どうしてみんなで僕を避けるのか、それが知りたい。

自分のことが何一つわからない僕は、不安で仕方がなかった。

一つずつ質問するつもりだったのに、一つ質問したら色んな質問が頭に浮かんでは口を動かしてしまっていた。


 「………。

  まず、今まで隠してきて本当にすまなかった。

  私たちはお前には何も知って欲しくなかったのだ。

  何も知らず、知らされず、伸び伸びと生きて欲しかった。

  だが、この世界が…この国が…この時代が…お前が生まれることを祝福しなかったのだ。

  だからこそ、そうした疑念がお前の心を支配したのだろう…。」


 父さんはいきなり頭を下げて謝ってきた。

これには僕も困惑ものだ。

慌てて首を振る。


 「父さん…僕は別に怒ってなんかいないよ。

  ただ、真実を知りたいだけなんだ。

  それに僕は今でも…十分に伸び伸びと生きているよ。

  父さんたちが居てくれたおかげで…父さんたちがこうして僕を育ててくれたおかげでね。

  だから謝る必要なんかない。」


 僕はなるだけ笑顔でそう言った。

謝るくらいなら真実を教えて欲しい。

それが今の僕の想いだったから。

 僕の言葉を聞くと、父さんは「ありがとう」と呟いてゆっくりと顔を上げた。


 「お前の考えの通り、お前はジーニアスではない。

  プロジェクト・デルトリアに基づいてジーニアスが創り出した存在だ。」


 「プロジェクト・デルトリア? …デルトリアっていうのが僕の本当の正体って事?」


 聞いたことのない言葉。

だけど…それらしい言葉のような気がする。

ジーニアスではない、創られた存在。


 「察しが良いな。

  やはりデルトリアとしての能力故か…。

  そう…デルトリアとは、クリニーズ、ジーニアス、コンヴァルタ、フェアライトの四種族の遺伝子を集めて組み合わせた存在だ。

  クリニーズと変わらない容姿、ジーニアスの頭脳、コンヴァルタの驚異的な身体能力と自然治癒力、フェアライトの天候操作能力。

  これら全てをデルトリアは所有している。

  それも並大抵の能力じゃなく、種族の中でも突出した遺伝子だ。

  ジーニアスの手によって、全知全能を目指して創られた。

  その計画こそがプロジェクト・デルトリアだ。」


 父さんは真剣な顔で淡々と告げた。

全ての能力を持つ存在、全知全能の存在。

こんな大それたことを計画した、という事はそれ相応の考えがあって実行したに違いない。


 「どうしてそんな計画を? 全知全能の存在を作り出してどうしたかったの? 何が…目的だったの?」


 「デルトリアの力によって他種族の大多数を滅ぼし、その後の抑止力としてジーニアスがデルトリアを管理・支配する。

  全てはジーニアスの権力で世界を統治するためだ。」


 「ッ!?……それって……。」


 父さんの言葉に僕は息を呑んだ。

この一言だけで僕は自分の存在を大方理解した。

 父さんの言葉を要約すれば、デルトリアとは所詮は強力な兵器に過ぎないという事。

僕のような強力な力を持ち、どの種族も簡単にねじ伏せるほどの存在を生み出す。

仮にデルトリアが多種族をねじ伏せることに成功したとしても、デルトリア自身が実権を握ることは出来ない。

実権を握るのはデルトリアという、強力な存在を生み出したジーニアス。

デルトリアの力で多種族を蹂躙して世界を平和にして、それを生み出した実績でジーニアスが実権を握って世界を統治する。

それがプロジェクト・デルトリアの全て。

 つまり、僕のようなデルトリアはただ、ジーニアスが世界を統治するまでの道具・兵器でしかないという事。

デルトリアとは何者にも代えがたい強力な兵器に過ぎない、という事なんだろう。

 だからデルトリアには人権なんて存在しない。

ジーニアスのために汚い事をして、ジーニアスのために不幸になって、ジーニアスの幸せのために存在することを許された存在。

 それこそがデルトリアの本質的性質で、根源的な存在価値。

 あまりにも希望がない、それがこの話を聞いた僕の率直な感想だった。

デルトリアは全ての種族よりも力があるのに、ジーニアスにとっては奴隷も同然なんだ。

だからあんな目をする。

あんな風に避ける。

拒絶する。


 「プロジェクト・デルトリアの基本概念にはこんな言葉があった。

『デルトリアは人外・化け物であり、兵器である。 我々が生み出し、生を持った種族であるが故に、我々が管理してやらなければならない。 我らと同じ人類と思ってはならない。 デルトリアとは剣や盾といった、一つの兵器でしかないのだ』

  この言葉は研究開発の総合責任者・ガルデス・テイラーの言葉だ。

  国の軍事総司令の最高司令官でもある。

  そいつの言う通りならば、デルトリアには人権なんてものは皆無なのだ。

  だからお前は、今まで色んなジーニアスからそうした差別的視線を向けられていた。

  そして……デルトリアの遺伝子の組み合わせをしたのは…私だ。

  だからお前は……私を責める権利がある。」


 「えッ!? …と、父さんが僕、を…?」


 流石にこの言葉には驚かされた。

いや、これまでの会話全てに驚かされてばかりだ。

 こんな僕の基礎を生み出したのは他でもない、僕をここまで育ててくれた恩人。

そう考えるとやりきれない想いが心の中を支配した。


 「父さん………。」


 卑怯者だと言いたかった。

僕を生み出した張本人であるにもかかわらず、僕に恩を着せて殺されることから逃げている。

そんな考えさえ、浮かんでしまうほどに、僕の頭は衝撃的事実に混乱していた。

言葉が喉元まで出たところで父さんが再び口を開く。


 「だからこそ謝りたかった。

  私は…犯してはいけない罪を犯した。

  私のせいでお前はこれまで苦しんできた。

  私のせいで…これまで酷い仕打ちを受けた。

  何の罪もないというのに…私のせいで幸せを奪われた。

  卑怯者だと言いたければ言えば良い。

  殺したければ殺せばいい。

  私のしてきたことはそれだけの罪なのだ。

  謝ってすむほど…軽い罪ではないのは元より承知だ。」


 父さんの目は真剣そのもので、その目で見つめられ、放たれた言葉に僕はハッとした。

 父さんは僕を生み出したことに、少なくない罪悪を感じている。

自分のせいで僕が不幸になったと感じているんだ。

これまでどれほど苦しくても弱音を聞いたことはない。

求めた物を拒まれたこともない。

まともに仕事が続かなくて、なけなしのお金だったのに、僕が求める全てをこの人は拒まずに全て与えてくれた。

望みを叶えてくれた。

 確かに僕を生み出したことは許されることじゃない。

でも父さんはただ、僕を生み出しただけに過ぎない。

 プロジェクト・デルトリアの発案者じゃない。

真の罪を背負うべき人物は、プロジェクト・デルトリアの発案者だ。

デルトリアを種族として認めず、道具や兵器としか考えていない人たちが一番悪い。

 別に正当化させて許されるとは言わないけど、罪の意識があって、その分だけこうして責任を持って僕を育てた。

父さんも母さんも、僕を避けてなんかいないし、化け物を見るような目を向けてこない。

 たかが今回の、僕を生み出したこと一つに対して責め立てて、今までの恩を仇で返す訳にはいかない。

 それでも、それでも最後に一つだけ疑問に思ったことがあった。


 「それじゃあ……僕を生み出す時は、どう思って創ったの? 父さんは計画に賛成だったの?」


 そう。

僕が疑問を持ったのは、どういう動機でデルトリアを生み出したか、だ。

命を冒涜しているわけではない、とは思うけれど、それでも知りたかった。

 そんな僕の問いかけに、父さんは悲しげな顔をして口を開く。


 「そんな訳ないだろう…。

そもそもプロジェクト・デルトリアの情報は渡されていなかった。

  ………私たちには元々、血の繋がった子供が居たのだ。

  だが、幼い内に事故で亡くしてしまった。

  その直後に母さんは突然、生殖能力が欠如する、という遺伝的な病が発病してしまった…。

  それでも母さんは子を為すことを望んだ。

  それで私たちの遺伝子を基盤にして解析し、子を為そうと考えた。

  しかしそれには莫大な資金を要したんだ。

  そんな私たちに、資金の援助をするという組織が現れた。

  最初こそ警戒していたが…どれだけ大金を要求しても奴等はその資金を用意した。

  だから…私たちはその資金を受け取り、研究を進めていった。

  結果、研究は成功し…子を為すことが出来た。

  しかし、資金援助と研究の成功の見返りに、遺伝子研究をして欲しいと…国から直接頼まれたのだ。

  私は恩を感じていたため、祖国のためにと思っていたから手を貸し、私が持てる知識で彼らを援助した。

  その時、仮にすべての種族の遺伝子を組み合わせればどうなるかという実験をしたのだ。

  そしてデルトリアの基礎がたまたま出来上がってしまった。

  更にはその資料を国から押収され……その結果が…プロジェクト・デルトリアだ。」


 「……じゃあ父さんは…ただ子供欲しさに考えたことが…たまたまデルトリアの誕生を手引きしてしまっていた、って事?」


 「あぁ…そうだ。

  プロジェクト・デルトリアの基礎を築いた結果となり、お前が生まれた。今思えば…愚かしいことだな。」


 「そう、なんだ…。

  でも、父さん達は子を為すことが出来たって言うけど……その子はどうなったの?」


 父さんの話を聞いて純粋にそう尋ねた。

すると途端に父さんは悲しそう顔になって首を横に振った。

 そして母さんが僕の隣に座って口を開く。


 「落雷で死んだわ。

  死体も確認したの。

  崩れた建物の下敷きになっていたのよ。」


 「え……。

  じゃあ…落雷で…僕がその中で生きていたから…引き取ってくれたの?」


 「えぇ…でもそれだけじゃない。

  …母さんも父さんも貴方だけは…絶対に護ると誓って引き取ったのよ。

  母さんたちの身勝手な都合で貴方が生まれた。

  だから、どんなに苦しくても見捨てない。

  周りが貴方をどう思ったとしても、私たちだけは…貴方を受け入れようと…そう思った。

  その考えの下で、今までこうして過ごしてきたのよ。

  血の繋がりはないでしょうけど…貴方は母さんと父さんの息子であることに変わりはないわ。」


 優しく微笑み、僕の頬を撫でながら言ってくれた。

父さんも母さんも化け物だからといって避けることはしない。

寧ろ受け入れてくれるんだ。

僕は父さんの気持ち、母さんの気持ちに底知れぬ幸福感を覚えた。 

 母さんたちは僕を生み出したことに責任を感じていて、罪滅ぼしのために僕をこうして育ててくれた。

こう考えるとあまり良い印象じゃないかもしれないけど、全ての人間から避けられる僕としては、これ以上ないほどの至上の喜びだ。

 反面、こうして罪を意識している父さんたちを僕はほんの一瞬でも、責めていたことに対する申し訳ない気持ちが胸中を満たした。


 「ありがとう……父さん、母さん。」


 本心では謝りたかった。

でも、ここで謝れば更に二人の罪悪感が膨らむだけ。

それに僕が二人を責めたことを知るはずもない。

それならば、いっそのこと謝るよりは礼を言うべきだと思った。

実際、僕は二人に対して感謝している。それだけを伝えられればもう充分だ。


 「礼なんて良い。」「礼なんて良いわ。」


 二人同時に僕にそう言った。二人ともお互いに顔を見合わせるなり、笑い合った。


 「さて、もう夜も遅い。お前はもう寝なさい。分からないことがあるならまた後日、話をしてやろう。」


 「うん、それじゃあおやすみなさい。父さん、母さん。」


 「おやすみ。」「おやすみなさい。」


 二人の顔を見合わせて言い、二人も同時に返してくれた。

それを確認して僕は自室へと戻り、眠りについた。


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