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受付で待っているとユウを担いだ男が奥の扉から入ってきた。
ユウはダラリと力を抜いて担がれている・・・神である自分の目にはステータスが見えるので死んでいないのは分かる。
HPは回復魔術を使える者が居たのだろう。ほぼ回復している。
様子を伺っていると、ユウを担いでいた男が受付に何やら話しかけている。
試験を受けると聞いたのだけど・・・変な称号増えてるし。我が弟子ながら意味が分からない。
「おう、アーシェ。コイツ登録試験に来たって言ってたんだがよ」
「はい?あら、ジョージさんやり過ぎちゃダメじゃないですか!今どき珍しい位礼儀正しい子だったのに・・・それをボッコボコにして!ただでさえ最近は冒険者になる子が減ってるんですから!」
「ちげーよ!コイツが無茶苦茶な動きしやがるからつい手加減出来なかったんだよ!こいつ本当に未登録なのか?戦闘力だけなら中堅上位くれーの強さはあるぞ!」
それを聞いて受付の女性が驚いている。
なるほど。あの子が想定外の動きしたのね。時々私でも意表つかれるから・・・。
でも一ヶ月足らずの訓練でいきなり中堅上位か・・・まぁ、当然よね。
私の、この!私の!弟子なわけだし?指導技術が?違うっていうか?
指導ってスキルも持ってるし?
私が内心で自画自賛している間にも話は続く。
「あら、すごいわ!それなら将来有望ね。・・・あら?ジョージさんその左腕大丈夫なんですか?」
「あぁ?・・・なんか痛えと思ったらすげぇ腫れてるじゃねぇか!」
「腫れてるじゃねぇか!じゃないですよ!普通すぐ気づくでしょうが!すぐに治療してもらってください!ユウ君は合格で良いですよね?」
「おう、合格だ合格。ミリーに回復魔術使わせたからその内に目ぇ覚めるだろ。それまでその辺に寝かせておいてくれや」
「ミリーさん絶対気づいてたわね・・・ジョージさんの腕も治してあげればいいのに。ユウ君の件わかりました。それなら・・・」
女性がこちらを見たので、頷いておく。
少し考え事をしていたから全く話を聞いてなかったけど。何の話かしら。
「そちらの女性が付き添いで来られているので」
「お?わかった。ねえちゃん、こいつ頼むわ。そのうち目ぇ覚ますと思うからよ」
「分かりました」
ユウを渡したら去っていくジョージとやら。なんかえらい片腕が腫れてるわね。一撃いいのもらったってところかしら。ユウにやられたんでしょうけどあれは痛そうね・・・。
受け取って座っていた椅子に寝かせておく。それにしても・・・。
物凄くいい顔で気絶してるわね・・・。
全力を出せたのだろう。なぜか笑顔で気絶しているユウを呆れながら見つめていると、瞼が数度痙攣して目が薄っすらと開いた。
「ぅ・・・う?」
「起きた?!」
「ぬおッ!?・・・ってあれ?」
寝ぼけているのか辺りをキョロキョロするユウ。
少しして状況を把握したのだろう。突然がっくりと肩を落とした。
忙しい子だ・・・。
「あっさり負けちゃったし試験失敗しちゃったかなぁ」
「いいえ。合格したみたいよ」
「ほんと!?っしゃぁ!」
ユウは大喜びで受付に走っていった。
子供みたいだわね・・・。
一ヶ月前初めて会った時は落ち着いてたから、冷静で周囲の空気を敏感に感じる子だと思っていたけれど訓練して少ししてから目がキラキラしてきたのよね。
童心に帰るというか、少年の目つきというか・・・落ち着きもなくなったし。
今思えば、ずっと抑えてきたものが開放されたような感じだった。
それが悪い事だとは思えず、自分との訓練の結果だと思うと何やら誇らしいやら照れ臭いやら。
何やら受付と話すユウを見るともなく見つめてしまっていた。
「おめでとうございます。戦闘力も証明されたので、これで街の外での依頼も受けられますね」
「ありがとうございます!」
「それではユウ君、これがギルド員であることを証明するカードよ。仮登録まで済ませてあるから、血を1滴カードに垂らしてみて」
「はい!・・・っとこれでいいのかな?」
言われた通りにカードに血を垂らすと一瞬輝いて血が消えてしまった。
おお?流石ファンタジー!原理が全く分からないぜ。
「はい、完了!それじゃ、説明するわね?このカードには色々な機能が付いていて、討伐した魔物を記憶してくれるの。だからいつも身につけるようにしてね。それから、ギルドでは無謀な依頼挑戦による死亡や依頼失敗にならないようギルドランクというのを決めていて、ランクより上の依頼は受けられないから注意してね?ランクは戦闘力が無い子はGから、ある子はFからよ。ユウ君はFからになるわね。下からG、F、Eと上がっていってAの上にSって感じよ」
「なるほど。それじゃオレはFの依頼とGもかな?受けれるんだね」
「そうね。Gは受ける人があまりいなくって困ってるから時々でも受けてくれると助かるわ。あまり稼げる依頼は無いけれど安全だしね」
「了解!」
「それからランクアップは基本的に依頼達成件数によるわね。10件でEランク、さらに15件でDランク。Cランクからは達成件数+昇格試験があるわ」
「ふむふむ。それじゃえっと・・・」
「あらごめんなさいね。遅れたけれど、アーシェよ。よろしくね」
そう言ってウィンクしてくるアーシェさん。
なんか最初は親切丁寧だったけど、段々口調が崩れてきたなこの人。こっちのほうが親しみやすくていいのかも。
「ユウです。アーシェさんよろしく!それじゃ一度神殿に行ってきます。それから依頼受けさせてもらいます」
「わかったわ。神殿の場所は分かる?ここを出たら真っ直ぐ北に行くと立派な神殿があるからすぐ分かると思うわ」
「ありがとうアーシェさん!」
礼を言ってミーネの所に戻る。今日、神殿でミーネとお別れすることになる。
少し・・・いやかなり寂しいが気合いれなきゃな。おれの冒険はここからだぜ!つづく。
・・・まぁ冗談はともかく。
「おまたせ!それじゃ神殿にいこう。場所聞いてきたから」
「分かったわ。それと、冒険者登録おめでとう」
「ありがとう。依頼はまだだけどね」
「ふふ、それじゃいきましょう」
そう言って相変わらず颯爽とした後ろ姿を追ってギルドを後にした。
神殿は聞いた通りかなり分かりやすかった。
まずでかい。そして目立つ。すごく目立つ。
木造の家が立ち並ぶ中で要塞の如き威容を誇っているのだ。石造りはギルドに続いて二箇所目だが、重要な建物は石造りなのかね?
「正解よ。正確にはギルド、神殿、城や要塞、街を囲む防壁だけね。普通の石に見えるかもしれないけれど特殊な魔術陣を組み込んだかなり手間の掛かる造りなのよ」
「なるほど、それだけ高価ってことか。それなら重要なとこにしか使えないのも分かるね」
「そういうことよ。まぁ、とにかく入りましょ」
「おう」
初めてだらけで驚き疲れた感があるが、神殿内部は地球とは全く違った趣がある造りだった。
大部屋が数部屋と礼拝堂が一つ。神殿で働く神官達は地下で暮らしているらしく1階を見てる限り生活感はあまり感じなかった。
1階は神の為の場、ということなのだろう。
神より上に住むのも不敬ということで地下に住むってとこかな?
単なる推測だけど。
ミーネは見飽きた空間なのか、特に目移りする事もなくスタスタと歩いていく。
礼拝堂手前にある受付らしき所に居た神官に空き部屋を確認すると、そこの鍵を借りて部屋に向かった。
どうやら礼拝堂はあくまで催しをしたり、神官の話を聞く場で、個人的に神に祈る場合は部屋を借りて中にある小さな祭壇で祈るらしい。
こちらには実際に神がいて、頻繁にお告げやら加護を与えている人に会いにくる為、地球の様式とは随分と異なるらしい。
個室っていう考えがもう違うもんな。
鍵を開けて部屋に入り、鍵を閉めると祭壇に額づく。
ミーネは微笑を浮かべて立ったままだ。
神だもんな・・・そりゃそうか。
作法を知らないんだが祈ればいいの・・・か?
ミーネを見ると頷いた。あってるらしい。
せっかくだし祈っておこう。
祈る相手はミーネとエルさん、後は一応最高神様にも祈っておこう。
目を閉じてしばらく祈っていると、祭壇がビカっっと光った。
驚いて思わず直視してしまう。くっそ、久しぶりだから忘れてた!
油断すると神様って光るんだった!
「ぅぐッ!?久しぶりに目がッ!?」
ようやく回復したところで顔を上げると、そこには3柱の神様達が立っていた。
「ハハハ、久しいなユウ」
左側に立っていたのはエルさんだ。おお・・・久しぶりだ!
たった一ヶ月なのに随分と久しぶりに感じるよ。
「エルさん久しぶり!服とか色々いただいてありがとう!本当に助かったよ!大切に使ってる!」
「気にするな。それより、なかなか楽しんでるようじゃないか」
「うん!おかげ様で全力で生きてるよ」
「ハハハ!それはなによりだ」
思わず盛り上がってしまったが、中央と右手の人は初めて・・かな?中央の人は優しげなおじいさん。右手の人はチャラい感じのロン毛の兄ちゃんだった。
兄ちゃんはなぜかニヤニヤしている。
口を開いたのは右手にいた軽そうな兄ちゃんだった。
「ハッハー!初めましてだユウ!オレがシュヴェアートだ!よろしくぅ!いやぁ君面白いからつい遊んじゃったよ~テヘリンコ☆」
「おま・・・おまえがシュヴェアートかあああああああああああああああああああ!!!」
自分でも驚く程に一瞬で逆上した。エルさんに爆笑された恨みを思い知れええええ!
が、残念な事に襲いかかりそうになったところでミーネに羽交い締めにされてしまった。
HA・NA・SE!!
オレはヤツを・・・奴をォォォォ!!
「ユウ、落ち着きなさい。一応これでもかろうじて中級神様なのよ!?」
「ミーネ、それフォローになってると見せかけて貶めてるからね!?」
「ぐぬぬぬ」
「どうどう」
三人で騒いでいると中央にいたおじいちゃんが噴き出した。
エルさんは口を抑えて笑いをこらえているようだ・・・。
「ブハ!!ファッハッハッハッハ!!・・・ふふ、いやいや楽しんでおるようで結構結構。ユウ、わしはツェアシュテーラ、最高神なんてものをやっておるよ。名前は言いにくかろう?好きに呼んでくれぃ」
驚いたことにおじいちゃんは最高神だった。
オレは慌ててツェアシュテーラ様にお辞儀した。シュヴェアートなんぞにかまっている暇はない。
「おい!?一応オレも神様なんだけど!?」
「だまれギャグ担当!・・・最高神様、ご存知かもしれませんがオレはユウ・ミサキです。気がついたらこの世界に来ていました。なんだかご迷惑かけちゃったみたいですみません」
「ホッホッホ、かしこまらなくてよいよい。それに此度の件はこちらの世界の者がしでかしたようであるしな。謝らなくてはならないのはこちらじゃよ」
「というと?」
「ユウ、こちらの世界でジャヴェロット帝国という国があってな。北大陸にあるんだが・・・そこの魔法研究者が行った儀式・・・それが」
「異世界から召喚する魔法ってわけか」
エルさんが答えをくれたが・・・ジャヴェロット帝国ねぇ。近づかないのが上策かな。
「そうじゃな、それが良いじゃろ。結界式を変更したゆえ同じ術式ではもう呼べんじゃろうがの」
なるほど。しかしそうなると解せないのはなぜその帝国でなく、全然離れたあの崩れかけた神殿に飛ばされたかだけど。
「それは術式に不備があったようじゃな。召喚者を呼ぶ場所を定義していなかったのじゃよ。試作型の魔法陣なんじゃろうし、そういった術式はかなり高度じゃから無理もないがの」
そういうことか。いずれにせよ助かった、のかな。むしろ良かった気がしてきたよ。
帝国に呼ばれていたら勇者様ーとか言われて戦争に駆り出されそうだし。勝手な想像だけど。
エルさんも同感なのか頷いている。
そうなると、最高神様が出張って来たのは?
「今回の説明をしとかねばと思ってわしも来たのじゃよ。一応最高責任者ということになるからのう」
「なるほど。疑問が溶けてスッキリしたよ」
「ホッホ、お主は怒らないんじゃのう。そなたで良かった」
「気にしないで。でもそう言ってくれると嬉しいよアシュじい」
「「「アシュじい!?」」」
あれ?かしこまらなくて良いって言うからアダ名付けてみたんだけど・・・。なんとなく呼びやすいからアシュちゃん。アシュちゃんじゃ馴れ馴れしいからアシュじいにしてみたんだ。
「さ、最高神様にアシュじい・・・・」
「ユウ・・・あなたね・・・」
「ブハハハハハハハハハハ!!アシュじいって!!こいつぁいいや!」
ミーネとエルさんが絶句している。
シュヴェアートは爆笑している。
「ホッホッホ、素敵なアダ名じゃの。気に入ったよユウ」
流石最高神様は器の大きさが違った。とても優しくいってくれた。
よし、これからは遠慮なくアシュじいと呼ぼう。
依頼までいけませなんだ。
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