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待たせたお詫びに娘っ子追加ですぜ!

 早朝、見送りされるのも照れくさいので村長とおばばに挨拶だけしてさっさと村を出た。

サラディンのおっさんは昨日の内に挨拶を済ませてある。

見上げれば天気は快晴。

遠くでピーヒョロロと何処かで聞いたような鳴き声を上げる虫の声が聞こえる。


ん?・・・虫?まぁいい。

村の周囲に広がる草原の草が風に靡いてなんというか長閑だ。


「旅日和だな・・・うし!いくかぁ」


あれだけの高所から落下したにも関わらずに無傷の鎧を着こんで、腰の後ろには鉈とシースナイフ。

肩ベルトに投げナイフを3本、腰には片手直剣のカッツバルゲル、背中には重り代わりにクレイモア。

相棒含めた長物は走る邪魔なので今日はそれだけだ。

それだって何処に戦争にいくの?と言われそうな重装備ではある。


いや、体力がS越えてから普通に走ってるだけだと修行にならなくてな・・・いつもは両手斧とか両手鎚を背中で交差させて重り代わりにして走ってたりするんだけど・・・見た目が悪すぎる。

人に見られた日にはすわ!盗賊か!?と騒ぎになってしまう。


さて、愛用の砂色のフード付きマントを羽織って準備万端だ。

軽くストレッチした後で、身体の調子を確認しながら走り出した。

目指すは徒歩で二日の距離にあるという街、ガーベラ。

花が特産で街の周りに広がる花畑はそれはもう綺麗な風景だそうだ。

そういやガーベラって花だっけか・・・独身男に花は縁が無かったからゴルフの景品なんかになる胡蝶蘭位しか分からん・・・後はバラとタンポポ。




 刀身や接続部の金具がガチャガチャ鳴らないように静かに走る。


「はっはっはっ・・・」


上半身、特に頭の高さが変わらないように走る。

傍から見たら浮いて移動してるように見える位にスーッと動くのが理想だ。

剣術や拳法に通じる走法をミーネ軍曹のブートキャンプで叩き込まれてからずっと続けてようやく意識せずとも走れるようになってきた。


そうして無心で走り出して1時間程経過した頃、村はとっくに草原に消えて視界に移るのは一面の草原とチラホラと林が見えてきた。


「・・・ん?」


慌ただしい気配を察知して走りながら前方を見ると、林から走り出した小奇麗な格好の娘とそれを追う盗賊らしき男達が3人。

どうやら気持ちよく走る時間は終わりらしい。


娘に違和感を覚えて注視すると、どうやら違和感の正体が分かってきた。


「助けてぇぇ~・・・ちら。誰かぁぁぁぁぁ!!ちら」


オイ。

滅茶苦茶こっち意識しながら叫んでね!?

慌てて逃げているようでありながら、追いかけてくる盗賊らしき男達との距離を付かず離れず保っているのも芸が細かい。


よくよく見ると汗一つかいてない娘に対して汗だくの男達。

武器を振りかざす手も震えている・・・限界が近いらしい。

馬でも駆ってりゃ違ったのだろうが・・・いっそ憐れですらある。

小奇麗な服は汚れもなく、履いているスカートもなぜか浮き上がらない。


ふむ・・・。


「これは・・・関わらない方向で」


シュタ!と片手を上げるとそのまま加速。

通り過ぎようと迂回する俺に一瞬、唖然とした顔になった娘が眉を吊り上げた。


「誰かぁぁぁ!武装した黒い鎧を着た誰かぁぁぁぁ!!・・・って逃げた!?逃がすかぁぁぁぁ!」


逃がすかぁ!て。

ギョッとして横を見るといつの間にやら並走する娘。

気が付けば鬼の形相の盗賊達がてめぇ!この泥棒野郎がぁ!などと叫んでいる。

理不尽な・・・泥棒に泥棒と言われてしまったでござる。


「はぁ・・・どう見ても余裕で撃退出来そうじゃないか」


呆れを声に滲ませながら言うと、並走している娘はグルンとこちらを向いた後、上から下まで舐めるように見てきた。

なんだろうこの捕食される肉になったような気持ちは。


「逃げたのは減点ね・・・でも結構強そうだし・・・ブツブツ・・・」


長い髪を振り乱してブツブツ言う娘。

うむ。すごく怖い。

なんだろう。俺の周りには変わった女性しか寄ってこないのだろうか?

ただでさえ女性恐怖症気味だと言うのに。


未だハイライトの消えた目でこちらを見つめる娘にドン引きしつつ、一瞬で判断。

ここは孫子兵法にある通り・・・


「三十六計・・・逃げるにしかずッ!!」


ドンッ!

地面を思いきり蹴りつけて全力でダッシュ。

このまま逃げ切り・・・


「逃がすかぁぁぁ!!」


「なんで追ってこれるの!?妙にフォームが綺麗な走りだしお前は陸上選手かッ!!ぎゃぁぁ!?追いついてきたあぁ!」


とっくの昔に盗賊はぶっちぎり、もはや姿も見えなくなる程に距離を空けたが指先を伸ばして疾走してくる謎の女。


「はぁ・・・これは逃げきれねぇな」


諦めて立ち止まると、急に止まると思わなかったのかえっ?という顔をしたまま疾走していく娘。

そのまま500m程疾走した後でクルリとUターン。

そのままゆっくりとこちらに戻ってくると、こちらをビシッと指さした。

なんか知らないが妙に演技臭い。

そしてあんなに速く走って全く息が乱れてないのがすげぇ・・・。


「貴男ッ!あたしの男にしてあげ「だが断る」てもいいわ・・・あ、え?」


「いいか?俺は今とても急いでいるのでそういったご相談は別の窓口にお願いします」


「え?え?窓口って・・・ってちょっと待ちなさいよ!」


「チッ、バレたか・・・それで?全く意味が分からないから最初から説明よろしく。手短にな」


諦めてポーチから水筒を出して一口飲んで、相手に放った。

慌てて受け止めつつ娘はチラチラと水筒を見て頬を赤らめている・・・小学生かこいつ。


「お父様が結婚しろって言うから逃げてきたの。そしたら途中でムサい男達に囲まれて、なんとか振り切って助けを求めて逃げてきたの・・・」


どう見ても助ける側に属する実力に見える。

汗一つ掻かずに男共を振り切れる実力を持つ娘を襲える男が何処にいるんだろうか。


「みたとこ、結構戦えるように見えるがなぁ・・・」


指摘すると娘さんは意外にも頬を赤くした。

そわそわと視線を泳がせた後で、こちらの視線に気が付くと慌てたようにまくしたててくる。


「し、仕方ないじゃないッ!物心付いた時から毎日毎日、格闘格闘格闘よ!?馬鹿なの?それで結婚しろ?無理に決まってるじゃないのッ!!お見合い相手がナヨナヨした優男でちょっと仕合したら一発で気絶しちゃったし・・・お蔭でこの年まで恋愛経験ゼロだわッ!悪い!?」


「やられたお見合い相手に同情を禁じ得ない・・・」


「だいたい何よ!乙女が暴漢に追われてたら普通助けるでしょうが!なんで微妙な顔して通り過ぎてくのよ!?」


どう見ても面倒そうな案件だったからです、とは言えず口ごもる。


「勝てそうだったからな・・・走り方が綺麗過ぎるし汗一つかいてないし。筋肉の付き方も格闘っぽいし」


「う」


「おまけに服は全く乱れてないし。盗賊どもは限界っぽいのに」


「うぅ・・・」


「だから・・・な?」


「うう・・・うわぁぁぁぁん」


それ以上に演技が下手なのが敗因ですな、と付け加えると娘は撃沈した。



「悪かったって・・・言い過ぎたような気がしなくもないって」


「うぅ・・・ぐす」


なぜか泣き出した娘を放っておくわけにもいかず、宥める事20分。

そろそろ泣き止んできたものの、初めてあった妙齢の娘の頭を撫でるわけにもいかず、背中を撫でるわけにも・・・と逡巡している内に落ち着いてきたらしい娘がようやく鼻を鳴らして顔を上げた。


「ぐす・・・こういう時って背中撫でてくれたりするんじゃないの・・・?」


抗議するようにこっちを見てくる娘に、肩をすくめて咥えた煙草に火を点けた。

一度深く吸って空に向かって吐き出すと紫煙はゆっくりと空に昇っていった。


「好きでもねぇ男に触られて嬉しいのか?」


「うっ・・・それもそうね・・・思わず奥義食らわしちゃうかも・・・」


「奥義出しちゃうの!?・・・まぁそういうわけだ。俺まだ死にたくねぇし」


「冷たいのね」


「生憎・・・女性に妙な幻想なんぞ抱いちゃいないんでね。それで結局なにがしたかったんだ?」


そういえばまだ名前も聞いていない。

まぁ・・・今後関わり合いになることも無いだろうし、そういうのも旅っぽくていい・・・。


「だからお父様から逃げて・・・ってそういえば名前も聞いてなかったわ!あたしはスティレット、スティレット・マンダウよ。あんたは?」


名乗りやがったし・・・心読んでるのか貴様はぁぁぁ!!


「ユウだ。見ての通りロック鳥に浚われた可哀想な男だ」


「何処が見ての通りなのかさっぱり分からないけど・・・え?ロック鳥?」


「うむ」


憐れな一人の男のこれまでを教えてあげた。

なんで聞く側だったはずの俺が説明しているのか。

これが奴の能力だとでもいうのか!?


「ロック鳥を空中で倒して一緒に落ちたって・・・よく生きてたわね・・・むしろなんで生きてるの?」


「酷い・・・なんて酷い女なんだ」


「いやいや普通死ぬからッ!なによ森に落下して瀕死だけど生き残ったって・・・よく肉食の魔物に襲われなかったわね」


俺もそう思う。


「だって生きてるんだもん」


「だもん、じゃないわよ・・・はぁ、それで王都に帰るってことは・・・ガーベラ通っていくんでしょ?」


「今日の目標はガーベラだな」


そう言うと何やら俯いてブツブツつぶやきだすスティレット。

どうでもいいけど家名も名前も武器の名前ってどんだけ物騒な娘なんだ・・・。


マンダウは首狩り族が使う鉈、スティレットは錐のような形状の短剣だ。

この世界でもそうなのかは分からないが・・・まさか良い名前ってことはないと思うのだけど。


しばらく何やら考えていたスティレットが顔を上げた。

その顔は明るい。


あ、やな予感。


「いいわ。仕方ないから一緒に行ってあげるわよ」


いや頼んですらいないのに押しつけがましいのはなぜなのか。


「くぅ・・・駄目男を甲斐甲斐しく世話する良妻ってわけねっ・・・これであたしはさらに良い女に・・・ぐふふふ」


なぜか駄目男認定までされている!?

最後の笑いは乙女としてどうかというモノだったが、なんとか見ないふりをしてゴホンと空咳を一つ。


「良いか?付いてくるのは構わないが、問題は起こすなよ?絶対だぞ?俺はただでさえ運が悪すぎて笑えるくらいなんだ」


そういうとスティレットはきょとんとした表情になった。


「運が悪いってせいぜいEとかFとかでしょ?その程度なんかいくらでも」


「いやGだ」


「え?」


「Gだ」


「・・・・・・」


「事実だ」


「G・・・?ブッ・・・G?Gなの?アハハハハハ!」


爆笑する目の前の娘を切り捨てたいと思った俺は悪くないと思う・・・。

・・・え?こんなんじゃない?

いやいや!きっとそのうち輝くと・・・いいなぁ。

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