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遅くなってすみませぬ。

 村長宅は村の中心にある。

普通は広場とか利便性とか住みやすさとかを考えて作る気がするのだが、この村の建て方はとても無秩序な感じがする。


よくよく見ると斜めになっている家があったり、窓がすべてハート型だったり、どう見ても4階建ての建物があったりする。

ちなみに村長の家が4階建てです。

なぜ村に4階建ての建物があるのだろうか・・・。


なんだろうこの気持ち悪い構造の家々・・・初めて気が付いたぞ。

サラディンの家は普通に見えたし、おばばの家は薬草まみれだし、村人は至って普通だし・・・。


そんな事を考えつつアグレッシブな村を歩いて村長宅にお邪魔する。

この村、部屋には扉をちゃんと付けている割に玄関扉が無い。

もはや虫さん入り放題である。


聞きたい事があってサラディンを訪ねた時には、ドアノッカーかと思ったらカブトムシだったという笑えるような笑えないような事もあった。

ノックしたら飛んだんだぜ・・・ブーンと。

驚きすぎてちょっとチビッたのは内緒だ。


「村長~!髭の村長~!」


声を掛けると、誰かがバタバタとこちらにやってきた。

玄関奥には日が当たらないからか、暗くて誰が近づいているのかさっぱり見えない。


「待たせたの、お客人。まぁ入っておくれ」


やけに上機嫌な村長に従って建物にお邪魔する。

しかしほんと暗くて見えにくいな。

村長たる者、素朴でも明るい家に住んで欲しいものだ。

勝手な思いだから言いはしないけど。


「薄暗くてすまんの。どうも明るいと不安での」


「お、おかまいなく」


微妙に病的な台詞を吐く村長。

ロック鳥の時には普通に外出てたと思うのだが・・・明るい家が駄目とかかな?

地球に居た頃、そういう友人が居たな・・・あえて暗い部屋でゲームするのが至高!とか言う変な奴だった。

冬場に炬燵に入ってアイス食うようなものだろうか。


そんな若干病んでる疑惑の村長に導かれたのは書斎のような場所であった。

窓一つ無い部屋の壁に掛かった蝋燭の頼りない感じも大概趣深いが、ゆったりとしたソファはなぜか真紅だ・・・。

木造の家屋で壁は板張り。

重厚な執務机っぽい机の前にあるのでなければお洒落かもしれない。

金持ち専用マンション的なソファである。

やたら窓がでかいアレだ。


「さて。まずはかなりの数狩ってくれたようだの。礼を言わせて欲しい。ありがとう。それで今日はどうしたのかの?」


ゆったりとした対面式ソファに座った村長が両手を顔の前で組んでそう聞いてきた。

そのポーズについて物凄くツッコミたいが、今は用事を済ませることにする。


「ああ、解体した獲物についてなんだけど。肉と毛皮なんかをある程度村に分けたいんだけどどうだろう?」


「ふむ?お客人が一人で狩った獲物。全部持っていくのが筋ではないか・・・?」


「解体してくれたのはサラディンだし、全く何もしないわけにはいかないよ。冒険者の鉄則は等分。そこんとこはきちんとしないと揉める原因にしかならないし、そんなに肉持ってても仕方ないしね」


「こちらとしては文句を言うつもりも無いが・・・くれるというならありがたいことじゃ」


「そうして欲しい。獲物の半分、といきたいが・・・できれば肉類は3分の1で良いから毛皮を多めに貰えないかな?」


村長はあのポーズのまま、考え込むように俯いた。

この暗い部屋で俯く老人。不気味である。


「ふむ。こちらとしては文句はないの」


「了解した。それじゃあ早速なんだけど、解体した肉は何処に置けば良いかな?」


量の目安も合せて伝えると、村長は案内すると言って立ち上がった。

村長宅の薄暗い廊下をまた歩いていくと、金属でできた扉の前で止まった。

不思議に思うこちらの雰囲気を感じたのか村長が笑っていった。


「ははっ、食糧の備蓄は村の生命線じゃからの。盗賊、領主の雇った破落戸なんかが来ることもあるからこうして守っておるわけじゃ」


そう言って複雑な形状の鍵らしきモノで扉を開けた。

ランタンを点けていいかと聞いたが、光りに弱い物があるので止めて欲しいと言われたので諦める。

光りに弱いってなんだよ・・・。

部屋の中は真っ暗闇で、もはや村長の気配を感じられるだけになっていた。


村長の後ろについていくしかないが、どうやら曲がったり階段らしき場所を降りたり登ったりもした。

もはや暗すぎて何処が何処だかさっぱりわからん・・・。


そうしてしばらく歩かされたあと、ようやく辿り着いた倉庫に肉類をポーチから取り出した。

その様子を見守っているらしい村長が思い出したように


「そのポーチは便利じゃの・・・何処で手に入れたんじゃ?」


静かな村長の声が妙に響いて寒々しい。

出来るだけ気にしないようにして神から貰ったと答えると、村長はふむ・・・と言ったっきり黙ってしまった。


「これでよしっと・・・暗くて確認出来ないがこれでいいかな?」


手探りで種類別に分けた肉塊を置いた後、村長の方に声をかけると頷いた気配がした。


「それじゃあおばばのとこに戻るよ」


「分かった。礼を言うぞい」


そう言って歩き出す村長の気配を辿って戻っていく。

同じ道を通ったとは思えない短時間で玄関まで戻ってくると、村長に手を振って家を出た。


「・・・狂わなかったのぅ。それに何にも言わんかった。気が付かなかったかそれとも・・・ふむ」


村長は一人呟くと家に戻っていった。


ところで時折来る行商人達の間でこんな噂がある。

あの村に行っても決して村長宅には入るな。

もしも入れば生きては出れないかもしれないぞ、と。

俺がその話を聞いて驚くのは村を出た後のことである。



「おばば~、行ってきましたよ」


おばばの家に戻ると、奥に向かって声を掛けた。

おー、と声がしたした方へ入るよ!と声をかけて入っていく。


奥には相変わらずおばばが、ちょこんと正座して薬を作っているところだった。

昨日見たのとはまた違う物のようだ。


「ひょっひょ、帰ってきたかえ」


「ええ、サラディンが解体してくれたからお礼に村長んとこにお肉下ろしてきました」


そう言うとおばばの手が止まった。

ゆっくりとこちらを見たおばばは何かを確かめるようにじっと見つめてくる。


「?」


「ひょっひょ、正気を保ったかえ。流石じゃの」


「え?」


「ひょっひょ。それじゃあ今日はこの薬草をそこの薬缶の湯で煎じておくれ。胃腸の働きを整えてくれる薬になるからの」


「え、ええ・・・分かりました」


言われた通りに薬を作って見せると、何やら頷いたおばばに今日は次々と違う薬の使い方を伝授された。

昨日とは打って変わって物凄い速度で覚えさせられるが、スキルと祝福のおかげかなんとか付いていくことが出来た。


ようやく指導が終わり、息も絶え絶えになっている俺を見たおばばがニヤリと笑う。


「まさか本当についてくるとはの」


そう言って笑うおばばに戦慄する。

いけそうだから、やってみた。おばばはそう言っているのだ・・・!


「すげぇ大変だったんですが」


「ひょっひょ、普通は大変じゃ済まぬよ。覚えきれずになぁんにも残らないのが落ちじゃわ」


そんな速度で詰め込まれた俺って・・・と愕然とする俺を余所に、おばばはボソリと付け加えた。


「なに。お前さんはこの村に住むわけじゃあないんじゃろ?急いでいかねばならぬところがあるんじゃないのかえ?」


その言葉にハッとした。

そうだ・・・早く帰らないと・・・コロサレル。


青くなった俺に何を思ったか、おばばはパンと手を一度叩いた。


「よしよし。なればほれ、遊んでないでそこの棚の上にある箱を取っておくれ」


そう言って指さすおばばに従って、棚から箱を取り出しすと開けてみろという。

古ぼけた箱を開けると、おばばが使っている道具と同じものが一式入っていた。

細かい形は異なるが、何に使うかは分かる。

詰め込まれたばかりの知識だからな・・・。


「餞別じゃ。1日半とはいえ弟子は弟子。持っていくがええ」


「これは・・・!ありがとうございます師匠」


少し古ぼけてはいるが、使うのに支障は無さそうだし一つ一つが丁寧に扱われていることが分かる。

もしかしたら若いころに使っていたか、誰かにもらったものかもしれないな。


「わしが独立するときに師匠からいただいた物じゃで、大切にせぇよ」


「そんな大事なものを・・・?」


「道具は使ってやらねば可哀想じゃろう。お前さんが誰かに教えた時に譲るもよし、使い続けるのもよしじゃ。好きにせえ」


そう言っておばばは外に出ていった。

いつの間にやら外は暗くなっているから夕食の準備をするつもりなのだろう。


「大事なもんもらっちゃったなぁ・・・」


丁寧に箱に仕舞うと、ポーチにそっと収納して立ちあがる。

飯の世話まで全てさせては申し訳ない。




 そうして、ようやく次の日に王都に向けて出発することとなった。

後で顔を出したサラディン曰く、あれだけ狩れば数年は平和だとの事だ。

出来るだけ間引くように狩るから安心しろ、と笑っていたが罠の仕掛け方には気を付けてもらいたいものだ。


「また浚われるとか勘弁してくれよ・・・?」


神殿がある街までは2日の道程だとおばばから聞いている。

まずはそこを目指して北上する形だ。

二日もかける気は無い。

トレーニングを兼ねて街までランニングしよう。


さぁ、明日は出発だ!

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