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 早朝、窓を開け放つと日の光と鳥の声、そして村人達が朝食の支度を始めたのか奥さん連中の話し声が聞こえてきた。

話し声で起きたのかな?

慣れない音に敏感になっていたのかもしれない。

身体の調子を確かめるように各部を伸ばしながら、一服する。


左手は完治、両足首の怪我も大丈夫そうだ。

左目は未だ見えないが、そのうち治るだろう。

最悪失うことになるかもしれないがその時は中二病を発動させて左目が疼くぜ・・・とか言えば良い。

深く考えると凹むからな、これ位アホな考えで丁度いい。


さぁて・・・おばばの助言通りに気を練りつつ朝練といくかね。

俺は多くの武器を使うので、剣なら剣を、槍なら槍を、弓なら弓の鍛錬をする必要がある。

その鍛錬時間は結構ネックで、一つの武器に掛けられる時間が少なくなってしまう。

その分密度の濃い練習を心がけてはいるけれど、どうしても上がっていくレベルに訓練が追い付かない。結局、実戦で使い回して鈍らせないように気を付けているのが実情ではある。


スキルを上げるだけでは技は冴えても深みが増さない。

薄っぺらい武術ではミーネには届かない。

かといって今から武器を絞ろうとも思わないんだけどね。


間合いも方法も異なる武器をチェンジすることで、意表を突くと同時にリズムを変えて相手を崩して完封するような戦い方をしたい。

自分と同程度か少し上程度のレベルなら、身体能力がエラく違うらしいから楽に勝てそうだが、なにせ目指すところは武神である。

力がSSS?私測定不能ですけど?みたいな事になるに違いない。

涙が出そうだ。


「ふぅ・・・」


練気と同時に両手持ちの大鎚を小脇に抱えるように構える。

相手をイメージ、自分よりも速く鋭く強い相手。


スッとイメージ上の敵が動く、と同時に鎚を回転させて叩きつける。

インパクトの瞬間に足を使って衝撃力を増しつつ流されそうになる体の慣性を殺す。

上から叩きつけた鎚を左に避けつつさらに前進してくる敵に石突を食らわせる。

鎚も馬鹿に出来る武器ではない。

伊達に戦場で使われるわけじゃあ無いように、力任せに鎧や盾の上から叩きつけるだけで相当強力だが、石突を使った刺突や鎚を回転させて薙ぎ払い、受け流しや盾代わり、それにちょいと邪道だけどぶん投げて投擲武器に出来たりもするんだぜ。


「ふんっ!」


敵が後ろに躱すと同時に装備変更、懐に潜り込んでくる敵に合わせて盾を叩きつけつつ右手の短槍で心臓目がけて刺突。

盾を蹴りで迎撃、突いた槍を剣で逸らされると同時に装備変更、急に無くなった抵抗にたたらを踏む敵の内側に潜り込んで肘打ち、左足でおまけのローキックを膝裏に入れてバックステップ。


やや動きが悪くなった敵に向かって両手斧を横薙ぎに振るうと流石に避けきれずに真っ二つになった。

素早い相手の動きを殺して両手武器と格闘で仕留めた形だ。

避けきれない程の一撃を放ちたいものだが、自分よりも格上の相手だとそんな真似は不可能だろう。


「ふぅ・・・」


残心した後で、一旦武器を仕舞うと今度は別の敵をイメージ。

今度は重量級のパワーファイターにしようか。

兜には角もつけちゃおうか。指揮官用だぜ。

得物は盾とメイス、ガッチガチに固めた鎧で防御能力が高いタンクタイプ。


その後、何戦かしたところで朝練終了である。

武器を何周か回せるともっと良いのだけれど、おばばも起きているだろうし朝食のお手伝いをした方が良いだろう。

そう思って振り向くとおばばが面白そうな表情でこちらを見ていた。

オイオイ・・・全然気が付かなかったぜ。


「ひょっひょ、朝飯なら出来たで呼びに来たんじゃが・・・お主変わった戦い方をするのぅ」


「おはようございます。そう・・・ですかね?武器を限定しない戦い方ですからまぁ変わってるのかなぁ」


「なるほどのぅ・・・それに、今戦っておったのは影とはまた違う感じがしたの」


「影?」


「わしの流派じゃ影戦というての、まぁお主がやっておったのと似たようなものじゃよ。相手をイメージせぬ素振りなぞしておったらすぐ止めておったのじゃが、見ていて面白かったぞえ」


ひょっひょと笑うおばばに頭を掻いてから、井戸に向かって水をかぶった。

火照った身体に井戸水の冷たさが気持ち良い。

流石に素っ裸になれずに下半身はズボンのままで、上着に来ていた訓練着を脱ぐ。

気分は江戸時代だぜ!とか内心で考えつつ、上半身裸のまま布で体を拭いていく。


ちなみに奥様達はとっくに家に戻って朝飯食べてる頃なので見ている人はいない。

流石に奥様達の前で上だけだとはいえ裸にはなれないでござる。


鼻歌混じりに身を清めてからおばばと共に朝飯を食した。

その後は、サラディンのところに顔を出した後で昨日の獲物の解体やらをするつもりである。

食器を桶に入れた水で洗いつつそう告げると、おばばは目を瞬かせた。


「そういえばそうじゃった。お主の働きで随分と獣を狩れたとか言うておったの。サラディンの所に行くならついでにこれを持っていけ」


そう言って渡されたのはサラディンの奥さん用の肌荒れ用のクリームと同じ効能の薬。

どうやら彼の奥さんは肌が荒れやすいタイプで水仕事に難儀しているらしい。

怪我や病気だけでなく、こういった事にも対応しているらしい。

薬師すげぇ。


「了解です。それじゃあ行ってきます」


「ひょっひょ、リュネットによろしく言っておくれ。礼なら弟子の体で払ってもらうから良い、ともな」


「りょうか・・・え」


言うだけ言って奥に消えていくおばば。

やべぇ・・・ナニサレルンダロウ。


冷や汗を垂らしつつサラディンの家に向かう。

道行く村人達に適当に挨拶していくが、羽の事で毎回感謝されてしまった。

まぁ・・・あんな大物の羽が手に入ることはそうそうないだろうしなぁ。


サラディンの家に着くと奥さんのリュネットさんが居たので挨拶がてら、軟膏もどきを渡しておく。

ついでにおばばの言葉も伝えると、それはもう楽しげに笑われてしまった。

どうやら彼女はおばばの性格を良くご存じの様子・・・。


頭を下げてくるリュネットさんに別れを告げて、憎き既婚者・・・もといサラディンのところへ。

どうやら彼は昨日の獲物を現場で解体してくれているらしい。

結構数が居たから大変だろうし、血なまぐさい事になってるだろうなぁ・・・カリンが居たら魔法で洗い流してもらうんだけど。

と、そこではたと気がついた。


「あ・・・」


カリンと言えば・・・王都に連絡位いれておかねぇと・・・ワスレテタ。


ざわざわざわ!!


閑静な村なのになぜかざわつくような気がする今日この頃。


「まずいぜ・・・二人とも激おこでいらっしゃるに違いない」


やけに出てくる汗を拭いつつ、最悪の想像に息子が縮み上がる。

シャルさんもいるし、今回はシフもいるんだ・・・彼女が加わることは無いだろうが・・・黒竜騒ぎに続いて二度目なのだ。

今回は不可抗力であり、むしろカリンにトドメを刺された感もあるわけで俺が一方的に悪いという事はないはず・・・だがしかし!

もしも説教というよりは折檻、拷問と言ってよいO・HA・NA・SIが長時間に及ぶ場合・・・。


「死ぬ、かもしれんな・・・」


ゴクリと乾いた喉が鳴る。

シャルさんはきっとこういうだろう。

「心配したんだからね!」ドガァァン!(妄想です)


カリンは表情を変えずに呟くに違いない。

「すぐに連絡・・・常識」グシャァ!!(妄想です)


シフは・・・よく分からないがきっとこんな感じ。

「ユウ、悪い子にはお仕置きだな・・・」ザシュザシュ!(むしろ願望です)


「ヒィィィィ!!」


衛生兵ー!衛生兵ぇぇぇ!!

いやむしろ神官ー!棺桶でそっちに行くから蘇生してぇぇぇ!


「可及的速やかに帰還せねば・・・!手紙か連絡手段は最悪、神殿がある街で神様経由で伝えてもらえば良いか。問題はおばばに薬師の訓練をお願いしてしまった事かっ・・・どうするどうするドウスル」


「オーイ!さっきからなに言ってんだ?つうか・・・すげぇ顔色悪ぃけど大丈夫かよ?」


周りが見えなくなるほどに深く考え込んでしまっていたらしい。

呆れたような声に我に返ると、心配そうな呆れたような不思議な表情のサラディンが血まみれの解体用ナイフを手に立っていた。


おや・・・いつのまに。


「いや、ブツブツ言いながら普通にここまで来てただろ。かなり前から声かけてんのに全然反応しねぇから頭やられたのかと思ったぜ」


失礼なおっさんである。


「ふ・・・若者は悩み多きモノなのだよ、中年君」


「なんだ中年君って。なんかイラッとくるな。そんなことよかどうした?解体ならもうすぐ終わるが」


なん・・・だと?

慌てて周りを見渡せば、血池地獄はほぼそのままながら開き直ったのか血抜き含めた解体作業をされて、あれだけ居た魔獣共が肉塊やら毛皮やらに大変身を遂げていた。

ワーォ!驚きのエクササイズっ!


「アホな事考えてる顔だな」


「馬鹿を言え。その通りだ」


「その通りなの!?」


「うむ」


「偉そうにしてるけどただ馬鹿宣言しただけだろ!?・・・はぁ、それで角やら爪やらはまぁ長持ちするから大丈夫かもしれねぇが、毛皮と肉どうするよ?うちの村で引き取るにしてもこの量だと・・・とてもじゃねぇが下処理やら加工やら・・・そもそも支払う事が出来ねぇだろうし」


ジョージのおっさんといい、サラディンのおっさんといい、おっさんという生き物はどうしてボケにちゃんと返してくれるのだろうか。

おっさんだからか?

意味がわからん。そしておっさん言い過ぎだ俺。


「ん?まぁ肉は食えるのは食ってくれれば良いんじゃないか?俺は王都までの旅の間に保てばいいし・・・毛皮はそうだなぁ・・・う~ん、格安で譲るから全種類半分欲しいな。何かに使えるかもしれんし」


そう伝えるとホッとしたような顔をされた。

失礼な。

今回は依頼じゃくてお手伝い・・・といっても俺一人で倒したけど・・・とにかくお手伝いしただけだ。

そんな阿漕なマネはしませんぜ?ゲヘヘ。


「その下衆い笑い方を止めろ。似合いすぎる」


「似合いすぎるの!?愛と勇気に満ち溢れたこの俺にッ!?」


思わず目を剥いて抗議する。

当方は冤罪には断固抗議します!


「愛と勇気ってお前・・・それじゃあユウの言う通りにさせてもらうわ。すまねぇな」


そう言って手を合わせるサラディンに無意味に仰け反ってうむ!と言ってやった。

フハハハ!敬え!崇めろ!私が・・・悪運のユウ!

俺にかかれば仕掛けた罠に全部掛かってやるぜ!


「罠に掛かったら駄目だろうよ!?・・・というかお前まさか足の怪我は・・・」


あ、しまった。

ついポロリしてしまった。

気にされても困るからここは全力で話を逸らすぜ!


「はっはっは!そんな事より・・・お前さん随分綺麗な奥さんもらってんじゃないか?ああん?」


「チンピラか!・・・ハッ!まさか・・・!リュネットはやらんぞ!?」


「いやうらやましいだけだ」


「紛らわしいんだよ!!」


「てへへ」


「オイ。くだらねぇこと言ってねぇで解体したやつ村に持ってってくれ。分けてくれるやつだけ村長のとこに持ってって交渉してもらうからよ」


呆れ果てたように言われて、ようやく解体処理された魔獣君達の成れの果てをポーチにしまっていく。

ポイポイ入れていく姿に、サラディンは呆気にとられたように見ていたがスルーするぜ。


「あんだけ大物入れてまだそんなに入るのかよ・・・つくづく意味不明な奴だな」


「はっはっは。規格GUY!と呼んでくれ」


「ある意味規格外だな・・・アレな方向で」


アレな方向がちょっとよく分からないが、とにかく村に戻るとしよう。

あんだけ大量に狩れば大丈夫だと思うが、匂いで獣が寄ってこないように血やら臓物やらを埋めて消臭用の薬草をばら撒くというサラディンと別れて村長宅へ向かう。




そういえば・・・村長の髭に羽が刺さったままだったら笑えるな。

お読みいただきありがとうございます。

ちょっとふざけすぎた感があります。

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