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地震雷火事悪運。

皆様もご注意ください・・・。

~~~腐海の森林・深奥~~~


「う・・・ぐぅ・・・ここは」


さやさやと木々や葉が、風に擦りあう音が聞こえる。

チョロチョロと小川のせせらぎも聞こえるようだ・・・。


痛む上半身を持ち上げると、隣りには巨大な羽の塊。

ロック鳥は憐れにも首が曲がってはいけない角度に曲がったままデカい舌をダラリと下げたまま死んでいた。


「うぉ!?・・・死んでる?・・・そうか。攻撃に夢中になって一緒に落ちたんだっけ・・・ぐっ」


鈍い痛みに悲鳴が漏れる。

まずは身体の点検から、かな。


身体を少しずつ動かしながら確認していく。

左手は・・・完全に折れ曲がって出来損ないのオブジェみたいだ。

両足も骨折して脛の骨がこんにちわしてやがる・・・うわぁ・・・痛そう。


「・・・って俺か。他人の怪我だったら倒れてたかも。意外と自分の怪我だと冷静なもんだよなぁ」


自己治癒力と再生の存在がこれほどありがたかった事はない。

出血を出来るだけ止めようと左肩の辺りでぼろ布と化したマントを使って圧迫止血を試みる。

とりあえず出血が止まるかどうかを確認することなく、両足の付け根も縛っておく。


次に落下の衝撃で折れたと思われる生木を咥えて、右手に取り出したナイフで小枝を落とすと真っ直ぐに見えなくもない添え木が出来た。


時間を掛けていくつか作ると、片足のつま先を引っ張って骨を戻していく。


「ぐぅぅぁッ・・・痛すぎると痛みが麻痺するって言うけど・・・普通にいてぇ・・・あはは、笑える程いてぇ・・・やっぱ笑えない程いてぇ」


ブツブツと独り言と涙を垂れ流しながら、添え木を当てて布で固定していく。

血だまりの中で何度か貧血か出血多量のせいか意識が飛びかけつつも、かなりの時間を掛けて片足を処置すると、もう片足に取り掛かる。

こちらは幾分まともに見えたが・・・グリーブがギブス替わりになっていたらしい。

呻きながら脱ぐと、長靴に水が入っているかのようにグリーブの中はチャプチャプと液体の音がした。

勿論中にあった足の骨はボッキボキである。

むしろ清々しさすら感じる程の折れっぷりに感服するも、折れた骨が引っかかってグリーブを分解するハメになった。

複雑だからって教えてもらったのを覚えておいて良かった・・・。


「ぐぅ・・・水、なわけねぇよなぁ。血・・・だよなぁ。こんだけ流して・・・うぐ・・・よく生きてるな・・・」


もう無理なんじゃないか。

このまま出血と怪我で死ぬのか、それとも血の匂いを嗅ぎつけた獣にやられるか。


頭をよぎる弱気を無駄口で必死にかき消しながら、怪我の手当をしていく。


両足の処置が終わる頃には体中に付いた細かい傷は癒えて、猛烈に腹が減ってきた。

ポーチから取り出した旅で余った保存食の干し肉をかじりながら、左手に取り掛かる。


「常に、やっほーな形に、なってんな、左手君。誰か・・・あがァ・・・呼んでるのかい?」


馬鹿な事を言いつつ向きを戻し、折れ曲がった指を一本ずつ元の向きに。

片手での作業は正直かなりキツイが、人間、命が係ってるとすげぇもんだ。

なんとか左手も応急処置が終わった頃にはすっかり暗くなっていた。


折った枝に大便処理用の生活魔法を無理やりかけて乾燥、雑に組んで火を熾す。

細いのから順番にポイポイ投げてから、小川に向かって這っていった。

戻る頃には焚火に成長していることだろう。


ずるずる


ずるずる


「ぐぅ・・・肋骨も何本か折れてねぇかこれ・・・今気が付いたけど呼吸するのも辛い」


出来るだけ楽な動きを探しながら、傍から見たら気持ち悪いかもしれない動きで這っていく。


「ぐぅ・・・いてて・・・水が近くにあって助かった。運がいいやら悪いやら」


少量口にして、口の中の血を吐き出すと少しずつ飲み込んでいった。

山脈に振った雪だか雨だかが染み込んだであろう天然の水は凍るような冷たさであったが、熱が出てきたのか火照った顔には丁度良かった。

斜め片腕立て伏せの容量で無理矢理水を飲みまくった後に、頭まで突っ込んで洗髪も済ませた。

浅いとはいえ全身浸かったら二度と出てこれなそうなので血まみれの体は我慢することにする。


「ぷは・・・生き返った。さて、ロック鳥の傍で寝るべきか・・・それとも距離を置くべきか・・・強い魔物の傍の方が安全のような気もするが・・・死体だとチャーンス!とか言って食われそうだよなぁ・・・うーむ」


しばらく考えて、身体を休めることを優先する。

ロック鳥の羽毛がいい感じに布団代わりになるだろう。

また世にも恥ずかしい動きで這っていってロック鳥の元までようやく辿り着く頃には高熱とキズの痛みで意識が朦朧としていた。


出来るだけ楽な姿勢でロック鳥にもたれながら、震える手で煙草に火を点ける。


「すぅ・・・フー。いてて・・・腹が減ったなぁ。干し肉じゃあ・・・カロリーが足りないか」


出来る限りの手当はした。

寝床の用意も出来た。

あとは再生系スキルに必要なエネルギー、つまり飯。

食欲が迷子になってるようだが、無理にでも食べておかないと命に係わる。

意識を失わないように独り言を呟きながらポーチを探った。


「なにかあったかなぁ・・・」


煙草をピロピロと上下に揺らしながらポーチを探ると出てくる出てくる・・・なんでそれ入れた?ってやつ。

青い猫ロボの気持ちが分かるな・・・際限なく入ると整理なんてしねぇや。


「んー・・・お?なんだこりゃ・・・ゴブリンの腰蓑って・・・ゴミだろ・・・お!エルさんがくれた超旨い干し肉がある!っしゃぁ!よくやった!過去の俺ナイス!・・・どれどれ・・・うめぇ!久しぶりに食ったけどすげぇ旨い・・・と思うけど食欲がわかねぇ・・・詰め込むしかねぇな」


高熱と全身骨折と出血多量で重症の体のせいか、はたまた孤独のせいか・・・いつの間にかボロボロと涙を流しながらエルさん印の干し肉を食べた。


「人間、腹が減ると碌な事考えないって言うけど本当だったなぁ」


不細工な焚火をぼんやり見つめながら、煙草を咥えた。

火を点けて吸わずに咥えたまま、考えるともなく色々と考えた。


「生きてる・・・俺は生きてる。絶望したって諦めかけたって負けじゃぁねぇはずだ。俺は生きてるんだから・・・怪我の治り次第では行動範囲を広げられそうだが・・・相棒!」


フォン


どうやってなのかサッパリだが、ポーチから出てきた黒の槍がブンブンと唸った。

ちょっと見たことが無い唸り方だが・・・どうやら怒っているらしい。


「なんだ・・・心配してくれてんのか?」


ビカッ!


「分かった分かったよ!もう無茶しないから怒るなって」


ビカ


「へいへい・・・そいじゃ何か来たら・・・頼むわ・・・」


意思を通わせられる相手がいることに安心してしまったのか、そこで一気に意識が落ちていった。


ビカビカ


まかせろ!となんとなく言われた気がした。



ツンツン


「う・・・」


ゴンゴン


「いてぇ・・・いてぇってば」


ドゴンッ!


「アイヤァァァァ!?・・・なに!?何事!?」


目を覚ます、というか無理矢理起こされて慌てて周囲を見回すと、相棒が威嚇するようにビカビカ光りまくる中、モコモコした物体が目の前に立っていた。


森の中で一切隠れる気がありませんよ?と言わんばかりの真白き毛。

デフォルメされた羊のような丸っこいその姿はモコモコの毛もあって可愛らしい。

なぜか存在する太目の眉毛がキリッとしているのが頼もしい、かもしれない。


「とりあえずその足?手?だかなんだか知らないがどかしてくれ!・・・それで、モコモコ君が起こしてくれたのか?」


メッ


コクコク頷きながら短く鳴くモコモコ君(仮)

可愛い顔してとんでもないクレイジーぶりだ。

彼?の前足の一撃は的確に鳩尾にヒットしているのだ。


すいません・・・そこ折れて、ます・・・。


起きた瞬間に意識を飛ばしかけつつも、苦労して会話を試みると、どうやら彼はこの森ではなく山脈に住んでいるらしい。


山脈の何合目だか知らないが、群れを作って住む彼らだが当然天敵がいる。

食物連鎖というものはこの世界でも有効なようで、山脈の低い辺りに生える高山植物を主食とする彼らを獲物とするのは・・・なんとロック鳥であった。


カリンの識別じゃ海の生き物なんかを主食とするような事を言っていたが・・・どうやら彼らは冬の獲物が少なくなる時期用のいわば非常食扱い、ということらしい。


寒くなると毎年何頭かが生贄のように掻っ攫われていき、勿論戻ってくることはない。

食い過ぎれば全滅してしまい、次の冬に難儀するのが分かっているのか若い個体や雌は狙わないそうだ。



ところで・・・メッしか言わない奴からよくそこまで聞けたな!って思った?

なぜか相棒の槍は彼の言っている事が理解出来るらしく中継してくれたのだ。

なんか意思みたいなのが分かるとかなんとか・・・さっぱりわからん。


そういうわけで天敵のロック鳥であるが、空で暴れたかと思ったら墜落したので、群れの長である彼が見に来たのだそうだ。

そこに重症の俺が居たので起こしたと・・・。


「ん?まぁこいつに浚われてなぁ。空中で戦ってたら落ちたってわけだよ。あやうく一緒に死ぬとこだったがなぁ」


左手はどうやら再生しつつあるらしい。

まだ動かせはしないが、骨や神経はつながった感触がある。

筋肉は現在再生中ってとこか・・・両足はほぼ治ってるな。

益々人間の枠から抜けつつあるなぁ。


「立てるかな・・・よっと、おとと・・・まだ歩くのはキツイか・・・」


ロック鳥の巨体を支えに立ち上がるも、それが精一杯らしい。

もう一日は戦闘はおろか移動も止めておいた方が良さそうだ。


相棒を支えに川までゆっくりと移動し、ポーチから出した鍋に水を入れてからポーチにしまう。

持ったまま移動できねぇからなぁ・・・苦肉の策だ。


ついでに水筒に水を補給してから寝床に戻ると、再び取り出した鍋の中に刻んだ干し肉と乾燥させた野菜をぶち込む。

アイシーンの街で買ったお玉で時々かき混ぜながら、パンを取り出して準備完了だ。


そこまでやってふと顔を上げると、興味深々な様子で鍋を見つめるモコモコ君。


「・・・食うかい?」


「メッ?メッメッ!!」


高速で頷かれた。

ヘッドバンキングしてるみたいだぞモコモコ君よ・・・。


取り出した深皿によそったスープをモコモコ君の前に置いて、ついでにパンも用意する。

熱いから少し待ってくれと伝えてから自分の分のスープを皿によそった。


「ふぅ・・・それじゃあいただきます」


手を合わせてからスープを一口。

雑な男料理の割に結構イケる味だな・・・うむ、旨い。


モコモコ君は鼻息でスープを冷ますと、恐る恐る・・・といった様子でペロリと舐めた。


ピン!!


音が出る程の速さで四肢を伸ばすと、モコモコ君は空に向かって高々と・・・吠えた。


「ンメェェェ!!」

羊なだけに・・・言わせてみたかったんです。

羊のショーンのように大活躍する羊が居てもいいじゃないか!と思って羊キャラ出してしまいました。

作者が書くと・・・こんなですがね。

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