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遅くなりました。
妙に筆が進みませなんだ・・・ギャグだと早いんだけどなぁ。
野営地の夜、旅の間に順番に整備していた武器を仕舞って煙草に火をつけた。
サハギンの死体を埋めてカリンの魔法で力づくで表面を洗い流した後は、やや荒れてはいるもののすっかり元の野営地に戻った。
林の野営跡のこともあって食事を護衛4人でずらしたりもしたが、警戒すれど盗賊も追加のサハギンも来る気配は無く・・・普段通り交代で夜番をすることになったのだ。
シフ、シャルさんと続いて俺の番だが平和なものである。
「ふ~。明日には王都、か」
満点の星空を見上げながら、紫煙を燻らせる。
フラフラと風に吹かれて空に消える煙の先には、真紅の月。
「・・・見慣れねぇなぁ」
あれが黄色い月ならば・・・と。
やはり思ってしまう。
郷愁。
自分にそんな感傷があるなんて信じられなかったが、どうやら俺は日本という国を未だ大切な故郷だと思っているらしい。
「自分でもすっかり変わったと思うんだがなぁ、と・・・1,2・・・10位かな」
傍らに立てかけてある弓を手に取った。
弓道なんてやったこともなく、せいぜいアーチェリー体験をした事がある程度だった。
それが今じゃあ・・・この通り!
「ふっ!」
感じた気配に矢を放つ。
目視して集中して・・・なんてやっていたら狩人はやれないから構え即射るを心がけていたらスキル上昇と共に出来るようになってしまったのだ。
当てるだけならチラ見でOK・・・弓聖と呼んでもいいのよ?
「ぎゃあ!」
林から覗いていた斥候らしき男の目に命中。
野営地に盗賊の悲鳴が響く。
動揺か戦意か、林の中が気配でざわつく。
方向は予想通り林方向か。
次の矢を番えながら、素早く口笛を吹いた。
ピューイ!
悲鳴かそれとも口笛か、反応して天幕から一飛び出してきたのは、シャルさん。
寝入ろうとした頃であったらしく、珍しく不機嫌そうに敵の方へ半眼を向けている。
「ふぁ・・・まったく~、熟睡しそうなところだったのに・・・」
続いてカリンとシフさんも天幕から出てきて、不敵に笑った。
「予想された奇襲はもはや奇襲ではないな。さて、手早く片して寝るとしよう」
「ユウが当てる。予想通り」
眠る時に外したのか鎧は身に着けていないが、盗賊程度が彼女に傷を負わせられるはずもない。
カリンは失礼な事を言っているが・・・やる気はあるらしい。
最近この子迫力あっておじさん驚いてます。
矢継ぎ早に矢を放ちながらシフに向けて
「俺だけでやりたかったが、初盗賊なんでね」
手短に告げた言葉に頷いて、シフが愛剣を抜いた。
「正しい判断だ。後詰、挟み撃ち。盗賊どもも頭を使う」
そう言って林に背を向けて川の方へと歩いていった。
別方向からくる相手に気が付いたのだろう。
「シフさんは川の方から来る敵さんの相手に行ったか・・・さて、俺が前、カリンが後ろ。シャルさんが引っ掻き回して馬車を守るってことで」
「ん」
「了解。いつものだね~」
装備変更。
弓から持ち替えたのは曲刀キリジと黒竜の尾棘から作ったショートスピア。
柄から穂先まで一本の棘で出来た力作らしい。丁度良いから試し切りにさせてもらおうか!
「グァッ!?ぐぐ・・弓持ってる奴に気をつけろォ!」
「頭ァッ!気づかれてまさぁッ!」
「野郎共ッ!商人を狙え!人質にすンだよッ!」
林の其処彼処で叫び声が上がった。
その中で指示を出す内容を聞き取って、声が聞こえた方へ。
「お前達じゃ無理だ。逃げるか死ぬか、だ!」
頭目らしき指示を出す男に向かって突進する。
シャルさんが視界の端で商人達が待機する馬車へと向かう盗賊達を足止めし、カリンがそちらに向けて詠唱しているのを捉える。
いい連携だ。
まさか脇目も振らずに真っ直ぐ向かってくるとは思わなかったのか頭目風の男は舌打ちすると、両手持ちのバトルアックスを構えて迎撃に出てきた。
「てめぇらァ!残りはチビ共だけだッ!さっさと一切合財奪ってこいやァッ!オラァァ!死ねぇぇ!!」
頭目風男が指示を出しつつ薙ぎ払ったバトルアクスは思いのほか力が乗って鋭い。
まともに受ければ致命傷になるかもしれない。
だが・・・
「それだけじゃあ、だめだな」
その柄を思いきり蹴り上げてやると、バトルアクスは頭目風男の手から吹き飛んでいった。
思わず唖然とする男の隙だらけの胴体にキリジをお見舞いすると、膂力と切れ味の相乗効果で腰から上が爆発するように四散した。
竜殺しにて文字通りパワーアップした蹴りは岩だろうが金属鎧だろうが貫ける威力になってるし、腕力も比べたことはないけど・・・おそらくは巨人並み。
試しに黒鉄鋼製の鎧に全力で蹴りを入れたところ、穴が開いたときには顎が外れそうになる位驚いたからな・・・直蹴りなのにボッ!って音出たんだぜ・・・?
そんな音出す奴は世紀末救世主だけかと思ってたよ。
「この化け物・・・ギャバァ!?」
「心外だ。人間を食い物にするお前らの方が俺からしたら化け物に見えるがね。さて、一人目」
答えようと何か言いかけて事切れた頭目風男を一瞥して、頭目風男の呆気ない最期を見て動揺している周りの盗賊達を見た。
目が合った男が後ずさるのを余所に、ショートスピアを目についた奴に投擲して二人目。
三人目は逃げようとした背中に頭目のバトルアックスを拾いざまに投げつけて死亡。
四人目は悲鳴を上げながらも武器を振りかぶって突っ込んできたので躱しざまに下腹を切り払った。
肉厚の刀身はわりと力尽くに振り回してもビクともしない。
うん、ドロスのおやっさんいい仕事すんなぁ!
ショートスピアも良い感じ。
血煙を上げて倒れ伏す五人目を最後にキリジから両刃の細剣レイテル・パラッシュに持ち替える。
親方の工房で作ってもらった一本で、デンマークの騎兵隊が使っていた半籠状護拳を持つブロードソードの一種・・・だったかな。
勿論こっちの世界にはそんなモン無いのだが、似たような武器はかなりあるから親方も作り慣れてるとか言ってたな。
やや細見の優美な剣で細剣らしく突きも得意だが、断ち切ることも出来る。
次はこいつを試させてもらおうか。
試し切りにされているなどとは知る由もない盗賊達を一刀で切り捨て、突き殺していく。
最後の一人の両足の膝を突いて動けなくさせた後、辺りを見渡す。
カリンの奴もシャルさんもかなり張り切ったらしい・・・ゴッスンさん親子も馬車も無事のようだ。
川の方でも戦闘音が聞こえなくなったことから、すぐに戻ってくるだろう。
やり残し、隠れてるやつが居ないか索敵しながら煙草を咥える。
剣を払って鞘に納めると、死体に刺さったショートスピアを回収する。
「フーッ、状況終了。カリン、シャルさん!」
「ん、殲滅した」
「ゴッスンさん達も無事だよ~」
「了解!」
川の方へと目を向けると、両腕を斬り落とされた男の足を片手で掴んで引きずったシフが歩いてくるところだった。
体中ボロボロにされて悲鳴を上げながら頭を削られている男と反対に返り血どころか髪も乱れていない・・・凄過ぎるな。
「頭らしき奴を捕えたんだが・・・」
眉を顰めた表情でシフが言うが、こちらも頭目らしき男を倒している。
「そっちも頭か・・・こっちの方でも頭ぁ!って呼ばれてる奴を斬ったけど」
「別の盗賊団、か?連合でも組んだのか・・・オイ、答えろ」
痛みに泣き叫んでいた頭目らしき男は、涎を垂らしながら叫んだ。
「ぐぅ・・・ぐそ・・・れ、連合なんざ・・組んじゃいねぇェ!俺達ァ林の方なんぞ知らなかったンだッ!」
とすると偶然別々の盗賊団が同じ獲物を狙った?
別の場所もあるだろうに?
「そんなわけがあるか。ちゃんと答えろ。次は足が無くなるぞ?」
淡々とした言い方は彼女が本当にやることを嫌でも意識してしまうだろう。
まして両腕を無くした身では。
彼女はやると言ったらやる、凄みがあるのだ。
「う、嘘じゃァねェ!!俺達ァ!そいつらなンぞ知らねぇッ!」
答える男の言葉は真実に聞こえた。
嘘がバレれば間違いなく死ぬと理解している場面で盗賊風情が嘘を言うとは思えない・・・。
「とすると~・・・」
「ん、ユウは運が悪い」
「俺かッ!?」
シャルさんとカリンがジットリとした目でこちらを見てくる。
心外にもほどがある。
「そういえば、ユウ。君は運が悪かったな」
シフまさかの裏切り。
俺!?と驚いてみれば、ステータスカードを見てみろと言う。
慌てて開く。
---ステータス---
個体名:ユウ・ミサキ
種族:ヒューマン?
年齢:18才4ヶ月
職業:狂戦士 MAX new、銃器製造技師 5
レベル:52
生命力:6450/6450
魔力量:2010/2010 (竜の血補正+1500)
力 :SSS (竜殺し補正+2ランク)
体力:SS+
器用:SSS
敏捷:SS+
魔力:B (竜殺し補正+2ランク)
知力:C
精神:SS
運 :G↓(称号・女神ロックオン♪取得の為、低下)
ースキルー
”アクティブスキル”
武芸百般(攻)2new、竜殺しMAX、
鮮血の宴3new、殲滅の誓い3new、生活魔法MAX
”パッシブスキル”
武芸百般(守)2new、指導7
ストレス耐性7、毒耐性5、精神耐性7、耐熱冷完全耐性1new、閃光耐性MAX、ノックバック耐性4
”生産系スキル”
釣り6、料理3、鍛冶4、木工4、皮革3、機械操作1、罠作成2、銃器製造3
”ユニークスキル”
早熟MAX、変幻自在、アルマトゥーラ言語MAX、インフォメーション※体験版
”祝福”
ズィッヒェルの加護(特)、シュヴェアートの加護(愛)、ファレの加護(職)、龍神の加護(友)
”称号”
苦労人、胃痛の友(笑)、器用貧乏、神認定お人好し、異世界より来る者、2柱の中級神の強き加護を得し者、神の弟子、耐える者、森の狩人、戦闘狂い、職業マニア、新職始めました、職業神に注目されし者、鬼軍曹、虐殺者、竜殺し、竜の血を浴びし者、龍神の注目、女神ロックオン♪new、大精霊(氷)を鎮めし者new
思わず目が点になった。
「・・・ナニコレ」
「ふええ~・・・ユウって凄い・・・その、アレだねぇ」
「ん、人間じゃない」
酷い言われようだ。
が、否定出来ないレベルだぞこれは。
傾向としては前衛戦闘職ばかり経験してきた事から脳筋一直線に育っているのは理解出来るのだが、SSSってなんだよ・・・。
そして運が滅茶苦茶下がっている・・・。
CかD位あったよなぁ?
スキルもいつの間にやら武芸百般に攻・守スキルがまとまってスッキリしたような寂しいような・・・。
それに称号に意味不明なのが追加されている・・・。
「・・・女神ロックオン?」
「・・・運が下がる称号も・・・あるんだね~」
「ん、女神なのに迷惑」
「女神を怒らせるようなことを何かしたのかい?」
シフが心配そうな表情で聞いてくるが、全く身に覚えがないんだけど・・・。
悩む俺にカリンが女神の名前を教えてくれた。
称号の説明見れば良かったのか・・・!
「ん・・・女神ゲヴェーアの関心を引いた者の中で最も被害に遭う不運な男の称号。女性にこの称号が付くことはない」
「あの駄目神かァァァ!?」
「ゲヴェーアというと・・・森と大地の女神か?」
森と大地の女神だったのか・・・確かに体の一部が豊穣な感じではあっ・・・
「・・・」
カリンが冷たい視線!!
エフンエフン!
なんて酷い女神ナンダー!ユルサンゾー!
「・・・すけべ」
なんか・・・ちょっと喜んでしまった俺はもう駄目かもしれない。




