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※終盤あたりで鬱について話す文章がありますので、ご注意下さい。


 薄明りを感じて目を覚ました。

鎧戸の隙間からこぼれる陽光に目を細めて窓を開けると、活気付き始めた街並みが広がっていた。


煙草を咥えて大きく伸びをすると体中がポキポキと音を立てた。

うむ、今日も絶好調なり。


朝食を済ませて三人揃ってギルドへと向かう。

今日は完全装備である。

そう、今日この日は旅立ちの日。

とうとう街を出ていく時なのであーる。


「なにブツブツ言ってるの~?」


「ん、見たら駄目」


可哀想な目でこちらを見てくるちびっこ二人を余所に内心盛り上がる元おっさん。

ククク・・・まだ見ぬ景色よ!未だ知らぬ猛者共よ!待ってろよぉ!


さて、盛り上がってる内にギルドに到着。

Bランクになるための依頼を受けに来たのです。


「アーシェさんおはよう!護衛依頼受けたいんだけど」


挨拶もそこそこに顔馴染みの受付に声をかけると、アーシェさんはニッコリと笑った。

朝から美人さんの笑顔をもらえるとは幸先が良いね。


「おはよう三人共、一人やけに機嫌が良いわね・・・」


「おはよう~。ユウは初めて街を出るから興奮してるんだよ~」


「ん。お子様」


「ええい!だまらっしゃい!感動を素直に表すというのは大事なことなのだよ?」


反論するも二人は呆れたように両手を上にあげた。

ちくせう。


「護衛依頼についてはギルドマスターから聞いてるわよ。ゴッスンさんが依頼主ね。依頼内容は王都までの護衛、道中は魔物は少ないけれど、時々盗賊が出没するみたいだから注意してね」


ほうほう。

今度の敵は人間相手でござりますか。

魔物相手はともかく人間相手に切った張ったしなけりゃならなくなるのかねぇ・・・。


森から国を守るために森に沿って巡らせた守備外壁。

万里の長城と見まがう長さは大陸を縦断する黒の森から来る魔物を通さない為の文字通りの鉄壁である。

特殊な金属、ミスリルを魔道技術とやらを使って製錬したその壁は魔物を遠ざけてしまうのだとか。

まぁ・・・たまに漏れてるから絶対ではないのだろうけれど。


「了解した。王都かぁ・・・」


きっと沢山の馬車が石畳を往来していたり、糞がその辺に転がってたりするんだろうなぁ・・・。

なんか・・・あんまり行きたくなくなってきたな。


気を取り直して依頼を正式に受注した我がパーティ。

初護衛に出陣である。


「あ、ユウ君。今回の護衛は別の冒険者も一緒だから道中仲良くやってね?たぶん大丈夫だと思うけれど」


なんと、我が隊だけでなく別の人も一緒であるらしい。

俺達だけで十分だい!とは勿論言わない。

どれだけ武力があろうと、昼も夜もじゃ疲れ果ててしまう。

そんなところへ襲撃!なんてなったら目も当てられないからね。


「了解!それで・・・その冒険者って?」


「えっと、もうすぐ来ると思うわ・・・あ、丁度来たわね」


アーシェさんの視線を追って振り返ると、ギルドのスウィングドアを開けて大柄な女性が入ってくるところだった。


「おはようシフさん」


「ああ、おはよう。護衛依頼で来たのだが、もう来ているかな?」


入ってきたのはSランクの冒険者、シフ・イーヴァルディさんだった。

相変わらず颯爽としている。

中にいた冒険者達がザワつくのも仕方がないだろう。


「シフさん、今日の護衛依頼の人員が決まったわよ。風花のユウ君とカリンちゃん、それにシャルさん」


アーシェさんの紹介されるまま、片手を上げて挨拶すると初めてこちらに気が付いたのか、シフさんが驚いた顔をした。


「おはようシフさん。今日からよろしく!」


「そうか・・・君たちが一緒か。道中よろしく頼む」


そういって微笑むシフさんに受付に居た他の女性が黄色い悲鳴を上げた。

なんと・・・女性にもモテるのか。

颯爽としてて格好いいもんなぁ。


「ん、よろしく」


「昨日ぶりだね~!よろしく~!」


二人とも挨拶が済んだところで王都方面の門へ向かってギルドを出た。


「ユウさん達は今回が初めてって言ってたな。護衛について分からないことはあるか?」


歩きながらシフさんが聞いてくるのを、頷いて状況を説明した。

自分達パーティはBランクに昇格するために護衛依頼を受けようとしていること、護衛依頼ということで準備したもの、ベテランの冒険者に教えてもらった事など。


それを聞いたシフさんは一つ頷いた。


「うん。それだけ分かっていれば問題ないと思う。あとは実際にやりながら覚えた方が良い」


「分かった。そういえば・・・御者って依頼主のゴッスンさんがやるのかな?」


「そうなるだろうね。御者が出来る者が変わる場合もあるだろうが、馬車も含めて自分の商売道具だからね」


「それもそうか・・・」


王都までは馬車で1週間程度。

これは馬の負担にならないゆっくりとした速度で計算されていて、かなり余裕がある日程なのだそうだ。

街道は整備されていて進み易いし一定の間隔でキャンプが出来るように野営地が整備されていたりもする。

井戸もあるから初めて旅をするには最適なルートだろう、とシフさんは言う。


王都から各都市へと向かう街道は主要街道であるだけにかなり頻繁に整備の手が入り、軍が巡回していたりもするので割合安全でもある。

そのため護衛を雇わないで行く商人も結構居たりして、それを狙う盗賊が現れ、巡回が強化され、商人が油断し・・・とイタチゴッコしていたりするそうな。


己の強運を信じる商人、もしくは金のない人達以外は基本的に護衛を雇った方が良いと商人ギルドや冒険者ギルドで推奨されていて、護衛専門の冒険者がいる位、需要があるらしい。


さて、説明してる内に門へ到着。

辺りを見渡すと売り物と思われる何かが入った木箱や壺などがぎっしりと詰めた幌馬車が2台、門の前で待っていた。


「失礼。護衛依頼で来たのだが、ゴッスン氏でよろしいか?」


代表してシフさんが声をかけると、日焼けした浅黒い肌にローブをまとった男性が振り向いた。

こちらを見ると、ニッコリと笑ってお辞儀してくる。


「おお・・・護衛依頼を受けていただいた方ですか。私がゴッスンです。失礼ですが・・・」


「ああ、私はシフ、ソロだ。それとこっちが・・・」


「パーティ風花のリーダーやってるユウです。こっちは斥候のシャル、こっちの魔法使いがカリン」


「よろしくおねがいしま~す」


「ん。よろしく」


「おお・・・聞いておりますぞ!Sランクのシフさんにこの街の若きエースパーティの方々ですな!!これは運が良い!!貴方達なら安心して護衛を任せられそうですなぁ!」


Sランクの冒険者が護衛依頼など普通受けないらしいからな。

指名依頼でやる事はあるそうだが、通常そういう依頼をしてくる相手は王族や上級貴族でも相当上の方。

Sランクになると、指名依頼といえど受けるかどうかは冒険者次第なのだそうだ。

そしてそれについて文句を付けることは出来ない。


なぜならSランク冒険者ともなれば、一騎当千。

一人で1軍を相手に出来る化け物クラスなのである。

そう思えば依頼主が大喜びするのも無理はない。

俺達はおまけ程度であろう。

エースと呼ばれて悪い気はしないが、この街で登録する新人が少ないだけだろうし。

・・・ハッ!いかんいかん。相手が商人だと思うとつい裏を疑ってしまう。


気を取り直して彼と彼の息子で助手でもあるというサミュエル君と挨拶を交わした後、早速出発と相成った。



 街道沿いに広がる麦畑は順調に育っているようで、青々と茂った麦穂を風に揺らしていた。

小さい為に足の短いカリンとシャルさんを先頭の馬車の御者台に乗せて、二頭付馬車が街道を東進する。


後方は俺とシフさんが徒歩で護衛する事になった。

7日も歩けるのかって?

体力が人外レベルに達したので余裕です。

シフさんについては言うまでもあるまい。


黒竜製の鎧は以外と軽くて歩くのに支障は無いし、武器も弓だけ出してあるがいつでも変えられるから長物を持っている必要もない。


景色を楽しみながら歩いていると、シフさんが不意に小さく笑った。

何事かとシフさんを見ると、彼女はすまない、と謝った後で


「とても楽しそうに歩いているからつい、な。すまない」


「いやいや、楽しいのは事実だからそう見えるのは間違いないよ。俺あの街以外知らないから景色が珍しいし楽しいんだ!」


「ほう、ユウさんはあの街生まれなのか」


「いやぁ、生まれは別世界だよ。何の因果か北大陸の帝国の奴が異世界から召喚するぞー!と言ったかどうかは知らないが、召喚されちゃったわけさ」


美しい麦穂に目を細めながら話すと、シフさんが驚愕の表情となった。


「なに・・・!?」


「ん?」


「別世界とは・・・いや、言っている意味は分かる。我が母もこことは異なる世界の出であるらしいしな」


今度はこっちが驚いた。

なんだと・・・!?

俺が初めてではない!?

いや・・・そんなわけはない。

この天体を覆う結界を通り抜けたのは俺が初めてだと・・・そう聞いている。

結界を強化して、二度と無いようにしたとか創造神であるアシュじいが言ってたし。


とすると彼女は嘘を・・・?

そうは見えないが・・・。


「驚いた。俺だけかと思っていたよ。神にも結界を抜けられたのは初めてだとか言われたし・・・」


「そう、なのか?妙だな・・・確かに母上はそう言っていたのだが・・・よく分からないが召喚されたわけではなく、ゲート?とかいうのに吸い込まれたとか言っていたから方法が異なるのかもしれないな」


そう、なのか・・・なるほど。

俺の場合は地球からこの世界まで転移のような術で連れてこられたわけだけど、シフさんの母上はまた違うアプローチだったということ、か?


うむ。難しい事は神様に任せておくか!


「そっかぁ。それじゃ俺みたいにステータスカードの称号がおかしかったりしたのかな?」


そういってステータスカードをシフさんに見せてみた。

彼女の母上が帰りたがっているのか、そもそも生きているのかすら知らないが・・・白夜との会話から彼女も何かしら抱えているようだし。


普通、異世界物の物語では自分の身分や異世界から来ただの転生しましただのは隠すことが多いと思う。

ただ、俺は地球に居た頃・・・ずっと本音を隠して生きてきた。

本音、自分の願望を後回しにして周りの目を気にして気にして・・・家族を支えなきゃ、俺が引っ張らなきゃ、俺は失敗するわけにはいかない・・・ずっとそうやっていたらどんどん自分の生命力とでもいうのだろうか?

明日に希望を持ち、今日を一生懸命生きる事が億劫になっていた。


どんどんやる気も生きる気力も無くなって・・・それでも内心では必死にあがいていた時にこの世界へと来ることになった。


やり直す、などと考えているわけじゃない。

今度こそ、やりたいように生きると決めたんだ。


話が逸れてしまったが、そういうわけで俺はこの人は信用出来そうだなぁと思う人には出来るだけ隠さずに言うことにしている。

そうやって生きているとなんだか馬鹿に見えるかもしれないが・・・気分が良い。

飯も旨くて酒も旨くて、ついでに煙草も旨い。


うむ!脳みそ筋肉?上等だぜ!


内心で気合を入れた。

よし、気合ついでに煙草吸うかな。



「・・・君は・・・君が・・・運命なのか?」


深刻な声の呟きは誰にも聞こえることなく青空に消えた。

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