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少し短いですがキリが良いところなので。


 前回のあらすじ

Sランクパーティを一撃で皆殺しにされた元おっさんのユウは仲間を守る為に命懸けで戦った。

唸る黒き槍に迸る蒼き薙刀、満身創痍にてなんとか勝利を納めるも、振り返れば酒盛り。

キレたユウと敵だったはずの白夜は手に手を取り合って悪者共をお仕置きしたのであった。





「うぅ・・・いてて。本気で殴りやがって・・・」


「儂、ギルドマスターなのに尻が腫れるまでしこたま引っ叩かれたわい・・・」


「Sランクの僕達より怖かった・・・なんか顔ばっかり狙われたし」


悪乗りした大人共を前に仁王立ちした俺と白夜。

手に持つこん棒は度重なる折檻で折れ曲がり、白夜の鉄扇からは血が滴る。


「若いのに命張らせて後ろで酒飲んでるたぁふてえ野郎共!お仕置きされて当然ッ!」


「妾を鎮める為とはいえ、捧ぐべき霊酒を手に阿呆騒ぎとはッ!仕置きで済んで有難く思うのじゃッ!」


眦を釣り上げて怒る白夜様にヒィィと一同、五体投地して謝罪した。

渋い、ダンディと評判のシェイドさんも頬に天誅の字がくっきりとしていて、百年の恋も冷める情けなさ。

豪快にして頼れるおっさん、ジョージのおっさんもボッコボコにされて顔面が倍に腫れ上がっている。

唯一女性であるミリーの姉御だけは白夜がデコピンで終わらせていたが、そのデコピンが強烈であったらしく、ぼっこりと膨らんだタンコブが痛々しい。


我が仲間の小さき二人はさっさと逃げ出して俺達の後ろで腕組みしており、まるで最初からこちら側だったかのような小賢しさである。


「まったくだよモグ!いい歳した大人がモグモグ・・・いけないんだよ~!ゴクン」


「ん!・・・モグモグ・・ゴホ・・・ゴクン。反省するべき」


口の中の摘みを飲み込んでから言ええええええええ!!

当然二人もタンコブ追加である。


撃沈した二人を前に、俺達は頷きあった。


「成敗・・・ッ!」


「うむ・・・悪は潰えたのじゃ・・・」


本気でぶつかり合い、お仕置きタイムを通した今、すっかり馬が合ってしまい、その後は二人で酒を飲みつつの語らいとなった。

良い大人達は遠く離れてコソコソと飲み会を再開させているようである。


「さ、一杯。それで・・・少しは晴れたか?」


酒を注ぎながら尋ねると、白夜は杯を干しながら頷いた。


「なんだか憎くて憎くて堪らなかった先程までの妾が嘘のようじゃ・・・まだ許すとも言えぬがな。知っておるのじゃろう?」


注いでもらった杯を飲みながら、頷いた。


「ああ、女神から聞いてた。殺すな、止めろと」


それを聞いた白夜は鼻を鳴らして杯を突き出した。

それに酒を注がれていく様を見つめながら


「ふん・・・女神なぞと言うても、どうせ森の管理人とかその辺りじゃろうよ」


「森の管理人・・・さぁて、そういや名前も聞いてなかったような」


「呆れた男よ。誰とも分からぬ女に言われて、はい喜んでと動いたとでも申すかえ?」


酒を干した杯に新たに別の酒を注ぎながら、そういえば・・・そうとも言えるなと思った。

なんでそう思ったのだろう?

街が危ないから・・・そう聞いてはいたが。


「不思議そうな顔じゃの。神の中でも森や大地、天候を司る女神なんぞ綺麗な顔してとんでもない阿婆擦れ揃いじゃぞ?まぁ・・・その姿に誑かされる男が多いから仕方ないかの」


哀しい男の性ってやつか?

う~ん、そういう感じでもなかったんだがなぁ。


「いやいや、色気に惑ったわけじゃないぜ。今は戦いこそ我が人生!って感じで謳歌させてもらってるしな」


そう言うと、今度は白夜が不思議そうな顔になった。

その杯に酒を注ぎながら説明した。

自分達が参戦したあらましを。


「はぁ・・・なるほどの。妾が街や国を破壊すると聞いて奮起したと、こう申すわけじゃな。まったく・・・ニンゲンという奴は悪なのか善なのかまったく分からぬ」


ため息をつく白夜に思わず笑った。

むっと眉を顰める美しい精霊に微笑ましい思いを抱きつつ


「なに、ニンゲンは生来悪である、善であるなんて言う論議はずっと昔からされてきてるんだ。今だに答えは出ていないらしい。ま、俺はどっちも違うと思うがね」


一言断ってから、ポーチから取り出した煙草に火をつけた。

何故?という表情の白夜を見て、口に煙草を咥えたまま


「なに、何人も殺す所謂悪党が、命の恩人の為に誠実に何でもする。普段は穏やかで優しい人が家庭では暴君であったりする。ではどちらが本当かといえば、どちらも持ってるのが人間の面倒で楽しいとこなのさ」


「ふん。小童が知った風な口を利くではないか。お主は20にもならぬ半人前であろ?」


まぁ見た目はその通り。

ニヤリと笑って教えてあげた。

俺の、世にも奇妙な世界渡りのお話を。


「お主・・・30を超えておったのか・・・それも道理。妙に世慣れた雰囲気がある」


マジマジとこちらを見つめる双眸に、照れるしかない。

いやぁ、美人さんに見つめられると照れるなぁ。


「び、美人!?き、貴様!たわけたことを抜かすで、なないわ!」


おや?

もしかして口に出ちゃった?

距離を置いた白夜にクスクスと笑いが漏れた。

愛した男に裏切られ、命まで狙われた可哀想な女。

それが怒りと憎しみに身を凍てつかせ、力の限りとニンゲンを屠ってきた彼女が、同じ人間の言葉で照れる。


精霊というのは純粋な存在なのだなぁ。

その・・・もともとは誠実であったはずの男も、こういう所に惚れたのであろうか。


「すまんすまん。さ、飲み直そう」


酒を突き出せば、おずおずと杯を差し出す精霊。

彼女の初心な心に思わず目を細めた。



と、背後で膨れ上がる戦意。

おお?と振り返ればそこには、修羅の如き形相の領主軍と涼しげな眼差しのもう一人のSランク、シフ・イーバルディの到着であった。


混乱する領主軍を余所にシフは俺達を見渡して、ふむ、と頷いた。

俺と白夜が酒を飲んでいるのを見て目を細めると、ツカツカと歩いてきて二人の前に立った。


「貴方が白夜か?私はシフ、シフ・イーヴァルディと申します」


そういって巨躯を折って頭を下げた。

杯を手にそれを見ていた白夜が思わずほぅと声が漏れるほどの美しい所作であった。


「シフと言ったか。ま、ちょいと遅くなったようじゃが、この通りじゃ。そなたも飲め」


そう言ってこちらを見たので、杯を新たに取り出してシフさんに渡した。

それを受け取ったシフに酒を注ぎながら、白夜がポツリとつぶやいた。


「お主、厄介な血を持っておるようじゃの」


ハッと顔を上げるシフに白夜は妙に優しい眼差しで見つめ返した。


「・・・ここでは言わぬ。じゃが、一つだけ。お主の血を受け入れてくれる男はきっと現れるじゃろう。そなたの曇りなき瞳を見れば分かるのじゃ。これでも・・・それなりに長く生きておるでな」


それだけ言って、白夜は酒を飲んだ。

シフさんも何かを考え込むような表情で酒をチビチビやっている。


彼女は何かを抱えていて・・・それを助言したのだろうか?

精霊である白夜が・・・そういえば最初からシフさんには優しげであったような・・・。


「・・・ご助言、ありがとうございます。もう諦めておりましたが・・・もう少しだけ探してみるとします」


そう言ってはにかむように笑うシフさんは正直、とてつもない魅力を放っていた。

その魅力にやられたスキールニルの面々が突撃しては玉砕していたりもしたが、それは蛇足か。


とりあえずその顔面の腫れを戻してからの方が良いと思うよ?




酒も無くなった頃、白夜はおもむろに立ち上がった。


「帰るのか?」


そう問いかけると、白夜はほろ苦く笑った。


「帰る場所などもう無いわえ。妾は世界を旅するだけ。いずれ果てるその時まで、ゆ~らゆ~らと風のようにの」


「一緒に来ないか?」


そう言うと、驚いた顔をした白夜は・・・優しげに笑った。

そしてゆっくりと首を横に振った。


「礼を言うぞユウ。そなたと会えた事を嬉しく思う。じゃが・・・それは出来んのじゃ」


「そうか・・・残念だ。なんだかとてつもなく残念だ。泣きそうになるくらい・・・」


なんだかほんとに泣けてきた。

おいおい飲み過ぎたかしら?


「そなたは優しい子じゃ。ほんにありがとう」


そう言って、恥ずかしくて俯く俺をゆっくりと抱きしめた。

慌てる俺にお礼じゃ、と言って頬に口づけた後・・・突風が吹いて皆が目を覆う一瞬。


「さらばじゃ・・・」


その声を最後に、白夜は忽然と消えた。



「行っちまった、か」


やけに胸が痛い。

なんだろうなコレ?と内心で首を傾げながら、煙草に火を点けた。

別れの煙草は、いつもよりもしょっぱかった。


ここで、いわば辺境伯爵領編は終了となります。

次からはようやく旅に・・・出れるといいなぁ。

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