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お読みいただきありがとうござりまする。
ニヤリと笑っていただければ幸いです。
ニヤリと笑った白夜を見た瞬間に嫌な予感に体が震えた気がした。
全力で精霊核の場所を探るカリンと、全員分のスパイクを作成中のシャルさんは完全に無防備・・・!
「やばいッ!!」
全力で二人の前へ!
考える時間など無かった。
何かを感じた盾役ゲルドと教官組の前に飛び出したギルドマスターの爺様が盾を構えるのを視界の隅に、黒の槍とポーチから取り出した竜麟で作った盾を構えて白夜に全神経を集中する。
「ほほほ、カンが良いこと。じゃが児戯に付き合うのも疲れるゆえ・・・これで終いじゃ」
貯めて・・・いたのか。
Sランク4人の攻撃を躱しつつ、解析しようと魔力を目に集中させた魔法使い二人を完全に欺いていたのか!
「去ね・・・永遠にのぅ」
「さ、せるかァァ!!」
「ハァァァ!!」
「ヌァァァ!!」
ゲルドがシールドを構えて叩きつけるように突進、それに完璧なタイミングで魔斧と魔剣が唸りをあげて左右両側面を強襲する。
対する白夜は側面の攻撃にも、そして正面から唸りを上げて迫る白銀の盾をも無視して。
「もう遅いッ!『夢氷葬刃』ッ!!」
カァァン!
魔力で形成していたと思われる青い草履のような履物。
ゆらりゆらりと魔力が陽炎のようにゆらめくその足を氷結した大地に力強く叩きつけた。
その瞬間
「ガッ!」
「あガ、ァァァ!?」
備えたところで意味を為さなかった。
凍りついた大地から何の前触れもなく槍のように尖った氷刃が無数に生まれた。
完全に意識の外にあった下からの強襲はSランクと言えど、正面に立つ白夜に意識を集中させていては避けられるはずもなく。
大地に叩きつけられることなくその身を貫かれたまま、四肢を力無く垂れ下げてその命を散らすこととなった。
今回の作戦メンバーの内で防御能力に最も優れたSランクパーティ・スキールニルはたったの一撃で全滅した。
「一撃・・・たった一撃で・・・これ、かよ」
「うそ、でしょ・・・」
おっさんと姉御が擦れ声を上げた。
爺様は数々の戦いを共にしたのであろう年期の入った盾を構えたまま歯を食いしばっている。
俺はというと茫然したままその白き墓標を眺めているだけだ。
ややあって、弱音など吐くものかと下腹に力を込めるも・・・下半身の血液が消失したような頼りなさ。
チラとみれば白夜からやや離れていた為に直撃はしなかったようだが幸運か不幸か。
右太腿を貫いた細い錐のような氷が赤い血をキラキラと光らせて輝いていた。
その数cm横には腕よりも太い氷柱が突き出ていた・・・危なかった。
「・・・大動脈は逝って無さそうだ・・・となれば後は気合」
ゆっくりと氷から右足を引き抜いて、気を巡らせていく。
痛みを感じない事を不思議に感じながら、今は感謝する。
止血の為にぼろ布と化したエルさん印の元々服だった布きれで止血しつつ、気功術スキルを用いて回復速度を急上昇させて傷口を消す。
強靭無比な黒竜の鎧をあっさりと貫く一撃・・・ただの氷ではなさそうだが、大技は貯めが必要であるようだ・・・だとすれば俺がやるべきことは何だろう。
内心考えながらも傷口を急いで癒した。
内丹、内気功、呼び方は色々あるけど、俺が使える数少ない回復技。
手当スキルも併せるとかなりの速度で塞がっていく。
「白夜・・・あれが精霊、あれが精霊核持ち・・・」
茫然とするシャルさんをかばうように前に出る。
横目で確認した限りでは爺様も負傷しているようで、気丈に前に出ようとするところをおっさんに止められている。
足の甲を貫いている細氷が痛々しいが本人は気にも留めていないようだ。
姉御が急いで回復魔法を使っているようだが、まだ時間がかかりそうだ。
「ほぅ・・・まだ生き残ったかえ。虫けらはしぶといのぅ」
まずい。
こちらに意識が向いた。
考えるよりも先に体が動いた。
黒の槍は気合十分、俺の脚もほぼ治ってる。
となればッ!
「なかなかやるなぁ美人さん。今度はこっちの番、だよな?」
「ッ!よせッ!」
おっさんが叫ぶ声を背中に受けつつも片手を振って返事。
不快げに眉を顰める白夜を前にわざと軽薄に見えるようにユラユラと歩く。
守ったら負ける・・・攻めろ!!
ことさらゆっくりと歩いてみせて突然加速、シャルさんの技術・・・小転。
スキルとして持っているわけではないが、体のリミッターを意図的に外してやれば良い。
なぁに、化け物めいた耐久がある今なら何とかなるさ!
本来は剣術の技だった気がするが、この世界では同じ名前でも別物なのだろう。
本質はむしろ縮地法に近いかもしれない。
すなわち・・・
意識の死角からの高速移動。
「その禍々しき槍・・・!妾の結界を斬り裂くかッ!」
「その程度で驚くのは・・・はええッ!!」
スキルの補助と職業スキル、そして闘争本能を全開にして戦いを挑む。
骨が、関節が、筋肉が軋みをあげるが内気功で壊れる傍から治していく。
教官組が回復するまでの時間は俺が稼ぐしかねぇ!
「オォォラァァ!」
敢えて大振りの横薙ぎ、対する白夜はいつの間に生み出したのか青い薙刀であっさりと受け止めるが。
「軽いッ・・・!」
「そりゃぁ・・・フェイントだから、なァ!」
そのまま右手の黒の槍で薙刀を抑えつけたまま気を込めた掌底を顔面に放つも白夜は首を振って回避する。
「ホホ、この距離までこられたのは久方ぶりじゃ。誇って良いぞ!」
「まだ、まだァ!」
そのまま回し蹴りを放つも片足で迎撃される。
精霊って格闘技も嗜むんですかねぇ!?
内心で悪態を吐きながらも、連撃連撃、さらに連撃。
袈裟切り、連続突き、ひっかき。
重く、軽く、虚実入り混ぜて連撃をつなげていくが、尽く対応される。
黒の槍は確かに目に見えない膜のような結界を何度も破壊し、その先にある蒼き薙刀をも傷だらけにせしめたが、それだけだった。
「調子に、乗るでないわァッ!」
気合一閃、片手に青い光が集まっていく。
近距離型の精霊魔法を放つつもりのようだ。
「こっちの・・・セリフだァッ!」
右肩の棘甲を前に突進してぶちかます。
それを防ごうと白夜は舌打ちをして魔力を放つ片手で防御した。
脳裏で物凄い速度でスキルが上がっていく。
凶戦士の職業レベルもだ。
継戦能力の向上は素直にありがたい・・・!
「ッシャァ!」
黒の槍は蒼き薙刀と打ち合う度に輝きを増している。
もっと斬れ!穿て!引き裂け!と意志が叫んでくる。
益々威力を増していく攻撃を前に相手は未だ攻撃を通さない。
それでも細かい傷が美しい顔を傷つけていく。
砕けた薙刀の破片が白夜の顔に跳ねたかしたのだろう。
「慮外者めガァ!虫けらの分際で妾に傷を負わすかァ!」
「ハン!虫けらなんて馬鹿にしてっから、だ!」
鍔迫り合いとなった一瞬でグリーブを足に振り下ろす。
全力かどうか未だ分からないが、見えなかったのかグリーブは白夜の右足の甲を粉砕した。
「いける・・・いけるいける!」
仲間が白夜の武器をボロボロにし、小さいとはいえ傷を負わせている・・・!
シャルは急いで最後のスパイクを作り上げると、自分の分を装着して武器を抜いた。
「カリン!」
茫然とした表情で戦闘を見守っていた小さな仲間にも声を掛けると、ハッとした表情も数瞬。
すぐに戦闘態勢を取った。
「解析は!?」
「んっ!8割方」
「十分でしょ~!精霊核は何処にあるの!?」
「ん、断定は出来ない。でももうそこしかない」
四肢どころか全身を覆うように結界を張っていたために全く通らなかった魔眼の力。
それが黒の槍で斬り裂かれたことによってようやく解析を可能とした。
1分にも満たぬ攻防で、何度も修復されては斬り裂かれる結界に邪魔されながらもようやく推測出来た。
四肢でも頭でもない、すなわち
「心臓付近もしくは心臓内部。あるいはそのもの」
精霊”核”というだけあって、身体の最重要器官の変わりにもなっていたわけだ。
「とすると、手足斬り飛ばす程度なら問題なさそうだね~」
普段は穏やかなシャルも流石に目の前で他パーティとはいえ人を殺されれば、殺伐とした考えにもなる。
ともすれば、殺してやりたいとすら思い始めていた。
一方、後輩に遅れをとった教官組だったがそれは様々な状況が見えすぎて一歩目が出遅れただけのこと。
後発のシフと領主軍が到着までもう間もないはず。
文字通り命に変えて時間を稼いでくれたスキールニルと現在交戦中のユウ・ミサキという新人。
彼らの働きで指揮官として冷静に判断する為の貴重な時間をもらったレナード・ジャレフは顎髭を扱いて黙考する。
当初の作戦では、説得を試みるということだったが監視を見破られた上に一撃で盾役が死亡するという誤算で、既に作戦としては崩壊していると見るしかない。
とすると最後の手段・・・全力攻撃による精霊核の破壊。
これを持って勝利とするしかないのではないか?
それは名案のように思えた。
例え氷属性が失われるとしても、この国が亡びるよりは大分マシなはずではないか?
輸送・食糧の質・暑気の冷房など、使用される範囲は民衆の生活に密接に結びついているとはいえ・・・
とはいえ、王国150万人、孤児やスラムの人間、他国からの商人や旅行者も含めれば200万とも言われる数の人間が死に絶えるよりは万倍も良い。
だが・・・
「白夜さんよォ!お前こそこんなものかよッ!?」
「抜かせェ!小童がァ!」
いつの間にやら楽しそうに嗤いながら戦うユウと対する嘲笑と侮蔑、冷たい怒りを持って戦っていたはずの白夜の戦意に高揚した顔。
まるで、世界の事など知ったことではないとばかりに戯れる子供のようにも思えてくる。
「オイオイ、あいつとっくに限界超えてるはずだぜ・・・」
剣の柄に手を掛けたまま油断無く見守るジョージが呟いた。
隣で杖を構えたままのミリーも唖然として頷いた。
「気功術の硬気とか言ったっけ?防御力が上がるとかなんとか・・・それに身体能力を一時的に上げる練気法も使ってるみたいだし、あの子・・・無茶苦茶じゃない」
「だが・・・そうでもしねぇと戦えねぇンだろ。とはいえ・・・なんとまぁこのクソッタレな戦いでイイ顔しやがって」
「ほんと・・・なんだか楽しそう。ジョーとそっくり」
それを聞いたジョージは慌てて妻を見た。
ユウの方を指さしながら
「オイ待てよミリー!俺はあんな戦闘バカじゃねぇだろ!?」
「いいえ。同じにしか見えないわ。忘れた?レッドドラゴンに喧嘩売られたとか言ってあのときも・・・」
そのまま痴話喧嘩に突入した二人から目を逸らして、レナードはさらに考え込む。
扱きすぎて髭が何本も抜けていく様子を見てシャルが目を剥いていたがそれにも気が付かずに黙考。
ギルドマスターはストレスが多いのである。
やや髭の量がスリムになったところで、レナードはようやく考えをまとめた。
「うむ。ここは戦士として・・・」
「戦士として?」
聞き返すシャルに、ギルドマスターは重々しく頷いた。
「見守るとするかのぅ」
「「「ええええ!?」」」
ギルドマスター、レナード・ジャレフ。
元近衛軍隊長にして、鉄壁の異名を持つ歴戦の猛者。
彼は考え過ぎると、面倒になって考えるのを止める。
そこでふざけるのかよ!?とお怒りになった方はごめんなさい。この作品はシリアスが長続きしない仕様になっております。
とりあえずイケメンは爆発させたが、さてどうなるんだろ。
それは作者にも分からないのです・・・。




