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区切り所を見失ったので少し長くなっています。

 長時間占有する形になってしまったことを神官に謝罪しつつ鍵を返し、三人連れだって神殿を出た。

ぞろぞろと連れだって歩いているのだけど2人共なにかを考えているようで、先ほどから黙ったままだ。

あんな話を聞いた後では無理もない。


かくいう俺も少し見方が変わってしまっている。

災害としての白夜が、あの女神の話によって被害者にしか見えなくなっている。

どちらかと言うとその青年をしこたまぶん殴ってやりたいが、かなり前の話であるから生きているかどうかも分からない。


「まったく・・・嫌な話を聞いちまったな」


思わず愚痴が出てくる。


楽しい事ばかりじゃないのは三十数年生きてきたから分かってはいた。

同じクラスの奴が事故で亡くなったり、うつ病と闘っていた後輩が自殺してしまったり、変質者に股間見せつけられたり・・・最後なんか違う気もするがそういう事は何度か遭遇した。


この世界は神が身近であるからかとんでもない悪党というのはなかなか居ないように思うが、話に聞く限りたまたま俺の周りが良い人達であったというだけなのかもしれない。

俺を召喚しようとした例の帝国とかやばそうだし。

召喚して何をさせるつもりだったか不明だが・・・戦争の兵器扱いか実験動物扱いか・・・いずれにせよ毎日ハッピーとはいかなかったろう。

改良されて再度召喚なんて事がないよう神様には是非とも頑張っていただきたいものだ。


「・・・ん、白夜わるくない」


「そうだねぇ~・・・精霊核の件もそうだけれど、なんだか可哀想過ぎるよ~」


思考が明後日の方へ向かったところで現実に戻る。

二人のいう事はもっともだ。

思ったよりも深いため息をついて空を見上げる。

すっかり夜になった空には輝く月と未だ見慣れぬ星々。


誰かのセリフにもある通り・・・あの星々から見ればこの地上の悩みなどちっぽけなんだろうか。

だとしても地上を這いずり回る俺達は毎日を必至に生きていくしかない。

せいぜい高い所から眺めているがいい。

一方的に決めつけて星に向かって内心で中指を立てた。

すっかり髭が生えなくなった顎を一撫で。

問題はまだある。


「ギルドに報告するべきか・・・」


その情報がどう影響していくか、ちょっと考えるだけでもデメリットしか無いように思える。

少なくともこっちの刃が鈍るのは確実だろう。

ただでさえ死人がボロボロ出るのが確定しているような相手だ。

そこにきてこんな話をすればどうなるか。


「おっさんに相談するか」


困ったときのおっさん頼りといくか?

・・・考えても仕方ない、か。全力で丸投げしよう。そうしよう。


「よし、明日朝一でギルドに寄ろう。おっさんに相談する」


「ん」


「りょうかい~。作ってもらってる装備も見に行く~?早めに必要になりそうだし~」


「そうしよう。竜の装備があれば心強いし・・・金属鎧とか役立たなそうだしな」


凍てつく環境で金属鎧なんぞ着ていたら皮膚が張り付いて持っていかれそうだよな。

革鎧のがまだマシなんだろうが・・・冗談みたいな話だがボロボロになって戦う前から素っ裸になってしまいそうだ。

流石にそれは笑えないな。

特に自分がそうなるかと思うと余計笑えない。

元おっさんの素っ裸なんぞ誰もみたくなかろう。


体は竜神様の加護をもらっているから大丈夫だとしても素っ裸に武器片手って原始人以下だろう・・・鎧下はどうするか・・・丈夫で耐寒性能が高い服に耐寒パンツとかないだろうかねぇ。

せめて股間は守りたい・・・まだ新品・・・一度は使わせてあげたいしなぁ。

心配するなジュニアよ。いずれ必ずお前の出番は来るはずだから。


「ん。耐寒結界」


ぺか~!


カリンがポシェットから取り出した箱のようなモノを掲げて言った。

心なしかどうよ?褒めていいんだよ?頭撫でてもいいんだよ?と言っているように見える。


ナデナデ。


というか・・・それがあれば加護がない二人も俺のパンツもなんとかなるか?


「ボクも持ってるよ~?もしかしてユウは持ってないの~?」


なんと持ってないのは俺だけだったという。

耐寒、耐熱装備は低いグレードなら割と安価に手に入る為、持っている冒険者は多いそうな。

冒険者たる者、様々な道具は持っているべき!だそうだ・・・。


「・・・」


あるぇ?俺その手の道具持ってたことない、な。

結果的に突撃バカみたいになってる!?

でもミーネ先生からはそんな話聞いたことが・・・そうか!神だからそんな事思いつきもしないのか!

いやぁ~まいったねどうも!あっはっは!


「ユウ~、道具に手を抜いたら駄目なんだよ~?こういう道具も馬鹿に出来ないんだからね~!」


笑って誤魔化そうと試みたが失敗、シャル先輩に怒られてしまった。

てへへ、しっぱいしっぱい。


「ユウ~?」


「すいませんでした。以後気を付けます」


ふぃ~・・・。

煙草を咥えて火をつける。

紫煙がゆっくりと空に溶けていくのを見るともなく見ながら、考える。


相手は白夜と呼ばれる精霊・・・いや元精霊か。

あまりにも酷い人間に絶望し、憎悪と殺意でランクアップ。

今では軍隊だろうがSランクの冒険者だろうが纏めてキル出来る悪夢のような化け物クラス。


氷属性を司っているため、水・氷系統の魔法はまず効かない。

火属性なら効きそうだが・・・相反する属性だから打ち消しあってしまってあまり効果的とは言えないらしい。

とすると相関図的に言う左右の属性、風か土系統に期待するしかない。

もしくはまったく関係の無い光か闇属性・・・あるのかどうかは知らないけど。


この世界で広く使われ、最も威力が高い魔法はカリンや姉御が得意とする精霊魔法である、らしい。

ところが相手は元とはいえ精霊であることと精霊核持ちというのが大きいみたいで精霊達の協力を得られにくいそうだ。

カリンのスキル・魔法図書館で調べたところ、そういった記述がいくつも見つかったらしいから間違いないだろう。


システムに深く関係する者を攻撃するのはエラーが出てしまう、というような事なのだろう。

哀しいかな魔法の素質など欠片も無い俺には全く関係のないことだが・・・関係のないことだが!

カリンの魔法に頼ることも多い俺達のパーティでは様々な面で戦力低下は免れない。


今回はパーティ戦というよりも個人戦の方が良いのかもしれないな・・・オークキングの時みたいに牽制と援護だけ頼んで戦う・・・。


まず、勝利条件はなんだろう?

今回の場合・・・街と住民が無事であること、相手を殺害・精霊核を破壊することなく無力化か撃退すること。

なんてしつこい野郎だ!こんなしつこい奴に構ってられるかーい!ばっきゃろーい!とかなんとか言ってどっか行ってくれれば勝ちだ。


まぁ・・・ボロボロにされても立ち上がる不良漫画的展開で済めばの話だが。


では敗北条件は?

俺達の誰かが死ぬこと、街が壊滅してしまうこと・・・ってとこだろうか。

この国を守ろうとは全く思えないけれど、この街には世話になっているし愛着もある。

なにより旨い酒があるのだ。宿も愛着が湧いているしご飯も始めました。


・・・そう考えたら死ねないな!


とするとアプローチとしては・・・会話で済めば一番良いよな。

説得・・・いや、仲良くなれるとは微塵も思えないが、とにかくコミュニケーションを試みてみよう。

誠実に話をすれば聞く位はしてくれるかもしれぬ。

ククク・・・地球時代に培った我が営業トークを食らうがいいわ!


ふはははは!はーっはっはっはぁ!


俺の不敵な笑いが夜空に轟いた。

後ろの二人が嫌そうに距離を取ったのにも気が付かず。




 朝です。目が覚めました。

なんだか昨日はテンションが上がってしまったようだ。

やれやれだぜ。


「ぐむぅ・・・今日もいい天気だな太陽君。その調子で頼むよ」


適当な事を言いつつベッドから起き上がる。

煙草を咥えて火を点けながら今日のおさらい。


ギルドに行っておっさんに丸投げしてから、ドロスのおやっさんのとこに行くっと。

ほいじゃ飯食って出すもん出してとっとと行きますか。



ギルドに入ると昨日と同様に何処かどんよりとした空気が漂っていた。

緊迫した雰囲気の受付、ひそひそと相談しあう冒険者連中。


「アーシェさんおはよう!おっさんはもう来てるかな?」


受付でお茶を飲んでいたアーシェさんに向かった。

この人一番入口から近いからつい向かってしまうな。

綺麗なお姉さんだからというのもあるのも大きいだろう。

俺だって男の子だもん!


内心でバカなことを考えていると、アーシェさんは声を掛けられて初めてこちらに気が付いたらしい。

流石のアーシェさんも白夜来襲で調子を崩しているらしい。


「あら、ごめんなさいね。おはよう三人共。ジョージさんなら訓練場に行くって言ってたわよ」


「了解~!行ってみるよ」


アーシェさんとついでに顔見知りの冒険者連中にも手を振って訓練場へ。

おっさんは見覚えのある若い少年に稽古を付けているところだった。

意外と丁寧に教えているようだ・・・俺の時と対応が違い過ぎて信じられないが普段はああやっているらしい。

まったく信じられないが目の前では爽やかな風景が繰り広げられている。


「よし、大分いい動きになってきてるぞ。その調子で行けばいい剣士になれンだろ!」


「はいっ!」


「それじゃあ今日はここまでだ。また何かあったらいつでも来いよ」


「ありがとうございました!」


さて、終わったようだ。


「チッ、またお前らか」


初っ端から舌打ち!?

さっきの子と対応が違い過ぎませんかねぇ!?


「おっさん!待遇の改善を要求する!」


「却下だ。それで?今度は何やらかしやがったンだ?」


このおっさん酷過ぎる。

しかもやらかした前提という・・・まるで俺達が問題児みたいじゃないか!プンプン!


「・・・ユウだけ」


「問題児なのはユウだけだよねぇ~」


後ろで何か聞こえた気もするが華麗にスルーした。

高いスルー力こそがストレスを貯めないコツなのである。


「白夜のことで相談があるんだよ」


それを聞いたおっさんは流石に真面目な顔になった。


「・・・場所を移動すンぞ。ついてこい」


ぞろぞろと移動したのはおなじみの会議室。

なんか最近やけにここに来る気がするなぁ・・・。


白夜対策本部と化した会議室ではギルドマスターが矢継ぎ早に指示を出していたところだった。


「じいさん、小僧がなんか相談だってよ」


「む?そうか。丁度手が空いたところじゃ。朝食は食べたか?」


食ってきたと答えると、ギルドマスターは頷いて事務員らしき人に飯を頼む!と伝えた後でこちらに座るように身振りで促した。


おっさんも含めて着席したところで昨日の報告を行った。


「むぅ・・・精霊核持ち、か」


「しかもその女神の話じゃ悪いのは人間側じゃねぇか・・・とても現場に伝えられる話じゃあねぇ。正直言って聞きたくなかったぜ」


難しそうな顔で腕を組むギルドマスターと心底嫌そうな顔をするおっさん。


「とはいえ内容が内容じゃ。報告せんわけにもいかんじゃろ。・・・ふぅむ、領主にも伝えるべき情報じゃな。原因についてはともかく、精霊核については徹底させよう」


「頼みます。ところでSランクの方が来るって話ですが」


丁度良いのでSランクの人たちの事を聞いておこう。

彼らに任せるにせよ、俺達も参加するにせよどういうスタイルで戦うのか、どういう人物なのか位は聞いておきたいところだ。


「ああ、シフとスキールニルが来る手筈になってるな。シフはたった一人でワイバーンの群れを瞬殺出来る剛剣の使い手だ。スキールニルは4人パーティでバランスが良いし防御能力が高い騎士の上位職揃いだから盾役には最適ってわけだ」


「シフ・イーヴァルディの攻撃力とスキールニルの防御力が現状最高戦力になるじゃろう。勿論儂らも出ることになるじゃろうな」


「この街からは俺とミリー、シェイドとじいさんのパーティと領主と側近達による騎士パーティが2つ、ついでにお前らも入れて合計6パーティ24名になる。四本爪も行くとは言ってやがったが・・・バルドルが負傷、ガンツも凍傷喰らって戦線離脱中。防衛線となりゃ出てもらわなきゃならねぇが・・・」


「どこかのパーティに入れるにせよ即席ではたかがしれとる。それなら癒す事を優先してもらうわけじゃな。ことはAランクでも手に余る内容じゃ。お主らは断っても良いがどうする?」


どうする?と言いながら答えを確信してる顔だろじいさん。

一応聞いておかないとルール的にまずいのかな?

シャルさんとカリンをチラっと見ると二人ともしっかりと頷いてくれた。


まぁ、ここで逃げるのはなんか違うよな。


「風花も参加でよろしくっ!今ドラゴンの素材で装備作ってもらってるし竜神様に加護もらったから正面立っても大丈夫だぜ」


勿論二人を正面に立たせるつもりはないが、チームとして立つ分には問題がないように思える。

シャルさんは目端が利くから的確に援護してくれるだろうし、カリンも組んでから結構連携訓練なんかもしてきたので全く問題ないだろう。


新しい防具と作ったばかりの銃剣、なんか黒竜と闘ってから性能が上がった気がする黒の槍と、こっちの準備も万端になりつつある。


「この国で一番早い虎の子のワイバーン部隊で運んでもらっておるから、全員が揃うのは2日後位になるじゃろう。それまでしっかりと準備をしておいて欲しい」


「言うまでもねぇが事はこの街だけに収まる問題じゃあねぇ。王都からねじ込まれてきた貴族共はビビッてとんずらしてるらしいが、ここを抜かれれば何処に逃げたって同じなンだ。とんだ貧乏籤だがやるしかねぇ。せいぜい英気を養っとけや」


「おうよ、この街に来て日は浅いが・・・ここは気に入ってる。さっさと解決して、じいさんの奢りでたらふく呑ませてもらおうかね」


ウィンクしながらそう返すと、じいさんは驚いた顔になった後、笑い出した。


「フハハハ!良かろう。無事解決した暁には胃がはちきれるまで呑ませてやろう。領主殿にも金出してもらうがの!」


「ククク。そいつぁいいな。オイじいさん!当然それにゃ俺達も入ってンだろうな?」


「勿論じゃ。身内なんてケチ臭い事は言わん。街中でお祭り騒ぎにすりゃいいじゃろ」


「・・・なるほど。それならすぐに街の連中に流しておこう」


「それがいいじゃろうな。今から負ける気で居っては勝てるものも勝てんよ」


ほう・・・いい案かもしれないな。

白夜襲来の報は瞬く間に街中を駆け巡って、この街に縁の無い行商や王都を本拠とする貿易商、旅人や他国出身者などは既に街を出ていってしまっている。

さっきおっさんが言った話の通りなら、貴族連中もとんずらこいた後。

残っているのは逃げようにもこの街以外に知り合いが居なかったり、何処に逃げても無駄だろうと諦めている人、長旅に耐えられそうにない年寄は病人、子供・・・。


当然ながら経済活動なんて有って無いようなもの。

食うに困るような事にはまだ至ってないが、この街だけで自給自足出来る保障もない。


カリンの親父さんはともかく、豪商の娘だという義理の母ならその辺りきっちり対策は打ってあるだろう。

ある程度保管してあるだろう食糧、薬なんかも気になるところだ。


そこで解決と同時に領主とギルドからの勝利のお祭り。

取らぬ狸の・・・になりそうではあるが、そうやって先に希望が見えていれば、街の人達も少しは前向きになれるかもしれない。



決戦まで後3日。


汚い話で恐縮ですが、トイレでお尻を拭いていたところ腰が逝ってしまいました。トイレでヒィヒィ言うはめに・・・。

皆様腰は大切に。

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