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大変遅くなってしまい申し訳ありませんでしたぁぁ!
作者腰をやってしまい・・・ようやく座れるようになりました。
最後の方は少し悲劇テイストになっています。
~~~中央通り兵士詰所・隊長室~~~
なんでこんなことになったのか。
国の辺境である場所柄、魔物共の対応に苦慮させられるのは今に始まったことじゃあない。
ないが、未だ記憶に新しいあの事件・・・オークキングが現れただの統率されたオークの数が2000だのとすわ街の危機かと兵士のみならず辺境に住む者皆が背中に嫌な汗をかいたものだ。
兵士達はあまりにも多い軍勢に悲壮な覚悟を決め、住民にも不安が広がりつつあった。
それが終わってみれば・・・冒険者達の活躍であっさりと解決されてしまったのは、街を守る守護者という矜持を持つ領主軍としては諸手を上げて歓迎というわけにはいかない結果ではあったものの、犠牲者ゼロというのは誇って良いものだろう。
面子だの税金で維持されている我々の存在意義だのと上の方では言う者もいたそうだが・・・現場で30人を指揮する程度の自分には関係がないことだ。
そうはいっても未曽有の危機を冒険者が華々しい活躍でもって解決してしまったことで、住民達の信頼や安心感を冒険者ギルドに向けるのは仕方がない事だとはいえ、口の悪い同僚などは、自分達はいらないんじゃないか等と言っている・・・。
まぁ、流石にそれに同意出来るものではないが・・・そこにきて今回の白夜襲来だ。
またもや発見したのは冒険者パーティ。
いい加減俺達にも見せ場をくれよ!などと言う者もいるが、いやもうこればかりは仕方がないことだろう。
・・・なにせ外縁部を撫でるように巡回する程度の自分らと違って、彼らは森の中が主な活動エリアなのだから。
とはいえ根無し草の冒険者風情が生意気だ。次に一朝事あらば!と息巻いていた軍幹部達は絶望的ともいえるその報告に一斉に沈黙したのは蛇足ではあるか。
情けない話だが・・・巨大であるとか、数が多いであるとかその程度であれば問題が無いものの超強力な個体が単独で・・・となると途端に自分たちには荷が重い、という話になる。
集団戦闘を得意とする我々の戦闘スタイルと今回のような広範囲にダメージを与えるような手段を持つ相手は最悪の相性といっていい。
まして相当上手く囲い込めたとして、せいぜい一度に攻撃出来るのは4人程度。
援護射撃や中距離からの長槍で援護したとしてもたかが知れている。
それでも領主閣下が陣頭指揮を執ってくだされば、絶対に勝てないともいいきれないと思う。
政務でお忙しい閣下でなくとも先頃のオーク共であれば十全に我々の力を発揮出来たのであろうが・・・。
気の早い奴らは家族を疎開させ始めているが、最も早く情報を得た軍関係者が率先して逃げ出すという異例の事態に住民達に不安感と不信感が増していくのは軍の一員として恥ずかしい話だ。
領主閣下は戦場で功を上げたたたき上げの軍人一族であり、閣下個人の武勇は勿論のこと、指揮能力でも群を抜いておられ貴族の誇りだの義務だのと声高に言いながら実際には何の役にも立たない木端貴族共とは違って、こと戦いに関しては慎重かつ大胆であられるから情報が入った途端に主だった側近達に間髪入れずに指示を出された。
一つ、詳細な情報を多角的に収集するため、冒険者ギルドと連携をとること。
一つ、軍は率先して住民達に広がるであろう不安感を取り除くために行動し、暴動、犯罪行為などを抑止するべく巡回頻度を二倍に増やすなどの対策をとること。
一つ、貴族及び軍人においては矜持を持って行動し、くれぐれも軽率な行動をとらないこと。
・・・残念ながら、最後については大隊長クラスの子爵・男爵クラスの者達が順番に家族を逃がしている状態であり、領主様の指示が守られているとは言えないが、流石に上司の家族にここは通せない!とは部下達も言えずに何とも言えない表情とモヤモヤした気持ちを押し隠しながら黙認している状態だ。
正直に言って、大穴が空いた船から鼠が逃げ出すようだと言ったあの冒険者の若者の言葉に内心言いえて妙だと頷いたものだ。
登録してから1月と経たずにオークキング討伐作戦に参加し、活躍したという彼らでも流石に今回は厳しいのではないだろうか。
おっと・・・交代の時間だ。
犯罪が増えてきていることだし、今日も気合を入れて巡回に出かけるとしようか。
~~~神殿・祈祷室~~~
「貴方達にお願いがあるのよ~」
お茶をずず・・・と飲みながら女神が言う。
「白夜を殺害することなく撃退して欲しいの。手段は問わないから・・・お願い」
この女神様、のほほんとした雰囲気ながらとんでもない事を言い出したぞ。
シャルさんとカリンは唖然とした表情である。
そりゃそうだ・・・明らかに格上の相手をするのにこちらにばかり条件付き。
俺じゃなくても愕然とするに違いない。
「・・・なぜ俺達に?この国にはSランクの冒険者がいるんだろう?ギルドが急いで召集してるって話だし、彼らの実力は知らないが・・・俺らより高い事はあっても低いわけがない」
俺の言葉に女神はのんびりとした態度を崩さない。
コトリ
湯呑を置いた手を組んで、女神は再び口を開いた。
「それじゃつまらないでしょう~?」
「おいまてコラ」
つまらないってなんだよ!
こっちは洒落で済まないんだよ!?
「Sランクの冒険者が複数。確かに難易度からいっても打倒でしょうね~・・・でも、果たして本当にそうかしら、ね」
言葉と共に意味ありげにこちらを見る女神。
ゴクリと生唾を飲み込む音が隣で聞こえた。
「それもそう・・・・なわけねぇだろうよォォォ!?」
あっぶねぇ!?
危うく頷きそうになったぞ。
「チッ」
舌打ち!?
舌打ちしたよこの女!
「ちょ!?おかしいでしょ!なんなの!?」
「・・・う~ん。こうなったら直接転移させちゃおうかしら・・・うん、それがいいわね」
なんだか剣呑なことを言い出した女神。いや駄目神。
放っておいたらマジで直接配送されてしまいかねないよ!?
「いやいやいや!せめて理由を言え!命かける以上は納得させろ!」
流石にこちらが本気で怒っているのが分かったのか、女神は頷いた。
両手を左右に広げて肩を竦める。
やれやれ・・・そう言っているように見える態度だ。
いちいち腹立つな。
「怒らないの~。ちょっとした冗談じゃないの。小粋なゴッデスジョークよ」
ゴッデスジョーク!?初めて聞いたわ!!
そして小粋でもねぇよ!?
「バカ言ってねぇで早く説明!ほれ!はよ!ナウ!」
「あらあら、困った子ねぇ・・・私達にも言えないこともあるから全部は説明出来ないの~。でもそうねぇ・・・精霊核持ちを殺してしまうと不味いのは理解してるわよね?」
最初の言葉はスルーだ。
話が先に進まない・・・同じ結論に達した三人とも頷いた。
細かいことは分からないが、神が作った巨大なシステム・・・その中において精霊核を持つ精霊というのは重要な存在であり、消してしまえば何らかのエラー・・・この場合は氷系統の魔法・概念が軒並み使えなくなる。
よくあるファンタジーな物語だと氷魔法というのはあくまでレアな属性であって、一切出てこない・・・なんて場合もあるから大したことないんじゃないかと思うが・・・
「氷属性が無くなると生鮮食品の輸送関係が全滅するわねぇ~。保存出来なくなっちゃうし。食事関連はまず間違いなく退化するでしょうねぇ」
・・・非常にまず~い事になっちまうわけだ。
「というわけで~・・・話は最初に戻るのだけれど~・・・ね?」
ね?ではない。
「・・・白夜はどうして?」
カリンが小さく呟いた。
シャルさんが顎に手を当てて唸る。
「う~ん・・・そういえばそうだねぇ~?ボク達な~んにも知らないけれど、相手の事が分かれば対策も考えられるかも~?」
うん・・・孫子の兵法ではないが確かにそうだ。
「ふむ・・・確かにそうだな。・・・女神さん。そこんとこどうなの?」
女神はゆっくりと頷くと、話始めた。
ある少女の物語を。
むかしむかし。あるところに精霊の女の子がいました。
彼女は精霊の中でも特に力がある精霊核持ちでした。
とはいっても何かやらなければいけないことは特にありません。
彼女は好奇心旺盛であったので、興味をひかれるままフラフラと世界を旅していました。
とはいっても、彼女の周囲は常に冷えてしまうので、暑いところには行かずに寒いところを転々としていました。
そんなある日、雪熊に乗って散歩していると、雪に埋もれそうになっている青年を見つけました。
雪山を越えようとして、吹雪にあって遭難してしまったのでした。
放っておけば死んでしまうと思った心優しい精霊は青年を助けてあげることにしました。
青年が目を覚ますと、そこには美しい少女が心配そうにこちらを見つめていました。
少女が助けてくれたと気が付いた青年は何度もお礼を言いました。
少女が嬉しそうに笑うのを見て、青年は・・・恋に落ちてしまったのです。
少女が精霊だと気が付かずに・・・。
お礼に何か話をして、と言われた青年は商人として店を持つという夢を少女に語りました。
今は行商人だけれど、お金を貯めていつかは、と。
青年は恋した少女と一緒に居たいと思いました。
彼は一生懸命、一緒に来て欲しいとお願いしました。
少女は困ったようにしばらく考え込んでいましたが、やがて顔を上げると、コクリと頷きました。
一生懸命な青年を少女も好きになってきていたのです。
青年と少女は旅をしました。
様々な国で仕入れた物を欲しがる所に持っていって売る。
青年は少女の助けもあって、山賊や魔物に会うこともなく順調にお金を貯めていきました。
一生懸命な青年とそんな青年を助ける健気な少女。
いつしか二人は深く愛し合うようになりました。
そうして、数年後。
ついにお店を構えるだけのお金を貯めた青年は、少女に言いました。
妻になってください、と。
少女は嬉しそうに頷きましたが、そのあとで思い出したようにこういいました。
私、ニンゲンじゃないけど大丈夫だよね?と。
青年はビックリしてしまいました。
不思議な力を持つのは分かっていたけれど、まさか人間じゃなかったなんて。
では彼女は・・・?
もしも、最初に少女が精霊だと伝えていたら。
もしも、青年の愛が本物であり続けていたならば。
幸せに暮らす夫婦が一組、生まれるだけだったのに。
順調に商売を成功させていく内に、青年の心は少しづつ、少しづつ変わってしまっていたのでした。
少女の助力を当たり前のモノだと思うようになり、金の力で人を顎で使うようになっていました。
彼は・・・青年はもう別人のようでした。
青年は激怒しました。
そしてこう言いました。
「今までよくも騙してたな!この魔物め!」
あんなに愛していると言ってくれたのに、と少女は混乱しました。
それでも必至に言いました。
「騙してなんかいない。私はあなたを愛している」
青年はそんな少女を店から追い出すと、少女が魔物だったと触れ回りました。
いつも笑顔で挨拶してくれた近所の老夫婦は恐怖で悲鳴を上げて少女から逃げます。
困ったことがあったら相談して、と言ってくれていた近所のお姉さんはあっちへ行け!と石を投げてきます。
少女は泣きながら逃げました。
それまで優しかった人間の誰もが、彼女を攻撃しました。
やがて・・・命を狙われるようになりました。
それでも精霊である彼女を害する程の実力者は居ませんでした。
止むを得ずに反撃する内に・・・彼女の心は凍っていきました。
もう誰も信じられない。
ニンゲンは卑劣で、嘘つきで、傲慢で、どうしようもない害悪だ。
ニンゲンなんて・・・
ミンナイナクナレバイイ
周囲を真っ白な世界に変え、生ける者全てを凍てつかせる彼女は・・・やがて白夜と呼ばれるようになりました。




