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大変遅くなってすいませんでした。


~~黒の森深部・死の丘~~


 一面を氷の世界に支配された森の一角で一人の女性が舞っていた。


ヒラリハラリ


舞う程に雪の勢いが増していき、氷の世界が広がっていく。

元は深い森であったそこは既にその面影を失っていた。

それを何の感情も見えない瞳で捉えながら、それでも舞う。


「凍れ・・・凍れ。死の雪よ、葬送の氷よ、全てを止めておくれ。妾の嘆きも諸共に」


青いヒラヒラとした着物を翻して白夜と呼ばれる女は舞う。

その表情は凍りついたような無表情。

蒼い髪も青白い肌も白い着物も全てが美しい女は舞う。

凍りついた樹木、氷像と化したSランクと恐れられる魔物達、誰も彼もが動きを止めていた。


その舞を見つめる2対の瞳。

かなり距離を取って観察しているのは、ミリーとシェイドの教官組であった。


「離れる様子はない、わね・・・」


「・・・ああ」


「Sランクのヘイズルーンの群れもヘィズクワも相手にならず・・・精霊交信は相も変わらずノイズ混じりで使えず、か」


「・・・ああ」


「白夜がこの森で止まっているのは奇跡ね。聞いた話だと人間を殺す事を特に喜ぶようだから」


「・・・そうだな」


ふと口を閉じたミリーは隣をジロリと見つめた。

年齢を重ねた渋いアッシュグレイの髪と口髭を持つ紳士といった風情のシェイドは、端正な顔をキリッと引き締めて真剣な表情で白夜を見つめていた。そう、熱く見つめていた。


「・・・ねぇシェイド」


「・・・そうだな」


「・・・胸の大きさは?」


「丁度いい」


「・・・」


「尻の形もいいな」


「・・・」


ややあって。

ゆっくりとミリーを見たシェイドの額には冷や汗が一筋。

キリッとした顔は崩れて口の端が痙攣するその表情は、やっちまったと顔に書いてあるようにも見えた。

白夜もびっくりな冷たい目線でシェイドを見るミリー、冷たく一言で釘を刺した。


「真面目にやってね?」


「・・・はい」


元王国辺境方面軍・特殊分遣隊第一部隊長を務めた事もあるシェイド・ハーマイアン(44)。

彼は国一番の腕利き斥候職・シーフマスターであり、一流の戦闘者であり・・・普段は頼れるおじ様と女性冒険者に特に人気なのであるが、彼は女性が非常に好きだった。その無駄に高い技術で気づかれることなく女性の体を盗み見ることにかけて彼の右に出る者はいない。





~~神界・資源管理部~~


「どうするのよ!!このままだとあの森無くなっちゃうわよ!?」


バンっと机を叩いて叫ぶ同僚を他所に、ゲヴェーアはゆっくりと茶をすすった。

地球とかいう星の日本という場所で飲まれている緑茶というものを試してみたのだが、なかなか旨い。

思わずほぅっと息が漏れてしまう。

これが・・・茶の心。

だが、そのおっとりとした態度は相手を更にヒートアップさせる効果しかなかった。

バンッ!


「ちょっと!聞いてるの!?」


「ふぅ、お茶がおいしいわねぇ」


「だァァァッ!何呑気にお茶なんか飲んでるのよ!!そんな場合じゃないでしょう!?」


「あらあら、アオフちゃんそんなに怒らないのよ?」


「誰のせいだと思ってんのよ!!あんただって分かってるんでしょ!?あの場所はやばいのよ!?なんか少しずつ近づいてるしもしかしてあそこにある・・・」


コトリ。相手は湯呑を置いただけ。ただそれだけだが、何かを感じた彼女は口ごもった。

あの森のアノことは禁則事項。

口にするだけで罰せられることもある極秘中の極秘。


「アオフちゃん?」


「ウッ、悪かったわよ・・・。でもこのまま放っておいたらまずいわよ!?」


必死に言い募る同僚にゲヴェーアはゆっくりと腕を組んだ。

組んだことで強調された凶悪な質量の物体が二つ、垂れることなく真っ直ぐに前を指す巨大な胸部に戦慄するアオフクレーラに気づかず、人差し指でトントンと頬を叩く。

それを見ていた男性でもある部下の下級神達が前かがみになったりしたが、彼女に気がつく様子はない。


「そうねぇ・・・困ったわねぇ」


「変質してしまったとはいえアレも精霊、しかもよりによって核持ち。殺してしまったらマズイのはわかるわ。でも放っておくわけにもいかないでしょう?あんたの力を使えば・・・」


「オアフちゃん。神が簡単に力を使ってはいけないっておじいちゃんが言っていたでしょう?」


のんびりとした口調の女神にぐぬぬ・・・と唸るアオフクレーラ。

それはそうなのだが・・・まずいのだ。

まだあそこからは距離があるから影響は出ていないが、もしも更に近づくようであれば・・・。


「世界の危機でも実害が出なければ動けないなんて・・・まったくこの身が嘆かわしいわ!」


「うふふ。今回は地上の子達が頑張ってるみたいだし、任せておきましょう」


「・・・人間に勝てるとは思えないわ」


「それならそれで仕方がないわよ。私達は大地と森を守るのがお仕事でしょう?」


「ぐぬぬ・・・あ!なら戦闘系の武神等あいつらに言えばいいんじゃない!?」


名案!とばかりに喜色を浮かべるアオフクレーラにゲヴェーアはゆっくりと首を振った。


「だめよ。あの子達に任せてたら森が無くなっちゃうわ。それに殺しちゃだめよ」


「う、それもそうね・・・下級神でも天災級の力だものね・・・中途半端過ぎて面倒な相手だわ」


「私達からするとそうなのよね・・・うん、神託を出しましょう。神託課に許可をもらってちょうだい。相手は・・・そうね」


解決出来そうな人物を脳裏に浮かべながら、瞳を彷徨わせる。

ふと、手に持ったままの湯呑をみて思いついた。


「うふふ、あの子達なら・・・単独では無理。それでも可能性はあるかしら」






~~ドロス武具工房・地下~~



「親方ぁ!この爪は斧でいいんでしょう?」


ガンガン、ゴンゴンと槌が、ノミが奏でる職人の音楽ともいうべき音がリズミカルに響き渡る。

器用で豪腕を持つドワーフならではの力強くも繊細な作業。

その中で一人の職人が黒竜の牙を手にドロスに叫ぶように尋ねた。


「おう!そいつは削り出しだけしといてくれ!持ち手まで一体型にすっから気をつけろよ!」


ドロスはそのまま竜鱗がついたままの皮を加工している職人を見る。


「おう!きっちり耐寒性能が付くようにしてくれぃ!もしかすっとすぐに実戦投入することになるかもしれんぞ!」


ドロスの采配で龍鱗の剣が、龍鱗の小手や鎧が、竜爪の両手斧や尾棘の投槍が、と様々な形に変わっていく。

一生に一度やれるかどうかの大仕事に職人達の目は爛々と輝き、むき出しの上半身の筋肉が躍動し、工具が踊る、踊る。


その姿を見て、思わず引いてしまう三人組。


「うわぁ・・・・」


「ん。暑苦しい」


「あ、あはは・・・」



盛り上がってきたのかさらに激しく動き出したドワーフ達にオレもカリンもドン引きだ。

シャルさんも流石に苦笑いしか出てこない。

さらには何か俺たちには分からない何かのゲージが溜まってしまったのか汗で輝くマッシヴな肉体を持つ漢達が大声で歌いだした。


「儂等は洞窟生まれのドワーフ!(ドワーフ!)鍛え抜かれた筋肉で~!(筋肉!筋肉!)どんな素材も鍛えるぞぃ!(筋肉!筋肉!)竜でも悪魔でも持ってこいや!(貧弱!貧弱!)あぁ儂等はドワーフゥ!(ドワーフゥ!)」


パタン


思わず部屋から出て扉を閉めた。

表情は三人共真顔だ。

真顔のまま頷きあって工房を出た。

あそこは既にマッスル界の筋肉祭りだ。異界である。


「・・・どうしようね」


「・・・ん」


「そうだねぇ・・・ん?」


何かに気がついたように空を見上げるシャルさん。

同じように空を見上げてみるが・・・特に変わったところは無いように思える。


「なんか・・・神殿に行くといい気がする~・・・なんでだろ」


直感、か?

シャルさんは時々こうした方がいい!とかこっちの方が良いとか何となく感じることが出来る。

彼がこういう時は従うことにしている。


神殿内部、神様とのやり取りをいつもしている礼拝の間に入ると早速シャルさんが前に出た。

彼の直感に従うならば彼に任せたほうが良い。


「僕達を呼んだ方、いらっしゃってくださいませんか~?」


中空を見つめながら声を掛けるようにして祈るシャルさん。

応えは直ぐに現れた。


顕現したのはおっとりとした女性神。

とんでもないボディの持ち主だが、厭らしさは感じない。


「こんなに早く応えてくれるなんて嬉しいわ。はじめましてね、三人共」


そういって女神が笑った。


竜神スセリ様が残したちゃぶ台と座布団、畳を出して茶を淹れる。

飲み物があると便利とギルドマスターが教えてくれたので早速用意してみたのだ。

緑茶、紅茶が何種類か、今後はコーヒーや蒸留酒も欲しいところだ。

今日は勿論、緑茶を用意したのだが女神はそれを嬉しそうに飲んだ。

ずずず・・・とすするのは地域によってはマナーに反すると思うのだが、緑茶はすするもんだ。

熱いしな。


「うふふ、おいしかったわ」


「そういってもらえると嬉しいけど、今回はどういう要件だい?」


お代わりを淹れてあげながら聞くと、女神はそれを嬉しそうに見ながら少し真剣な表情になった。

少しというところが彼女の性格を表しているかもしれない。

なにせおっとりマイペースな風情なのだ。


「今回の、貴方達が言う白夜の事なのだけれど・・・殺しちゃダメよっと言いにきたの」


だがその口から出たのは剣呑な内容であった。


「殺しちゃ・・・だめって」


「ん~?殺さないように手加減出来る相手じゃないと思うんですが~」


「・・・」


思わず反論してしまうが、相手は本当に洒落にならないらしいのだ。

近づくだけで一苦労、Sランクの冒険者複数を一蹴出来る化け物クラスに手加減なんぞしていたらこっちの命がいくらあっても足りない。


「・・・もしかして」


「どした?カリン」


カリンが驚いたように顔を上げた。

何かに気付いた、か?


「精霊核持ち?」


精霊核?持ち?

聞きなれない言葉にシャルさんを見るが、彼も分からないらしく首を傾げている。


「そうなの。白夜は精霊核を持っているから倒してしまうとこの世界のバランスが崩れてしまうの。それに氷系の精霊魔法が消えてしまうわねぇ」


ずずず・・・女神が茶をすする音が石造りの室内に響いた。

どうやら今回の事件、難易度が上がってしまったらしい。

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