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目が覚めると知らない天井だった。ぼんやりしながら辺りを見回していると、先に起きていたのかミーネさんが部屋に入ってきた。
「ユウさん、おはようございます」
ミーネさんの声でようやく目が覚めた。あれ?・・・そうだ。異世界きたんだった!
「おはようございますミーネさん」
軽く朝食の準備をする。火を起こすのはミーネさんがしてくれたので干し肉の塩気を利用してスープを作ってみた。食べてみてびっくり、やたら美味かった。何の肉か分からないが物凄い旨味が出るのだ。
朝は少食だったはずのオレがガツガツ食べながら、食事を取らないミーネさんに今日の予定について確認した。
ミーネさんはオレが淹れた茶のような飲み物を飲みながら
「それでは今日は戦闘訓練ということでいいですか?」
「ええ。出来れば色々教えてくれると嬉しいんですが」
「ええ、構いませんよ。ただ・・・」
ミーネさんの表情が曇った。これは・・・落ち込んでいるのか?何か問題であるのだろうか。
「私が教えると、なぜか皆逃げていってしまうんです。少し・・ほんの少し口も悪くなってしまいますしそのせいかもしれません」
なるほど・・・かなり厳しい感じなのかな?優しげな女性にボコボコにされたら男は落ち込んでしまうとか・・・?でもこの人は女神だしな・・・。
だけどこの世界で生きていく為には必死にならなきゃならない。
平和な日本でのほほんと生きてきた経験はある意味ハンデになる。だからこそ必死にならなきゃ生きていけないだろう。
「いえ、厳しいのであれば望むところです。オレは戦いの無い国で育ったので命をかけた戦いをしたことがないんです。正直、命を奪うことにも躊躇があります。なのでミーネさんにぜひ教えを願いたいです」
決意を込めてミーネさんを見ると、ミーネさんは驚いたように目を見開いたが嬉しそうに頷いてくれたのだった。
所変わって神殿の前にある広場に来ました。
ミーネさんに言われて、エルさん印の服にベルトをしっかり締めて鉈とポーチを腰に。
今更気がついたが、なぜか履いていたブーツの紐をしっかり締めておく。スニーカーだったはずなんだが・・・。
「まずは動きやすい格好で。午前中は最低限の装備で様子を見ますので」
「わかりました」
ミーネさんの頭の中では既にプランが出来ているようだ。これからはミーネ先生と呼ばねば・・・。
軽く飛び跳ねたりして確認する。うん、問題なさそうだ。ミーネ先生、よろしくお願いします。
「それでは、始めますね。それと言葉遣いはもっと崩して構いませんよ。名前も呼び捨てにしてください。私も崩して・・・というより崩れていくと思うので」
「しかし神様に向かって失礼では・・・」
「大丈夫ですよ。むしろ中級神であるズィッヒェル様をエルさんて呼んでるじゃないですか」
そういわれればそうか。でもエルさんはある意味同志というか心の友というかですね・・・。
それからしばらく譲りあったが、結局はお互い呼び捨てでいくことになった。
そんなやりとりの後、ようやく訓練開始となった。
「まずは自分のステータスを体感してもらいます」
ミーネ先生曰く、どんなに高いステータスも自分が理解出来なければ宝の持ち腐れになってしまう。ステータスの数値だけで自分を過信して返り討ちにあったりする冒険者が沢山いるらしい。
レベルが上がった直後が注意とのことだ。気をつけよう。まだ1だけどな!
そういうわけでまずは延々と走った。持久力や敏捷性を見るらしい。
ちなみに速度が落ちるとミーネ先生の怒声が炸裂する。口だけじゃなく手も出る。先を考えて体力を温存しようとしたら即座にトンファー(貸したやつ)の一撃を後頭部にいただいた。
先生!先生!頭部はやめてください死んでしまいます。
切り株に座っていたはずが、一瞬で背後にいるのだ。油断したら即やられると思った方が良い。
ミーネ先生からは逃げられない。
結局、1時間程全力で走り続けたところで倒れた。自分でも聞いたことがない呼吸になっている。ブヒュー・・・ゼ・ヒュー・・・ぜ、全力はきつい・・・。
「現在のステータスで全力疾走出来るのがこれくらいだ。今のスピードと持久力をよく覚えておけ。雑魚なりに自分を把握出来たな?・・いつまで寝ている。休憩は終わりだ。立て」
誰だコイツって思った?ミーネ先生だよ・・・訓練開始した直後に口調が変わったんだ。呼ぶ時には名前どころか、オイ!それで本気か?この雑魚!とか言われるんだぜ。雑魚、へへ・・・。
これはある程度心得がある状態で言われたら心が折れるかもしれないな。
オレ?オレが雑魚なのは事実だし、現場時代は口の悪い職人が沢山居たから慣れてるっていうのもある。
完全な初心者だから変なプライドとかないし、人格を否定されているわけでもないしな。しかしミーネのやり方はまるで某国海兵隊だ。
そのうち、このピーー野郎!とか言われてしまうんだろうか。
おっと・・・余計な事考えてたらまたヤラレてしまう。瀕死の動物でもこんなに弱々しくないだろうと自分でも思ってしまう程ヨロヨロとしながらも何とか立ち上がった。
「遅い!倒れててもすぐに立ち上がれないと死ぬぞ!訓練と思わず実戦だと思え!」
ごもっとも。ごもっともなんだけど体が付いていかないんです軍曹殿!衛生兵を!衛生兵を小官に!
「何を言っている。無駄口を叩くな!次ィッ!」
終始こんな調子で、どれだけ身体能力があるのかを確認した。
地球に居た頃、いや学生時代や現場時代でもここまで体力や腕力は無かったと思う。
それに反応速度や反射神経などもそうだ。明らかに向上しているのだ。
そもそも喫煙して肺活量が可哀想なことになっている人間が全力で1時間も走れるわけがない・・・普通に死んでしまいます。
しかしこの事実は確かに把握してなかったら宝の持ち腐れになってしまうところだ。性能を生かせないまま死んでしまう。
腕力もかなりあるように思う。現場時代に両手で使っていた工具が片手で振り回せそうだ。握力もかなりあるみたいだし、ジャンプ力やダッシュ力、柔軟性なんかも上がっていた。きっちり把握出来れば十全に発揮出来そうだ。
なんかやってる途中で微妙に力が上がった気もする。気のせいか・・・?
身体能力の把握で午前中は終了した。望んだことだから文句もないが既に身も心もボロボロだ。ちなみに軍曹殿は汗一つかいていません。
飯を作る気力もないので、ヨロヨロと朝に作った干し肉入りスープの残りを温め直して硬いパンと一緒に苦労して食べ終えたところでもう少し時間をかけて良いと指令が。
早く食べてすぐ動く必要がある場合も勿論あるが、今日は初日なので己の血肉になるようにしっかり栄養を補給しろとの事。・・・軍曹殿ソレもう少し早く言って欲しかったであります。
が、正直ありがたい。すぐに動ける程に回復してないので軽くストレッチをしながら休む。
ちなみに休憩中は普通のミーネに戻っていた。
訓練になるとスイッチが入って鬼軍曹になるようだ。落差がすごい・・・。
午後は剣の握り方や槍の持ち方から振り方、弓の構え方などの基礎を教えてくれた。何とか覚えたところで軽く模擬戦もした。オレにも見えるように動いてくれたので分かりやすいのだが終始、武器に振り回されていた印象だ・・・。
授業で剣道や柔道をやっていたので何とかなるかと思いきや全然ダメだそうだ・・・武道って精神修養な側面があるしな。
道場でしっかり学んだならまた違ってくるのだろうが、授業で汗を流す程度では話になるまい。
こりゃ地球で習った武道は忘れた方がいいな。かえって邪魔かもしれん。
「対人戦の場合や魔物の場合など、状況で戦い方は変わるが、その辺りは雑魚にはまだ早い。まずは相手の動き出しをよく見ろ。足の動き、指の動き、視線の動き、魔力の動き」
意外な事にミーネ先生の教え方は上手かった。丁寧というわけでもなく、むしろ乱暴だと思われるのに、いちいち分かりやすいのだ。
自分も新人指導や部下の教育をしていたから分かるが、作業のコツを分かりやすく教えるのは意外と大変なのだ。
まず自分が100%理解していることが重要だし、経験からくるコツや注意点なども人によって言うことが違う・・・なんてことがザラにある。
複数の先輩に教わって逆に混乱した、なんて話もよく聞いた。
教えられる側は自分の中に一先ず全て受け入れて咀嚼し、取捨選択していく事になるがどうしても時間がかかる。
ミスだってするし、同じ説明でも受け取り方が違ったりもする。
理解に掛かる時間もそれぞれだ。
こればっかりは経験や相手をよく見ながら手探りで指導していくしかないのだが・・・さすが軍曹殿です。
午後も夕方近くまでかかってある程度教わったところでミーネ軍曹殿から言われたのだが、オレはかなり器用な方らしい。
なにせユニークスキルが器用貧乏ってぐらいだからな・・・レベルも5と高めだし早熟ってスキルもある。
軍曹曰く各武器の習得はおかしい位早いのだと。一方で魔力操作や魔法を使うには時間が掛かるそうだ。
使えないわけではないが、それよりも長所を伸ばしてオールラウンドに戦える戦士を目指した方が良いらしい。
30過ぎて魔法使いというと色んな意味で嫌だったので個人的には戦士でいこう。
この世界の人間なら誰でも使えるという生活魔法は覚えたいけれど。
生活魔法には洗濯や着火、うんちをしてもカラッカラに乾燥させて塵に帰す魔法なんかもあるそうだ・・・。
それ攻撃に使えるんじゃないか?と思ったが、かなり狭い範囲にしか使えず、魔力を持つ生物には発動しないらしい。
干渉力が低い為、他人の魔力には抵抗されてしまうのだとか。
ともかく基本を教わったばかりだが、習ったことは出来るようになったし、もう少しスキルが上がればある程度振るえるようになれるそうだ。とはいえまだ殆どのスキルがレベル2で一部3ってとこなので強くなった気は全くしない・・・。
比較相手が軍曹殿しかいないしな。
差がありすぎて分かりません。
ある程度基本を修めたところでミーネ軍曹から全ての武器を一流レベルで使いこなせるようになれと指令が下った。その言葉はオレの一つの指標というか目標になる。
一つの事をずっと突き詰めていくよりもいろんな経験を幅広く得たいっていうタイプのオレにピッタリな気がしたので喜んで承諾した。
飽きっぽいともいう。
目指すのは、どんな武器でも戦える一流の冒険者だ!
---ステータス---
個体名:ユウ・ミサキ
種族:ヒューマン
年齢:18才2ヶ月
職業:中間管理職、
レベル:1
生命力: 50/169(+16)
魔力量:120/120
力 :F
体力:F+
器用:E
敏捷:H+
魔力:G
知力:F
精神:E
運 :C
ースキルー
”アクティブスキル”
鎚術2(1up)、剣術3(1up)、短剣術2、刀術2new、斧術2new、棒術2new、槍術2new、杖術new、拳闘術1、蹴撃術1、投げ技1、関節技1、投擲術1、弓術2(1up)、手当1
”パッシブスキル”
ステップ1、持久走1new、軽業2、地図1、方向感覚1、サバイバル1、部隊指揮3、指導3、登攀1
ストレス耐性5(1up)、耐寒1、耐暑1
”生産系スキル”
釣り3、料理2、鍛冶1、木工1、機械操作1
”ユニークスキル”
早熟MAX、起用貧乏5、アルマトゥーラ言語MAX
”祝福”
ズィッヒェルの加護(特)、シュヴェアートの加護(笑)
”称号”
苦労人、胃痛の友(笑)、器用貧乏、神認定お人好し、異世界より来る者、中級神の強き加護を得し者、神の弟子new