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 とんでもなく疲れた転職部屋から逃げるように出たあとはしっかりと、それはもうしっかりと鍵をかけて鍵を返却、カリンの背中を押すように神殿を出た。


外の空気に触れてようやく落ち着いた。


「ふぅ・・・まったく最近職業神じじいの横暴がひどすぎる!職業選択の自由を知らないのか!」


「お気に入り」


「いやな気に入られ方ですね!?・・・忘れよう。ドロスさんとこ行こうぜ?ちょっと武器見て落ち着きたい」


「異常」


カリンは容赦がなかった。

色んな武器眺めてるとワクワクしないか?こう・・・胸が熱くなるよな。

カリンを見るとゆっくりと首を横に振った。それはそれは残念そうな表情付き。

どうやらオレに味方はいないらしい。


「出来ればシャルさんと合流して、加護関係も相談したいしな」


「ん。補正?」


「おう。シーフ関係の神様も多分いるんだろ?その人とかに頼んでみよう」


話しながら歩いていると、突然手の中にハルバードのクロちゃんが現れた。

なんだ!?なんなのこの機能!?

驚いていると、クロちゃんが威嚇するようにビカビカと光った。

カリンの体も少し震えている・・・?不信に思って顔を上げると


「また会ったなぁ・・・出来損ない、それに小僧」


「・・・」


目の前に居たのは騎士装束に身を固めたシュバイツ家の次男坊、アンドレア。

ご丁寧に盾と短槍、腰には前にも見た覚えのある片手剣を吊っている。

フル装備だ。演習の帰りなのだろうか?

その割には身奇麗な格好だが・・・。

思わず溜息をついた。

やれやれ、最近見てないから忘れてたけど神殿って城塞に近いんだったな。


「ん?えっと・・・どちら様ですか?」


「貴様ッ!どこまでも俺をおちょくりおって!・・・ん?なんだそのハルバードは」


「さぁ?オレの相棒に何か?」


騎士だけあって、武器に興味が惹かれたのか尋ねてくるが・・・奴の目は舐めるようにクロを見ていた。

相棒がビカっと光った。

怒ってらっしゃるようで・・・はいはい、やなのね。


「・・・今までの無礼はその槍でチャラにしてやる。よこせ」


「貴族かと思ったら盗賊かよ。冒険者から無理やり武器を奪うとか正気か?」


「ん。無謀」


カリンも復活したようだ。

冒険者は各国で武装することを許されている。

街中で振るって良いわけではないが、持っているだけで罰せられることは無い。

その代わり冒険者が街の住民を殺したりすると罪が重くなる。

武器を持つ責任は個人でってわけだ。


横目でカリンを見る。

まだ体が緊張しているようだけど、口調や表情には全く出ていない。


「貴族に対する口の利き方も知らんようだな。お前等、二人を拘束しろ」


いつの間にか囲むように展開していた騎士達が一斉に盾をかざした。

やれやれ・・・武器をよこせ、で断られたら逮捕ですか・・・売られた喧嘩は買いたいところだが・・・貴族相手というのが問題になる可能性があるな。


「カリン」


「ん。短距離ジャンプ、座標指定。転移開始」


騎士が対応出来ない速度の短い詠唱と共に一瞬で景色が変わった。

目の前には見慣れた建物がある。

冒険者ギルドまで飛んだのか!

短距離転移術で5mとか言ってたからカリンだけ逃がすつもりだったのだが、オレまでいけるようになっていたらしい。

距離も伸びているし、とんでもない事になってるな。

嬉しい誤算なんだけど、アンドレア達ビックリしただろうな。

横を見るとカリンも驚いているようだ。


「嬉しい誤算」


「いやまぁ、そうなんだけどな。まぁいいか。それじゃ職人街にいこうぜ」


「ん。やはり天才」


はいはい、天才天才。

適当に褒めながらカリンと職人街に向かった。

戦いになると思って気合充分だった相棒クロちゃんはすっかり萎れている。

金属製の柄がへんにゃりと曲がって、すっかり気落ちしている様子だ。

哀愁を感じる相棒をポンポンと叩く。


「クロ、お前を使うような相手じゃなかったよ。強敵が相手じゃないと勿体無い、そうだろ?」


そう言った途端シャキッと真っ直ぐになった・・・。

穂先がキラっと光ってなんとも爽やかだ。

どうやらご機嫌は宜しいらしい。


「ぶ、あはは」


そんな槍を見て、カリンが珍しく声を出して笑った。

すっかり緊張が解けて元通りのようで何よりだ。

煙草に火を点けながら、相棒をトントンと労ってポーチにしまった。

正直・・・いくら武装して歩いてもいいって言っても長柄の武器を持って歩くの邪魔だからな。



 気分を切り替えてドロスのおやっさんの工房に入る。

今や勝手知ったる友人の家のようになった工房内は相変わらず雑然としていて、奥の作業場から漏れてくる熱気で暑く、ガンガンと鎚を振るう音が響いて慣れないと話すのにも苦労する。


「おやっさぁん!おやっっさぁぁん!客がきたぞぉ!」


「うるせぇぇぇぇ!!ちょっと待っとけ!!」


声掛けないと怒るくせに、声かけると怒られるという理不尽。

うん、昔の職人ってこういう感じだよなぁ。

オレに仕事教えてくれた職人もそうだった・・・頑固一徹っていうか。酒飲むと愉快なおっさんなのに。


おやっさんとは居酒屋で出会ってからの付き合いだが、試しに武器の整備を頼んだら物凄く良かったのですっかりファンになってしまったのだ。

今じゃオレの妄想武器を形にしてくれる稀有なおやっさんである。

おやっさんもオレの提案する地球の武器に興味を持って色々試行錯誤していて、いくつか形になった武器を実際に他の冒険者に売ったりもしたらしい。


しばらく工房内の椅子に座って勝手に淹れた茶を飲んでいると、おっさんが汗まみれになりながらのっそりと出てきた。

鍛冶は火との戦いだから耐火性能の高い火蜥蜴で作った皮ツナギに手袋の鍛冶スタイルでの登場だ。

もじゃもじゃの髭が汗で濡れて、それを雑に拭くものだから四方八方に髪やら髭やらが飛び出して太陽の絵みたいな顔になっている・・・カリンがサッと下を向いた。

おい、笑うなよ?

カリンは俯いたまま肩を震わせている。


「おう!待たせたな!お前さんに頼まれてたやつが丁度出来たぞ!」


「おお!?どれどれ?」


ちょっと待ってろと言って奥へと入っていき、戻ってきた時には一本の”ト”の字型の金属の棒。

そう、トンファーだ。

エルさんに貰ったトンファーはすっかり気に入ったミーネ軍曹が持って行っちゃったからな・・・。


軽く握って確認する。

この武器、もともと中国生まれの武器で拐と言う。

他にもT字型、Y字型、十字型なんてのもあったらしいよ。

いやぁ武器好きの弟が昔持っていた本の中に載っていて、喜々として語っていたのを思い出すよ。

話半分で聞いていたけど、覚えているもんだ。


うん・・・握りといい質感といいばっちりだ。

豪快なおやっさんに見合わぬ細やかな装飾が目を引くな。

・・・うん?装飾?


「握りもバランスもバッチリだけど、おやっさん?この装飾って・・・」


太陽頭がニヤリと笑った。


「おう!ホビット製の装飾だ!儂の知り合いがやってくれたんだが、最近ここらに引っ越してきてな!久しぶりにやってみたいっていうからやらせてみたんだ!」


「ホビット製!?おいおいそんなに高え金払えないぞ!?」


「ワハハ!心配すんな!こいつぁ奴のリハビリだからよ!銀貨2枚でいいってよ!」


「そいつはありがたいな!有りがたく使わせてもらうよ!」


「それでいい!武器なんぞ使ってなんぼじゃ!よし、それじゃ使い方を説明するから貸せ」


おやっさんにトンファーを返すと、持ち手の先についた小さな魔石を指さしながら


「いいか?ここに魔石を仕込んである。お前さん魔法は使えねぇが魔力操作は出来るって言ってな?よし、それならこいつが役に立つはずだ。いいか?普段使いには何ともねぇが、この魔石を握り込んで魔力をちょいと注いでやると・・・」


トンファーが一瞬バチッと光を発した。

ええ!?なにこれ!まるで高圧電流が流れたような・・・。


「雷が流れるって寸法よ!安心しろ。使ってる人間にゃ無害だからよ!外側に流れるようになっとるんだ。どうやってじゃと?よう見ろ、この装飾を。外側にしかねぇだろ?つまりそういうこった!」


「すげぇ!受け止めた瞬間に雷流したり出来るのか!防御しながら反撃も出来る・・・こりゃいい!」


空手のように型っぽい動きをしながらトンファーを振るう。

袖に隠しても良いらしいが、そういう使い方をするつもりは無かったからこの仕組が丁度良いな。、

金属製の剣を持つ敵には十分な威力を発揮してくれそうだ。

とすると盾にこういうギミックを仕込むのも良さそうだ。

お金が出来たらお願いすることにしよう。


「それから、こいつだ。バランスを確認してくれや」


次に取り出してきたのは刃先が膨らんだ曲刀、キリジと呼ばれる地球でいうトルコ辺りの国で昔使われていた剣だ。

広まるにつれてロシアとかでも使われてたらしい。

これも弟からの知識だが、あいつは銃刀法がある日本で一体その知識をどうしたいんだろうか・・・。


「先調子で刃先が重いから叩きつけるようにも使えるが、曲刀タイプだからちょいと技量はいるが撫で切ったりも出来るぞ」


「おお・・・こいつぁいいな!うん・・・うん!」


ブンブンと振り回してみる。

おお・・・重量的には依頼した時には丁度良かったのが少し軽くなったか?

いや片手で使えばいいのか。

とするともう一本買っておくか?


少し考えて、やめておくことにした。

鞄の容量はまだまだ余裕のよっちゃんだが、二刀流なら他の武器も選択肢に入るからな。

盾でもいいし。


「気に入ったよ!おやっさんバッチリだ!」


「まぁ、な」


おやっさんは顎をワシャワシャと掻いた。

太陽だった頭が汗が引くにつれてライオンになりつつある・・・。

ついに噴き出したカリンが声を上げて笑い出すまではすぐだった。

おやっさんも流石に可愛がっているカリン相手に怒るに怒れず、頭を掻いた。


しばらく笑った後ですっかり機嫌がよくなったカリンを連れておやっさんの工房を辞去した。

オークキング討伐作戦でお金はあるので、またいくつか注文した。

ベテランであるおやっさんに形や要望を伝えてそれを武器にしていく作業は何度やっても楽しい。

自分では口しか出していないが、何かを作っている喜びがある。


さて、と。シャルさんは武器のメンテって言ってたよな。

シャルさんが武器を見てもらっている工房に向かって歩く。

歩くといってもこの辺りに武器や防具を作る職人の工房が固まっているので近所なのだ。

なんだか鍛冶で使うのに重要な水を共同で使っているらしいよ。

普通の水ではないらしいけど。

純水とかなのかねぇ?


工房から出てきた小さな人間が見えた。

シャルさんだ。

どうやらすれ違いにならずに済んだらしい。


「ちーっす!シャルさんとこも終わったか?」


「ん、今朝ぶり」


「やっほ~、二人共神殿の用事は終わったの~?」


「おう!転職ついでに絡まれたがな・・・そうそう、相談があるんだが」


「それなら何処かお店に入ろうか~、落ち着いたイイお店があるんだ~」


シャルさんお勧めの美味しい紅茶を出す喫茶店があるらしい。

とりあえずはそこに移動することにした。

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