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遅くなって申し訳ない。
一夜明けて。
交代で仮眠しつつオーク達の集落の様子を伺っていたが、夜が明けるにつれて集落全体の様子が見渡せた。
明るくなってきた事と安眠出来ない環境なお陰か早々に全員が起きだした頃、ふと気がついた。
「んん・・・?明らかに減ってるな」
夜の内は集落全体を見れなかったので今気がついたが・・・カリンの範囲魔法で500、罠で100、シャルさんと二人で30匹は倒したと思う。
残りは300~400匹程いるはずだが、どう見ても100匹程度しか居ないのだ。
「・・・ん、お腹減った」
「カリン?朝ご飯はもう少し・・・あ~?そういうことかぁ~」
「食料を求めて移動したってことか?・・・あり得るな。食料庫は破壊したし、呆然としてたオーク達も流石に解散したってとこか」
兵站を潰すことによって敵の士気を落としたり、軍事行動自体を停止させる事は地球でも散々やられてきたわけだが、実際にこうして見てみると思いつかないものだ。
「なるほど、ね。それなら残りを潰しておくか。集落自体も使用出来ないように破壊してしまおう」
提案すると二人はコクリと頷いた。
そうと決まればさっさと終えて一服したい!
慌ただしく携帯食を水で流し込んで、少し休んだ後は早速集落殲滅作戦を開始した。
「カリン!固まってるとこは任せるぞ!シャルさん、矢はもう無いよな?ならオレが盾職のスキルで敵を集めてみるから削ってくれ!」
「あいあいさ~、今日中には帰れそうだねぇ~」
「ん。油断禁止」
「おっと~その通りだね~!よぉし!最後まで頑張ろ~!」
言おうと思ったことをカリンがしっかりと言ってくれたので、釘を刺そうと開きかけた口を閉じた。
前向きなシャルさんに冷静なカリン、そして器用貧乏なら任せろな元おっさん。
・・・最後がいらない気もするけど、いいチームになってきたな。
結論を言えば、オーク達との戦いは呆気無いものだった。
昨日も思ったが、オークは人間を遥かに越える膂力と防御力の高い体を持つ屈強な種族だ。
真っ向から攻撃を受けてしまうと受け止める以前に体が浮いてしまう程・・・つまり個体個体はそれなりに強い。
だが、集団戦になると途端に動きが鈍くなる。
なんというか個人技だけ一流のサッカー選手を集めたら、2回戦負けしちゃった!みたいな残念さというか・・・例えが悪いな。
まぁ、特に苦戦することもなく全滅させてしまったので、せっせと集落中の柵を破壊してバラバラにした後は地面に撒いて寝たら怪我するようにしておいた。
繁殖力の強い植物でも植えれば完璧なんだろうが、流石にそれは仕事のし過ぎ!と二人が言うので止めた。
都合の良さそうな植物を知らないのもあったけど。
ひと通り作業を終えて、一服つけながら集落跡をざっと眺める。
ボッコボコになった上、ばら撒かれた木片のせいで安眠出来ない場所と化している。
うん、いい仕事したな!
これが偵察と言えるかどうか不安になってきたが、問題ない!・・・ということにしよう。
「ユウ」
「ん?」
カリンに呼ばれて振り返ると、カリンが見覚えのないハルバードを引きずってきていた。
物凄く重そうだが・・・ってキングの武器か!
「これは・・・キングのハルバードか?」
「ん。使える?」
「オレか?うーむ・・・槍斧は初めて使うんだが・・・ん、槍スキルなのか。ちと長いし、少し重い・・・お?なんか軽くなったぞ?まぁ、問題ないな。しっかし随分立派な装飾が付いてるが・・・オークの技術じゃないだろコレ」
「ん・・・放浪の鍛冶師ヴォータン作、銘は黒の槍。王竜の牙と森林狼の皮、意思がある為持ち主を選ぶ。主と認められない場合はとても重いが、認められると軽くなる。一度使ったら死ぬまで離れない」
「随分詳しいな・・・って識別したのか?すげぇな識別さん・・・ん?ってことはこのハルバード使っちゃいけない武器だよね!?」
気味が悪くなって思わずポイっと投げると、ハルバードは地面に突き刺さった後にビカビカと黒い光を発した。
うぉぉ?・・・なんとなく粗末に扱うな!と怒っているように感じるな!
「ユウ~?なんかこの黒の・・・槍?槍じゃないよねこれ・・・怒ってるように見えるんだけど~」
「ユウ。責任とって」
「なんかその台詞を女の子に言われると物凄い衝撃が走るな・・・いや、なんでもない。むぅ・・・そこの・・・あ~、黒の槍さん?使うのは構わないんだけど、勝手に動いたり、無駄に殺したりしない?」
槍はビカビカと点滅した。
どうやらそんなことはしない!と言っているようだ。
なんで分かるのかって?
説明出来ないんだけど、なんかこう・・・意思?みたいなのが伝わるというか。
「分かった。君の主に相応しいかどうかは別にして、これからよろしくな相棒」
ビカ!
どうやら新しい仲間?が増えました。
せっかくなので、黒の槍・・・じゃちょっと呼びづらいから、黒ちゃんと呼ぶことにした。
黒ちゃんと呼ばれた時に唖然とした感じが伝わってきたが、悪意があるわけじゃないのは分かるのだろう。
渋々、といった体で受け入れてくれた。
普通こういう意思ある武器って試練があったり、主人公が追い詰められた所に刺さってたりするものだが狙ったわけでもないのに主になってしまった。
意外と現実ってそういうものなのかねぇ?
こういう特殊なハルバードについてはまぁドロスのおやっさんに後で見せることにして、とっとと帰ることにした。
依頼の性質上、火を使うことが出来なかったので三人共マトモな料理を食べたかったのだ!
連携が取れる程度に間隔を空けて、オークの残党を索敵しながら街へと戻っていく。
カリンを真ん中にシャルさんとオレが気配察知を駆使する形だ。
昔見た映画でこういうのあったな・・・
間隔を空けて森に隠れた元軍人を捜索してたら1人づつやられるみたいな・・・やめよう。なんかのフラグになったら困る。
今のナシ!今のナシだからね!
さて・・・くだらない事を考えつつ索敵をしていると、オークが減った事を感じたのか動物や下級魔物の気配がするようになっていた。
本能で分かったのかねぇ?すごいな野生って。
幸いこちらに向かってくる魔物は居らず、のんびりと森林浴を楽しみつつ街へと帰れた。
もはや顔パスになった街の衛兵に片手を上げて門をくぐると、いつも通りの辺境とは思えない平和そうな人々の顔が目に入ってくる。
値段交渉をする店主と奥さんらしき女性、休みなのか子供を肩車した青年、広場で遊ぶ子供達とそれを見守る杖をついた老人。
屋台で串焼きを買ったり冷やかしたりしながらギルドへ向かう。
地球じゃ脇目もふらずに目的地に向かって急ぎ足、時間に追われて行き違った人の顔も分からないような生活で休日なんかは逆に人と会いたくない気分になったりもしたが、こちらは時間に追われている人も勿論沢山いるのだろうが、大多数の人はせいぜい太陽が登ったら起き暗くなったら寝るスローライフ。
大変な事も多いのだろうけど、それでも地球に居た頃には感じなかったゆったりとした空気を感じられた。
ギルドの扉を押して入ると、丁度冒険者とのやりとりを終えたアーシェさんが顔を上げるところだった。
片手を上げて近寄っていく。
「どうも、今戻ったよ」
「おかえりなさい三人共、大きな怪我は・・・無さそうね?安心したわ」
体をチラッと見て怪我の有無を確認して安心したようにニッコリ笑うアーシェさん。
おぉ・・・とか今日も素敵だ・・・とか背後で聞こえてくるが、アーシェさんは綺麗な上に性格が良いから男共からモッテモテなのだ。
こうやって心配されるとコロッといっちゃうんだろうなぁ。
「聞こえてるわよ?・・・それより、例のオーク関係の報告でしょ?マスターに直接報告してもらいたいのだけどいいかしら」
おっと口に出してしまっていたらしい、てへ。
「そりゃ失礼しましたっと。それじゃマスターのとこに顔出せばいいかな。マスターって何処にいるの?」
「そうよね、ちょっと待っててね。レニシア~!ちょっとここおねがいね」
「分かったにゃ~」
久々に見るレニシアさんは相変わらず尻尾がゆらゆらと揺れている猫耳さん。
うむ・・・。
「ユウ~?はやくいこ~」
「ユウは猫耳すき」
「な、なにを根拠にそのような訳の分からない事を言い出したのか甚だ疑問でありつまりそれは捏造でありモフモフしたいなどということは欠片も考えていないのであり元々猫は結構好きとかそういう考えも全く無いわけであり」
「動揺すると物凄い口が回るんだねぇ~・・・逆に全部喋っちゃってるけどねぇ~」
「ん。分かりやすい」
「あらあら」
くそぅ・・・アーシェさんはニヤニヤしているし、レンシアさんは尻尾触るかにゃ?とか言ってるし・・・公衆の面前で尻尾触るとかそういうことをするのはいけないと是非お願いします。
「うむ・・・硬すぎず柔らか過ぎない絶妙な触感。そして温い。ぬっくぬくですぞ!モフモフかつヌックヌク・・・モフヌック!!イエェェア!!!」
「モフヌック!?ちょっとユウ~!キャラが壊れているよ~!?ボクじゃツッコミきれないよぉ~!」
「興味深い」
「興味深いの!?カリンもフォローしてよ~!」
仕方ない、シャルさんが泣きそうになってきたし、モフヌックな尻尾を堪能したし正気に戻ろう。
レンシアさんにお礼を言ってポーチに入っていた魚を何尾か渡してからマスターの部屋に向かった。
背後から聞こえるお魚にゃあ!という声に押されるように二階の一番奥、ますたーのへや と文字が書かれた札を横目にアーシェさんが扉をノックした。
「なんだ?」
「失礼します。ユウ達が帰還しましたので、報告を」
「む。入れ」
全員で失礼しまーすと言いつつ部屋へ入ると、窓際に置かれた重厚な執務机とそこに座ったギルドマスターのじいちゃんが居た。
机の前に応接室のようにソファが置かれている。
右手の棚には高そうな酒が入っており、左手の棚には書類を収めているようだ。
そして目につくのは机の横に無造作に置かれた大剣と大盾。
どう見ても業物であろうその大剣と無骨極まりない傷だらけの大盾は、それだけで歴戦の戦士の風格だ。
「アーシェ、茶を頼む。ご苦労だったな三人共、まぁそこに座って待っておれ。もう少しで手が空くからの」
言われた通りに三人でソファに座る。
二人用っぽかったが、オレはともかくカリンもシャルさんも小さいので余裕で座れた。
座ってびっくりフッカフカだ。二人共何処までも沈み込むように思えるソファにビックリしているようだ。
しかしすごいなコレ・・・ここまでフッカフカのソファって。
うぅむ、いつか作ってみるかな。
良さそうなモコモコの魔物見つけたら刈ってみよう。
間違えた、狩ってみよう。
そんな事を考えていると、手が空いたのかペンを置いたじいちゃんが立ち上がった。
「待たせた。改めて、今回はご苦労だったの。お主達が早期に発見してくれたお陰で先手を打って攻められた。門を封鎖するハメにならずに済んだわ」
門を封鎖・・・ああ、つまり門を封鎖することで商人達が出入り出来なくなり、結果として経済損失のようなモノが生じると言いたいわけか。
まぁ、負ける事はないだろうがそれでもいくらかの被害は出てしまっただろうし、柵を越えて畑の方を荒らされるとかなりマズイだろうしな。
万里の長城よろしく壁で囲ってあるとはいえ補修が追いつかなかったり、確認を怠っているような箇所では穴も空いているようだしな。
「この街に何かあると俺達も困るから気にしないでくれ。それじゃ報告する」
この二日間で行った事を説明していく。
オーク達は1000匹は居たように感じたこと、シャルさんの魔道具のこと、カリンの範囲魔法、落とし穴作戦。
話す内に呆れたような表情をしていたマスターのじいちゃんは最後には豪快に笑った。
「クックック、それはもう偵察とは言わんぞ?まぁ、オーク共を殲滅して集落を使用不能にしたのは評価出来るのう・・・よし、報酬は精査しておくから明日にでももう一度来ると良い」
「了解!それじゃ失礼するよ!早くマトモな飯を食いたい」
「ハッハッハ!そうか、そういう工夫も大事じゃぞ?まぁ、儂は酒があればいいがの」
「酒か~そういうのも大事だなぁ・・・うん、蒸留酒でも仕入れとくか」
「果汁が良い」
「あっはっは~、カリンはお酒嫌いだもんねぇ~ボクも強いお酒はダメかなぁ」
「その辺も踏まえてもっかい考えよう。まぁそんなことより一杯やりに行こうぜ!」
「「賛成」」
一杯やると聞いて物凄く羨ましそうなじいちゃんに手を振ってギルドを出た。
一応、おっさん達にも伝えてもらうようにアーシェさんに伝えたし大丈夫だろう。
さぁて、旨い飯食って旨い酒飲むぞぉ!




