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長くなってしまいました。何話かに分けるべきでしたね・・・。
ステータスカードは無事開けた。
内容を見る前にエルさんにも見えるようにしてっと・・・。
「これでエルさん見える?」
「ああ。問題・・・ブッ!」
真面目な顔をしていたエルさんが突然噴き出した。なんだ!?テロか!?
カードを指さしているようなのでしっかり確認してみる。
名前・・・外国っぽい読み方だね、うん。特に問題なし。
種族・・・これも問題ないね。人間だもの。
年齢・・・も大概おかしいが問題はその下!これかっ!!
職業・・・中間管理職
「・・・・・・・エルさん」
「ぶぐ・・・なんだ」
「中間管理職って職業なの!?」
おかしいだろう!!この世界に中間管理職のような仕事内容の役職はあるとしても、この世界の企業である商会だってそんな言葉は使わないのだ。すぐに知識をさらったから間違いない。
にも関わらず職業:中間管理職。普通は剣士とかじゃあるまいか。誰だこの職業付けたやつ!?
「カードに・・・ついては・・・シュヴェアートの奴だな・・・ぶぐぬ!・・・ゴホグ・・・ブグ」
エルさん・・・笑うの我慢しなくていいからね。謎言語になって漏れまくってるからね。
そしてステータスカードの内容はシュヴェアートという神が決定しているらしい。
シュヴェアートさん絶対聞いてたよ今までの会話!こっちの反応見てニヤニヤしてそうだよ!
「はぁ・・・まぁいいか」
溜息をつくオレ、そしてついに笑いで崩れ落ちたエルさん。ウケすぎだろう。エルさんの真面目なキャラがオレの中で崩壊しつつあるよ?
この世界に来て初めて神様の事を知る機会が出来たけれど物凄くファンキーな方々なのかもしれない。
ともあれ気を取り直して・・・ステータスはゲームなどでお馴染みなので見難いってことはないのだが、数字的に強いのかどうかが比較出来ない。ゲームによっては1000とか10000とか普通にいくし。もらった知識には入ってないらしく、全く分からなかった。
これは後で検証することとして置いておこう。
スキルは・・・なんかいっぱいあるな!?
よくよく見てみると地球にいた頃にやったことが出てる感じ・・・か?
知識によるとスキルレベル1って初心者レベルらしいし。兄弟喧嘩したりとか授業で習ったこと、経験したことがスキルとして現れている感じだ。
鎚とか使った覚えがないが・・・仕事でハンマー振ることがあったからそれかもしれない。
アクテイブスキルは任意で使うもの、パッシブスキルは常時効果が得られるものらしい。
ストレス耐性・・・・・まぁいい、深く考えるのはよそう。
生産系スキルは仕事の関係で色々作ったからだろう。
そして祝福はエルさんが言ったとおり加護がついている。(特)って事は相当なのだろう、本当にありがたい。もうエルさんに足向けて寝られないな・・・天界って空の上なんだろうか。なら大丈夫か?いやまて・・・問題はその後だ。
シュヴェアートの加護(笑)
「シュヴェアートさんあんた完全に人のステータスで遊んでるだろ!!(笑)て!エルさんの表示からすると普通は(小)でしょうよ!加護なのにもはや神聖な感じがまったくしないよ!」
「ハハハハハハ!!ブフ・・・グフ・・・ゴホッゴホッ・・・ブプ・・・」
ふぅ・・・熱くなってしまったが、飲み込もう。くれるっていうんだからもらっておけば良い。
本当はいらないけど。全力で投げ捨てたいけど。
ちなみにエルさんは笑いすぎて倒れていた。時折ピクピクと痙攣している・・・。
エルさんェ・・・・・・・・・・。思い切り冷めた視線を送ってあげた。
「グッ・・・ゴホッゴホッ・・・すまぬ、ユウ。突然見せられたからつい・・・な」
復活したエルさんが申し訳無さそうにしているが、先ほどアレ程笑い転げてくれましたからね貴方。
「すまぬ。詫びにこの後で色々必要なものを渡すから勘弁してくれぬか?」
物はともかく・・・真面目に謝ってくれているようなので許すことにした。
よくよく考えたら悪いのはシュヴェアートさんだしね。
まぁ、眉間に皺が出来る位難しい顔がデフォルトであろうエルさんがあんなに笑ったのだ。
良いガス抜きをさせてあげられたと思おう、うん。
もう一度気を取り直して疑問に思ったことをエルさんと話していく。ようやくツッコむけれど年が若返っているのはなぜだろう。
「ユウ、なぜ年が若返っているのかは私にも不明だが、悪いことではあるまい。ステータスを見るに一般的な18才の男より能力が全体的に高い。35才という経験を身体能力に寄与して18才になっている感じがするしな・・・。それに魔力量が増えれば寿命も伸びるとはいえ若いに越したことはないだろう」
「そう・・・だね。むしろ地球のままの状態だったら、運動不足で動けずにすぐ死んでたかもしれない」
「うむ。それにスキルは若い方が得やすいしな」
「そうなの?」
「ああ。若いほうが思考が柔軟だろう?それに新しい事に挑戦しやすい年代でもある」
「なるほど・・・確かにそうだね。オレも色々試してみる」
「そうするとよい。さて・・そろそろ必要な道具を渡しておこう」
そういってエルさんはウェストポーチの形をした鞄を何処からか取り出した。
受け取った鞄は何の変哲もないポーチにしか見えないが神様が渡してくるものだ。油断は出来ない。
「ユウの予想通り、この鞄は空間拡張してあって見た目以上に入る。入り口は小さいが手で触れて念じれば大きさは関係なく収納出来るからな。時間が止まっているから中の物が腐る心配も無用だ。中に色々いれておいたから後で確認しておくとよい。食料も30日分は入れてあるから飢えることはないだろう。それから所有者登録してあるからユウにしか出し入れ出来ないから注意してくれ」
至れり尽くせりだな・・・。なんだかお詫びにしたってもらい過ぎな気がするけれど・・・。
「気にするな。この鞄とて世界に一つというわけでもない。中堅クラスの冒険者や裕福な商人、領主や騎士隊長クラスなら持っている程度のものだ。私が直接拡張したからソレの性能は比べ物にならんがな」
エルさんお手製だったんだコレ・・・。とはいえそれだけの性能だ。あまり見せびらかすような事はしないほうがいいだろうな。
「何から何までありがとうエルさん」
オレはエルさんに心から頭を下げた。今はこれだけしか出来ないからせめて感謝だけでもたくさんしたい。
「何度もいうが気にするな。ユウ、監視についてだが、これから呼ぶ者をしばらく同行させるから、分からないことがあったらその者に聞いてくれ」
「了解!」
神様が同行させる者か・・・どんな人だろう・・・。
エルさんはおもむろに両手を顔の前で広げると、全身から突然ピカッと光を発した。ぐぉ!?まぶしっ!
直視してしまい、思わず目を押さえて悶ているとエルさんが呼んだのであろう人の気配が現れて話す声が聞こえた。
「ミーネか。聞いていたかと思うが、しばらくの間ユウを見てやって欲しい」
「このヒューマンの方ですね」
「そうだ。同行自体は最初の街で何らかの生活手段を得るまでで良いが、具体的な期間についてはミーネの判断で動いてくれ。何かあったら連絡してくれれば出来るだけの事はしよう」
「承知しました」
相手の人は女性・・・?かなり短く喋るから断言出来ないけれど、やや高めの綺麗な声だ。
ようやく目が回復してきたので挨拶しようと伏せていた顔をあげる。
「エルさん・・・光る前に言ってくれると嬉しいな。こちらの方が同行してくれる人かな?」
「ああ、すまん。ユウ、この者がユウにしばらく同行させるミーネだ」
「ミーネです。よろしくお願いします」
綺麗なお辞儀を見せるミーネさん。背中に針金が入っているようにピンと伸びた背筋をそのまま曲げるのだ・・・すごいなミーネさん完璧だ。
それに流石は女神様?なのか物凄く美人さんだ。清潔感のあるショートヘアで、スーツをビシッと決めてまるで仕事の出来る秘書さんだ。
そんな事を考えているとミーネさんの顔が赤くなった。
「そこまで褒められると・・・照れます」
ん?・・・しまった!神様は普通に心読んでくるんだった!
「あ・・・申し訳ない。不躾なことを」
「いえ・・・」
二人で恐縮していると、エルさんが苦笑した。
「ミーネ、こういう奴なのだ。あまり心配はいらんだろうがよろしく頼む。ユウ、ミーネは下級とはいえ戦いを司る神の一柱だ。戦闘力ならば中級神に引けをとらない実力者だ。基本的には・・・そう基本的には優しい奴だから頼りにするといい」
これは本当にありがたい。
奥歯に物が挟まったような言い方は少し引っかかるが・・・。
もらった知識によれば、この世界は体内に魔力を貯める器官である魔石を持つ魔物や神の眷属とされる竜種に好戦的な巨人族、地球でもお馴染みの吸血鬼やゾンビまでズラリとラインナップ。
普通の人は生涯街から出ることが殆ど無い程に危険が多いらしいのだ。
ドラゴンどころか魔物の中ではかなり弱い部類であるらしいゴブリンと戦ってもやられる自信がある。
まったく自慢にならないがな!
「エルさん何から何まで本当にありがとう。ミーネさんこれからよろしくお願いします」
二人に頭を下げると二人共笑って頷いてくれた。
さっきから頭下げてばっかりだが仕方ない。感謝してもしきれないのだ。
「ではユウ、私はそろそろ戻るとするよ。最後になるが、この世界を楽しんで生きていって欲しい」
ニコリと笑ってエルさんが言ってくれた。そうだね・・せっかく2回目の18才だ。どうせならとことんやってやろうじゃないか。ってちょい待った!
「エルさん、とことんやってやるさ! あとごめん、この世界にも煙草ってあるだろうか?」
地球に居た頃はあれがないとイライラして仕方がなかった。完全に喫煙者だ。
せいぜい1日1箱なのでそこまでヘビースモーカーというわけでもないが、作業の区切りや一休みの時には一服したいじゃない。あると無いとじゃテンションが変わるというもの。全く吸わない人には理解出来ないところだろうけど。
「おぉ・・・そうだったな。この世界には葉巻はあるが・・・紙巻煙草はないな・・・よし、確か持ち込んだものがあったろう?」
それを出してくれと言われて胸ポケットに入っていた煙草とオイルライターを取り出す。エルさんに手渡すとピカ!!!ってまたかい!
「目がぁ!!・・・目がぁ・・!!」
どこかの大佐のような台詞が思わず出た。だからエルさんいきなり光るのはやめてと・・・。
「ユウすまぬ!またやってしまったか・・・」
エルさんは頬をポリポリと指で掻きながら渡した煙草を返却してきた。
何か変化があったようには見えないが・・・ん?
「あれ・・・増えてる?」
残り数本だったはずの煙草が15本位に増えていたのだ。
「ユウの煙草を魔道具化したのだ。その箱に魔力を注げば本数が回復する仕様にしてある。ライターとやらも魔力で使う前の状態に回復させるので壊れることはないだろう」
な、なんか普通に言ってるけど物凄い事なんじゃぁ・・・。
「ユウさんの思ったとおりですよ。時と空間を司るズィッヒェル様だからこそこんな簡単に出来るのです。普通はもっと時間がかかるし性能も下がるはずです」
唖然としているオレにミーネさんが教えてくれた。
「餞別だよ。それではな」
そういってエルさんは今度こそスーッと消えていった。
オレはもう一度エルさんに頭を下げた。
「さて、改めまして。神界で戦闘関係を司る下級神ミーネです。しばらくご一緒することになったのでよろしくお願いします」
そういってミーネさんが綺麗なお辞儀をしてくれた。
「こちらこそ。何の因果か分かりませんが、地球という世界から来ました。名前は御崎優・・・こちらの言い方だとユウ・ミサキかな。お世話になります」
お互いに挨拶が終わったところで、これからの事を話し合うことにする。
「普通の人がここから一番近い街まで歩いて7日というところですね」
「なるほど。食料に余裕はありますね」
「はい、私は基本的に食事の必要はありませんので、気にしなくて結構です。それからユウさん、もし良ければこの辺りで少し戦闘訓練をしていくのはどうでしょう?今は見る影もありませんが、ここはかなり昔に建てられた神殿なのです。神殿には魔物は入ってこれないので拠点にも最適ですし」
「なるほど・・・確かにそうですね。ミーネさんの言う通りしばらく訓練したいと思います。武器は・・・」
そこで思い出してまずはアイテムポーチ(呼びやすいのでこう呼ぶことにした)の中身を確認することにした。
えーっと・・・まずは食料30日分。ふむふむ、固めのパンに干し肉、牛乳っぽいものに塩が入った壺、リンゴみたいな果物か。
鍋と包丁、フライパンにまな板、お皿、フォークにナイフ、串なんかも入っているようだ。これはありがたいね・・・。
栄養的に木の実なんかを採取する必要はあるだろうが、生きていくのに問題はなさそうだ。野菜はその辺の野草から食べられそうなものをミーネさんに教えてもらうか。水はないが、生活魔法というのを覚えれば大丈夫らしい。
それから道具類。
替えの服が数着、渋い灰色のゆったりとした上下で動き易い。サイズもぴったりだ。厚手の毛布が2枚にテントが1セット。携帯用のランタンのような形状の魔道具、これは明かりだね。上部にフックがあって作業するときに枝にかけたり、ベルトに引っ掛けたり出来るようだ。
次は採取や獲物の解体に使う万能ナイフ。柄尻に開けられた穴には黒い革紐が通してあってすっぽ抜けないよう手首に通したり出来そう。丈夫そうだから棒の先につけて即席の槍にしたり罠にも使えそうだ。
続いて手斧。これは多分軽く伐採したり、獲物の骨を断つ時に使うのかな?肉厚で少し重めだが振り易い。
鉈もあった。これは森を行く時に重宝しそうだ。少し内側に湾曲した刀身が分厚く出来ている。
武器類は弓と矢筒3束、短剣が2本に細剣、両刃幅広のブロードソード、両手用の大剣、両刃のバトルアックスにトゲトゲが痛そうなメイスもあった。武器屋か!と言いたくなる程の幅広いラインナップだ。エルさん・・・。
ちなみに食料や道具を見ている時は普通だったミーネさんは武器を出し始めた途端に興奮した様子で武器を手にとって見ている。
戦闘を司るだけに武器が好きなのかな。今はなぜか入っていたトンファーを熱心に見つめている。あ、振り回し出した。ミーネさん危ないから後にして!
その後にも長柄の槍や短柄の槍、ハルバードや男のロマン武器、太刀や小太刀、大鎌に戈なんてマニアックなのまであった。
戈て・・・古代中国で出てくる武器だよな確か・・・。
投擲武器もすごい。
投げナイフを始め、外国の人が大好きなジャパニーズニンジャが使う手裏剣まで入っていたのだ。よくある四方手裏剣や八方手裏剣、棒手裏剣に蹄と呼ばれる鉄菱まで入っていた。エルさん・・・これ日本でもお目にかかれないよ。時代劇が好きなオレとしたらすごく嬉しいけど!
多分あらゆる武器が入っているのだろう。わけがわからなくなってきたので一旦全部しまう。
ミーネさん物凄くいい笑顔ですけどそのトンファー気に入ったんですか?同行中貸すと言ったらミーネさんは物凄く喜んでいた。返ってくるかは不明だ。
結局その日は荷物の確認で終わってしまった。
寝る前に、早速煙草に火をつけた。崩れかけた壁に座って夜空を見上げながら紫煙を吐き出す。柄にもなく感傷的になってしまっているようだ。
空に輝く月が深紅なのも原因かもしれないな。
異世界ってことを嫌でも突きつけてくるように思える。
「思えば遠くにきたもんだってか?地球の裏側どころか異世界きちまった、な」
自分で呟いたセリフに薄く笑って煙草を消した。
まずは生き残ることに全力を出そう。
いずれ趣味の釣りや温泉に入って酒でも飲みたい。
そのうち家も建てたいので最高の場所を探しながら世界を歩くのも面白いかもしれない。
ちなみにミーネさんは隣の部屋・・・だったところが比較的綺麗だったのでそこで寝てもらった。
気合を入れなおしてポーチから毛布を出す。寝床を用意して横になったら疲れていたのかそのまま寝入ってしまった。
「ふふっ・・・頑張りましょうねユウさん」