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26.1

閑話になります。


~シャルヒェル・ラズコーの場合~



 ボクはホビット族のシャル。

周りの冒険者達は皆ボクの事を味方殺しと呼ぶ。

え?どうしてだって?

あんまり語りたくないんだけど・・・聞きたいの?

どうしても?


そう・・・


それじゃあ教えてあげるよ。

どうしてボクが味方殺しなんて名で呼ばれているかをね。



どこから話そうか・・・


冒険者に登録してしばらくした頃に知り合った彼らとパーティを組んだのは、Eランクの依頼も大分慣れた頃だった。

魔法使いのリティは火と風の魔法が得意で明るい女の子。

騎士家系の五男坊スヴァロークは剣と盾を使いこなす頼れる盾役。

エインリルはリーダーで斧と剣の二刀流という珍しいスタイルの戦士。

そして、ボクが斥候職で遊撃と斥候担当。


結構バランスいいでしょ?

上位ランク確実のパーティだってギルドでも評判だったんだよ。


ボク達はとっても仲が良くて、仲間との絆を深めながら色々な依頼をこなしたんだ。

自信もついてきて、半年もたたずにCランクまで上り詰めた。

今思えばあまりにも上手く行きすぎていたんだね。


でもその頃のボク達はそんなこと考えもしなかった。

だから・・・あんなことになった。

Cランクになって少しした頃、その頃拠点にしていたのは黒い森の西側の国、マルドゥク神聖王国。

森にほど近いアイシーンによく似た辺境の街に居たんだけれど・・・。


ある日、一つの依頼が貼りだされたんだ。


依頼内容はある魔物の討伐依頼。

あるDランクパーティが偶然見つけたその魔物は角が外傷に良く効く薬に、肝がある病気を癒やす薬に、心臓が上位魔力回復薬になるという全身素材みたいな奴だったんだ。

当然、早い者勝ちで同じCランクのパーティが何組か受けてったけど見事に返り討ちにあって帰ってきた。

そこで、ボク達に指名が入ったんだよね。


その時ボク達よりも高ランクのパーティは皆出払っていて、ボクらしか居なかった。

エインリルは悩んでたけど、報酬額が金貨20枚なんて値段だったから受けることにしたんだ。


・・・ボクの姉の病気を癒やす薬の材料・・・肝が得られるかもしれないって事が大きかったんだと思う。

そのことを皆に話したこともあったからね・・・。

皆は絶対治してやろうぜ!ってボクの為に言ってくれてたんだ。

ボクは・・・嫌な予感がしたから本当はやめようって言おうとしたんだ。


だけど・・・姉の病気が治るかもと思ったら強く止めることが出来なかった。


止めていたら・・・あんなことにはならなかったのに。


返り討ちにあったパーティから情報を得て、早速向かった。

情報通り、獲物が昼頃になると泉の水を飲みに来たんだ。


そこで、スヴァロークが突進して、注意を引きつけて、リティとエインリルが攻撃、ボクが牽制って感じで動き出した。

ボクらの必勝パターン。


いつもどおりのはずだったんだ。


実際、スヴァロークはしっかりと奴の攻撃を受け止めていたし、リティとエインリルの攻撃は確実にダメージを与えていたんだ。

ボクも一生懸命・・・いつも以上に頑張ってたような気がする。


でもそれも奴が本気モードになるまでのことだった。


角に雷が落ちたかと思うと、体全体が光りだして・・・まずスヴァロークが吹き飛ばされた。

どんな攻撃にも耐えてきたスヴァロークが一発で吹き飛んだんだ。


ボクは呆気に取られて立ち止まってしまった。

そして・・・



奴はその隙を逃さなかった。



立ち止まったボクに向かって突進してきた奴を横合いから割り込んでエインリルが助けてくれた。

奴のターゲットは邪魔をしたエインリルに向いた、と思った瞬間。


奴は・・・ボクらの頭上に飛び上がっていた。


一瞬で頭の上を越えられて、慌てて振り返るとリティの胴体が奴の角に貫かれていた・・・。

心臓を一撃だった。


スヴァロークと恋人だったリティは誰よりも彼が守ってくれると信じていた。

彼が守ってくれるから、私は攻撃を頑張るんだって・・・装備も魔法攻撃力や詠唱速度を上げるものばかり買っていた。


貫かれたまま力なく垂れ下がる手足を見て・・・ボクは・・・頭の中が真っ白になった。


手が、足が別の生き物みたいに震えだした。

なんだこれ・・・なんなんだこれ・・・って思ったよ。

こんなのCランクじゃないって。

Bランクでも犠牲無しじゃ難しいんじゃないかって。


そして・・・我に返った時にはエインリルも倒れていた。


次はボクの番だと思うと恐くて・・・足が動かなくなってた。


そんなボクに・・・口から血を流しながらスヴァロークが逃げろ・・・逃げろ・・って言うんだ。


エインリルもリーダー命令だから逃げろって・・・一度もリーダー命令なんて使わなかったのに・・・。



そして・・・ボクは逃げ帰った。


大切な仲間も、買ったばかりの短剣も捨てて・・・。

戻ってすぐにギルドに報告したよ。

焦っていたし、あの時は皆を失って正気じゃなかった。

だから受付で大声で言ったんだ。

奴に・・・ブリューナクにやられたって・・・。


それを聞いた受付の人が尋ねてきた。

仲間はどうしたんだ?って。

ボクは答えた。

全員死んでしまった。


それを聞いた受付の女性はショックを受けて泣きだした。


だって・・・エインリルは来月に彼女と結婚する事になっていたのだから。


受付の女性は取り乱して暴れてた。

当然だよね。大切な恋人が死んだんだから・・・。

周りの人が慌てて抑えたけれど、奥の部屋に引きずられながらボクにこう叫んだんだ。




なんでお前が生き残ったんだ!って。


お前が死んでエインリルが帰ってくればよかった!って。


ボクは何も言えなかった。

それを聞いてた周りの冒険者がヒソヒソと話し出した。

噂は一気に広まった。

仲間を置いて1人だけ逃げ出した斥候職がいるってね。


その時から、周りの目はギルド期待のパーティの一員シャルじゃなくて、腰抜けの・・・

臆病者のシャルとして見られるようになった。


そうして、しばらくすると味方殺しのシャルって呼ばれるようになった。


自分のせいで皆を殺してしまった。

皆の分まで・・・いや、ただ贖罪の為にボクは毎日ギルドに行って依頼をこなしたよ。

でももう二度と誰かに信頼される事はなかった。


日に日に心が軋んでいった。


毎日皆を殺す夢を見た。


買ったばかりの短剣で・・・1人ずつ・・・。


もう限界だった・・・皆のところに・・・逝きたかった。


ついにボクは頭がおかしくなった。


依頼も受けずにフラフラと森に歩き出した。


死のうと思ったのかもしれない。

敵である奴を探していたのかもしれないし、仲間の死体をしっかり葬ってやりたい、形見だけでも、と思ったのかもしれない・・・あんまり覚えていないんだけどね。


でも斥候職のくせに気配察知も、地図スキルも使わずにただ歩いていただけ。

そんな体たらくで辿り着けるわけがないよね。


方向も分からなくなって・・・それでも歩き続けた。


大嫌いだった携帯食を食べながら、何日も何日も・・・


そうして、ふと気がついたら周りをオーク達に囲まれてたんだ。



奴らはボクを見て馬鹿にしたようにフゴフゴとなんだか言ってたみたいだけれどボクにオークの言葉は分からないからボンヤリと聞いていたんだ。


そしたら頭を殴られて・・・意識を失った。


正直思ったよ。

ああ、これで仲間のところに逝けるって。

謝りに逝けるって。

でも・・・気のせいかもしれないけれど聞こえたんだ。


(お前のせいじゃない。俺達の分まで冒険してくれよ!)



ボクは味方殺しのシャル。

あの時死なせてもらえなかった愚かなシーフ。


でもね、こんなボクでも決意したんだ。


もう二度と仲間を殺させない


こんなボクだけれど・・・もう一度信じあえる仲間が出来たその時は・・・。


絶対に逃げないって。




・・・ね?面白い話じゃないでしょ?


・・・え?今のメンバーには話したのかって?


そりゃあ・・・話したよ。

ユウとカリンにね。

二人共仲が良くて・・・まるで昔のボク達みたいに見えたんだ。

その上会ったばかりのボクを助けてくれた上に・・・どうやら冒険者の先輩として敬意を持ってくれているみたいだったんだ。


このボクをだよ?


だから話してみたくなったのかも・・・。

仲間達に似た彼らがどう思うのか。


話すのは・・・怖かったよ。


そしたら何て言ったと思う?



煙草?とかいうのを咥えながら黙って聞いてたユウがボソッと言ったんだ。


「これはオレの勝手な考えだ。・・・大変だったな。苦しかったな。そして・・・シャルさんはよく頑張ったな・・・そんなシャルさんに偉そうに言える事じゃないかもしれないが・・・あんたのせいじゃない。あんたのせいじゃないんだ」


ああ・・・彼らは許してくれてたのかもしれない・・・そう思った。

仲間たちによく似た優しい二人。


ボクね、いい年して不覚にもそのセリフで泣いちゃったよ。


そしたら・・・それまで黙ってたカリンが泣かせたーって言い出した。


「ユウ。泣かせちゃだめ」


「ええ?・・・ごめん・・・なさい?」


「ん」


なんだかそんな二人を見ていたら笑っちゃったんだ。

その時、ボクは・・・チーム風花のメンバーになったんだ。


今度こそ絶対に逃げない・・・ううん、そういう状況に陥らせないって決めたんだ。


ユウはすごいんだ。

適当そうに見えてすごく慎重なタイプ。


情報を精査して、何度か当たって様子を見るなんてこともする。

ギルドの図書室で魔物の討伐記録を見たり、世間話でベテラン連中に話を聞いていたりもする。

そして、それをパーティ全体で共有する。

その黄金にも勝る情報を平気で他のパーティに教えていたりもするんだよ?

信じられないよね・・・でもそういうことを普通にしちゃうのがユウなんだ。


え?カリンはどうしたって?


カリンは魔法神の加護で識別の魔眼を持ってるし、なんだか・・・ユウの話を聞くと神様には会いたくないって思ったけれど、知識の図書館みたいなのにアクセス?出来るとか言ってたかな。

すごく疲れるからあまりやらないみたいだけれど、知りたい事を何処でも調べられるのはすごいよね。


まぁ何が言いたいかというとね。


ボクらには、こういうことが足りなかったんだ・・・って思ったよ。


この二人でいる限り、多分ボクらのようにはならないと思う。




それでももし、またあんな事があったその時には






命をかけて仲間を逃がすよ。


勿論、笑顔でねっ!

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