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すごく難産でした。
遅くなって申し訳ない
結論。エルさんは偉大だった。
訓練場の隅っこでアイテムポーチをゴソゴソしたら釣り道具一式があっさり出てきたのだ。
ほんと、エルさんには感謝しかないな・・・温泉とかあったら一緒に入りたいな。
すまん。入りたいのはオレだった。
道具一式をここで広げてもなんなので、ポーチに戻してカリンと合流する。
依頼受注を済ませてくれていたカリンと共に早速森に出発した。
道すがら出てくるF~D級の魔物を排除しつつ、依頼の魚が住む池を見つけた。
池を遠巻きに眺めてチェック、いくつかポイントを攻めていくことにして、早速準備をしていく。
「ロッドOK、リール具合よし、魚のサイズが分からないが、まぁなんとかなるだろ!」
「ユウ。それなに?」
カリンは釣りしたことないそうだ。
それもそうか・・・あんな状況じゃな。
一つ一つ説明していくと、やりたいと言うので一緒にやることにした。
カリンには初心者でも扱い易いスピニングリール、投げ方を教えて何度かやってみせる。
疑似餌であるルアーを本物に見えるように動かすように伝えてあとは好きにやらせることにした。
手取り足取りよりはそっちのが楽しめるだろうからね。
「ユウ」
「ん?カリンもうアタリがきたのか?」
カリンが初心者にしては危なげなくやり始めたのを確認して自分の竿を用意していると、早速ヒットしたらしい。
おいおい、早いな!焦った様子でこちらを見るカリンに駆け寄る。
「焦んなよ~?そのままゆっくり巻いてけ!ゆっくりゆっくり・・・そう・・・よし!」
カリンは緊張しながらゆっくりとリールを巻いていき、ついに獲物をゲットした。
小魚を模した小さなルアーに食らいついているのは30cm程のニジマスみたいな魚だ。
初の釣果にカリンは大喜びで釣れた魚を見ている。
うんうん、わかるぞ、最初に釣った魚って感動するよなぁ。
こりゃカリンも釣りにハマってしまうかもしれないな。
そしたら二人で色んなとこで釣りするのもいいかもしれない。
それから数時間釣りをして、二人で50匹も釣れてしまった。
こんな場所に釣りに来る人間など居ないのだろう。
ルアーに慣れていない魚は次々と食いついたのだ。
釣れない中で試行錯誤して釣り上げた1匹も格別だが、数が釣れるのも嬉しいものだ。
同行した仲間も釣れるんだからさらに楽しい。
釣りセットに入っていたバケツでは追いつかずに池に網を入れてその中で泳がせている魚達を見ると、色とりどりの魚達の背が見える。
銀色や黒っぽいの、白っぽいのもいるのはいいとしても赤とか黄色とかもいるのはビックリだ。
この中に依頼の魚いるのかね・・・途中から釣りに夢中になって依頼の事が頭から消し飛んでたからな・・・。
「カリン。依頼の魚ってなんだっけ?赤いやつだっけ?」
「ん。オニムツ。赤い魚」
「オニムツ・・・なんかオムツみたいな魚だな・・・」
「おむつ?」
「いやなんでもない。オニムツか・・・赤いっていうとコレか?」
「ん。識別する?」
「識別・・・ってなんだ?」
「ん。トルちゃんがくれた」
「変態紳士が?」
「ん。対象のレベルとかが分かる」
詳しく聞いてみると魔力を眼に流すイメージで発動する魔眼の一種で、対象を識別することが出来るらしい。
いわゆる鑑定眼とかそういうことなのだろう。
あの変態・・・意外に有用なモンくれてんな・・・。
あれで変態でさえ無ければ・・・まぁいい。
「それじゃカリン。負担にならない程度に識別してってもらえるか?」
「ん。魔力の消費は1。よゆう」
「なんという神性能・・・すげぇなカリン!」
「えっへん」
胸を張るカリンの頭を思わず撫でてあげた。
いかんなぁ・・・年上というのもあるが、仲間は対等だから頭を撫でるとかは止めておこうと思ってたんだが思わず撫でてしまう。
撫でられている本人がまた嬉しそうなので止められないんだ・・・。
「よし。じゃ種類別に分けてしまうから、分けるの頼むな」
「ん。こっちがオニムツ、こっちはオニヤマメ、デスバス、グレータイガー・・・」
「・・・ちょっといいか?」
「ん?」
「妙にアグレッシブな名前ばっかなのは気のせいか?」
「?きのせい」
「そう・・・か。うん、悪いな。気になってな」
「ん、つづける。オニムツ、オムツモドキ、グレーヒヨコに」
「まてまてまてえええええええい!!いまオムツって言った!?言ったよね!?オムツモドキってなんだよ!」
「これ、オニムツに似てるけどちがう。識別ではオムツモドキ」
「なんてことだ・・・言い間違いじゃなかったのか・・・いやいやもう一つ!グレーヒヨコってなんだよ!?ヒヨコなの?魚なの?どっちなの?」
「?さかな」
「ああ、うん・・・そう・・・だよな、うん。オレが間違ってたよ・・・なんかすまん」
オレは考えるのをやめた。
10分程かかって分け終えた全ての魚を順番にポーチに収めた後、帰路についた。
道中襲ってきたゴブリンには理不尽な気持ちをぶつけてあげた。
完全な八つ当たり?ちがうよ?
ゴブリン狩って、ついでに常時依頼もこなそうという考えだっただけなんだ。
・・・ほんとだよ?
ギルドに戻ると早速精算して、二人揃って無事にDランクになれた。
黄色から赤色に変化したギルドカードを手に二人でハイタッチした。
「おめでとう二人共。今日からDランクよ」
微笑ましそうに見ていたアーシェさんに祝福の言葉をもらい、依頼達成とランクアップを祝って職人街の居酒屋で一杯やることにした。
一杯やるのはいつものこと?
いやいや、勝利の美酒っていうだろ?同じ酒でも精神状態によって味は変わるもんなのだよ。
もはや、いつもの!あいよ!で通じる程になったビールとおつまみ肉を味わいつつ、ランクアップを祝った。
うむ。旨い。
カリンは相変わらず巨大なステーキにかじりついている。
お気に入りらしい。
「おう!二人共今日は嬉しそうだが何かあったのか?」
「お?ドロスさんちーす!」
「ん。もぐもぐ」
声をかけてきたちっちゃいおっさんは通う内にすっかり仲良くなった職人のドロスさん。
パーティの装備をお願いしていて、その技術力にはいつも助かってる。
鍛冶だの革防具作成だの、刀の打ち方まで知ってるというまさにオレにピッタリな人だ。
ちなみにこのおっさんドワーフさんなんだぜ。
この世界のドワーフはだいたいイメージしていた通りの容姿だ。
髭もじゃのおっさんで、その代わりに樽のような腹とゴツイ腕を持つ。
慎重はせいぜい130cm位だけど筋肉の塊みたいなものだから見た目以上に体重がある。
女性は皆ロリな外見なのだけど、体の造りは同じなので体重も・・・いや、よそう。
ドワーフの女性に体重の話をすると消されるらしいし。
そんなドワーフだが意外にも戦闘が苦手らしい。
職人は手が命だからか魂まで職人なのか武器を持って戦うのが本能的にイヤがるのだとか。
じゃあ襲われたらどうするのかと思うよな?
彼らは世界中に散らばっていて、いわゆるドワーフの国は無いらしい。
戦える種族の側にいて大好きな道具作りをしている方が良いとか言ってたよ。
命の危険がある時は流石に戦うみたいだけどな。
ドワーフの冒険者もいるらしいのだが、そういうのは変わり者なんだそうだ。
「Dランクに上がったからさ!ランクアップ祝いだよ」
「おぅ!儂にはよく分からないがすごいのだろ?よーし!今日は飲むか!」
「いやいやいや!ドロスさんに付き合って飲んだら死んじまうよ!」
「なんだそりゃ情けねぇぞ!まぁ儂らは体が酒で出来てるから仕方ないんだがよ!ガッハッハ!」
ちなみにドワーフ族。
よく飲む。
飲むというか浴びる?水の代わりに酒を飲むんだぜ?この人達。
血液の代わりに酒が巡っているとドワーフ族は皆言う。
流石に赤い血が流れているとは思うのだけどそれくらい飲むんだよこれが。
気合入れて飲む彼らに付き合うと普通の人なら死ぬ。
樽で飲むからね。自分の体重位飲んでるんじゃないか?
きっと肝臓が鉄で出来てるに違いない。
「酒は楽しむもんさ!量なんていいんだよ!ほら!追加だよ!」
「おう!女将さんの言う通り!」
「ガッハッハ!それもそうか!」
豪快な女将さんに笑うドロスさん。
ほんと愉快な飲み方が出来る店だ。
酒は楽しむもの。
この店の客はみんなそれが分かってるから、絡んだり喧嘩したりすることがない。
そういう阿呆な事をするのは初めてきた冒険者位なものだ。
一度分配か何かで揉めだした冒険者をここで見たことがあるが、常連客に叩きだされていた。
「そうそうドロスさん。デス鉱石って分けてもらえる?」
「あん?確か倉庫にあったはずだが、何か作りたいのか?」
「うん。実は今日・・・」
神殿の事を話した。
この世界じゃ神様が降臨するのは頻繁ではないとはいえ、そこまで珍しいことでもない。
だから隠す意味はあまりないのだ。
「ほう!ユウも生産系スキル持ってやがるのか!しかも複数職とはな!」
「うん。なんか無理やり渡されたんだよ」
「でもどうせなら作ってみたいのだろ?」
「うん。世界初の武器になるだろうから実用に足るかは分からないけどね。レベル1だし」
「そりゃはじめっから上等なもんが作れるわけがねぇ!そんなもん出来たって嬉しくもねぇ!試行錯誤しながら出来た品だから誇れるンだ!そうだろ?」
「ハハハ!ドロスさんの言う通りだね!簡単に出来たらつまらない・・・よし!少しづつ作ってみるよ!で、必要な材料がそんな感じなんだけどどうかな?」
「んー、黒鉄鋼は問題ねぇ。デス鉱石もだな。問題は魔力結晶だが・・・」
「魔力結晶ってどこで採れるんだ?」
「Bランク以上の魔物がたまに持ってるらしいぞ。儂も見たことがあるが、魔石とは存在感が全く違うからすぐに分かる」
「魔石の上位版ってことか?」
「いや。魔石とは性質が異なるんだ。なぜかは知らんが、魔石は溜め込んだ魔力を使ったら砕けちまうのは知ってるだろ?魔力結晶は無くなっても砕けねぇ。しばらく置いておけば周りの魔力を吸って回復しちまうから、ずっと使えるんだ」
「うへぇ。そりゃすごいな!」
「そうだな。結晶がありゃ魔石いらずだ。消耗品じゃねぇわけだからな。だが世の中そんなに甘くはねぇ。結晶持ちの魔物は同じ魔物とは強さが段違いって話しだぜ」
「ユニーク個体ってこと?」
「そうだ。儂が聞いた話じゃAランクの魔凶鳥、Bランク魔水竜、Sランクの覇王獅子が持ってたって話しだ」
「覇王獅子って・・・よくとれたなぁ」
「そうだな。当時最強と言われた冒険者パーティが5パーティで挑んで16人死んで何とか倒したっつう話しだ」
「3パーティ分位死んでんのか・・・きっついなぁ」
「まぁ水竜がここらで見たって話は聞かねぇから、狙うなら魔凶鳥なんだろうがユウにはまだ早いんじゃねぇのか?」
「Bランクまでしか戦ったことねぇや・・・こりゃすぐに作るのは無理かなぁ」
魔石で代用出来るとはいえ、出来れば材料が揃ってから魔石で試作品を作成、問題無ければ魔力結晶でって感じにしたいんだよね。段取り的に。
「まだ見つかってないか見つかっても討伐されてないだけかもしれねぇ。Bランクまで倒せるなら可能性はあるんじゃないのか?」
「それもそうだね!ありがとう!」
「ガハハ!気にすんな!どのジュウっての作る時はオレんとこでやれよ?気になるからよ!」
「勿論そうさせてもらうよ」
その後は気持ちよく飲んで帰りました。




