18
目が覚めたら、いつもの儀式をする。
大きく伸びをして、煙草に火を点けながら窓を開ける。
そろそろ見慣れた外の景色をぼんやり見ながら、今日の行動を頭の中で反芻する。
昨日、色々あって銃器製造技師になった。
初めて生産職に就いたわけだが、スキルレベルに応じたコツとか知識とかが必要な時にフッと思い出せるようになるらしい。
銃の製造については魔法銃ってどうやって作るんだ?って考えたら浮かんできた。
今までも生産系のスキルは持っていたが、知ってることしか出なかった。
職に就くか就かないかでその辺りが違うんだろう。
ともかく銃製造に必要な材料は聞いたことがないものばっかりだ。
魔力に影響を受けにくいデス鉱石、魔力を蓄える性質がある魔力結晶、黒鉄鋼が少しだそうだ。
魔力結晶は魔石で代替出来るみたいだが、代わりに魔石の入れ替えが必要になるらしい。
魔力結晶なら魔力の補充が出来るから問題ないんだろう。
見たことないけどな。
・・・しかしなんなんだろう、このゲーム終盤で世界中を巡ってドロップアイテムを集めないと作れない的な武器は。
デス鉱石なんて触った瞬間絶命しそうな名前だし。
じじい作らせる気あるんだろうか。作成難易度を上げて量産出来ないようにしてるとか?
しばらく唸ったが、出てくるのはあくまで製造の知識であって鉱石の知識は出てこない。
うん、さっぱり分からん。
ギルドに行ったらおっさん辺りに聞いてみよう。
ギルド員なら誰でも使えるのに、ほとんど職員しか使わないという不遇の資料室に篭ってもいいかもな。
本は結構好きだし。
昨日カリンと夕食を摂りながら話し合って、Dランクになってしまおうということになった。
オレがあと1つ、カリンが2つでランクアップだから問題無ければ今日明日にいけるだろう。
カリンの部屋をノックしてから朝食を食べに食堂にいく。
Eランクになって報酬額が上がってからはカリンも森のくまさん亭に移ったのだ。
カリンの兄共がちょっかい掛けてくる可能性もあるけど、自分達で治める街の宿に被害を出すような事はあるまいと考えて気にしないことにした。
ギルドの宿舎のが安全なのだが、カリンが森のくまさん亭の食事を気に入ってしまったのだ。
安全よりも食欲が大事らしい。
まぁ気持ちは分かる。まずい飯だと士気が下がる。
旨い飯さえ食ってればいいってものでもないが、やる気を維持する重要な要素なのは確かだろう。
それは地球時代に痛感した。
揃ってギルドに入ると、早速カリンは依頼を見に行った。
オレはおっさんに銃の事と昨日の事を相談しに行くと言って訓練場に向かった。
おっさんはいつも通り訓練場にいた。
なんか訓練場以外にいるおっさんを見たことがないな。
「おはよう!おっさん!」
「おぅ。朝から訓練してぇのか?」
「違うよ。ちょっとカリンの事で報告とかあるんだけど」
「あ?そんならこっちこい。会議用の個室がある。そこで聞くからよ」
おっさんの後ろについてギルドの二階にあがる。
階段の先には扉がいくつかあって、部屋の前にプレートがかかっていた。
ドアノブのところにも札が下がっていて、空き と書かれている。
異世界でもこういう所は同じなんだねぇ。
おっさんは札をひっくり返して 使用 に変えてから、部屋に入った。
「で、カリンの実家関連か?」
「そう。昨日神殿に行く途中に兄貴2人とばったり。なんか生意気だったから挑発してやった」
「お前なにしてんの!?バカかお前は!」
「そうすりゃオレにターゲットが移るかもしれねぇ。外で依頼する時は気をつけろだとさ」
「だからってわざと挑発するか普通?まぁ、話は分かった」
「うん。本人もしくは関係する貴族からの依頼が来るかもしれないけど受けなければいいかな?」
「いや、指名で入ると厳しいな」
「指名?指名依頼ってことか?」
「そうだ。勿論、通常の依頼よりも割高だが、信用のおける冒険者に依頼したいって貴族は多いからな。基本、貴族だの王族だのからの指名依頼は断ると査定に響くぞ。国の信用をギルドが裏切るって事になるからな。カリンの状況を公表出来ない以上、ビビって逃げたって言われても仕方ねぇ」
「あちゃぁ・・・そりゃ面倒だな。受けるしかないわけか」
「そうだな。大した理由も無く断るのはやめとけ。メンバーが大怪我したとか死人が出たとかなら、情状酌量の余地はあるだろうが・・・」
「断るために死んでたら意味ねぇな。とすると、クソ兄貴共が仕掛けてくるだろう罠を喰い破るしかねぇか」
「ちょいと危ねぇがそれがいいだろう。伯爵に相談するって手もあるが、まぁ望み薄だろうな」
「そりゃそうだ。オレは伯爵を信用出来ねぇよおっさん」
「まぁ、悪い人ではねぇんだが、仕方ねぇ。まぁ前向きに考えろ。指名依頼が入るって事は名をあげるチャンスでもあるぜ?成功すればギルドからの覚えも目出度く査定にも反映する。内容にもよるが依頼2回分位の実績になるんじゃねぇか?だいたいてめぇら二人揃ったら、下手な罠仕掛けても無駄だろうしよ」
「姐御とおっさんに大分しごかれたからなぁ」
「スキルレベルが上がる!イエーーイ!とか喜んでたくせに何いってやがる!」
「それにしたって休憩なしで数時間戦いっぱなしってなんだよ!死ぬわ!」
「死んでねぇんだからいいじゃねぇか。細かい事言ってるから体が細いんだよ」
「それと身体つきは関係ねぇだろうが!それよりおっさん、もう一個相談あんだけど」
「てめぇは問題の宝箱か!?どんだけ問題持ってくんだよ!」
「お、そのツッコミいいな!」
「うるせぇよ!さっさと話せ!」
「オレってさ、異世界から来たじゃん?んで、そういう人間がこの世界に来るの初めてらしくてさ~。神様に記憶を読まれたんだけどさ~。オレの居た世界って魔法が無かった代わりに技術が発達しててなー」
「まてまてまて!ちょっとまて!てめぇ何言ってやがる?異世界だと?魔法がねぇ?」
「うん。地球ってとこにいた。オレってば魔法で召喚されたらしいよ?」
「召喚?・・・聞いたことねぇな。誰にだ?」
「なんか神様が言うには北大陸の帝国らしいよ。天才がいるんだってさ」
「帝国か・・・とすると魔導研究所だろうな。あそこなら訳分からん魔法を開発してもおかしくねぇ。で、それが何でこの大陸にいる?・・・いやいい。試作型とかそういうことか?」
「お、流石おっさん。神様が言うにはそうらしい。何を思って召喚したのかは分からないみたいだけど、そういうわけで、黒の森にある崩れかけた神殿に飛ばされたわけだ」
「あん?神殿なんざ・・・そういや昔見たことあんな。ボロい神殿」
「おっさんも行ったことあんの?そこだよ。そこでミーネ・・・あ、ギルドに登録した時一緒に居た女の人ね。ミーネに修行をつけてもらいながら森を出てこの街に来たんだよ」
「はぁ・・・ってことはあの姉ちゃんはまさか?」
「おう。戦いを司る神って言ってたかな?あの人つええんだよなぁ」
「当たり前だろうが!!武闘派の神なんぞオレでも勝てねぇわ!妙に存在感がある姉ちゃんだったが神様かよ!」
「まぁそういう事があったわけだ。話を戻すと、その時に神が読み取った記憶が神界で流行ってるらしいよ。異世界の情報なんて珍しいんだろうな。その記憶を見た職業神がビビッと来たらしくて新しい職業作っちまったんだよ」
「はぁ?そんなことあんのか?」
「知らん。本神がそう言ってるんだからしょうがないでしょうよ。んで、その職業が銃器製造技師っていう生産職なんだけど」
「なんだ生産職か」
「あからさまにつまんなそうな顔すんなよ!戦闘狂か!!で、その銃ってのが元居た世界じゃ最強の対人武器だったわけだ」
「最強の対人武器だと!?詳しく話せ!」
「そこで食いつくの!?最強って言ってもあっちの世界での話だぞ?こっちじゃ結界やら魔道具やら普通にあるから、最強じゃあないと思うぞ!だいたい射撃武器だしな」
「射撃?・・・はぁ、弩の仲間ってことか?」
「急にテンション下がったね!まぁそういうことだな。ただ、訓練しなくても簡単に使えて素人でも容易に人を殺せる武器だから、流石のじじ・・・職業神でも作らせたくないらしい」
「そういう類の武器かよ。まぁ、危惧するところは分からんでもねぇな。国の上とかが聞いたら大喜びでお前を拉致するな」
「間違いなく全員が人殺しになれる武器だからな・・・流通すればの話だけど。そんなことよりも、元のままの銃はダメだからってんで魔法を込めた弾丸を放つ武器ってことにしたらしい」
「魔法を込めた弾丸だと?使い捨ての魔道具って感じか?」
「そういう考えで合ってると思うよ。作ってみねぇと威力やら使い勝手は分からないし。ただモノにもよるけど射程距離はそれなりに長いから、ただ投げるよりも断然使い勝手はいいと思うよ」
「ほぉ・・・銃ねぇ。よくわかんねぇがそれで何を相談してぇんだ?」
「それ作るのにデス鉱石ってのと魔力結晶、黒鉄鋼少々が必要なんだよ。おっさん何処に行ったら手に入るか分かるか?」
「あ?それなら職人んとこ行きゃあるんじゃねぇか?どれも希少価値があるモノじゃねぇし、この国でも算出するしな。デス鉱石製の斧ならオレも持ってるし」
「デスシッ○ルですね。分かります」
「なにが分かるのか知らねぇが職人んとこに行ってみな。お前の革鎧とか作ってもらってるとこあんだろ?そこに行けばいいんじゃねぇのか?」
「普通に鉱石揃うのか・・・こりゃ暇見て作るしかねぇな」
クソ・・昨日、すっかり仲良くなった職人連中と飲んだ時に、話題に出せば良かったじゃねぇか・・・。
鉱石の話は鉱石のプロに聞くのが当たり前だっていうのに、まったく。
ビールが旨いのが悪いな、うん。
「くだらねぇこと考えてる顔してんな。それじゃオレは戻るぞ。訓練場に居ねぇとギルド長に怒られんだよ」
「だから毎日訓練場に居たのか?住んでるのかと思ったよ」
「住むわけねぇだろうが!毎日通ってんだよ!」
「お?ってことはおっさん家持ってるの?」
「あ?当たり前だろうが。多少は金持ってるからな。全盛期よりは全然ねぇが、それでも家位買える金はある」
「へぇ~!まぁ興味ないけどな!」
「じゃあ聞くな!」
さぁて、おっさんに聞いた通り早速職人達に・・・ってカリンが依頼選んでたんだよな。
いかんいかん。銃が作れるって聞いて年甲斐もなく興奮してしまったよ。
まぁ、ステータスじゃ18才だからいいか。
自己肯定感が人生前向きに生きるのにとても大事って昔テレビでやってたしな。
「ユウ。これ」
「待たせたな。これ?受けたいの見つかったのか?」
「ん」
んー?なになに・・・
森にある池で釣れるブラックニジマス3匹の納品?
・・・黒なのか虹色なのかさっぱり分からん魚だな。
しかし・・・釣りか。ふむ。
「カリン。この依頼はチーム風花が受けるべき依頼だな!ぜひ釣りに・・・依頼を受けようじゃあないか!」
久しぶりの釣りだっ!!!
「ユウ。釣りしたい?」
「ギクッ」
「意外」
「意外かなぁ。故郷じゃ釣りが唯一の癒やしだったんだぜ・・・」
「釣り・・・する?」
「おう!!まずは道具だなぁ!カーボンなんてねぇだろうし、竹とか使うのかなぁ!ルアーか?それともイクラっぽいのとか使うのかねぇ。フライって手もあるな!」
「ユウ。うるさい」
「おっと・・・久しぶりに釣り行けると思うと興奮しちゃったよ。依頼者はえっと・・・森のくまさん亭って親父さんか!とすると夕食になる可能性が・・・」
「ユウ。早急に行くべき」
「うむ。我々の利害は一致しているようだな!ではカリン隊員!すぐに依頼を受けてくるのだ!私は釣具を扱っている店を聞いて・・・いやまてよ?もしかして」
エルさんならオレの趣味が釣りって知ってるし、もしかしたら釣り道具も入ってるかもしれない。
訓練場でちょっくらポーチを捜索してみようかね。




