12
朝起きて最初にしたのは窓を開けて煙草に火をつけること。
「今日もいい天気だねえ」
目覚ましがてら今日の予定を考える。
あと1件でEランク。そこからDになるのに15件の依頼達成が必要だったはずだ。
依頼の内容はギルドに行ってから考えるでいいかな。
緊急性が高そうなやつにするか。困ってそうなやつとか。
財布はともかく精神的には余裕あるし。
いやまてよ。空いた時間でジョージ教官と模擬戦とかもいいな。
それに可能なら斥候系の指導も受けたいところだ。
特に罠の解除訓練だな。それに期待して斥候になったわけだし。
すぐに使う予定はないが、こういうのは持っていることで安心する。
知らないことは怖いことだからな。
流石に罠食らって体で覚えるのは嫌だ・・・。
「フゥー、よし。飯食っていくか」
いつものように見た目は変わらないがローテーションはしている灰色の服。
ブーツの紐をしっかり結んで邪魔にならないように内側に押し込む。
つま先をトントンと床にぶつけて具合を確認。
ポーチの固定オッケー、ナイフ固定オッケー。
「うし、いい感じだ」
食堂で朝からガッツリ食べた後は、親父さんに鍵を預けてギルドに向かった。
ギルドに入ると、受付に挨拶しつつ掲示板を眺めた。
ふむ。薬草採取依頼、畑に出るブルボア討伐依頼・・・ってこれ昨日も見たな。
ゴブリン討伐・・・は昨日やったからいいとして。
んー、こういう時は考えていた通りの基準でいこう。困ってる人優先で。
よし、今日は畑を困らすイノシシ君を退治しますかね。
「おはようございます。この依頼受けます」
「これにゃ?この依頼時間経ってるから助かるにゃ!」
今日立っていた受付のお姉さんはなんと猫耳さんだった。
背中の方では細めの尻尾がゆらゆらと揺れている。
ツンツン
しかも・・・ううむ。語尾に にゃ か・・・。
これはいいものだな。これは・・・いいものだぁぁぁぁ!
ツンツン
って誰ださっきから服を引っ張る奴は。
振り返るとそこに居たのはカリンだった。うむ、今日も黒ドレスに長い金髪が光っていますな。
「んお?カリンか。おはよう」
「ん。おはよう」
「カリンも依頼か?」
ふるふる。今日は依頼受けるつもりはないのかな?
「パーティ組みたい」
「ん?オレとか?」
「ん」
「パーティか・・・そう言われてもオレ登録2日目なんだが」
「問題ない」
「ないのか・・・ランクは同じFランクだったよな?」
「ん。あと7つでE」
「そういやそうだったな・・・」
うーむ・・・どうしようか。
Dランク位までは報酬的にソロのが効率が良さそうなのだが・・・でもカリンの手助けは出来るだけするって決めたしなぁ。
腕を組んで唸っていると、猫耳のお姉さんが話しかけてきた。
「パーティ組むにゃ?ブルボアやるならパーティ組んでた方が効率がいいかもしれないにゃ」
「というと?」
「どうも依頼主が言うには番っぽいのにゃ。別々に突進してくるからいつも逃げられちゃうって言ってたにゃ」
「おおぅ・・・そりゃまずいな。よし、カリン。とりあえず今日一緒に依頼を受けてお互い問題無さそうだったら組んでみよう。それでいいか?」
「問題ない」
「それじゃえっと・・・」
「あ、申し遅れましたにゃ?あちしはレニシア。16才のピッチピチにゃ!あ・・・ピッチピチといえば今日はお魚食べたいにゃあ」
「そ、そう・・・オレはユウ。こっちはカリン。よろしくレニシアさん」
この世界の女性は年齢を言わないといけない病気か何かなのか?
それに魚食べたいって突然言われても・・・まだ朝だよ・・・?
まぁいいや。気を取り直して依頼を処理してもらい、受注した。
ギルドを出るとカリンに振り返った。
その場の勢いとはいえ組むことになったからにはしっかり確認しておかなきゃ諍いの元になるだろうし。
「カリン、本当にいいのか?」
「ん」
「それじゃリーダーはどっ「ん。ユウ」・・・そうですか」
「ん」
「そいじゃこれからブルボア討伐にいくが、貢献度とか関係なく基本的に報酬は半分こな。別々に依頼を受ける場合は受けた奴が全額ってことで。あとは何かあるか?」
「ん。大丈夫」
「さよか。そいじゃ行ってみるか」
「ん」
短いミーティングを終えて、ようやく依頼された畑に向かって歩き出した。
この街は東の国の辺境、森沿いの街ってのは既に説明したと思う。
街の西側に森に面したでっかい門があって、ここから街に入った。
東側と南側にも門があってそれぞれ、王都方面と港町方面へ続いている。
じゃあ北はどうなのよってなると思うが、北には領主であり、カリンの親父でもあるシュバイツ伯が住む城・・・というかありゃ砦だな。
石造りの砦が威風も堂々と構えている。
宿の親父さんと世間話した限りでは特に決まりはないそうだが、商人たちは中央通り沿いに店を出しているし、職人達は東側に多く集まっているようだ。
そこら中でトンテンガンガンやってたら煩くて大変だろうしな。
そうやって自然に住み分けが出来ているらしい。
西側でも門に近い方は貧しい人達が多い。
壁際はスラムになっていて適当に作ったような小屋の屋根が独特の景観を生み出してる。
金持ち連中は安全な方、つまり砦周辺に住んでいるらしい。
伯爵に仕える下級貴族や騎士なんかもその辺りだ。
兵士達が詰める兵舎は砦付近と各門の付近、それからギルドの隣にもある。
冒険者ギルドは中央通りにあるが、よく揉め事が起こるから隣に兵舎があるらしい・・・。
じゃあ畑は何処だよって話しだが、王都側の門の外にある。
勿論魔物対策の柵で囲ってはあるが、ブルボアなんかの草食系魔物やビッグクロウやゴブリンなんかの雑食系の魔物にしばしば襲われるらしい。
今回の依頼もその一つってわけだ。
「収穫前の麦の穂がいい感じで綺麗だな~」
「ん。努力の結晶」
「そうだな。それを横から盗ってこうなんて許せんよなぁ」
「ん。ご飯の恨みは大きい」
カリンも農作物を荒らされるのは怒りを感じているらしい。
義憤というより自分の食料を荒らされている気分なのだろうが気合は十分だ。
畑付近に立っている農家の中で一際大きな家の前に到着した。
依頼表によると責任者の立場にある人が住んでいるらしい。
ここで詳しい話を聞くわけだ。
ちなみに今日の装備は弓だ。侵入された穴をあえてそのままにしておいて、そこを狙うつもりでいる。
カリンは魔法で狙撃出来るから問題ないだろう。
道すがら話した限りじゃ、20m位はほぼ当てられるらしいし。
「ごめんくださーい!ギルドで依頼を受けてきた冒険者ですがー!」
「あいよー!ちょっとまってくれー!」
裏の方から声が聞こえたので待っていると、玄関から真っ黒に焼けた壮年の男が出てきた。
毎日の農作業で焼けたのだろう。体つきも農夫らしくがっしりしている。
「あんたらが依頼を受けてくれたのかい?」
「はい。オレはユウ。こっちがカリン」
「よろしく」
「おう!オレはここらの農夫衆をまとめるガンツってんだ。よろしく頼むよ!それじゃ早速現場を見てもらおうかね」
そういって歩いていくガンツさんの後ろについて畑に向かった。
柵に沿って歩いていくと、やがて力任せに破壊されたような箇所が目に入った。
折れた木製の柵周りに獣の毛がくっついてる。ここから侵入したので間違いないだろう。
もう一箇所も見せてもらったが、さっきよりもやや小さい破壊痕があった以外は同様の状態だ。
「こりゃ見事にやられましたね。罠なんかは置かれたりしたんですか?」
「いんや。罠を置こうって話も出たんだが、何処から入ってくるかわからねぇし、収穫が一部で始まってるから忙しくて手が回らねぇんだよ」
「なるほど・・・。では、狙いを絞る為にここをわざとそのままにしておいて、ここに張り込みたいと思いますが」
「おう!どうせまた壊されるだろうしそれがいいかもしれねぇな。任せるから好きにやってくれ」
「わかりました。あ、柵辺りに落とし穴しかけても構いませんか?」
「落とし穴か?まぁ畑に入らなきゃ大丈夫だ。そいじゃオレも忙しいからすまねぇが頼むよ」
そういってガンツさんは戻っていった。
ふむ・・・罠設置許可も出たことだしとりあえず落とし穴を作るか。
唸れ!オレの罠設置スキルよ!ついでにスキルアップしてもいいのよ?
「カリン、ここに穴掘って足止めしてから弓と魔法で仕留める感じで考えてるんだがどう思う?」
「・・・ん。いいと思う」
「よし、そいじゃ魔法で穴掘り頼めるか?オレは掘った穴にかぶせるの作るから」
「ん。まかせて」
というわけで取り出したのはまたもやボロ布となった我が服です。
意外と出番多いなボロ布・・・下手な武器より出番が多いぞ?
カリンが穴を作っている間にひとっ走りして取ってきた枯れ枝とボロ布で上手く穴を隠していく。
上に土を薄く被せてからそこら辺から根っこごと抜いた雑草を植えてカモフラージュ。
それを二度繰り返して罠が完成した。
ポーン
〘スキル罠設置が上昇しました。〙
うん、そんな気がしてたからもう驚かない。だいぶ慣れてきたなインフォ。
「とりあえずこれで完成だな。少し離れた場所で待ち伏せしようか」
「ん。わたしがあっち担当」
「じゃオレこっちで待ちぶせな。もし片方に2匹同時にきたら知らせる感じでいこう。その場合は足止め優先で」
「わかった」
さぁて準備は整った。あとは獲物が来るのを待つだけだ。
2時間位待機しただろうか。そろそろ昼飯でも作るかと思っていたところで気配察知に反応があった。
「っ!きたか?」
柵の方を見るとブルボアが入ろうとしているところだった。
チッ、カリンの方にもいるな。気づいてるといいが・・・。
しまったな・・・あとで連絡手段も考えねぇと。
とにかく今はカリンを信じてこっちに集中しよう。
弓を構えて矢をゆっくりと引いていく。
ブルボアは盛んに鼻を動かしながら柵に空いた穴から入り込んで・・・
ズボォォ
見事に落ちた。
「フゴォォォォ!」
穴は1m位だが、地球にいる猪よりやや大型な程度のブルボアには十分な深さだったらしい。
頭から落ちたらしくお尻が揺れている・・・。
「そのケツにかましてやるぜ!」
カリンの前ではとても言えないセリフと共に矢を放った。
ただでさえ動かない上にしっかり狙いを付けられたので、狙い通りにサクッと尻に矢が刺さった。
うん・・・ストレス解消にはいいかもしれんが迂遠だ。
目か首に矢を射るつもりだったが、ケツしか見えないんじゃ近づいてメイスのがはええなこりゃ。
罠が効果的過ぎて隙だらけになったブルボアをあっさりと殺すと、カリンの方を確認した。
あっちも上手く嵌ったらしい。
同じく近距離から魔法を打ち込まれている。
落ちた勢いで底に角が刺さったらしいブルボアの死骸をなんとか引き上げて、カリンの方に向かった。
「そっちも上手くいったみたいだな」
「ん。楽勝」
「そりゃよかった。そいじゃ引き上げるから手分けして剥ぎ取りな」
「ん。ナイフ貸して」
「あいよ。ところで依頼終わったらナイフ買いにいくからな」
「ん。ユウが全部やってもよい・・・よ?」
「だめですー。カリンも出来るようになっとかねーとオレが動けない時困るだろが」
「・・・仕方ない」
「はいはい、諦めて剥ぎ取りする!証明部位は角だからな。根本の方で切れ・・・ってナイフじゃ無理か」
「ププ、ナイフいらなかった」
「うるせぇやい!んー、こりゃ斧か?カリン、風魔法で切断とか出来ないか?」
「ん。いけると思う」
「そいじゃ頼むわ。オレはあっちの処理してくるから」
「ん。・・・風におねがい、刻んでかもん。太刀風」
オレの方のブルボアに向かおうとしたところで、カリンの魔法が発動。
スパァッ!と良い音がしたと思ったら、角がポトリと地面に落ちた。
詠唱もなんというかアレだが、それよりも・・・
「・・・はやくね?」
「ん。天才」
「おう。こりゃ大したもんだ。そいじゃ予定変更。あっちの角も任していいか?こっちの魔石剥ぎとっとく」
「ん。任せて」
褒められたのが嬉しいのかフンス!と可愛らしく鼻息を荒くして胸を張るカリンにあっちのブルボアを任せて角が無くなったブルボアの魔石を剥ぎ取りにかかった。
太刀風とかいったか・・・名前と効果からして斬撃を浴びせる風ってとこだろう。
オレも刀で集中すれば斬れないことはない・・・と思うが相当集中しないと難しいので正直厳しい。
ミーネならナイフでスパスパ切れそうだがなぁ・・・。
固いものを斬る時は気を巡らせればいいとか言ってたような。
武器の扱い覚えるのに必死で気の操作について考える暇が無かったがその辺の技術もいずれ必要になりそうだな。
達人は得物を選ばないなんてどっかで聞いたことあるしいずれはその境地に達したいよなぁ。
・・・でもいい武器のが楽に切れる気がするけどな。
まぁ意味が違うんだろうが。
達人への道はまだまだ遠そうだ・・・。
足りないものが多すぎる。
さて、と。
魔石を取り出して傷がないのを確認。
無事な柵に寄りかかってとりあえず一服つける。
こいつの皮はそれなりに固そうだし、これで皮鎧とか作れんかな?
・・・いけそうだな。こいつもあとで剥ぎとっておこう。
肉はどうする?農家の人にあげるか。
これ食っていい小麦作ってくれとか言っておけば受け取ってくれるだろう。
あ・・・カリンが食いたがるか?
・・・まぁいいや。一応確認しとこう。
そういや
あいつ物凄い食うんだよな・・・・。食費で報酬が消えないことを祈ろう。
ランクアップに必要な依頼達成数がおかしいとの指摘がありましたので若干変更しています。




