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最後まで続けられるかどうかも分からないですが、大好きなファンタジーの世界を自分なりに表現したくて始めさせてもらいました。
お読みいただければ嬉しいです。
「お疲れ様でしたー!お先でーす」
聞こえた声に顔を上げた時には部下の姿が既に見えなかった。お疲れ様、返そうと思った言葉を飲み込んで再び仕事に戻った。やれやれ・・・明日注意しておかなければ、だな・・・。
今日も元気な親友・・・胃痛君と戦いながら明日の予定を脳裏に浮かべた。
私の名前は御崎優。中小企業の哀しき中間管理職である。175cmの中肉中背、顔は良くもなく悪くもない・・・はず。35にもなると流石に腹がぽこりとしてきたが仕事の忙しさにかまけて運動はおろか趣味の釣りにも出かけられていない悲哀ただようそこら辺によくいる独身中年だ。
ああ・・・のんびり釣り行きたい・・・。温泉も行きたい・・・。
あー、いかん。愚痴っぽくなってきたな。さっさと終わらせて帰ろう。
部下の報告書をチェックしていくつかの箇所に書き直し!と力強く書いた付箋を貼って部下の机に戻してから、事務所にいる社員に声をかけて事務所を出たのは21時過ぎ。コンビニで缶ビールを2本と摘みを買ってアパートに着いたのが普段通り22時頃だったと思う。
鞄から出したアパートのキーで解錠し、何の変哲もない扉を開けた瞬間・・・。
突然視界いっぱいに光が広がっていく。
まるで吸い寄せられるように光に呑まれていくようだ・・・逃げようとするも体が動かない。
抵抗も出来ずに何が何だか分からないまま意識が落ちていった。
〘システムメッセージ:アルマトゥーラからの転移要請を受理しました。適合者を検索・・・適合者は2000名です。転移要請に転移者指定が無い為、適合者のうち転移者をランダム検索・・・該当者1名。個体名:御崎優を地球からアルマトゥーラへ転移します。続いてアルマトゥーラへの適合処理を行います。・・・成功。御崎優のパーソナルデータをアルマトゥーラ神界へ転送処理を開始します。・・・成功。転移処理を終了します〙
その日、地球から御崎優という人間が消えた。
「・・・・む」
次々と舞い込む資料や報告書を捌きつつ、部下に指示を与えていた中級管理神ズイッヒェルは何かを感じて動きを止めた。
「どうかされましたか?」
中空を睨んで動きを止めた上司に、部下がそう声をかけてくるが
「・・・何者かが結界をすり抜けて入り込んで来たようだ。あまり大きくはないようだが・・・この感じ・・人か・・?」
眉根を寄せて呟くズイッヒェルに深刻さを感じた部下の顔が青くなる。
無理もない。神々が守護しているはずの世界の境目を超えてきたのだ。一体どんな手段を使えば可能だというのか。上司の言う通りであれば神界始まって以来の大事件である。
「・・・むしろ・・・地上から引っ張られている・・・?」
そこまで呟いて、いつの間にか室内が静まりかえっている事に気がついたズイッヒェルは部下達を見回して
「諸君、異常事態のようだ。何があるかわからん、私が出る!念の為、君たちは私の様子をモニターしておいて欲しい。戦闘に入った場合は速やかに増援の手配を頼む。上には私の方から報告を入れておく!」
「「「「わかりました!!」」」
ズイッヒェルの声に部下達が一斉に動き始めた。
ただでさえ忙しいのだ。せめて長引いてくれるな、とズィッヒェルは思わず心中で愚痴った。
さしあたっては・・・すぐに上司へ報告しなければならないようだ。
彼は溜息を飲み込んで、上司の執務室へと足を向けた。