インターバル
その日は雨が降っていた。私の記憶では始業式の終わった後か、次の日の土曜日だったはず。午前中に授業もすべて終わって放課後の図書館。珍しく私は一人だった。せっかくの一人なんで、帰り途中に本屋にでも寄ろうか。
そんな事を考えながら、だらだらと時間を潰す。なんだかんだで、みんなを待つ自分が可笑しくて笑う。
ふと、外を見る。中庭の方を、見てしまった。
男が二人、雪の積もった中庭で対峙していた。雪?
違う、雨で落ちた桜の花だ。中庭を囲む桜が、落ちて真っ白な絨毯になっていた。
白い原の上で、二人の男が向かい合う。片方は遠くから見ても、ずぶ濡れなのが解った。雨が土砂降りになったのは、一時間前、あれだけ濡れるにもそれだけの時間がいる。濡れている男は、ずっと雨の中立っていたのだろうか?
「……!」
濡れていない男の口が動いた。何を言ってるかははっきりと分からない。野次馬気分で窓をこっそり開けた。窓が開き始めるくらいで、
「嫌だ! 納得できないっすよ!?」
濡れている方が叫んだ。この声は聞き覚えがある。茂野だ。
何で……?
「聞き分けろ。後は俺たちの出る幕じゃねえ」
もう一方はケンイチだった。
何で、何で?
「兄さんはどうも思わないんですか?」
ケンイチは何も言わなかった。いや、何を言うか考えていたかもしれない。茂野には余裕が無いらしく、
「……行きます。アイツ、殴るだけじゃ気が済みません」
言いながら、ずんずんとケンイチの方へ、学校の出口へと向かっていった。
ケンイチと交差する瞬間、
「止めとけ」
茂野の首に、ケンイチの腕が掛かる。茂野はそれを強引に払いのけた。
茂野があそこまでケンイチに反発するなんて……。
私を驚かせるのはそれだけでは済まなかった。
再び進もうとする茂野。急に彼の体が後ろへ倒れた。
振り下ろした右手を戻すケンイチ。何を言うわけでもなく、茂野を見下ろしている。
殴った。ケンイチが茂野を……?
そして茂野は起きあがるなり、
「っ……ちっくしょおぉー!」
ヤケクソにケンイチに向かっていった!
再び殴り飛ばされる茂野。
そのたびに起きあがり、向かっていっては倒された。
「止めて……止めて!」
私は叫び、図書館を飛び出した。長い廊下を走り、角を曲がり、上履きである事すら忘れて、中庭へ踏み込んだ。
「止めて!」
と、叫んだときにはもう茂野は動いてなかった。血と腫れで真っ赤な顔をして、横たわっている。