特別SS 船上のスタジアムその5
5回終了時に大連のマスコットキャラクターであるスナメリクジラのバルシスくんのダンスアトラクションをはさんで6回の攻防に移る。大連はピッチャーの平野に代えて斎場次巳を繰り出した。今季は10試合で防御率4.24と真価を発揮できなかったが、本来の技量を発揮できれば貴重なリリーフとなるはずだの力量は備えているはずだ。しかし今日の登板も今年の彼を象徴するように不安定だった。
まず先頭の京寺にバントヒットを許す。続く金瀬の代打高山真二がレフト前ヒットで一二塁、小倉はセカンドゴロでワンナウト一三塁となる。ここで4番何陽国はセンターに犠牲フライを打ち上げる。続く王大生の代打金東順をセカンドゴロに抑えてこの回を終えたが1点を還された。今日に限らずシーズン中も斎場はやや球威がなかった。
6回裏は紡木に代えて、右サイドに近いところから放つ切れ味鋭いスライダーが武器の曹九準がマウンドに登る。大連はまず古池の代打李春稀が三振、ドラグノフの代打太刀川勇太がショートライナー、宮畑の代打一村富郎が三振と代打は不発に終わる。ただ太刀川の打球は抜けていてもおかしくなかった。高山に代わって出場していた玉木俊平の溌剌とした守備力は一軍でも通用するもので、今後は出番が増えるだろう。6回終了時点で4対2と吉林が少し差を詰めてきた。
試合は終盤7回を迎えた。シーズン中の大連だとここらでリリーフが試合を決めにかかる。しかし今は野藤も小松原も比山もいない。温泉キャンプで酷使した体をしっかり治癒させるためである。そこで石風呂幹伸が登板した。
石風呂は綱木の代打李国鵬をレフトフライ、呉敏歩の代打中田年亜樹をセンターフライに打ち取って簡単にツーアウトまで行った。しかし石井の代打柳天明にホームランを打たれてしまう。ライトのポール際ギリギリで、大上と同様に普通の球場ならホームランにはならなかっただろう。楊東海の代打岸田一正は何の問題もなくサードゴロに抑えただけに不用意な一発がもったいない。これが石風呂を使い勝手のいいリリーフという地位にとどまらせる一因だろう。球威がアップすればもっと上を狙えるはずだ。
7回裏の吉林は曹に代えて竹林憲一郎を登板させる。竹林はサイドスローに転向したここ数年でようやく出番が増えてきた。先頭の李健太郎はレフトフライ、中西の代打南翔介は三遊間を抜けるヒットとなったが水内の代打河剛紀は三振に倒れる。トップに戻って岩下はライト前ヒットを放った。しかし三塁を狙った南が小倉の好返球に阻まれてチェンジとなる。これは小倉が良かった。7回終了時点で4対3、ジワジワと差が詰まってきた。
8回、気付いたらリードをほとんど使い果たした大連はルーキーながらシーズン最終戦に先発登板を果たした汐風有希をマウンドに送る。新京相手に3回を1失点と及第点のデビューを飾り、将来のエースとなる資格十分である。さて、ピッチングに関してはこの回の先頭打者となる京寺の代打関準喜と玉木を連続三振、小倉の代打陳斗新はスライダーを流してレフト前に落ちると思いきや李健太郎がダイビングキャッチを見せて間一髪アウトにする。汐風は球速は130キロ台にとどまっていたが、球持ちの良さゆえに打者は振り遅れていた。
8回裏、吉林はマウンドに王千岩を送り込んだ。この回の先頭打者である大上の代打佐々沢辰巳がセカンドゴロに倒れてワンナウト。続くフェリックスはストレートを引っ張って三塁線を破るヒットで出塁する。さらに盗塁を決めるが李春稀のピッチャーゴロで飛び出してしまい挟殺。太刀川が四球を選んで一二塁としたが一村が三振で無得点に終わる。8回終了時点で4対3と大連1点リードのまま最終回に突入する。
9回、大連のマウンドに立ったのは来季は先発ローテーション入りも期待される王貞成。しかし先頭の何陽国にデッドボールを与えてしまい危険球退場の大失態。キャンプで上げた評価がただちに消え去った。緊急登板したのは譚秋雲だったが、コントロールが定まらず金東順に四球を与えてしまう。ノーアウト一二塁の状況だったが、二塁に牽制球を投げて何陽国を刺した。これで流れが変わったか、李国鵬を三振としてツーアウトまでこぎつける。しかしここに落とし穴が待っていた。
続くバッターは中田。二軍で3割近い打率をマークしながら一軍では未だにノーヒットと歯がゆい成績だが、その打撃センスには定評がある。譚秋雲の1球目のスライダーをためらいなく振りぬくと打球はグングン伸びていきライトスタンドに突き刺さった。これはこのスタジアム特有の狭い部分ではなくセンターよりの部分で、普通の球場でもホームランになっていたであろう文句ない打球だった。これで吉林が1点勝ち越す。続く柳天明に対しては本来登板予定はなかったとされる池田武治を投入してセンターフライに打ち取る。
まさかの逆転を許した大連はもう後がない。逃げ切りを図る吉林はマウンドに浦井淳一を送り込んだ。浦井は今シーズンの後半に一軍定着、31試合に登板して防御率1点台と高い安定感を見せた速球派の右腕である。一軍で数字を残したのは伊達ではなく、先頭の李健太郎の代打高遼二、続く南を連続三振に打ち取る。
あと一人となった大連。ここで回ってきたのは河剛紀であった。星渡や棚橋と同じ年齢だが、レギュラーを掴んだ彼らとは対照的に19試合で打率.224とアピールできなかった。それだけに今日の試合は何かを残さないといけない。ストレートで押しまくる浦井の前にあっさり追い込まれたがそこからファールで粘り11球目にようやくフルカウントとする。そして12球目、フォークボールを見逃して四球を選び取った。
続くバッターは岩下。俊足巧打タイプには先輩の星渡という高い壁が存在する中、通算でもわずか4試合の出場とまだまだ厳しいものがある。しかしセンスは評価されており、また、この場面においても冷静な振る舞いを崩さなかった。浦井は相変わらずストレートで押すが、カウント2-0からの3球目、ストライクを取りに来たやや外角のストレートを弾き返した。鋭く伸びる打球は勢いよく左中間を抜けていった。
河剛紀はホームインで同点となり、岩下は二塁まで進んだ。一打サヨナラでバッター佐々沢はカウント1-2からのスライダーを捕らえて強烈なライナー性の打球を放つ。しかしショート玉木がジャンプ一閃、ダイレクトキャッチを見せてスリーアウトと逆転ならず。
優秀選手には大連からは今日の試合で唯一複数安打を放った岩下と2回を無安打に抑えた松浦が、吉林からは唯一フル出場して2打点を挙げた何陽国と一時は逆転となるホームランを放った中田が、そして最優秀選手は3回に満塁ホームランを放った大上が選出された。
大連劉監督は「シーズンやキャンプで手にしたものをこの場で出せた選手だけが(来シーズン以降)生き残る。吉林さんには(船上での試合という)無理な願いを聞いていただきましたがお陰でいいものが見られました」とまとめた。また、吉林松本監督は「来季に向けて収穫半分課題半分ですかね。(若い選手には)来季の目標(である優勝)のためにオフはしっかり自分を見つめて成長の糧にしてほしい」と総括し、終了するはずだった。
[ホーム]大連
8星渡(1-0)-岩下(3-2)
4大上(3-1)-佐々沢(2-0) 95
6棚橋(2-1)-フェリックス(2-1)
3古池(2-0)-李春稀(2-0)
5ドラグノフ(2-0)-太刀川(1-0)
D宮畑(1-0)-一村(2-0)
7李健太郎(3-1)-高遼二(1-0)
2中西(2-0)-南(2-1)
9水内(1-0)-河剛紀(1-0)
1赤坂(2)-松浦(2)-平野(1)-斎場(1)-石風呂(1)-汐風(1)-王貞成(0)-譚秋雲(2/3)-池田(1/3)
[ビジター]吉林
4京寺(2-1)-関(1-0)
6金瀬(2-0)-高山(1-1)-玉木(1-0)
9小倉(2-0)-陳斗新(1-0)
D何陽国(2-1)
5王大生(2-0)-金東順(1-0)
2綱木(1-0)-李国鵬(2-0)
8呉敏歩(2-0)-中田(2-1)
3石井(2-0)-柳天明(2-1) 94
7楊東海(2-0)-岸田(1-0)
1我那覇(3)-紡木(2)-曹九準(1)-竹林(1)-王千岩(1)-浦井(1)
吉 100 001 102 5
大 004 000 001 5