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V戦士インタビュー 柳中平

 奇妙な一塁手である。一塁手といえば同一カンファレンスにおけるチチハルの星野徹也、平壌の趙民陽のように強打を期待されるが、大連の正一塁手である柳中平はシーズン最多本塁打はわずか9本で打順も下位や2番といった「脇役」に座る。しかしここ5年で3回規定打席に到達するなど不動の一塁手である。その秘訣を尋ねてみた。


インタビュアー(以下イ)「昨年は東洋一おめでとうございます」

柳中平(以下柳)「ありがとうございます。チームみんなで勝ち取った東洋一なのでとても嬉しいです」

イ「柳選手は一塁手として安定した活躍を見せました」

柳「そういわれるとこそばゆいですね(笑)。自分にできる事をするのが最大の貢献ですが、自分のそれは安定感をもたらす事だと思っているのでその点では良かったのかなとは思います」

イ「柳選手にとって去年のシーズンはどのようなものでしたか」

柳「チームとしての結果は最高でしたが個人成績としてはもっと頑張りたかったというのが本音ですね」

イ「それはどういった点においてでしょうか」

柳「一にも二にも打撃ですよ。去年の春季キャンプでは『打撃の中平になる』なんていいましたが、なかなか打撃は難しいと改めて感じるシーズンでした」

イ「統一球が採用されたシーズンで打率.261に6本29点は立派な数字に見えますが」

柳「一塁手なのでもっと打撃をしっかりしないとという願望はあります。それこそ理想を言うとクリーンナップに座れるようなね。ただホームランを狙いすぎるあまりバランスが崩れたらどうしようもない。その辺の兼ね合いは簡単にはいきませんし、まだまだ悩み続けている部分です。それと怪我もいけなかった」

イ「シーズン終盤の優勝争いが佳境となった時に負傷で離脱してしまいました」

柳「それもとても悔しかった。リハビリには焦りは禁物と頭では分かっていても、それだからこそ『何やってるんだよ俺は』という気分に刈られて」

イ「しかしプレーオフで戦列に復帰し、リーグ代表決定戦では2試合連続タイムリーヒットを放つなどさすがの実力を見せました」

柳「試合に出るからには後悔しないようにと心がけてきました。シーズン終盤に散々後悔しましたからね。タイムリーを打つのは僕の仕事というわけでもないけど、いい具合にバットが振れていたと思う。あの感覚は忘れたくないね」


 柳は朝鮮半島南部、釜山郊外の金海にて3人兄弟の末っ子として生まれた。朝鮮半島随一の野球王国である釜山が近くにあるということで野球を始めた人よりひょろ長い少年は人よりもゆっくりと成長していった。


イ「さて、柳選手の少年時代についてうかがいますが、野球を始めたのはいつでしたか」

柳「確か小学2年生の時に兄も入っている地元の野球クラブに入りました。叔父さんがコーチを務めているという縁でしたが叔父さんは血縁だからといって贔屓する事はありませんでした。だから小学生の頃は5年生までは控えでした」

イ「控えだったのですか」

柳「ええ。身長は確かに高かったですが、ただそれだけで全然下手でした。ノックでも後1本でなかなか取れずに何度も繰り返したり、一三塁のチャンスで代打で使われるとファーストライナーのダブルプレーにしてしまってそれがその年最後の出番だったり。小学生の頃は野球をやっていて辛い事が多かった」

イ「ポジションはどこでしたか」

柳「左投げなのでファーストとピッチャーが多かったですね。特に叔父さんはピッチャーとして育てたかったようです。球はそんなに速くなかったのですが身長があったので打ちにくかったようで意外と抑えられました。でも自分のピッチングにはあまり自信はありませんでした」

イ「それでも中学時代には朝鮮半島のクラブチームによる大会で優勝投手となり、日本列島にも行きました」

柳「まさに身長ですね。それと打ちにくいフォームを自分なりに色々研究していたのも良かった。身長の割にパワーがないのは自分が一番分かっている。もちろんパワーをつけることもしますがそれ以上に今の力でできる事を最大限にやろうとはこの頃から思い続けています」

イ「そして釜山でも一二を争う強豪とされる釜山韓陽高校に進学しました」

柳「高校でもピッチャーでしたね。ただ僕は2番手で、普段はファーストで流れを変えたい時にマウンドに登るという感じでした」

イ「投手と野手、柳選手はどちらが好きでしたか」

柳「個人的に投手としての柳中平はあまり買っていなかった。打ちにくいフォームと言ってもその場しのぎというか、プロでは通用しない程度の球威しかなかったので」

イ「プロを意識し始めたのは高校の頃でしたか」

柳「そうです。だから高校時代は力強い打球を飛ばすにはと常に考えていた。僕には身長がある。この両親からいただいた肉体を生かさないともったいないので、割と当時はホームランを重視していました」

イ「そして大学は釜山から離れて九州技術大学に進みました」

柳「やはり野球の本場は日本ですし、故郷を離れる事で甘えを断ち切りたかった。もう目標はプロしかありませんでしたから、そのために一番いい道を選んだだけ」

イ「大学では野手に専念して、大学屈指のスラッガーと呼ばれるようになりました」

柳「大学時代にもまだ身長は少し伸びていたが本格的なウエイトトレーニングができるようになったので飛躍的にパワーがつきました。当時はホームランこそが自分の生きる道だと信じていました」


 パワー抜群のスラッガー候補として大連に2位指名された柳中平。しかしプロで大きな壁にぶつかってしまう。そこで柳が取った決断とは、それまでこだわってきたホームランを捨てる事であった。


イ「大連の印象はどういうものでしたか」

柳「当時はちょうど世代交代の最中だったので自分のアピール次第ではやれると思っていました。でも最初のキャンプで怪我をしたのもあり、1年目はほとんど二軍でした」

イ「プロのレベルはどうでしたか」

柳「最初の段階で二軍ではそれなりに適応できましたが一軍では全然駄目だった。僕は長打を狙っていたがストレートの質も変化球のレベルもそれまでとはまったく違い、無理してパワーを見せようとすると三振するばかりだった」

イ「2年目も同じような成績となっています」

柳「当時は飯島監督でしたが、飯島監督の起用に応えられなかった、応える実力がなかったとしか言えません。そこで2年目の途中からはホームランは諦めてそれ以外の所で勝負しようと決めました。

イ「それが現在のプレースタイルである堅守や小技といった部分ですか」

柳「そうです。とにかく長打がないファーストでも使ってもらうためにはそれ以外を完璧にこなさないといけないので今まで以上に練習にも試合にも集中力を持って臨めるようになりました」

イ「そして3年目にファーストのレギュラーとなりました」

柳「この年から潔原監督に代わりましたが、潔原監督は基礎的なプレーを堅実にこなす事を重視する監督だったので僕にも出番が与えられた。キャッチャーの清水さんも同じ時期に出てきたと記憶しています。それまでは二軍で『絶対レギュラーになろうな』と言い合っていました」

イ「ホームランの少ない一塁手ながらポジションを掴み続けられるのはなぜでしょうか」

柳「ホームランを打つのは林さんや白永平さん(30 現在吉林所属)に任せて、僕はそのサポートをしようと常に考えていた。エゴを捨ててその時その時に最善と思う行動をきっちりこなす。これは簡単にはいきませんが、そう意識してきたのが監督に認められたのが良かったんでしょう」

イ「確かに歴代の監督から愛されているように思えます」

柳「選手を使うのは監督の仕事ですから、僕は『何にでもつかえるのでどうとでも使ってください』というアピールをしている。打順においても2番ファーストは珍しいと言われる事もありましたが僕はどんなピースにもなれるから欠けたピースが2番ならそこに当てはめたらいいし、それ以外の打順でも当てはまる。そういう器用さは武器です」

イ「一昨年から劉監督に代わりました」

柳「劉監督は選手一人にかかるリスクをできるだけ減らした上で選手の実力を発揮しやすいポジションに置くといいますか、選手にとってはとてもプレーしやすいし、それが結果に結びついている感じがします」

イ「そして去年、大連は初の東洋一に輝きました」

柳「去年のチームは監督以下ほんとうによくまとまっていると感じる事が多かった。でももう終わった話。今はもう今年に向けて頑張ろうという事だけです」

イ「それでは、最後に今年の目標をお願いします」

柳「今年こそは『打撃の中平』やりますよ。具体的には3割と2桁本塁打を。もう30歳ですからね、しっかりとチームにおいても立ち上がらないと。大連のチームとしてはもちろん連覇です。去年のように実力以上のものが運良く出るとは限らない。だからこそ今年は揺るぎない実力で優勝したい。ファンの皆様は今年も応援をよろしくお願いします」

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