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新春特別対談 劉監督大いに語る

 昨年の大連にとって喜ばしい出来事といえば大連バトルシップスが東洋一に輝いた事である。星渡、赤坂、松浦といった若手選手から林らベテラン選手まで一丸となって勝利へ突き進む姿は勇ましかった。そしてその選手たちを見事にまとめ上げ、監督就任2年目にして球団初の偉業を成し遂げた劉瑞生監督(49)に新春特別インタビューを試みた。同席するのは元大連監督で現在は野球評論家の飯島昇一氏(60)。


インタビュアー(以下イ) 明けましておめでとうございます。さて、劉監督にとって昨年はどのような年でしたか。

劉瑞生(以下劉) 昨年は皆様に支えられて東洋一に輝くことが出来ました。今年は連覇を狙います。今季も変わらぬご声援をよろしくお願いします。

飯島昇一(以下飯) 大連に関わる人間にとっての悲願がついに達成された嬉しい年だったね。劉監督にはありがとうと言いたいくらいだ。

劉 ありがとうございます。ただ昨年は戦力としては正直できすぎでした。大連はまだまだ未熟なチーム。勢いだけでここまで来たのはいいですが、真価が問われるのは今年です。

飯 確かに若い選手が多くて活気があるのがいいね。昨年の春季キャンプからそういう部分を強く感じていたので、シーズン中勢いよく進めるか停滞するかは監督のさじ加減次第だろうと思っていたが見事だったね。

劉 選手たちは若くてもよく考えてやっていますよ。練習にしても試合にしても、自分が特別に何かをしたというのはほとんどなかった。選手起用も潘コーチや天沼コーチが的確な指示をくれたので監督としては楽でした。

飯 選手を信頼した起用ができていたから選手ものびのびと自分のいいところを出せた。監督が目立たず選手が目立つチームはいいチームだよ。

劉 そうですね。君臨すれども統治せずではありませんが、監督はあまり注目されないほうがいいとは常々思っているので。チームの主役は選手ですから、裏で選手を盛り立てるのが僕ら監督コーチの仕事。


イ さて、劉監督の現役時代について伺います。頭脳派の捕手として各チームを渡り歩いていました。

劉 そういうとちょっとかっこいいですけどね(笑)内実はトレード要員でしたね。野球選手としてはパワーがなかったのでポジションが取れなかった。

イ 大卒で入団した福岡を4年で解雇されて台北へ。この台北で一軍初出場を果たしました。

劉 この頃は本当に華奢でねえ。特に打撃が全然駄目だったからよく4年も面倒を見てくれたと感謝していますよ。台北はキャッチャーが3人怪我してお鉢が回ってきたけど使ってみたら意外といけるってなった。相手の苦手をつくタイプのリードは台湾ではあまりやってなかったのでそこを磨いた。

飯 あの頃の野球界は力と力のぶつかり合いという部分が大きかった。特に海洋リーグはそうだったね。

劉 自分みたいな選手が生き残るには頭脳を磨くしかなかった。怪我人が戻るとすぐ二軍に戻りましたが、解雇される代わりにトレード要員になるくらいの実績は積んだ。

イ この後広島に2年、千葉に2年、北海道に3年と移籍を繰り返しました。

劉 リーグが変わったりカンファレンスが変わったりで大変でしたがその分データを多く採取できた。色々な選手とめぐり合ったのは後の野球人生においてもプラスになりました。

イ そしてこれまたトレードで大連に移籍。ここでは正捕手として優勝に貢献しました。

劉 もう36歳になってたからレギュラーとかは考えていなかった。大連には打撃のいい程志門さんがいましたが当時の成木監督は僕を多く起用してくれた。

飯 そこはもうリードですよ。成木さんは堅実なチーム作りに定評があったから。

劉 小技、それにチームバッティングといった堅実に高められる部分でミスをしないようにと意識していました。そして選球眼を磨いて四球でとにかく出塁する。打撃も考えてやらないと出塁すらままなりませんでしたから。

飯 でも劉君も監督としてはそういった部分を重視していて成木さんに似ていると感じていた。

劉 確かに監督として成木さんのやり方は頭にありました。それだけに(昨年のシーズン開幕直前に死去した)成木さんにこの優勝を見せられなかったのは、心残りです。

飯 きっと成木さんも空から見て喜んでいたはずですよ。ドーム球場だとそれも出来なかっただろうけど、大連なら大丈夫。


イ 大連では現役で3年、最後の1年はコーチ兼任でした。そして1年専任のコーチを務めた後で退団し、コーチの勉強をしていたそうですが。

劉 僕は大連にとっていわば外様なのでコーチ兼任の話が来たときは驚きました。しかし自分でも力の衰えは分かっていたしそろそろ次に向けて考えないとという時期だったので引き受けました。まあコーチ兼任といってもほとんど試合には出ていなかったので90%は専任のコーチでしたけど。

飯 すでに理論はコーチ陣の中でもトップクラスだったね。

劉 僕としては外で野球を学びたいと思っていた。なので退団したらまずアメリカに行きました。そこでコーチングやデータ分析など様々な理論を学びました。

飯 ちょうど僕が監督やってた時だね。

劉 ええ。その頃はアメリカの試合の解説をしたりコラムを書いたり、評論家みたいな事もしていました。その頃の体験が監督となった今でも基礎として生きています。

イ 帰国後、台北のバッテリーコーチに就任しました。

劉 理論は実践できないと意味がない。学んだ時にはまさに正しいと思ってもいざやってみると役に立たなかったりする。そういった取捨選択を台北では行いました。

イ しかし台北は2年で退団し、吉林に移籍しました。

劉 本当は台北でやれるところまでやりたかったけど経営のゴタゴタがあったのでそれに翻弄された感じだった。同じ時期に不思議なトレードや戦力外通告がいくつかあったけど大体はそういう理由。

イ 吉林にも2年いましたが、この時期はどういった事をしていましたか。

劉 吉林では二軍監督をしていましたが、ここで郭コーチや中島コーチと出会った。考え方は共通している所があったのですぐに意気投合しました。まさに同志というものでしょうか、今の大連では郭コーチは一軍、中島コーチは二軍を担当していますが僕が3人いるようなものだと思っています。


イ そして一昨年、大連から一軍監督のオファーが来てそれを受諾しました。

劉 吉林二軍でそれなりに実績を上げて自分でもいけるかもと思い始めたところで大連から一軍の監督として来てほしいというオファーがあった。僕としてもいずれは一軍監督をと考えていたし大連は魅力的なチームだったのでその話はすぐに受諾した。

イ 大連のどういった点に魅力を感じましたか。

劉 非常に若くて優秀な選手たちが揃っている所ですね。飯島さんや潔原さんの土台作りは完璧だったので、その上で選手たちを戦う集団にしようという一点に集中できた。

飯 特に潔原君がいいチームを作ったね。吉野、星渡、柳中平、小松原とみんな潔原時代に出てきた選手だから。

劉 本当にそれはありがたいことでした。足りないのは経験だけでしたから。当時は鳥内(現平壌)が抜けてからショートが固まっていませんでしたが適任な人材がいた。

飯 棚橋君の事かい?

劉 そう。恵まれた体格と野球センスがありますからね。パワーも技術もあって足も速い。それなのに二軍でくすぶっていた。

飯 メンタル面というか、気弱なところが足を引っ張っていた感じがする。

劉 その通りで、とにかく自信をつけさせたかった。これは棚橋だけでなく他の若手に関してもね。若い選手は使っていけば学び、その素質が磨かれて開花するもの。だから試合で使い続けるようにした。

飯 比山もそうだけど、シーズン序盤と終盤では顔つきが変わっていたね。

劉 ポテンシャルのある選手だから、信頼して力を伸ばす事が大事だと考えていた。監督やコーチがであれこれやらせるより自分の力で伸びてほしかった。棚橋も比山も赤坂も松浦もみんなそうして伸びてくれた。


イ 今季の選手起用に関してはどうでしたか。まずは投手、若い選手が期待通りに出てきたように思えますが。

劉 赤坂君は人材豊富と言われた去年のドラフトでも屈指の素材だった。この選手を獲得できた時は「来年の先発陣はまったく様変わりするぞ」と確信した。

飯 去年から引き続き先発ローテーションで投げたのは吉野君と張尊君ぐらいだろう。エスターリンは退団して、伊東君や北君はリリーフに回って。

劉 若い選手をまず立てて、伊東や北といった経験豊富な投手にフォローさせるようにと考えていた。赤坂や松浦には堂々と投げて来い、自分の実力を観客に晒すようにと常に言ってきました。失敗してもリリーフ陣が支えてくれるから、と。いきなり2人とも10勝したのは出来すぎとも言えるけど、本人たちがよく力を見せてくれた。

飯 リリーフも安定していたよね。特定の選手に無理をさせないようによく回っていた。

劉 それまではよく「層が薄い」「毎年とっかえひっかえ」などと言われていましたが実際はそこまで層は薄くなかった。飯島さんの言うように負担がかからないようにという点はシーズン中常に考えていた。野藤はその中でもかなり便利に使ってしまったけど、あのタフネスをみんな持っているわけではないからね。

イ 野手では、捕手は清水選手と金重男選手の2人をうまく併用していました。

劉 捕手としての実力は清水のほうが上、でも打者としては金に軍配が上がる。金が打撃において本来の実力を発揮できたら併用になるだろうとは予測していた。

飯 3番手として中西も少し出ていたけど、将来はどうなるかね。

劉 若い選手はキャンプごとシーズンごとに伸びていくものなので現時点では何もいえない。今の2人はとりあえず最低でもあと3年は頑張ってくれるでしょう。その時に誰がどれだけ力をつけているか、僕に使いたいと思わせるかが大事。


イ 一塁手は柳選手がメインでしたが怪我した時は古池選手やシーズン途中に獲得したドラグノフ選手がよく穴を埋めていました。

飯 ドラグノフ君はまさに環境が変わることで飛躍した選手だったね。解説者として色々なチームを見て回ったけどこういう選手はまだまだ多いように思える。

劉 身体能力は言うまでもないとして、ドラグノフの場合はイメージ以上に器用な技術も持っていた。いや、むしろ遠くに飛ばすより広角に打ち分ける適性のほうが高いように思えた。ドラグノフはそれまで身体能力を生かして長打をと考えすぎるあまりもろかったけど、少し考え方を変えただけで柔軟性も出てきた。

飯 古池君は代打としても良く働いてくれたね。

劉 柳は4打席で結果を出すタイプ、古池は1打席でも結果を出せるタイプ。そういった見極めも大事になる。

イ そして二塁手は近堂選手の復活と大上選手の台頭がありました。

劉 近堂の復活は想定内だったけど大上は想定外だったと正直に告白します。

飯 大上君の場合俊足というわかりやすい武器があって、それが一軍の足がかりとなっていたけどあそこまで打てる選手とは思わなかった。

劉 ええ。ですからシーズンの中盤までは代走メインでした。それがノーリー、近堂、本郷と怪我人が相次いだので使うしかないとなったらチームのバランスも良くなって。

飯 近堂君が復帰したらサードに回っていたけど、ここも意外と無難にこなせてたしね。

劉 ここまで引き出しの多い選手とは思っていなかった。あるいは去年の大連最大の収穫だったかも知れません。大上徳博という存在のおかげでチームの柔軟性が飛躍的に上がりましたから。

イ そしてオフには近堂選手がトレードで移籍しました。

劉 本当は今年も主力として期待していた。まさに断腸の思い。詳しい事情は鹿取GMの領域なので自分があれこれ言う問題ではない。

飯 大連はここ数年レフトが定まっていなかったから呉清元を獲得したという考えは正しいと思う。

劉 それはその通り。呉はいい意味でのふてぶてしさというか、不動心を持っている。大連は若い選手が多いのでそういった選手たちの軸となってくれるでしょう。

飯 ちょうど前回優勝時の田所君(現大連打撃コーチ)の役割になれそうだね。それに草原君もいいよ。僕はこの選手をかなり買っている。

劉 若くてボールに威力のある左腕で、本来ならトレードでは流れないほどの素質を持っている。この選手も鍛えたらかなり面白くなりそうですね。


イ さて、今年の目標は連覇という事ですが勝算はありますか?

劉 それを語るにはまだ早いとは思いますが、結局は選手ありきですからね。選手が伸びてくれたら連覇してくれるでしょう。

飯 計算できるのは投手ではまず吉野君、野手では林君に星渡君あたりかな。

劉 それにパウロのパワーも計算しています。去年のシーズンは野手に関して、1番星渡4番林5番パウロを軸に考えた。3番棚橋は育成のつもりで使い続けたらしっかり軸になってくれた。でもまだ1年やっただけ、計算に加えるには早すぎる。

飯 だね。とりあえず今年もやってくれて、来年もやって初めてポジション確保と言える。

劉 年齢的にはポスト林も考えないといけない。

飯 まあ外野は水内君、河剛紀君、李健太郎君と面白そうな若手が多いから競い合わせればいい選手が出てくるだろうけどね。

劉 大連はまだ未完成のチーム。これからも変化し続けていくだろうし、変化しないと連覇はできない。幸い若い選手が多いので伸びしろは大きい。勝利は選手によってもたらされるのだから、応援してくださるファンに勝利という最高の形で報いるために、今年も最大限の努力を続けていきます。

飯 僕も解説者として、より多くの方々に野球の面白さ、奥深さを伝えるために今年は一層励みたいね。その上で大連に優勝してもらったらもう最高なんだけどね。

劉 期待に沿えるようにがんばりますよ。

明けましておめでとうございます。2012年もよろしくお願いします。

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