表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/32

V戦士インタビュー パウロ・ミネイロ

 地球の裏側、ブラジルから来た大砲であるパウロ・ミネイロは今季規定打席に到達し、長距離砲の多くない大連にあってチーム最多のホームランを放つ活躍を見せた。丸太のような両腕からあふれるパワーと黒豹のようにしなやかな身体能力を両立させるスラッガーに話を聞いた。


インタビュアー(以下イ)「東洋一おめでとうございます」

パウロ(以下パ)「ありがとう。本当に誇らしいよ。(右足を指差して)ここの傷さえもね」

イ「怪我の回復具合はどうですか」

パ「順調だよ。今は大連でリハビリを続けているけど、1月には復帰して、キャンプインには間に合う予定だ」

イ「一日も早い回復をお祈りします」

パ「元はというと怪我なんて自分の責任。しかも大日本シリーズの途中という一番大事な時期だったので悔いはあった。でも気にしても仕方ないからね。こうなったら来季も同じ場面を演出して、今度は自分もその場に立ってみようというモチベーションになっているよ今は」

イ「ところで今季の成績についてですが、統一球で打球が飛ばない中、チーム1のホームラン数を記録しました」

パ「それ自体は確かに勲章に見えるけど23本だからね。僕としては全然満足していないよ」

イ「それは本数がもっと打てたということですか」

パ「その通り。飛ばないと言っても50本近く打っている選手もいるんだから。せめて30本はいかないとホームランを期待されている選手としては期待に応えたとは言えないね」

イ「統一球の影響はありましたか」

パ「それをあまり弁解していると言い訳になるけどなかったわけじゃないね。でもまったく対応できないわけじゃないし、来季は最低30本を約束するよ」

イ「期待しています」


 パウロはブラジルのサンパウロ州出身。ブラジルでは国技と言えるほどにサッカーが盛んで、本人もサッカーは好きだと言う。ブラジルの地でいかに野球と出会い、遠く大連まで渡る事になったのか。


イ「パウロ選手の球歴についてうかがいます。野球を始めたきっかけは何だったのでしょう」

パ「家の近くに野球アカデミーのグラウンドがあって、それを見ているうちに興味が出たんだ。ブラジルではサッカーが盛んなのは知ってるだろうけど、僕もずっとサッカーをしてきたし今でも好きだ。でも、僕はちょっと変わり者だったからサッカーだけじゃなくて野球もしてみたいと思い、アカデミーの生徒に教えてもらったんだ。それが10歳の時で、アカデミーに入ったのは13歳の時だった」

イ「アカデミーとはどのようなところでしたか」

パ「全寮制で、午前は学校午後から練習というスタイルで野球の基礎から実戦に至るまで全てを学んだ。日系人が多かったけどそうでない生徒も多かった。割とおおらかな空気に包まれていたけど、試合となると闘争心むき出しで楽しかったよ」

イ「試合ではどういうチームと対戦していましたか」

パ「まず多かったのは紅白戦。それに大人のチームともよく試合をしたね。それと、確か15歳の時だったけど日本の大学のチームが来て(九州地方大学選抜チームのブラジル遠征を指す)試合をしたね。あのチームは強かった。僕は代打で出たけど変化球が大きく変化するのでまったく見えなかった」

イ「その試合で日本や東洋の野球に興味を持ったのでしょうか」

パ「いや、それは関係ない。目を向けていたのはアメリカだけだったからし、技術も未熟でスカウトされるほどではなかった。ただ凄いと思って、それだけだった」

イ「ではアカデミーから大連に入団した経緯はどんなものだったのでしょうか」

パ「アカデミーには19歳までいた。19歳のときにブラジル選抜を作って日本での大会に参加しようという話が出て、僕はそのブラジル選抜に選ばれて日本に来た」

イ「その頃はどのような選手でしたか」

パ「ポジションは今と同じサード。体格が完成してきたのでパワーも発揮できるようになった。でもミートは下手だった。当たれば飛ぶが当たらないというのはまあ今も大して変わらないけど、もっと極端だった。とにかくそこで日本の大学生相手にホームランを打ったんだ。相手は今台北にいる島尾(啓)だ。それ以外はほとんど駄目だったけど視察に来ていた野間(公正 大連スカウト)さんが目をつけたらしいんだ。アメリカでというのはあったけどプロならどこでも同じと思ってその場で契約した」

イ「それまでは大連はまったく知らなかったのでしょうか」

パ「率直に言うとそう。でも今は最高に好きな街、好きなチームだよ。ここを離れることはまったく考えられないよ」


 大連に入団したパウロは、プロ初年度こそ技術レベルの違いに戸惑ったものの持ち前のセンスでこれを克服。2年目から一軍の試合に出場するようになり、3年目からはチーム随一のパワーを買われてレギュラーを奪うまでになった。そしていきなりホームラン王に後1本と大爆発を見せた。


イ「大連に入団して、まず思ったことは何でしたか」

パ「プロのレベルの高さだった。特に守備はまるで機械で動いている様に見えた。打席に立つと変化球の切れ味が凄くてとても通用しそうにないと思えたよ」

イ「それをどのように克服しましたか」

パ「結局努力しかないよ、これは。まずは目で技術を盗む。そして日本語を覚えてコミュニケーションの中で技術のヒントを掴んだ。僕の場合は折口(元文 現チチハル)選手に教えてもらったやり方が一番合った。これでカーブを打てるようになった。すると他の変化球も打てるようになった。自信がついたら見えなかったものが見えるようになった」

イ「このインタビューも日本語で行っていますが、確かにもうネイティブレベルに話せていますね」

パ「日本語はしゃべるだけならそんなに難しくない。しかし理論的に話そうとなると難しくなるし、ひらがなカタカナ漢字を使って書くとなるともうパズルみたいで、今でも少し混乱する事がある。でもコミュニケーションを取れるとみんないい人だと分かったし、お互い公私に高めあう事が出来るようになった」

イ「2年目に初めて一軍で起用されました」

パ「初めて一軍の打席に立つ前、潔原監督に『全打席でホームランを狙え。駄目なら三振でいい』と言われた。自分に求められているのはつまりホームランだ、そう思えると余計な考えを捨てる事が出来るようになった。これが自分の生き方だと示してくれた潔原監督は日本での父親だと思っている」

イ「そのホームランの意識が3年目のブレイクにつながったという事ですね」

パ「そうさ。劉監督に代わったけど期待されている事は同じだったし、僕としても同じように伸びていけばよかったのは良かった。劉監督は理論的かつそれを情熱的に伝える事の出来る人。2人続けて素晴らしい監督の下で野球をやれているのは幸福だ」

イ「そして今年、ブラジルから後輩のフェリックス・アマラウ選手も入団してきました」

パ「フェリックスにとっても僕がいる事はプラスになっているだろうね。僕がブラジルから大連に入団したときは相談してくれる友人も先輩もいなかったので辛かった。僕は彼の成長に関して協力を惜しまないつもりだ」

イ「パウロ選手の目から見てフェリックス選手はどうでしょうか」

パ「自分よりセンスのある選手だね。特に守備のフットワークなんてかなり完成されている。しかし守備も打撃もまだまだ磨かないといけない部分が多いし、そういう意味ではこれからの選手。まあ自分もまだまだ課題は多いし大きなことは言えないけどね」

イ「将来はともにレギュラーとして大連で活躍という姿を見たいですね」

パ「将来はどうなるか分からないがそうなるに越した事はない。助言は惜しまないけど結局のところはライバルだ。彼にはサードを奪うぐらいに伸びてほしいし、そうなれば僕も対抗する。そうして伸びていける関係になれたら最高だね。それと、フェリックスは日本語を覚えて僕以外の色々な選手から知識を吸収していけばもっと早くいい選手になれるかも知れないよ。大事なのは色々な道を知る事。その中から自分にあった道を進めばいい」

イ「最後に、来季に向けて一言お願いします」

パ「まずは怪我を治す事が先決だ。今年の成績は自分としても全然納得していないので、今はリハビリと並んでインナーマッスルの強化に取り組んでいる。それに守備におけるフットワーク強化のための特別なトレーニングもするつもりだ。オフと言っても休む時間なんてまったくないよ。早く次のシーズンが始まってほしいね。ファンにはより素晴らしい大連の野球を見せる用意は常にしている」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ