12月24日
12月24日
今日はクリスマス。先週の日曜日に主人と数哉と三人でお庭の垣根に飾り付けた
イルミネーションをリビングの中から眺めながら、主人の帰りを待っています。
今日も帰りが遅いそうです。冬休みに入った学生たちが街に繰り出して問題を起こすのは毎年のことだそうで、教員総出で巡回をするそうなのです。立派な仕事だと頭では分かっていながらも、今日ぐらいは我が家にいてほしいと、色とりどりの点滅する電球が余計に寂しさを助長します。
美護さんのお宅はわざわざ業者を呼んで飾りを取り付けていました。
この辺りの住民は美護さん宅より派手にならない様に気を配りながら飾り付けをしていたみたい。
今はお隣さんの家の中から取り巻きの奥さん方のわざとらしい笑い声が漏れて我が家まで聞こえてきます。私はどうしても顔を出すことが出来ませんでした。
きっと明日の朝には嫌味を言われると分かっていても。
私は小さいころ一度だけクラスの中で一番お金持ちと云われていた女の子が企画したクリスマスパーティにお呼ばれしたことがありました。貧乏の家庭に育った私にはパーティなんて初めてのことで、即答で行くことを伝えたのですが、すぐ後に後悔したのを覚えています。なぜなら私には綺麗なお洋服がなかった。きっとみんなおめかししてくることでしょう、私一人惨めな格好でその中にいることは耐えられないかもしれない。おまけにさらに私を悩ませたのは条件として一つプレゼントを持っていくこと。
私は考えました。こうなったらおばあちゃんにおねだりするしかないと。ただし、洋服とプレゼントの両方を買ってくれるはずはない。どっちを選ぶか。
その時、彼女が云っていた言葉を思い出しました。
「プレゼント交換の時はね、電気を消すの。みんなで輪になってプレゼントをグルグル回すんだよ。そうすれば誰のモノか分からないし。後で文句いいっこ無しだからね」
そうだ。そんなにいいものを持っていかなくてもきっと大丈夫だ。そう思った私はおばあちゃんに洋服を買ってくれるようにおねだりしました。
しぶしぶでしたが、内職を手伝うことを条件に近くのスーパーでワンピースを買ってもらったのを今でも覚えています。
そしてプレゼントとして私が選んだのは、父が持って帰ってきた綺麗な紫色のルビーでした。もちろんそんな高価なものではない上に、加工前の小さな石でしたが、父はこれを私に渡す時にこう言いました。
「この石を握りしめて願い事を一日一回、一年間し続けたらきっと叶うよ」と。
毎晩、父の言葉を信じて、父が帰ってきますようにとお願い事をしていた大事な石でしたが、これ以外に適当なものはなく、おばあちゃんが取っておいた、出来るだけ綺麗な包装紙を引っ張り出してその石を入れた小さな箱を包みました。
その日の夜はとても楽しかったのを覚えています。食べ物といったら、はじめて口にするようなものばかり。おまけにクラスのみんなは学校にいる時と違ってとても優しかった。
これが毎日続けばいいのにと、私も別人のようにはしゃいでいました。
家に帰り、私が貰ったプレゼントを開けてみるとぴかぴかに光った新品の筆箱が入っていました。アニメのキャラクターがプリントされた、かわいいピンクの筆箱。
その夜は布団から何度も飛び出してその筆箱を眺めたものでした。寝てしまったら夢のように消えてしまうのを恐れるように。
そして次の日、それは現実となってしまいました。一夜の夢となってしまったのです。
翌朝、さっそくその筆箱を持って学校に行ったところ、それに気付いたクラスの女の子たちが私の机の周りを取り囲んでは「いいなぁ」「かわいい!」と羨ましがっていました。
昨日の夢がまだ続いているみたいで、いつも一人ぼっちで皆に囲まれてはしゃいだことのない私は幸せに浸っていたのですが、午後の体育の授業を終えて教室に戻って来た時のこと。それは起きました。
体操服に着替えて教室を出る前に、机の中に筆箱をきちんとしまってから運動場に向かったのに、そのときの私の机の上には鉛筆と定規、消しゴムが無造作に散らばって置かれていたのです。そして昨日プレゼントで渡したはずの父から貰った紫色の石もそこにありました。
それを見たとき、どうゆうことか、すぐに見当がつきましたがどうしても認めたくなくて必死に机の中を探しました、あの綺麗な筆箱を。
どこを見ても見つからないと分かると、今度はお金持ちの女の子のとこに駆け寄りました。
「私の筆箱知らない?きのうもらったモノなの」
「私がもってるけど。」
平然とそういうと机の中からその筆箱を取り出しました。
「かえして」
「これはあげない。あなたルール違反したから」
「どういうこと?」
「みんなプレゼント買ってきたのに、あなただけあんな汚い石ころ入れて。あれ、あなたのでしょ?あなたしかいないじゃない。」
どうする事も出来ませんでした。その場で泣き崩れる私に彼女はこう言い放ちました。
「かわいそうだと思ったからさそったのに。よぶんじゃなかった。ひきょうもの」
そのあとのことはあんまり覚えていません。
気が付いた時はその子の上に乗って、髪の毛を引っ張り上げていました。
きっと悔しかったのです。
筆箱をとられたこと。
彼女が金持ちであること。
父のくれたお土産を馬鹿にされたこと。
その大事なものをプレゼント欲しさに手放したこと。
それ以来、私の周りには、以前にもまして人が寄り付かなくなりました。
クリスマスになるたびに思い出します。おばあちゃんの料理を。
わたしのために奮発して料理を作ってくれたのに、ご飯にケチャップをかけただけのものだったり、ケーキの代わりにお団子が皿に乗っていたりと。
悲しくて「いらないっ」って文句を言って布団にくるまっていたこと。
いまでも後悔している。
本当におばあちゃん、ごめんね。
今こうして立派な家の中で、贅沢なご飯を食べることが出来るのもみんなみんな、おばあちゃんのおかげだから。ありがとう。