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双生の魔王〜離れれば、空が裂ける。近づけば、世界が安定する。奇妙な“距離”で結ばれた二人の男の話〜  作者: 幻翠仁


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// 013 - 偽装の証



 山風が、裂けた荷台の布を揺らしていた。

 煽るような乾いた音が、山道の静けさに不規則に混じる。スタンは、少女を抱えたままゆっくりと馬車から離れた。道脇の岩肌へ歩み寄り、膝を折る。


 そして少女の身体を慎重に岩へ寄りかからせた。

 背を支えるように外套を丸め、肩の後ろへ差し込む。血に濡れた淡い紫色の髪が、岩の影で小さく揺れ動いた。


 呼吸は浅い。だが、続いている。

 スタンは少女の額に触れ、短く息を吐く。


「熱はないようだが……」


 スタンが、独り言のように呟く。山道の向こうでは、風が砂利を転がしていた。小さな石が崖の縁を越え、見えない霧の底へ落ちていく。


 カガンはそれを背に、横倒しの馬車の周囲をゆっくりと歩いていた。

 足元の砂利が細く鳴る。死体は四つ。御者、護衛、そして馬車の側で斬られた男。もう一つは崖際に転がっている。どれも抵抗の痕がある。


「……妙だな」


 小さく呟く。しゃがみ込み、地面を指で払う。

 砂利の下から、乾きかけた血が覗いた。足跡が多すぎる。盗賊の襲撃なら、もう少し整う。待ち伏せ、弓、囲み、荷の回収――そういう動きになる。


 だがこの場は違う。

 足跡が乱れている。追いかけ回した形跡がある。

 砂利が深く抉れ、崖側へ滑った跡まで残っていた。


「盗賊にしちゃ……仕事が雑すぎる」


 カガンは立ち上がると、荷台へ手を掛け、割れた板の隙間を覗き込んだ。

 荷は確かに奪われている。だが、全部ではない。箱が一つだけ残っていた。蓋は半ば開き、中の布が引き出されたままになっている。カガンは指先でそれを持ち上げた。布の下から、小さな金属片が覗く。


 円形。掌ほどの大きさ。角の模様が、円の内側を這っている。

 少女が身に着けていた意匠と同じものだった。


「魔教の紋章……だが、これは……」


 カガンはそれを指先で摘まみ上げた。

 紋章を裏返す。山の光を受け、金属が鈍く光った。


 傷がない。旅をしていれば、金属はすぐに痕が付く。

 布に擦れ、石に当たり、汗で曇る。長く使われた護符なら、角の線は少し摩耗し、縁には細かな欠けが生まれる。


 だが、これは違う。表面が滑らかすぎる。縁の磨耗もない。刻印の溝には、砂一粒すら詰まっていない。新品だった。


「……魔教徒の護符が、こんなに綺麗な訳がねぇ」


 もう一枚、砂利の中に落ちている紋章を拾い上げる。

 同じだ。刻印も、金属の色も、傷一つない。

 まるで――ついさっき作られたようだった。


 カガンは視線をゆっくり周囲へ巡らせた。

 散らばった荷。崖際の死体。追いかけ回された足跡。そして、わざとらしく残された紋章。指先で金属片を弾く。乾いた音が鳴り、すぐに風へ溶けた。


「フン……回りくどいことをしやがる」


 低く呟く。山風が強く吹き抜けた。

 裂けた荷台の布が大きく揺れ、血の匂いが再び空気へ混じる。

 カガンは紋章を指先で弄びながら言った。


「どうやら、魔教の仕業に見せたいらしいな……」


 紋章をひとつ、足元へ落とす。

 砂利の上で金属が乾いた音を立てた。


 山の風がまた吹いた。

 少女の淡い紫の髪が、岩陰で静かに揺れた。



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