チャプター6:「邂逅」
ゴンドラの奥側に位置する区画。そこに設けられているのは、シンプルだが上品な客室空間。
そこで見える光景は、何かを囲うように位置している、軽装から重装鎧までの黒衣の兵たちが数名。
そしてその黒衣の兵達に囲われている、一人の人物が見える――それは、一人の美麗な少年であった。
深い緑色の、ショートの髪が美麗に主張し。その元には端麗な造りの顔が覗く。
160cm後半程の身に纏うは、何らかの民族衣装のような衣服。
一見、美少女かと見紛うそれ。
しかしその美少年から、次にはその身体の柔らかさを見せびらかすような、大外蹴りが放たれ。
その民族衣装の、スリットの入った前垂れスカートから覗いた、華奢だが確かな骨付きの美脚が。彼が確かに男児であることを証明する。
「ぐがっ!?」
そしてその華奢な美脚が、次には彼を囲っていた中の一人、黒衣の軽装兵の首に直撃。
それは軽装兵の首を折り、死に至らしめたのだろう。次には軽装兵は蹴り飛ばされると同時に折り崩れ、床に沈み動かなくなった。
見れば、床には他にも何体もの黒衣の兵の屍がある。それは全て、その少年の技が成したものであった。
「ふんっ、この程度っ?」
そしてその美少年が、蹴りの一撃の成功から姿勢を復元しつつ、次に発したのは。
その美麗な顔にナマイキそうな悪戯な表情を作っての、黒衣の兵達を嘲る台詞だ。
「野郎、馬鹿にしやがってっ!――ぐこ゜ぉっ!?」
少年のそれに感情を逆撫でされ、別の軽装兵が怒りに任せた様子で、剣を振りかぶり襲い掛かったが。
それよりも速く、相手の懐に入るような動きと合わせて少年が繰り出したのは。その手持ち構えて居た杖のような細身の剣。
それが軽装兵の首元を見事に貫き。また屍の仲間へと加えた。
「ふふん、魔帝兵もこんなものなのかなっ?」
そしてまた少年は、その美麗な顔に悪戯な顔を作って敵兵を嘲る。
その戦う姿はまさに、舞い踊るかのようであった
「……っ――ぬぉぉっ!」
次に動きを見せたのは、黒衣の重装鎧兵。その動きは巨体をもって、少年の動きを封じ捕まえようとするものか。
「そんな鈍亀の動きで、捕まえられるワケ――」
それにまた、揶揄う色で発しながら。少年は軽やかに側方に飛び、それをも容易に回避して見せた――しかし。
「――ぐぁ……っ!?」
直後。少年の脇腹に、重い衝撃と鈍痛が走った。
「しまっ、新手……!?」
少年が飛び逃げた側方、空いていたはずの空間に。相対し掌握していた頭数以外の、別の重装鎧兵がいつの間にか現れており、少年の横腹に籠手で覆われた拳をめり込ませていた。
まだ、敵の仲間が部屋の外で活動しており。それが少年の隙を突くべく、駆け付けたのだ。
「よしっ、捕まえたぞっ!」
「このガキが!散々暴れてくれたな!」
拳を打ち込んだ重装鎧兵が。動きの鈍った少年を、そのまま羽交い絞めにして捕らえ。
残っていた兵たちがそれを囲い、一人が罵声を浴びせる。
「くぁっ……は、放せぇ……!」
羽交い絞めにされた状態から脱出を図り、必死で藻掻く少年。しかし彼の武器は主として、身軽さを持っての機動力、腕っぷしでは黒衣の兵たちに引けを取る。
必死に藻掻くその動きも、無駄な抵抗としかならなかった。
「『塔城』から逃された童か。ありもしない希望のために、ご苦労なことだったな」
そんな少年の抵抗の言葉には耳を貸さず。場のリーダー格らしき一人の重装鎧兵が、そんなような言葉と合わせて少年を嘲る。
「糞!コイツに何人やられたんだ……!?お返しに捻り殺してくれる!」
「まぁ待て、どうせ捕まえた反乱分子の末路は知れてるだろう。このガキは雄だが顔がいい、魔物や戦奴の慰み物になって、惨めな最期を辿ってもらおう」
憤り、少年を甚振ることを提案するの一人の重装鎧兵に。
だが対してリーダー格の重装鎧兵は、冷たい色で発し。言葉の最後はまた嘲る色に作りながら、少年の向けて紡ぐ。
「……っ!」
それを聞かされた少年は、憎々し気に睨む表情を作るが。その顔色には微かに青ざめた色が隠せていなかった。
「くくく、そうだ恐怖しろ。そしてせいぜい嬲られながら、貴様の罪を泣き喚き後悔するといい――連れて行け!」
そしてまた嘲笑ったのを最後に、リーダー格の重装鎧兵は少年を連行するよう命じる。
「ぐぅぅ……よせ、くそぉぉ……っ!」
少年は自分を捕まえる重装鎧兵の腕中で、激しく暴れ抵抗するが。それも虚しく甲斐無く、その場より連れて行かれようとした。
――ドゥン、と。
鈍く、しかし衝撃を体現する音が響いたのは直後。
そして同時。少年を羽交い絞めにしていた重装鎧兵が、何かに打ち叩かれたかのように揺れて退き。
次には、グジャリと。力の全てを失ったかの様子で、鎧の音を鳴らして床に崩れ沈んだ。
「ぅぁ……!?」
そしてその影響で。少年は乱雑に放り出されるようにだが、連行を間逃れ解放される。
「は……うわ!?」
「なっ!?」
そして聞こえた黒衣の兵達の狼狽の声。
少年も、何が起こったのかを確かめるために、よろめき部屋の端に逃げながらも振り返れば。
今まで彼を羽交い絞めにしていた重装鎧兵の兜は、顔面は。しかしなんと、大穴が開いて潰れており。
そこからは赤黒い鮮血に、微かな血肉が飛び散っていた。
「!」
そして黒衣の兵たちが仲間の惨劇に狼狽する中。少年は一番に、その気配に気づき視線を向ける。
そして現在の客室空間の端、入り口付近。そこに立つ、黒衣の兵たちとはまったく別の存在が、少年の目に飛び込む。
それこそ、大口径リボルバーを片手で突き出し、立ち構える――他ならぬジョンソンであった。
ゴンドラ内の奥区画へと踏み込んだジョンソンは、そこで黒衣の兵たちが少年を囲い、そして拘束している様子を発見。
少なくとも敵性、害ある存在である黒衣の兵たちが、また別の存在に加害を加える光景に。
ジョンソンは迷うのも無意味と、突入と同時に引き金を引き。少年を羽交い絞めにする重装鎧兵を一人を仕留め無力化したのだ。
「こちらはVAC AFだ。告げる、投降しろ。それなら命と「人道的」な扱いを保証する」
そしてジョンソンは、驚きこちらへ視線を集める残りの黒衣の兵たち向けて、そんな言葉を告げる。
人道――荒廃し、非道暴力のまかり通る世界から。長い時を掛け、多大な苦難を乗り越えて復興し。
つい最近になって、ようやく再び聞けるようになった言葉。
もっともその言葉を。
再興をしたばかりのこの世界を、再び踏み荒らしに来た正体不明の連中に提示するのは、正直不愉快の最たるとジョンソンは思っていたが。
その証拠に、言葉に反して。銃口と合わせて向けたジョンソンの眼は、それだけで相手を射貫き屠らんまでに尖り険しく作られていた。
「な……!貴様ぁ、何をほざくかぁ!!」
しかし、慈悲に近いそれすら敵は受け入れず。
それよりも仲間を殺された怒りが優先。ジョンソンに一番近い位置に居た中装甲鎧の兵が、剣を振るい襲い掛かって来た。
「――げぁっ!?」
だが――ガゴッ、と。
衝撃音と、合わせての悲鳴を上げながら。その襲撃行動は、直後には真横から阻まれた。
ジョンソンに意識を取られていた中装甲鎧の兵は。真横からそのタイミングを狙い、後続し現れたフレキシオのダイナミックな蹴りを受けて。
そのまま真横に吹っ飛ばされる。
「ぎゅぇっ!」
そして床に叩きつけられる前に、続く動作で撃ち放たれたサブマシンガンの銃弾を浴びせられ。
絶命。その後に床に突っ込み崩れた。
「ぐぉぉっ!」
そこへ間髪入れずに、そのフレキシオの攻撃後の隙を狙ったか。別の重装鎧兵が体当たりにも近い動きで突っ込んで来る。
しかし瞬間に。フレキシオは半歩、身を捻り後退させるだけの動作で回避。
「な――がっ!?……ぎゃばぱぱっっ!?」
そして次には、サブマシンガンの銃口ノズルが。重装鎧兵の兜と首の装甲の隙間から捻じ突きこまれ。
「中身」を狙い、何の遠慮も無しに発砲。その「中身」を撃ち貫き、妙な悲鳴を上げさせ。
それが収まると、重装鎧兵は膝を折ってガシャリと音を立てて床に崩れ沈んだ。
「な……!」
兵たちが立て続けに屠り沈められ、その場に唯一残されたのはリーダー格の重装鎧兵。
その口からは、あからさまな狼狽の声が漏れる。
「もう一度だけ言う、投降しろ」
そのリーダー格の重装鎧兵に、ジョンソンは再度告げつつ。大口径リボルバーを突き付けながら、間合いを詰める。
「くぅ……ぬんっ!」
しかし次には。なんと重装鎧兵は背負っていた得物の巨斧を繰り出すと同時に、身を翻し。
そしてその重装鎧の重量と合わせての、勢いに物を言わせた大振りの薙ぎ払いで。背後のゴンドラの壁面を破壊し、外へと逃走したのだ。
(何者だあれらは……っ?この世界は、危険かもしれぬ……!本陣に知らせを……)
その逃走を図ったリーダー格の兵は、内心でそんな事を思い浮かべながらも。
ゴンドラより外に飛び出し、仲間の本陣に向かうべく。その向こうへ懸命に焦り走ろうとした。
「?」
しかし、何か妙な感覚が次にはリーダー格の兵に走る。
懸命に足を動かしているはずなのに、周りの景色が流れていないように感じる。
それは事実であった。
重装鎧兵のその重く堅牢な巨体は、しかし「宙」に浮かび。その脚は虚しく空回りをしていた。
「なにがっ……ぬっ?」
その違和感の正体に辿り着く前に、リーダー格の兵は今度は己の頭部に。兜越しに何か掴まれるような感触を覚えた。
「――こ゜ぐぢょ゛っ?」
それが、リーダー格の兵が覚えた最期の感覚となった。
直後にはリーダー格のその頭部は兜ごと、「圧し潰された」。
「オイタは見逃さねぇよ」
それを成したのは、そのリーダー格の頭を片手で鷲掴みにして、吊り上げていた青肌の巨体――他でもないコース。
外で待機していたコースは、逃走を図り外部へ飛び出したリーダー格を丁度待ち構える形となり。
そのままその巨大な腕に腕力をもって。重く堅牢な重装鎧兵の身体を、しかし容易く捕獲して持ち上げ。
そして片手の握力だけで、兜ごとその頭部を圧し砕き潰し。リーダー格の兵を屠って見せたのであった。
「あァ、「黄身」まで潰しちまった」
そしてコースは。その兜ごとリーダー格の頭部を砕き潰した自身のムーブを、そんなふざけた言葉で表現しつつ。
拳を開いてリーダー格の兵の、鎧を纏った屍をグシャリと地面に落とし。
場の敵性存在の無力化を締めくくり、周囲の制圧掌握をそれをもって完結させる。
「浚えたな」
それを視認し、ジョンソンはその周囲の無力化完了を、そんな表現の言葉で示し。
「な……えぇ……っ?」
そしてその背後、ジョンソン等以外では唯一残り。その一流れの戦闘行動を見た、見せられた少年が。目を丸くして、驚きを表す声を零していた。




