チャプター48:「波状」
古代の遺跡、ToB陣地より側方方向。少し距離を離した所にある、小高い崖の上。
そこに居構え配置していたのは、VAC AF側の一個狙撃班。それを構成する数名の狙撃員だ。
「一人、ダウン」
その内から最初の狙撃射撃を成したのはエドアンズ。
スコープ越しに見る眼下の向こうに、今に撃ち込んだ狙撃射撃が見事命中、ToB兵が打ち倒れるのを確認し。
そのことを知らせ発する。
「グッドショット、引き続き各員自由に撃てッ」
エドアンズのそれに答え評したのは、狙撃班の指揮官。
さらに指揮官は続けて各員に狙撃の指示を発し伝え。そして指揮官自身にエドアンズを含む各員は、各個の判断、選択によって。
眼下向こうのToB部隊を標的に、狙撃射撃を叩き込み始め銃声を響かせ始めた。
場は一度、戦場より後方。VAC AFの仮設駐屯地の野戦指揮所に。
「中佐、ナガイ少佐率いる第一波が正面から衝突。続いて狙撃班が側面より攻撃を開始」
作戦卓の前で、尖る顔色で作戦地図に視線を降ろすラエ中佐に。
傍らの無線が置かれた卓に着く通信員から、知らせ伝える言葉が寄越される。
「いいだろう。側方、装甲車班は?」
「支障無く待機中。これより所定通り進入開始」
伝えられた内容に、ラエは静かに了解。そして併せて尋ね、ラエのそれに通信員はまた支障無い旨を答える。
「よし」
それを聞き、ラエは静かに一声を零しながら。
そのスーパーヒューマン特有の太い指先で、作戦卓の地図上に置かれた、各隊の配置を示す駒を動かした。
「――了解。指揮所より開始の指示。各車、発進ッ」
VAC AFの主力第一波を中心に見て、先の狙撃班の配置からまた反対側の側方。
そこに装甲車隊本隊から分派した、二両のA202装甲車が。細かくは機関砲搭載の戦闘車型と標準の人員輸送型が、一両づつ待機していた。
その戦闘車型の車上、砲塔上で。車長兼、この班の指揮官を務める中尉が、今にちょうど指揮所より通信を受け取った。
次にはその内容、指示を各車へ張り上げ伝え。
それに呼応し、二両は前進を開始。エンジンを唸らせ、キャタピラを鳴らして進み始めた。
「搭乗分隊の有効射程まで近づける。点在する構造への衝突擱座に気を付けろッ」
進む戦闘車型A202の車上で、伝える声を通信に上げる車長の中尉。
装甲車班の2両の目的は、ToB防御構築の片側側方への攻撃。
ToBの側面防御を崩し、防御隊形を瓦解させる切り口とすることを狙い。同時にToB側の目、火力をいくらか側面に向けさせて分散させ、正面主力の攻勢を援護することを目的とした。
「車長、敵構築を目視。間もなく」
「了解、100m先の構造物群の近くで停止。両車砲手、照準完了次第、各判断で撃ってヨシッ」
発進からさほど経たず、装甲車班は前方向こうに古代の遺跡と、そしてToBの防御陣地を目視。
操縦手がそれを伝え、車長の中尉はそれに了解から、各所各員にさらに指示を伝える。
そして瞬間。車長も身を置くA202の機関砲砲塔が、その備える20mm機関砲の咆哮を上げた。
一拍遅れて続き、後続のA202も搭載の12.7mm機関銃の発砲を開始。
二種の銃砲火火線が、向こうに見えたToB陣地の側方へ注ぎ込まれ。構築された敵陣の各所を叩き弾き始めた。
「ッ!」
間髪入れずに、ほぼ入れ違うタイミングで。ToB側からも応射の銃火火線が襲来。
装甲車の正面装甲を叩き、あるいは車上の車長の近くを掠め抜け。金属のぶつかる音や、風を切り裂くような音など、それぞれの嫌な音が響き上がる。
「ヨシ、ここでいい。停車ッ」
その最中で次には、装甲車班は辺りを付けていた遺跡付随の構造物群の個所へと到着
車長の指示で、二両はそれぞれやや雑把な動きで、その構造物が点在する間に停車。
「搭乗班、降車展開してくれッ」
停車からも引き続き、両装甲車の火砲が唸る元。
車長の中尉の指示を受け、それぞれの装甲車の後部扉が叩く勢いで開かれ、降車展開を開始したのはそれぞれに搭乗していたAFの分隊。
各員は周辺の遺跡付随の施設へ飛び込み、遮蔽個所として利用。
あるいは両装甲車の車体背後にそのままカバー。
散会展開から、そして準備が完了した者から各火器を順次突き出し向け、射撃攻撃を開始。
向こうに苛烈な火力を叩き込み始めた。
「――右方、崖に敵スナイパー!」
「左方から敵装甲車出現!」
ToBの側では、正面に続いて両側方より出現したVAC AF戦力に対応すべく。
その動きの急かしさ、荒々しさを増す様子を見せていた。
「それぞれに対応しろ、スナイパーチームは右へ移れ、敵狙撃チームと交戦しろ!ウォーリア・グイム、貴様のチームから数名、左方の応援へ!」
その最中でオルスレーは自身も戦いながら、指示を張り上げている。
「了解、シニア!3名、俺と来るんだ!」
「スナイパーチーム移動します!」
オルスレーのそれに従い、それぞれのToB兵たちは答えて動き。
スナイパーはチームは、相手狙撃班へのカウンター攻撃のために陣地内を抜けて回って行き。
PA装備のウォーリア率いる一チームが、また応援のために別方左方へと駆け行く。
「互いを支え合え!火力を絶やすな!」
そしてオルスレーはまた、配下の兵たちを鼓舞し、命じる声を張り上げた。
再びVAC AFの側。
第一波にて現在位置まで進出した各隊各員によって、戦闘攻撃線が構築され。向こうの敵防御陣地に、ライフルから機関銃などまで、様々な火器による各銃砲火が注ぎこまれている最中。
ジョンソンにあっては、そのそれぞれの主導指示にあたっていた。
お守りを担うコースや、本部要員などの「お願い」により。戦闘攻撃線の本当の真正面にまで行くことは止めているが、その真正面のほぼ近く。
《PA一個班程、中央左手から出現!》
「動向を観察しろ、押し出てこない限りは牽制だけでいい」
《右手の敵機関銃座からの攻撃苛烈!》
「中機関銃班を移せ、プレッシャーをかけて沈黙させろッ」
遺跡付随の朽ちた施設の一つに遮蔽し、そこを正面指揮の場とし。
張り上がる声や通信等による報告を絶え間なく聞き。その度に指示命令の声を張り上げるジョンソン。
「隊形が崩れ始めたな」
そんな指示命令を飛ばしながらも、しかし同時進行で、ジョンソンは向こうの敵ToB陣地の様子を観察。
味方の狙撃や、側方からの装甲車の突入の影響で。ToB側は各方へ分散して手を回さざるを得なくなっており。
隊形はいささか崩れ、防御の固さが減じた様子が垣間見えた。
「第二派到着ッ!」
そこへ、近くに居た隊員からまた知らせの声が張り上げ寄越される。
ジョンソンが振り向けば、現在のここ正面ラインに。後方よりまた多くのAF各隊各員が駆けてきて、さらには数両の装甲車なども現れ、順次追い付き到着する様子が見えた。
これは作戦計画通り。
最初に突入進出した第一波が、ToBと戦いこれを抑えている間に。第二派が損耗無く到着合流し。
これより第一波と変わり、態勢の崩れ始めたToB陣地を狙い、懐まで突入を敢行するのだ。
「いいだろう、続くウェーブに掛かる。指定される各隊各員は準備ッ」
第二派の到着の報を受け、併せての敵側の現在の状況から。ジョンソンは判断を下し、そして再び指示命令の言葉を張り上げた。
「突入準備ィーーッ!」
突入準備指示は各隊長クラスの張り上げた指示によって継ぎ伝えられ。
第二派にて到着した各隊各員が、これよりの突入のための準備行動を行う。
銃器火器への弾倉の再装填、銃剣の着剣など、その形は多くに渡るが。
ジョンソンのまた向こう近く、そこで少し変わった準備行動を見せる隊員があった。
「――ッ」
それは、プレートアーマー類を纏いその身を守る、他隊員よりも堅牢な装甲装備の装甲工作員等。
その彼らの内の一名が、その手に持つ物――それは注射器。
本来は戦場での簡易、応急治療の際の薬品投与に用いられるものだが。今にあってはその仕様用途は少し異なった。
「ッ」
その一名の装甲工作員が、微かに身構える様子で次には自身の片腕に、その注射器を指して中の薬品を押し込み投与。
その「変化」は、次には訪れた。
「――ッォ!」
注射器を指し、薬品投与を行ったその装甲工作員の片腕が。驚くべきことに次には、みるみる「膨張」から変貌。
全身の体躯姿に不釣り合いな、太く禍々しいまでのそれへと変わったのだ。
それはまるで、スーパーヒューマンの彼等のそれのようであり。そして明かせば、それは当たり。
今に装甲工作員が行ったのは、自らの身体。
スーパーヒューマン化の効果を持つ特殊な薬品を用いての、その腕の部分的、一時的なミュータント化。
彼等はこれを武器とするのだ。
そのスーパーヒューマン化を成す薬品については。その元は、過去にVACが戦ったPartyやインデュスティリアから押収したもの。
それがVACの研究機関によって、改良され配備されたものだ。
度重なる研究改良の甲斐あって、身体への害、リスクなどは大きく取り除かれたが。
しかしそれでも体への後の負担は大きく、リスクの可能性も完全な無では無く。
AFにおいてはその支給使用は希望者に限られ、投与許可回数も厳重に制限されるものであった。
「各隊、突入進出準備ヨシッ」
そんな、自身の腕を薬品にてミュータント化する装甲工作員の姿を、向こうに見ていたジョンソンの元へ。
部隊間の通信調整を担う隊員から、各隊の準備が完了した報告が寄越される
「了解。始めるぞ、用意――」
それを受けたジョンソンは答え返し。そしてまた指示の声を上げると同時に、控えていたホイッスルを口に当て。
――ピイィィィィィィィィィィイッッッ!!
再び、突入開始を指示する吹笛が響き上がり。突撃の第二段階が開始。
それに呼応し、各隊各員は劈くまでの呼応の声を張り上げ。
敵ToB陣地の懐へと踏み入り、その全ての排除無力化から戦闘の終結決着を成すべく。駆け進み始めた。




