チャプター42:「闇討」
太陽が地形の向こうに沈み、周囲を暗闇が覆った時刻。
場所は、「古代の遺跡」施設の周辺外周の一点。
遺跡周辺には、おそらく遺跡に付随するものであろう、小規模な建造物や施設、装置の類が点在し。まるでちょっとした集落のような様相すらを景色として描いている。
もっとも経年劣化からか、その中には朽ちているものも多く見えたが。
そんな中を、十名程の人数で列を作り歩み進む、物々しい隊伍の姿があった。
それは、ToBの隊列。
Md-91と呼ばれる機種のパワーアーマーに身を包む、ToBにて「ウォーリア」と呼ばれる階級の兵が率い。
そのウォーリアの一名以外、他は全て軽歩兵で構成される小部隊。
彼らは、現在に遺跡施設に駐留する「主力」より出発し。一種の遊撃を兼ねた広域哨戒行動に出発する所であった。
「――今夜も、狩りの時間だな」
その隊伍を率いるPA装備のToBウォーリアは、行進の最中に気を良くしている色で零す。
「またスコア更新を狙いますか?ウォーリア」
「そう行きたい所だな」
それに続く軽歩兵が返し、ウォーリアはまたそれにニヒルな色で返す。
「古代の遺跡」を占拠しているToB部隊は、最近より遺跡の所在地を探って現れるVACの偵察隊を。
ToBの彼らにとってまた仇敵であるVACを。
地の利を活かして先手発見から襲撃し、排除することを繰り返しており。先日からToBの兵たちは、それを「狩り」と称して楽しみ競い合うことまでをしていた。
そんなウォーリアと兵の会話に、他の兵も同調してまたポツポツと笑い上げる。
「ハハ――ん?」
同じく笑いを零していた、隊伍の殿を務める軽歩兵が。しかし背後側方に「何か」の気配を感じたのはその時。
「――がェぁッ!?」
その殿の兵からは、次には彼の最期のものとなる、掠れて声にならぬ悲鳴が上がった。
「――」
そのToB軽歩兵の側方背後の間近に現れていたのは、VAC AF隊員。
その隊員が急接近から突き出し繰り出した、サービスアサルトライフルに装着された大型銃剣による刺突が。
ToB軽歩兵の首元に深々と突き刺さっていた。
「え――げァッ!?」
背後での同胞のその様に気付き、別の軽歩兵が驚き振り向くが。次にはその兵も、悲鳴を上げてもんどり打つ。
二人目のそのToB兵を退けたのは、今の銃剣刺突を行ったAF隊員に続き現れ、そして援護するように消音器付き拳銃を撃ち放った別のAF隊員。
「は――ぎゃ!?」
「ぐぁッ!?」
さらに三名、四名と。
明かせば周辺近くの物陰に隠れ潜んでいたAF隊員等が、立て続け急接近にて出現。
また銃剣刺突によるものや、あるいは消音器付きサブマシンガンを撃ち浴びせる行動で。
隊伍のToB兵たちを連続的に襲撃、流れるような様相で屠り沈めていく。
「がぅァッ……!?」
「ッ――次、ッ!?」
また隊伍の中程にて、AF隊員の一名が銃剣刺突からToB軽歩兵を屠り。
その隊員は屠ったToB兵を蹴り押して銃剣付きライフルを引き抜きながら、すぐさま続く敵を探そうとしたが。
その瞬間、その彼に大きな影と気配が差した。
「――ギェぁッ!?」
瞬間、何か肉がぶつかり拉げる嫌な音と同時に、濁った痛ましい悲鳴が上る。
見れば今の隊員の彼が、「殴り拉げられ」吹っ飛ばされていた。
「――小賢しいッ!」
隊員の彼が立っていたそこに、代わり現れていたのは、忌々し気に吐き上げるPA兵。
Ma-91PAに身を包む、隊伍の指揮を預かるToBウォーリア。その薙いだ拳が、隊員を拉げ殴り飛ばしたのだ。
「ッ!」
そのパワーアーマーの存在を目の当たりにし、咄嗟にサービスバトルライフルを撃ち放ち始めたのは、また近場に居た別の隊員。
「雑兵が!」
「がァッ!?」
しかしToBウォーリアは、今度はその手に持つレーザー・アサルトを繰り出し構え、発砲。熱光線にてその隊員を撃ち抜き退けた。
「はしたヤツ等程度が、不愉快な真似をッ!」
そしてさらに、ToBウォーリアは不愉快そうに張り上げながら。
さらなる標的を探して、その突き出したレーザー・アサルトを撃ち放とうとした。
――バシッ、と。
そのToBウォーリアが銃を構える、堅牢な装甲に覆われる腕を。しかし、〝より太く武骨な濃紺色の腕〟が掴み捕まえたのは瞬間。
「は?――ぐォァっ!?」
それにウォーリア呆けた声を上げてしまったのも一瞬。直後、強烈な打撃がウォーリアの頭部アーマーを襲い、叩き殴った。
「――ッ」
ウォーリアの目の前に現れていたのは、スーパーヒューマンのAF隊員。
SHの彼がその太い腕で、ToBウォーリアの腕を捕まえ射撃を阻み。そのままの流れで、SHの腕力に物を言わせてウォーリアを殴り叩いたのだ。
「大人しくしてもらう――」
太く低い声でそう零したSH隊員は、次には姿勢を崩したウォーリアの背にすかさず腕を伸ばして捕まえると同時。
そこに備わる、PAの動力コアを中心とする動力系周りを、その大きな手で大雑把にむんずと掴み。
そしてなんと。
またその腕力に物を言わせる形で、何か大事そうな部品部位を。「バキャバリャ」と嫌な音を立てて、まるで缶詰でも開けるかのように引っぺがして見せた。
「ッ……!?」
見た目に明らかなように、重要な動力系を奪われたPAは動作を失い、次にはガクンと脱力したような様を見せ。
そしてSH隊員が放る様に手を放したことにより、ToBウォーリアの重鈍な金属を纏うだけとなった体は、ドシャリと地面に落ちて沈む。
「っぁ……まさか……貴様等……!」
それでもなお、頭部アーマーの内から何か忌々し気な声を零し響かせるウォーリア。
しかし、
「がェッ……――!?」
ドス、と。
直後。ウォーリアのその後ろ首、頭部と胴体アーマーの境目を狙い。
大型銃剣を装備したサービスアサルトライフルが、指標でも立てるかのように突き降ろされた。
「――沈んでいろ」
それを成し、そして吐き捨てるかのように言葉を降ろしたのは。現れた他ならぬアクイア少尉であった。
「オート三等曹、良くやってくれた」
「いえ、上手いコトいって良かった」
PA装備のToBウォーリアの確かな無力化沈黙を確かめた後。
アクイアは、今にPA装備のウォーリアの無力化を成功させて見せたSH隊員に、評する言葉を向けるが。
そのオートと呼ばれたSH隊員は、誇るでもなくタイミングが助けた事を述べて返す。
「被害状況ッ」
「アルサカ軍曹が死亡ッ……エダー上等士は重症ッ」
続けてアクイアは、自分の率いていた隊の被害状況を訪ね発する。
それに返されたのは二名の被害の知らせ。
PA装備のToBウォーリアに殴り拉げられた隊員は即死であり。レーザーに撃たれた隊員はまだ息があったが、ただちにの後送が必要であった。
「ッ」
それに、苦い顔を作るアクイア。
「二人だけ後送して、続けますか?」
それにオートから意見具申の言葉が上る。
アクイアは現在、自分の小隊を率い。
この「古代の遺跡」周辺の地形の調査掌握と。副次的に遺跡を占拠するToBの戦力調査、可能ならばいくらかの攪乱の任務を担い行動している最中であった。
その最中で、「狩り」に出発するToBの小部隊と遭遇。
これを捨て置けず、近場に展開していた一個班を用いて、排除のための襲撃を敢行したのであった。
急な遭遇戦となったことから被害を出してしまい。オートの具申はその上で、調査行動の継続の可否を訪ねるもの。
「いや、今の射撃音でおそらく向こうに気付かれた。周辺地形はすでにおおよそ把握できた、それにまだ深追いはするなと言われている――引き上げるッ」
「了。聞いたな、後退だッ。エダー上等士は優先で後送しろッ――」
しかしアクイアは、焦れ、またもどかしいものを感じながらも。
ここまでとして一度引き上げる決断を下した。
排除無力化したToB兵たちの亡骸を、時間稼ぎ程度に隠した後。
アクイア率いる小隊の各班各員は、夜闇に紛れて消えるように後退して行った。




