チャプター39:「伏兵」
VACは、この異世界にある「古代の遺跡」の「誘導」を辿っての転移を成したに伴い。
図らずしも拡大する魔帝軍戦線のその後方に、その無防備な「脇腹」に食らいつき捻じ込むことに成功していた。
上陸から確保した進出地点より、VAC AFがこの地に派遣した「遠地展開隊」は、この大陸の各方向へ進出を開始。
大きくは複合隊(旅団戦闘団)や大隊戦闘群から、細かくは小隊規模まで、進出進行した各隊は。
順次、各地の要衝要点を確保。同時に魔帝軍の後方を混乱させ崩しながら、掌握範囲を広げていた。
その各地での各動きの最中。
VAC AFの一個隊が、ある一つの町に差し掛かりつつあった。
その町は、魔帝軍の内でもこの地域の戦線を預かる遠征軍の、その野戦司令部が置かれていた。
「――っ……」
場所は町の中の、魔帝軍が徴集して野戦司令部とした一件の邸宅。
その屋内の一角で、苦い顔色を作るのは一人の中年男性。
この戦線を預かる上級将軍であり。上層部の「異界」への進出方針には反対を唱えたその人。
ここ連日、彼の元に届くのは。各地での異界の勢力の出現と、それに出くわした指揮下部隊の壊滅、各地の陥落の報の数々。
そして今にまた彼の耳に届いたのは、その未知の異界の軍勢。零れ届いた情報によると、「ヴイエーシー」といった名称で呼ばれるその組織の、一個隊が接近しているという情報であった。
「ここまでか……」
それに、その上級将軍の彼が零したのは。自身の最期を覚悟してのそんな一声。
「――閣下」
しかしそんな所へ、一人の人影が声を掛けながら近づいてきたのはその時。
短い黒髪に褐色肌が映え、そして頭部に映えるネコ科動物の耳が特徴的な女であり。将軍が右腕としている獣人の将校だ。
「『黒き彼ら』の飛空艇が来ます、どうか脱出のご準備を」
「!」
そしてその女獣人は側に立つと、そんなあるワードを含めた言葉を将軍に耳打ちした。
「しかし……私が指揮を放棄して逃げるなど……っ」
それは、脱出の手配を整えている事を知らせるもの。しかし、将軍はそれに抵抗の色を示した。
将軍は、臆病者と周囲からは見られ、自身もそれを自覚して否定することは無かったが。しかし臆病ではあっても卑怯ではあるまいという矜持があったのだ。
「各指揮官には知らせ、承諾の上――それにこれは閣下を必要としての、「殿下」の計らいなのです」
「っ……!」
だが、続けざまに女獣人の将校はそんな言葉を告げる。
真剣な様相での彼女のそれは、同時に部下でありながら上官である将軍に、有無は言わせぬまでのもの。
「……すまない」
「お急ぎを」
その告げられ訴えられた言葉に。将軍は次には折れて承諾するように、詫びと礼を併せた言葉を紡ぎ。
女獣人の将校は、その将軍に支度を急ぐよう促した。
その魔帝軍遠征軍の野戦司令部が置かれる町の間近には、すでにVAC AFの一個中隊が迫っていた。
それは装甲車輛数輛を含む、準機械化の基準(VACにおける歩兵兵科)中隊。
中隊は、この町に魔帝軍の野戦司令部が置かれ。そしてその指揮官の上級将軍クラスが居る情報を掴み。その無力化、可能なら確保拘束を狙い、進出して来たのであった。
「――見えたな。展開しろ、警戒隊形へ」
その中隊の指揮を預かるのは、スーパーヒューマンのAF中尉。
その大きな頭に合わせて誂えられたキャンペーンハットの鍔を指先で上げ、向こうに目標の町を視認した中尉は。
次には指揮下の各員に告げ。彼のその命令は下達され、指揮下の各隊各員は応じて行動を開始する。
「――接敵ッ!」
展開隊形に移行し、そこからさらに進み上げて間もなく。先鋒を務めていた隊員から、知らせの声が張り上げられて届く。
町の入り口付近に動きが見え。そして魔帝軍部隊からのものに他ならぬ、弓撃に弩撃が寄越され始めたのは直後の同時だ。
「各員ッ、自由に応戦しろッ。第3小隊は町の側面から回り込めッ」
それを受け、同時に視認して。中尉はそのSH特有の太い腕での手振りと併せて、戦闘開始を命じる声を張り上げる。
「アーマ18、左側建物に一撃叩き込めッ」
周囲の各員が、各個攻撃行動を開始した中。中尉は同時に自身の側方近くにいた装甲車に。
A202と名称される、VAC AFに配備される標準的な装甲輸送車に。詳細にはそれをベースとして20mm機関砲砲塔を搭載した、準戦闘車仕様のそれに向けて通信にて指示を送る。
その指示はすぐさま実行に移され。A202のその機関砲砲塔が指示された方向に旋回。
次には、その備える20mm機関砲が重々しく唸りを上げ。
指定された前方向こうの家屋建物に叩き込まれ。そこを、中に籠っていた魔帝軍の弓兵、重弩ごと弾き砕いて屠って見せた。
「沈黙ッ」
それを観測し、また指揮下の隊員から報告の声が上がる。
「よォし、このまま押し進む。自分も前に出る、数名続いてくれッ」
「了ッ。聞いたな?中隊長に追従ッ」
中尉もそれを目視確認から、そして次には間髪入れずに周辺隊員にそう要請の声を張り上げ。
近くに居た小隊長がそれを復唱、伝達する。
「行くぞッ」
そして中尉は張り上げ促す声を同時に。そのSH特有の巨体を持って、自ら先頭を切って突き進み始めた。
「――ッ、静かにしていてもらうッ」
ズカズカとその巨体にて堂々と進み始めた中尉は。またSH特有のその腕っぷしで、支える汎用機関銃を撃ちばら撒き。
向こうの町路上周辺に待ち構える魔帝兵たちを牽制。
「右、ワンダウンッ」
「左上ッ、沈黙ッ」
そしてその中尉の巨体にカバーの恩恵を受けながら、追従にて続く隊員数名が。同時に中尉を援護射撃にて支援。
押し上げて来る中尉に慄きながらも、慌て弓類を射ち返そうとする魔帝兵たちを。しかしそれを認めるよりも前に、的確に撃ち抜き倒して行く。
そしてその動きを続けながら程なく、中尉はそのSH巨体に物を言わせる様で、易々と町の入り口を通過。
「ウらァァアっ!!――がァっ!?」
その瞬間、襲い来たのはオーク。
建物の影より得物を振りかぶり、一体のオークが襲い来た――が。
中尉に襲い掛かったそのオークは、しかしそれよりも一瞬反応が早かった中尉に。その太い脚に蹴り飛ばし退けられる。
「ぎゃァ……っ!?」
そしてそのまま中尉の汎用機関銃を向けられ、撃ち叩かれ。容易く地面に沈み絶えた。
《アーマ17、交差路の左からそちらに出る。射撃に注意》
「了」
その向こう。町の交差路の向こうから、回り込んで来た別車のA202装甲車が合流。
さらに同じくして、中尉等と同じようにSHの隊員が前に立って押し進めている、一個分隊がまた合流。
合流から増強隊形を成した中尉等は。またその巨体と火力に物を言わせる様相で、ズカズカ押し進み、待ち構える魔帝軍部隊を退けて行く。
「うわっ……うわぁっ!」
「引けっ、引けェっ!」
装甲車に、そして中尉等SH隊員を始めとするその圧巻の様相に。魔帝兵たちは目に見えて臆した様相を見せ、後退を始める。
「中尉、あの建物かとッ」
そんな魔帝兵たちを相手取り、押し退けながら。中尉等の隊形は程なく進行方向の向こうに。
周囲の建物から浮いているとも見える、一際立派な造りの邸宅を視認した。
「あからさまだな、押し込むぞッ」
中尉も、少しの呆れの色すら見せつつも、知らせた隊員と意見を同じくし。
また太い腕での手振りで示しつつ、建物への進入確保の指示を促した。
だが、
「――ッ!」
中尉がある「気配」を感じ取ったのは、その直後。
それは何かを連続的に叩く、「バタバタ」と言う音。そして空気が震えるような気配。
それを聞き、感じ取ったのは周りの各隊員も同じ。
それは、中尉始め「向こうの世界」も住人が良く知る「回転翼機」のもの。
しかし、味方機がこの場所へ向かっていると言う報は聞いていない。
そして何より中尉始め数名は。その「回転翼機」の音が、VAC AFが運用している各機種の――「味方機」のものでは無い事を。
経験と、そして直感から気づいた。
「は?――嘘だろ……!?」
そして音源を追って、向こう背後を振り向いた一人の隊員が。無意識の悪態交じりの声を上げる。
向こう低空の空に見えたシルエット。遠目にも判別できた機体形状は、両翼に備える二機のエンジンで、二つのローターブレードを回して推力を得る、「ティルトローター機」。
それが二機。
その型をVACはわずか少数しか保有しておらず。そして重要なのは、現在の所はこの異世界に持ち込んでいないという事。
「ヴァーティー・ホークッッ!まさか……〝Party〟だぞッ!!」
「退避しろォッ!」
隊員の一名が、その機種と何らかの名称を、二つの名を張り上げると同時に。
中尉はその太く低い声で、しかし訴える声を張り上げた。
打って飛び退くかのように、周辺の各員が目についた家屋の影や、近場に置かれた物など。なんでも良いから遮蔽物となる個所へと飛び込んだ瞬間。
町路上を襲ったのは、そのヴァーティー・ホーク(以降VH機)からの、その備える40mm機関砲の砲火。
その着弾と炸裂が、町路上を激しく叩き。劈く衝撃が退避した各員を煽り。
そして悪いことに遮蔽が叶わなかったA202装甲車が一輛。それに喰われて大破炎上した。
「まだ来るぞォッ!」
今に機関砲火を撃ち寄越したVH機が、頭上を通過したのも一瞬。
波長の違うさらなるローターブレードの回転音に気付き、中尉が警告の声を張り上げる。
そして直後。一拍遅らせた間合いで。別のもう一機のVH機が襲来。
またしても機関砲火が撃ち降ろされ、周辺の各隊各員を襲い煽った。
「――ッ」
VH機の飛来通過からの掃射攻撃が止み。しかしまだ油断が許されぬ中を。路地に飛び込み対比していた、中尉が危険を承知で向こうを覗き見れば。
今に目指していた邸宅建物の向こうの影に、一機のVH機が降りて消えるのが見え。かと思えばせいぜい十数秒程度の直後には、再びエンジンを唸らせて飛び上がる姿を見せた。
「まずい、逃がすなッ」
中尉がまた張り上げ、そしてそれを聞くが早いかの僅差で。
向こう近くにて無事であった別のA202が、その20mm機関砲にて逃げ去ろうとするVH機を狙い、砲火を撃ち上げた。
だが、それをまるで庇うように、火線の延長線上に別のVH機が割り込み。そして応射の機関砲火を寄越す。
幸いにも、今回はこちら側に利が傾き。
A202装甲車からの機関砲火が先に、VH機のエンジンに叩き込まれ。そのVH機は次にはトルクを打ち消せなくなって機体姿勢を崩し、キリモミ状態になって向こうへと落ち、爆炎を上げて見せて墜落を伝えた。
今度はVH機側が寄越した機関砲火は、近くを掠めたのみにとどまった。
「逃げるッ!」
しかしそれに歓喜する間もなく、隊員の内の誰かが叫ぶ。
その落ちた一気に遮られた間に、残る二機は向こうの空へと高速にて飛び去って行く様を見せていた。
A202は続けざまに射角を変え、追いかけるように機関砲火を注ぎ。
他周辺の各隊各員も、各火器を我武者羅の様相で撃ち上げたが。
しかしそれは功を成さず、他の二機は射程の向こう遠くへと逃げ去って行った。
「ッ、やってくれた――ッ!」
確保拘束を狙っていた、魔帝軍の将軍を連れて逃げられた。
今の一連の様子光景から、嫌でもその事実に察しを付けつつ。
同時に思わぬ、忌々しくそして捨て置けぬ存在との「再会」に。
中尉は向こうの空を見上げて追いながら、隠さぬ悪態を張り上げた。
その後、中尉率いる中隊は邸宅を調べたが。結局、確保拘束を狙った将軍の姿は無く。
そしてしかし同時に、新たな「脅威」の存在が露わとなったのであった――




