チャプター33:「恐怖」
怒り狂ったオーガは。得物である巨大な斧を振り上げ構えての、そして爆発の如き踏み出しで。
そのオーガの巨体に物を言わせる様相で、サミュエルに襲来。
一瞬の直後には、だがその巨体に反した恐るべき速度で間近まで肉薄。
その得物である巨大斧を、グアと振り上げ。憎き敵を真っ二つに断ち切るべく、思い切り振る降ろした。
「!、ッアっ!?」
しかし――オーガの振り降ろした巨大斧は、手ごたえを伝えず儚く虚空を切った。
「――」
見れば、目標であったサミュエルの身は。オーガの目の前から消えて、側方にあった。
サミュエルはオーガの巨大斧の降り降ろしが及ぶ、僅差の直前。身を半歩捻り後退するだけの動きで、見事にそれを回避して見せたのだ。
「――ヅっ……やろぉァっ!!」
相手の見せた思わぬ回避に理解が追い付き、オーガは目を剥くが。
しかし次には、虚空を切った巨大斧が地面に落ちる前に、腕力にものを言わせてそれを支え留め。
そして同時に、やはりその健脚にものを言わせての踏み留まりからの切り返しを。その巨体からは信じられぬ、強引ながらも素早い反転を見せ。
そしてその顔を怒りの形相に染め。今度は相手を裂きあげるべく、巨大斧をスイングで振るい上げた。
「――」
しかし、またもサミュエルは最低限の。身体を、上体を傾け反らすのみの動作で、それを易々と回避。
「っが!……こォの……っ!」
オーガはまたそれに怒り、そして焦れながら。また虚空を切って振り上がった巨大斧を、返す刀の動きで振るい降ろそうと企んだが。
「――がぅぁっ!?」
だが今度は、それをも阻むように鈍くも劈く銃声が上がり。
同時にオーガはその太い足にしかし鈍痛を覚え、ガクンと若干落ちるように体勢を崩し。
その影響から巨大斧の軌道は逸れ、儚く不発と終わり地面にドスンと落ちる。
見れば、サミュエルの手に持たれる大口径リボルバーが。オーガの脚に向けられ、そして硝煙を上げており。
それがオーガの脚を撃ち抜き崩した正体だと示していた。
「うがぁぁ……ゴんのヤロぉぉっ!!」
まるで舞うかのように、翻弄するサミュエルの動きに。そしてトドメの己が健脚を崩した鈍痛に、ついに痺れを切らしたか。
オーガは鈍くしかし響く、雄叫びの如き声を張り上げ。
そして次には、「重し」となる巨大斧を乱暴に放り捨てると同時に。
そのオーガの携える巨体に物を言わせ。覆い被さり飛び掛かる動きで、サミュエルに襲い掛かりその太い腕を伸ばし突き出した。
――ハシ、と。
しかし、そんなオーガの太く強靭な腕を。
側方より伸びて現れた別の「手」が、あまりにも容易く掴み止めた。
「ぁ?」
オーガの太い腕を捕まえたのは。しかしそれをも上回る大きさを持つ、尖り、禍々しい造形の手に指先。
正体不明のそれに、オーガは半ば呆けた声を上げてしまいながら、その手の先を辿り。
その辿った目の前に、その「異質」な存在を見た。
現れていたのは――「恐竜」。
その存在を知る者ならば、そんなイメージを浮かべる生物、存在。
オーガの巨大な体格を、しかしさらに上回る巨大なその存在は。オーガの真横に現れ立ち、そしてオーガの突き出した強靭な太い腕を、だが軽く差し止めるかのように掴み止めている。
「は……――ぎゃぐァっ!?」
そしてしかし、その存在への認識が完全に及ぶ前に。オーガの身を異変、異常が襲う。
グリン、と。オーガの視界が、周囲の光景が「回り」。
そして次にはオーガの身に、遠慮なく叩きつけられる鈍痛と衝撃が走り襲った。
傍から見れば。
その恐竜のような存在が、オーガの体を地面に叩きつけている形に様子が分かる。
その恐竜の存在は。捕まえたオーガの腕は、通じてオーガのその巨大な体を、しかしあまりに容易く持ち上げて「ぶん回し」。
そのまま地面に、拉げ壊すように叩きつけていたのだ。
「うぐが……ぁ……な……!?」
その巨体をしかし、あまりに容易く「ぶん回されて」叩きつけられ。覚える鈍痛から、しかしそれ以上に驚愕から、オーガは言葉にならない声を漏らすが。
しかしそれすらも長くは認められず。
「ズル」、と。オーガは、オーガのその腕を引き続き捕まえている、恐竜の存在に乱雑に引き摺り寄せられる。
「ぇぁ……?な……――ぎぁっ!?」
そして恐竜の生物は、まるで玩具でも取り扱うかの様相で。オーガのその太い腕に脚をそれぞれ、その独特の尖る手で掴むと。
直後。オーガから奇妙な悲鳴が発し上がった。
「ぎが……ぁ……あ゛ぁ!?」
オーガはその巨大で堅牢な体を。
しかし、恐竜の存在に「引き千切られ」始めたのだ。
次には見る見る内に、ブチブチと嫌な音が響き始め。
オーガの堅牢なはずの巨体が、しかしあまりに容易く「分離」を始め。オーガの「内臓物」が見えて零れ始める。
「あぎ、ぎぇ……!やべ……やびぇて……あぎぁぁぁぁあ……っっ!!?」
ブチブチ、ベキベキ、と。オーガの「千切れる」嫌な音はどんどん明確になり。
そして最初こそ抵抗のものであったオーガの動きに声は。しかし間もなく悲鳴に、懇願に、最後は絶叫に変わり。
そして――
「あ゜゛っ――」
オーガの最後の乾いたひめいと、「ブチリ」という「完了」の音をもって。
オーガは、「真っ二つ」に千切って壊された。
「ぁ……?ぁぇ……ぴぁぇ……?」
「真っ二つ」にされ、胴の崩壊面からダクダクドロドロと血に内臓物を零すオーガの体。
オーガはその口から血に泡を吐き。すでに半分正気を失っているのか、奇妙な声を同時に漏らし、その顔色は呆けて焦点も合っていない。
息は長くは持たないことは、明白であった。
「――」
その凄まじい光景の体現者たる、恐竜の存在は。
そんな、凄まじい最期を迎えさせられたオーガの姿を、しかし何か淡々とした様子で見下ろし。
直後には、用が済んだ物でも放っぽるように手放して落として見せる。
ここに置いて、ようやくその恐竜の存在をよくよく観察すれば。
全体としては爬虫類のようであり、前傾姿勢の身体を武骨な皮膚で覆い。そして尖る大きな手足に、頭部に生やした立派な一対の角が特徴。
しかし体長は人の倍以上、今に見た通りにオーガをも越える。まさに「恐竜」の様であるその存在は。
だがその身体に、専用に誂えられたVAC AFの作戦行動服を纏い。さらにその立派な角を避けて装着できるようにした、麦わら帽子状のブロディヘルメットを被っている。
それはすなわち、その恐竜の存在がVAC AFの所属である事を示している。
そしてその恐竜の存在はその恐ろしい顔を、首を動かして向け。その視線を先に立ち構える、サミュエルを見止める。
「――ボクの行動を待ってた?」
そして、その独特の声色で。しかし流暢な「言葉」が発され。
恐竜の存在は、そんな端的に尋ねる言葉をサミュエルに向ける。
「キミに排除を頼みたかった、ティヴィス」
それにサミュエルは、そんな言葉を。その恐竜の存在――「彼」に。
ティヴィス ドリー 伍長勤務士に。
「フィアーブロウ」と呼ばれる生物種族である、その彼に向けて紡いだ。




