チャプター26:「衝突」
「っぅ!?……私の防御術を……?……おのれぇっ!」
堂々たる押し進めを開始したジョンソン。
その一方、女将校は。彼女としては絶対の自信を持っていた闇魔法の防御壁が。しかし多少なれど崩された事実に驚愕。
そして魔導士としてのプライドを傷つけられるに値したそれは、次には怒りへと変わり。
彼女は再びその手に魔弾を生み出し、向かい迫り始めたジョンソンに向けて放った。
「――」
しかし、それは予備動作なく行われたジョンソンの、最低動作の回避の動きで避けられ。
魔弾はジョンソンの近くを掠めるだけで、明後日へと飛び去った。
「……どこまでも……っ!」
その姿に、己がおちょくられている感覚を覚え、女将校の不愉快さは増し。
また再び、魔弾を生み出して撃ち放つ彼女。
しかしジョンソンは歩みに合わせて、ユラリユラリと身を左右にずらす回避動作を伴い見せ。
その不規則性が女将校を翻弄、彼女の狙いを狂わせ。魔弾は再びジョンソンを掠めるのみで飛び去る。
「――」
そして同時進行で、ジョンソンは大口径リボルバーを突き出し構え、発砲。
「っ!?」
撃ち返され寄越された銃撃は、またも女将校の纏う闇魔法の防御ベールを叩き。少しだが綻びを生じさせ、その形を不安定にする。
「!……この、このっ……!」
目の前に迫る得体の知れぬ敵。そして絶対の自信のあった己が防御を揺るがす攻撃。
それ等から女将校には焦りが生じ、彼女は精密な狙いを二の次にし始め。我武者羅に魔弾を撃ちまくり始める。
「――」
しかしその攻撃は、不規則な回避を伴う歩みを続けるジョンソンを。掠めることすら叶わず、またも儚く明後日に飛ぶ。
そして、それのお返しと言うように。再び鈍い発砲音を立てて、銃撃が撃ち寄越される。
「!?」
それは、不安定になり綻び始めていた闇魔法の防御を、ついに貫通。
そのベールの一部を、煙を消し飛ばすように突き破り。.44口径弾が女将校の身のすぐそばを掠めた。
「!……――ひぅ……っ!?」
それに女将校が目を剥いたのも一瞬。次には立て続けの銃撃が、またも闇のベールの一部を消し飛ばし。
同時に彼女の目線の近くを掠めた銃弾に、ついに女将校からは小さな悲鳴が上がる。
そして気づけば、女将校の目の前に。得体の知れぬ脅威――ジョンソンが迫っていた。
「!……ぅぁ……!」
ついに女将校から上がったのは、恐怖が混じった声色。
抗生貫通弾の有する、防御エネルギーの安定を崩す効果に。併せて女将校の彼女自身の、恐怖からの集中の欠落もあってか。
彼女を護っていた闇魔法の防御ベールは、まるで縫物を解くかのように崩壊を見せ始める。
「ぁ……ぁ……!」
ついに目に見えての怯え臆す様子を見せながら。しかし魔弾を打って目の前の脅威押し止めなければと、女将校は慌ててその手を伸ばす。
「ぁっ!?」
しかし彼女の手から魔弾が撃ち出されるよりも、ジョンソンの射撃発砲が一瞬速かった。
生み出される途中であった魔弾を、銃撃が貫通。
抗生殊貫通弾の特性が、その生成を妨害。魔弾はまるで炎を吹き消すように、消し飛ばされた。
「っぁ!?」
併せて、女将校は己を掠めた銃撃の衝撃に気圧され。
生じ始めていた恐怖も災いしてか、踏ん張りの効かなくなっていた姿勢を崩し、地面に尻もちをついてしまった。
「っ……くぅ……!よ、よくも……この私をこのような……!」
己が内に恐怖の浸食を感じながらも、しかし彼女はなけなしのプライドから。
気丈に、高慢の様子を演じ。己が目の前に迫った脅威の存在を、せめて睨み止めようとした。
「!……ひ……!?」
しかし彼女のそれは、見上げその眼に飛び込んで来た姿に。次には小さく震えた悲鳴へと変わった。
彼女のすぐ目の前に立っていたのは、他ならぬジョンソンの。そのあまりにも冷淡な眼で、彼女を見下ろす目。
それに捕らわれ、女将校はまるで己が体が、金縛りにあったかのような間隔すら覚えた。
「投降するんだ」
そしてジョンソンより告げられたのは、あまりにも冷たく淡々とした声色での一声。
それは最低限の慈悲からの投降の促し。そしてしかし投降しなければ、何のためらいもなく彼女を屠るという、宣告の気配を含めての言葉。
「ぁ……ぁぅ……」
それを向けられ、彼女の気丈に高慢に振舞おうと誓った最後の砦は、あっけなく崩壊。
その可憐な顔はしかし青ざめ、みるみる恐怖に染まり。
あげくにその股間からは、ちょろちょろと生暖かい失禁の証明が漏れ始め。彼女の下着に下衣を穢した。
「ぅぇ……ふえぇぇぇ……っ」
そしてついに、女将校の彼女はぺたりと座り込んだ姿勢で。まるで幼児のように泣き出してしまった。
年相応、いやその内の精神はひょっとしたら年齢よりも未成熟なのかもしれない。
魔法魔術の才から勝ち得た魔帝軍将校という身分のため、それを虚勢と高慢で隠していたのだろう。
しかしそれが凶悪な脅威を前にして、崩れてしまった有様であった。
「興が覚めた」
そんな彼女の有様を見下ろしながら。ジョンソンが零したのはそんな一言。
脅威たる存在と見て、少なからず命懸けで挑んだ相手が。蓋を開けてみれば虚勢を張っていただけの小娘と分かっての、呆れ脱力しての言葉であった。
「――広がれ、確保しろッ」
「抵抗を止めろッ、投降するんだ!」
そんなジョンソンの所へ。背後より散会隊形を取ったAFの隊員各員が、各火器を構え警戒しつつ追い付いて来た。
各員はジョンソンの横傍を抜けて展開して行き。周りに残っていた魔帝兵たちに武器を向け、投降するよう訴え始める。
周囲で狼狽から、状況を見ているしか無かった魔帝兵たちは。指揮官たる女将校の有様もあり、すでに戦意をほとんど喪失しており。
AF各員の訴えに最早逆らう様子も見せず、投降に答えて武器を捨て始めた。
「あーァぁ、ガキンチョ虐めがお好きなコトでッ」
そんな指揮下の各員の様子を見て、任せていいと考えていたジョンソンの元に。背後から飛んで来たのはそんな言葉。
次には声の主であるコースが、また一応の警戒をしつつも追い付いて来て。
そしてジョンソンの足元で泣きじゃくる女将校を見下ろし。呆れ、皮肉るようにそんな言葉を寄越す。
リーシェとの邂逅の時しかり。相手取った少年少女を脅かしがちな、ジョンソンの人物を皮肉るものであった。
「人聞きの悪い事を言うな」
それにジョンソンは本気で受け取りはせず。また淡々としつつも皮肉気な声で、コースのそれに返す。
「集落内をクリアしろ、住民の人々の安否確認も――それと誰か、この子を回収保護しておけ」
そして、くだらぬやり取りはそこまでと。
ジョンソンは周囲に展開する各員に、各行動を告げ。併せて、足元で泣きじゃくる女将校を示して対応を指示した。
「――……な、なにが……?」
そんな方や。
突然の正体不明の存在等の出現から。さらにはそれが、村を占拠していた魔帝軍部隊を無力化してしまった事実に。
それに驚き呆気に取られていたのは、先に女将校に虐げられていた少年に、その弟妹たち。
今は、近くの家屋の影まで避難して。あれよあれよという間に変わってしまった状況を見守っている。
「――君たち、大丈夫?」
「!」
そこへ、そんな少年たちに声を掛け、歩み寄って来たのはエドアンズ。
小さな弟妹たちを庇うようにして、警戒を見せる少年に。エドアンズは近づき屈み、視線を合わせて、まずはその身を案じる声を掛ける。
そのエドアンズの、ユーダイド系特有の朽ちた肌に顔に。少年たちは最初、ギョっとした色を見せる。
「ゴメンね、怖いかもしれないけど、君たちに危害を加える者じゃない、信じて」
だがエドアンズとしては、その程度なら慣れたものであり。
少年たちの心情を鑑み、まずは害成す者ではないことを伝える。
「村の子たちだね?怪我は無い?」
そしてその特有の皺がれた声色で、しかし努めて柔らかい口調で話しかけ。少年たちの身の安否を尋ねるエドアンズ。
「あ、うん……大丈夫……」
「良かった。いくつか話をさせてもらえるかな」
それに、少年もひとまず対話可能な存在と言う所は信じてくれたのか。
戸惑いつつもエドアンズの問いかけにそう答え。そこからエドアンズのとの会話に応じ始めた。
「――少佐。集落外部もほぼ無力化、掌握とのこと」
「了解だ。」
そんな様子をまた近くに見つつ、少年たちの相手はエドアンズに任せ。
ジョンソンは、集落の外周確保を担ったの隊主力から寄越された連絡員より。
集落及び周囲の無力化、掌握がおおよそ成された報告を受け取っていた。
「現状まででいい、司令部に報告上げてくれ。上陸戦大隊に、少なくともここまでの経路は確保の旨も」
「は」
ジョンソンから続く指示を受け、連絡員はそれを了解して離れ駆けて行く。
その直後、集落の上空を。上空警戒に着くGW機の一機が、ちょうど飛び抜ける。
異界の地への第一歩は、こうして大々的な規模で展開され。この大陸への進出地点が確保されるに至った。
そしてしかし、VACの主たる動きは。これよりがさらに大規模に、本格的なものとなる――
ジョンソンの避け方は、コブラのOP避けの真似。




